第13話 支持者に求められる役割
「教えてくれリヒト殿。俺達は支持者として何をすればいい?」
「それを先に答えるならパウルさん達の護衛なんですけど。まずは順を追って説明しますね」
「あぁ……私達が話の腰を折ったのだな。済まないが、よろしく頼む」
「いえいえとんでもないですよ。この流れの方が話が前後しなくて済むわけですし。
じゃあまずは、村の様々な物をダイソアー品と置き換える際に使えるようになった
特殊な生成方法について解説しますね」
そう言うとリヒトは再び「搬出」というワードで、
どこの家庭にもありそうな古びた木皿を出してみせた。
「この木皿なんすけど、元はこの宿酒場で使われてた物なんですよ」
そこでハンナが思い出した。
「そう言えば、料理の豪勢さに圧倒されて尋ね忘れていたのですけど。
使われていたお皿がどれも磁器製で美しい物でしたわね」
「嬉しい補足をありがとうございます。ではその磁器製の皿にしましょう。
アップグレード生成!」
リヒトが手をかざすと、
光を発した木皿が、ものの数秒で磁器の皿へと生まれ変わったのである。
リヒトとレイラを除く皆が、椅子を引いてぶったまげた。
パウルなんかは目玉が飛び出そうなくらいガン開きにしながらも挙手をしてみせた。
「すみません……! これ、手に取って確認してみてもよろしいですか?」
リヒトが「どうぞ」と頷いてみせると、椅子を引き戻したパウルは皿を手に取って、
ためつすがめつしてから、手の甲で軽く皿を叩いてみせた。
キーンという音がする。
「澄んだ高い音色だ……! 本当に磁器製になってる!
導師様っ……、これは一体どういうことなんですか!?」
「クレセト様いわく、魔力で物質の構成要素を置き換えているとかなんとか。
詳しい話を抜きにすると、無から有を生み出す生成よりも、
元が存在するアップグレード生成の方が、遙かに消費魔力が少なくて済むんですよ」
リヒトの説明にハンナが「なるほど」と声を漏らした。
「だから店内にも、目新しいダイソアー品であふれているわけですわね」
「その通りです。さすがにゼロから生み出していたら身が保ちませんから。
しかし、アップグレード生成なら、皆さんが運んできてくれた寄付品のすべてを
一晩でダイソアー品にすることができます」
この時点ではまだ、リヒトが何を言っているのか皆は理解することができなかった。
「消費した魔力を補充してくれるレイラも居るので、拡大解釈品も含められるでしょう。
そしてそのダイソアー品にアップグレードした品々ですが、
クレセト教会の総本山、セレナード聖王国まで運んでもらえたならば、
マルクト行商隊の裁量で、好きに売りさばいてくれていいとクレセト様は仰ってます」
「は……?」
今日一番どころか、商人人生の中で一番の衝撃であろう。
パウルは降って湧いた一攫千金のチャンスにワケがわからなくなった。
女神の指輪を託されるからには、何か重大な役目でも課せられるのかと思っていたのだが、
まさかこんな話になるとは思いもよらなかったからである。
だが、主人の献身が実を結ぶことを疑っていなかったハンナは違った。
喜色満面に瞳をキラキラと輝かせる。
「それは本当でございますのぉ!?」
「ええ。パウルさん達の見立てで適切に商売していただければ、
売り値を好きにつり上げてくれて構わないと、クレセト様が仰ってます」
「ええ~~!? それはつまり……、高慢な貴族相手にぼったくったとしても?」
「むしろ、ぼったくってやれ――、だそうですよ」
「っ……! ありがとうございます導師さま。心よりお礼を申し上げますわ。
そして、やりましたわね旦那さま~~!
マルクト行商会も、大手と並ぶときが来ましたのよ~~!」
席を立ったハンナから強引に手を引かれ、ワルツを踊り出したところでパウルは我に返った。
「いや……? いやいやいや!? お気持ちは非常に有り難いのですが……!
なにゆえ僕たちにしか旨味のない話になるのですか……!?」
妻のダンスに、律儀に付き合ってやりながらも疑問を呈したパウルへ、
使用人のエルンストが「旦那様」と挙手をしながら声をかけた。
「これは恐らく、クレスト教が形骸化しつつある聖王国で、
ダイソアー品を売りさばくことにより、導師様の有り難みを市井に知らしめ。
ひいては、クレセト様が存在することを人々に思い出させる、
布教のし直しに当たるお役目ではないかと存じ上げます」
「だとしたら責任重大じゃないか……! そうなんですか導師様!?」
「正解です。ご明察ですねエルンストさん」
軽く拍手までもして、
使用人に対しても人当たりのいいリヒトに、エルンストはかしこまった。
「恐縮です」
「よくぞクレセト様の意図に気づいてくれた、ありがとうエルンスト!
そしてハンナ、――ハンナぁ!? あまり浮かれてばかりもいられない話だよ!?」
「これでわたくし達も大金持ちになれますわ~~!」
「あぁダメだ……! 儲け話に目がくらんで有頂天になってる……!
