第14話 実地訓練とドラ息子側の様子
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翌日、マルクト行商隊と慈善冒険者ペアは。
「導師様と村の皆様! 大変お世話になりました~!」
「信徒の方々が訪れるように、頑張ってダイソアー品を広めてまいりますわ~!」
「リヒト殿~! この恩は一生忘れないからな~!」
「レイラ殿も! いずれまた会おう! 救済の旅路が滞りなく進むことを祈っている!」
パウルとハンナ、そしてテオバルトとユリアーネも、
リヒトと村人たちに重ね重ね礼を述べてから、
隣国、セレナード聖王国を目指して、ミルテ村から旅立っていった。
その見送りに、欠伸を噛み殺しながらも手を振って参加したレイラはぽつりと呟いた。
「たった半日も過ごしてないのに、なんだか寂しい気持ちになるのは不思議ですね……」
「だな……。けれども、救済の旅路を歩む限りは、いずれ再会することもあるだろう」
「ですよね」
「ああ。先に聖王国へ向かってくれたマルクト行商隊に追いつけるよう、
俺たちも救済の旅路を頑張るとしよう。――だが、その前にだ」
「はい……。わたし達は、グレイヴ卿と決着を付けなければなりません」
グレイヴ卿とは、レイラに強引な結婚を迫る悪徳貴族の子爵嫡男、
アルドリック・グレイヴのことだ。
元はと言えばそのアルドリックの命で、マルクト行商隊はミルテ村に様子を見に来たのだ。
「クレセト様。村の報告書を商人ギルドへ届けるよう、パウルさんにお願いしたんすよね?」
『ええ。昨日あの後、その点については私の方から説明しておいたわ。
そしてもう御者席で取りかかってくれてるの。
あなたがサービスしてやったPUバインダーやらボールペンに感動しながらね』
無論パウル達だって、似たような役割を果たす物を持っていないわけではないのだが。
リヒトが良かれと思って固有効果をちょい足しした代物だから、
多生揺れる御者席でも書き心地が抜群なのである。
普通は木の板に羊皮紙を敷いて羽ペンとインクで帳簿を付けるのだから、
固有効果も相まって、仮に現代人であっても感動するだろう。
『ただ、せっかくもらったA4コピー用紙は勿体ないから、自前の羊皮紙を使うそうよ』
「まあ……、村の報告書としつつも、アルドリックの奴を煽ってもらうわけですからね」
「挑発文をしたためるなら、羊皮紙で充分ですもんね。
それはそれとして、その書簡を提出する商人ギルドに飛び火しないか心配ですね……」
『そこは大丈夫でしょう。どうせ頭カンカンになって、
一刻も早くミルテ村に着かないと気が済まなくなるハズだから』
見送り後、まだ解散せず傍に居て、リヒト達の話を聞いていた村人たちが、
うんうんそうだろうなと頷いているのを見るに、
アルドリックがどういった人物なのか見えてくる。
『まあ、奴が御し易いことには違いないでしょうけれども。あなた達は一旦仮眠を取って、
リヒトは予定通り、駐在冒険者の人たちと稽古をしなさい。
あなた達には柔らか冒険者ソードもあるし、村の外れに現れる魔獣狩りもしてるけど、
火炎放射を浴びせられる経験なんてしたことがないんだから、
一応、擬似的にでも肌感覚を掴んでおきなさい。最悪火傷してもレイラちゃんがいるから』
リヒトは、駐在冒険者たちと目を合わせると、苦笑いを浮かべながら頭を下げた。
「だいぶおっかない試みなんですが……、どうか皆さん、今日はよろしくお願いします」
「オラたちだっておっかないべよ導師様!」
「んだんだ!」
「けんども、子爵の坊主にこれ以上勝手はさせられねえべ!」
「オラ達も『柔らか冒険者ソード』の扱いには慣れてきただ! やってやれねえ事はねえ!」
「駐在冒険者の底ん力、見せたるだよ!」
「はい! きたるXデーまでに、共に訓練を積んでおきましょう!」
リヒトと駐在冒険者たちは、声を合わせて「おー!」と片腕を上げたのだった。
三十金貨の火悪魔と呼ばれるアルドリックの炎の杖に対し、対策自体はある。
だが、ぶっつけ本番でビビらずに対処できるかと言えば、
手にしているだけで熟練冒険者なみに戦闘が可能となる『柔らか冒険者ソード』があっても、
果たしてどうなるかはわからない。
そこで用意したのが『5段階伸縮着火ライター』を拡大解釈品にした
『5段階伸縮火炎放射ライター』である。
元の商品は、着火棒を5段階伸ばせることが売りのライターだが、
それを、火炎放射の長さが5段階に調節できる魔導武具のようなライターにしたのだ。
これで火炎放射も安定した長さで放つことができる。
というわけで、ミルテ村の広場では、火炎放射ライターを使用した実地訓練が行われた。
初めの内はリヒトとレイラ、駐在冒険者たちのみの訓練であったが。
時間があって見学していた村人たちも、護衛対象として次第に参加をし始め。
Xデー当日を迎えるに当たっては、実に有意義な訓練となったのだった。
× × ×
一方、翌日。
地方都市ベクタールでは。
一目で無駄金を費やしてるとわかる派手な貴族服に身を包んだアルドリックが、
対照的に黒の燕尾服をきっちり身に纏った白髪の執事【ホルスト】を伴って、
訪れた商人ギルド内にて、パウルから届けられていた村の報告書に目を通しながら、
その書面に綴られている内容に、便箋を持つ手をワナワナと震わせていた。
「ふざけるな……、ふざけるなふざけるな――、ふざけるなーーーー!!
ボク様の魔力持ちがっ……、
どこの馬の骨とも知れない導師に奪われただとか……! ふざけるなーー!!」
パウルがリヒトから貰ったコピー紙を用いていたら、
報告書は今頃ビリビリに引き裂かれていたことだろう。
アルドリックは頑丈な羊皮紙をぐちゃぐちゃに丸めてから床に叩き付け、
地団駄を踏むようにそれを何度も何度も踏みつけ、気が触れたような大声を上げた。
商人ギルドの屋内で、
そこを訪れていた商人達どころか、報告書を手渡したギルドマスターですら距離を取った。
誰もが関わりたくないと一目でわかる光景だ。
そんな中執事のホルストは、グシャグシャにされた報告書を拾い上げ、
丁寧に広げ直してから便箋に目を通すと、内心ではその実ホッとしたのだった。
「クレセト様がようやく、導師様を召喚なされたようですな……」
「あり得ないあり得ないあり得ない……!! 何が今さら導師だ! 同行者だ……!!」
天に祈りが通じたことを喜ぶべきか。
しかし、ホルストが育て役を任され、今もこうして世話してやってるアルドリックが、
この程度の報告で態度を改めることなど、それこそあり得ない展開だったのだ。
「仮に導師の件が事実だろうと、あの魔力持ちはボク様の物だ! グレイヴ家の所有物だ!」
「ですが坊ちゃま……。報告書にもある通り、
もはやこれ以上ミルテ村に圧力をかける方法はございません。どうかお諦めを」
「馬鹿を言うなホルスト……!!
あの魔力持ちは、我がグレイヴ家が陞爵する千載一遇のチャンスなんだぞ!!」
もうおわかりだろうが、アルドリックはレイラの名前さえ憶えていない。
「大体だ……! 諸外国と比べてっ、我が【フェルドラン王国】の貴族たちは
殆どが魔力を持たないノマル人のままだ……!!
それもこれもっ、魔力持ちという異世界人ファーストな、何の恩恵ももたらさない
〝クソセト教〟を律儀に守ってることが原因なんだ!!」
「それは何度も申し上げましたように、諸外国の方が間違っているのでございます」
「それがどうだ? 肝心の教えを守るべき聖王国の方が魔力持ちの家系を増やし、
ダンジョン制覇だの国力の拡大だのと、羨ましい限りだよなあオイ!?」
「いいえ……。隣国はこれからが地獄の時期でございましょう……」
アルドリックはただでさえ醜い顔の造作を歪めて汚く嗤った。
「クハッ……! 無い無い! 無いねえ! 今までずっとお咎め無しだったんだ。
だからこれからも神罰なんてものは無いに決まってる。
だったらボク様も賢い隣国を見習って、魔力持ちをバンバン孕ませるべきだろうが!!」
「坊ちゃま……、どうかお考え直しを。恐らくこれが最後の機会となりましょう。
このホルストめの願いを、どうかどうか聞き届けてくださいませ……」
「くどい……!! だがまあ……良い機会だろうホルストよ。
お前の説教にもいい加減に飽きた。だからこの際だ、
お前の信仰心とボク様の信念、どちらが正しいかケリを付けようじゃないか!
――例の連中を呼びつけろ」
「坊ちゃま……!?」
「あぁそうそう、騎士団と税吏どもの手配も忘れるなよ?
ボク様たちはあくまでも、公務で徴税に向かうんだからな!
物のついででクソ導師を血祭りに上げてやるのが、今から楽しみで仕方ないわ!
げはははは!!」
アルドリックはホルストを連れて、
汚い笑い声を上げながら商人ギルドを後にしたのだった。