でも、過去に類を見ない話だし……。ハンナには苦労をかけっぱなしで来てもいる……。
…………すみません、こちらの事は少し、放っておいてもらえますか?」
普段から苦労を掛けているパウルからすれば、こんな時くらいは好きにさせたいのだろう。
「構いませんよ」
「ありがとうございます。そちらのお話には耳を傾けているので、
後はよろしくお願いします、テオバルトさん方っ」
「承知しました――、と言っても……、
俺達の役目と言えば、パウル主人たちの護衛って事でいいんですよね?」
「そうなんですけど……、そう単純な話で済むかわからないんすよね……」
「貴重な品を運ぶ行商だということは私達も承知しているぞ?」
「だがまあ、評判が広まれば、あっという間に気の抜けない日々にはなるだろうな」
「うむ……。拡大解釈品ともなれば女神さまの奇跡だからな……。
護身用の指輪が配られるのも頷ける」
「その点もあるんすけど、
例の裏魔導商会が、接触をかけてくるかもしれないんですよ」
さしものBランク冒険者二人も呆気に取られた。
「あの噂にしか聞かない裏魔導商会が……、実在すると?」
「いえ、居ることには居るんですよ。
あのアルドリックに炎の杖を売り渡したのも裏魔導商会だろう、との事ですから。
ただ……、神の目を以てしても、商会の全貌はわかっていないと言葉を濁されまして」
「クレセトさまにか?」
「はい。追っても追っても行方をくらませられるそうで……。
神器なのか魔導具なのか、何の力かは知れないけれど、手に負えないと」
リヒトがそこまで話したからか、テオバルトが過去に聞いた話を思い出した。
「そう言えば……。奴らは確か、武具系の魔導具を売り歩くのと同時に、
使い道もしれないガラクタや、特殊な魔導具を買い求めているとも囁かれているよな?」
「あったな! 魔導具もどきのガラクタが裏商会には高値で売れるなんて眉唾な話が。
――いや、ちょっと待て……? その話の流れからすると……?」
「拡大解釈品がどう見られるかは未知数なんですけど、
皆さんにお渡しした指輪の価値を知られたら、連中に狙われるかもしれないんです」
「ひいっ……!?」
話を聞いて恐怖したオリヴァーが持て余していた指輪を咄嗟に投げ捨てたものだから、
エルンストが彼のことを椅子から張り倒して、急ぎ指輪を拾いに向かった。
指輪を拾ってきたエルンストは、リヒトの前にそれを置くと深々と頭を下げてみせた。
「女神様からの賜り物を粗末に扱ってしまい申し訳ございません。
彼には不用のようなので、そちらの指輪はお返しいたします」
「本っっっ当~に申し訳ございません! 後でキツく言っときますので!」
「いえ……。いきなり危ない橋を渡るかもしれないと言われたら、
誰だって怖くなるのは当然ですよ。
だからこそ、この指輪はオリヴァーくんに持っていてもらいたい」
リヒトは指輪を手に席を立って、オリヴァーのもとへ向かいながら言葉を続けた。
「皆さんにも注意しておきたいのですが、
身の危険を感じたら、指輪もダイソアー品も差し出して、逃げてしまってください」
その言葉には、リヒトに助け起こされたオリヴァーでさえも我が耳を疑った。
「いいんすか!? そんな罰当たりな事をして?」
「いいもなにも、
あなた方の命には代えられないと、クレセト様が仰ってるからですよ」
その途端、宿酒場の天井から、柔らかで暖かな光が降り注いだ。
『どうやら、私の気持ちは受け取ってもらえたようね』
パウル、ハンナ、エルンストは本能で察したのか、即座にその場でひざまずき。
テオバルトとユリアーネは互いに顔を見合わせてから慌てて席を立つと、
不慣れながらもその場で片膝を突いてみせた。
「どど、どうしたんすか、みんなして? 天井に……何かあるんすか?」
オリヴァーには女神の声が届いていない――、
その事実に、パウルたちの心にはドス黒い気持ちが湧きそうになったが。
『いいのよ、そう厳しくしないであげて。たったの4・5時間程度で
あなた達の信仰心を得られたのだから、こちらとしては充分よ』
「寛大な御心に、心から感謝いたします……!!」
主人の必死な対応ぶりに、オリヴァーはその段に至ってようやく
女神は本当に実在するのだろうと感じたのだ。
信じられない話かもしれないが、あれだけ女神の奇跡を目の当たりにして
恩恵にあずかったとしても、信仰心とはまた別の話だからだ。
人間とは、たとえ相手が神であったとしても、
知性や理性、相性の問題から、なびかない者はなびかない生き物なのである。
リヒトが指輪を手渡すと、オリヴァーが不承不承といった様子で受け取ったことからも、
人間とは大概がこんなものである。
『さてと。さっきも聞いてもらった通り、
厄介な連中に目を付けられたら危険な旅路になるかもしれないわ。
そこでテオバルトとユリアーネには武器も授けましょう。
導師リヒト、例の物を渡してあげてちょうだい』
「かしこまりました」
恭しく礼をしてみせてから、
リヒトはテーブルの上に2点、アイテムボックスから武器を搬出した。
「おおっ……!?」
「これはっ……!?」
ちまたの高ランク冒険者がわかりやすい魔導武具を手にしているからだろう。
女神の指輪を手にしたときよりも、二人の反応はわかり易いものだった。
「両方とも2倍サイズで生成した物です。こちらの黒い片刃剣はテオバルトさんに」
「おぉ、かたじけない……!
しかし……見たこともないタイプの剣だな? 名を教えてくれないか?」
「それは『光る忍者刀』です」
「光るっ……、ニン……? …………すまないが、もう一度言ってくれないか?」
「わかりました。ではゆっくり言いましょう。光る、忍者刀です」
「…………わかった。ヒカルニンジャトウだな? 憶えたぞ」
『拡大解釈品でもあるし、忍者刀とかダイソアー品についてはこっちで追々説明しておくわ』
「有り難き幸せ! 感謝いたします!」
よもや、女神から特別な武器を下賜されたともなれば、過剰な反応になって当然だろう。
自分の番を待っているユリアーネさえも、年甲斐もなくワクワクした様子を見せている。
「そしてこちらはユリアーネさんに。白を基調とした青い弓の『アーチェリー』となります」
「――待て? 待たぬかリヒト殿……! あなたはこれをただの弓と言うのか!?
こんな形状の弓は、魔導弓でさえも目にしたことがないのだぞ!?」
ユリアーネから掴みがかられ、まあそうだろうなとリヒトは思った。
なにせ光る忍者刀もそうだが、子ども向けに売られている商品を生成した物だからだ。
ついでに言うと、
ダイソアーで売られている『おもちゃの武器』は大半がシンプルな名前を付けられている。
よってリヒトは商品名をそのまま呼ぶしかなかったのだが、
ユリアーネからガクガクと揺さぶられた。
「テオの剣のようにっ、もっと格好いい呼び名は無いのか!?」
光る忍者刀も格好良くはないと口走りそうになったが、リヒトはどうにかこらえた。
「あるにはあるんすけどっ……、拡大解釈品の名前で呼ぶと、ネタバレになるのでっ」
「そうか……。配慮の上で、ということか」
「はい……。どんな固有効果を持っているかは、クレセト様から聞くか、
実戦投入するそのときまで楽しみに取って置いてください」
「わかった。一体どんな真名か、期待しておくとしよう」
果たして、その期待に応えられるかは定かではないが。
これで一通りの提示は済んだハズである。
「では、支持者になるかの勧誘に関してですが、話をなし崩しに進めてしまったので、
今一度クレセト様からお誘いいただきましょう」
ここまでやり取りをしておいて、今更その必要があるのかとも思ったが、
責任者として契約確認はしておくべきだろうとクレセトは気を取り直した。
『わかったわ。今は細かい話を抜きにしてザッと話すけど、
導師リヒトとレイラちゃんの二人だけでは、
困っている人たちを助けて、各地の信仰を取り戻すには人手が足りてないの。
そこでマルクト行商隊のあなた達には、
導師の代わりに商売と合わせて、広く浅くでいいから、救済代行をしてもらいたいのよ。
人を見る目があるあなた達なら、誰に手を差し伸べて、高値で売りつけるべきか、
その判断が適切にできるハズだわ。
そして、そんなあなた達にこそ、こんな機会にでも財を成してもらいたいのよ。
もちろん、リスクを伴う話ではあるけれど、その分リターンも望める依頼となるわ。
というわけで、世のため人の為に、どうか手を貸してくれないかしら?』
「喜んで――、そのご依頼っ、うけたまわらせていただきます!!」
「女神クレセトさまに感謝を……!!」
「慈悲深いご配慮に、深く深く感謝いたします!!」
「…………あざっす!」
女神からの誘いかけに、パウルたちはひれ伏して快諾したのだった。
『ありがとう。それで、冒険者ペアのあなた達はどうかしら?』
「もちろんご同行させていただきます!」
「必ずや、マルクト行商隊を守り抜いてみせましょう!」
『嬉しいわ。長いこと貧しい依頼主たちに寄り添ってくれたあなた達が、
それでもたゆまぬ鍛錬を続けてきたことを私は知ってるから。頼りにしてるわよ』
「勿体ないお言葉!!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
世に不平不満を漏らし、腐りはしてもやるべきことはやっていた二人なのだ。
その努力を見ていた上で、白羽の矢が立てられたのだと聞かされれば嬉しくもなるだろう。
パウルたちもそうだが、テオバルトたちも目の端に少し涙を浮かべていて、
リヒトとレイラは顔を見合わせると、我が事のように嬉しく思ったのだった。
その後、勧誘会はお開きとし、パウル達には宿酒場に泊まってもらい。
リヒトとレイラは一晩かけて、
幌馬車に積まれている寄付品のすべてをアップグレード生成し、
ダイソアー品と置き換えたのだった。




