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隠された使命

「ごめん、あたしもう先に寝るね。奥で寝るからレセラもベッドで寝てね。床で寝るとかダメだからね。ふわぁ~あ」

 そう言ってご主人さまは宿の狭いベッドの窓際で横になり、すぐに寝息を立て始めました。

 なんという寝つきの良さ。


 さきほど出会ったばかりの奴隷の私と2人きりの部屋。奴隷契約があるとは言っても、不用心すぎます。

 ……私たち一家の教えでは、命を代償にしてでも暗殺は実行するものと教えられました。

 奴隷契約で手を繋いだときに分かりましたが、ご主人さまはとても弱いです。この腕輪から雷撃が走ろうとも、私がその気になれば一瞬で……。


 もちろんご主人さまは暗殺対象ではないですし、任務に失敗して奴隷となった今、私はもう一家の者ではないので、ご主人さまに逆らう事なく従うだけです。

 むしろ、この不用心で弱そうなご主人さまを守ることが私の役割だと認識しています。


 ご主人さまは先ほど、使命を果たすために私が必要だと仰りました。

 そして私は聞き逃しませんでした。ご主人さまが口にした言葉。


 征服……。


 ……もしかして、ご主人さまはロンド王国を征服するという、壮大な使()()を密かに与えられている他国の重要人物なのでは……?

 先ほど食事前にそれとなく質問をしてみましたが、肝心の使命の話についてはあいまいに伏せられてしまいました。

 それ以外にも、ご主人さまはいくつか質問の答えをはぐらかしていました。明らかに私から目を逸らして。


 おそらく、軽々しく人に明かせない特別な使命を帯びて他国からやって来たのでしょう。

 だってあんなに目を逸らして会話するなんてありえないですから。


 ご主人さまに従い使命を果たすということは、私は祖国であるロンド王国に刃を向ける日がいつか訪れるのかもしれません。

 ……もしも指示があれば、要人の暗殺であっても従います。先日のようなしくじりはもうしません。


 あぁ、これはまるで、龍神国に背くことになってしまった悲劇の戦士アンドレアスの物語のようですね。

 龍神国への祖国愛と、魔神国での主人への忠誠心で揺れるアンドレアス……友と対峙するあの場面で何度も涙を流しました。

 今までは教会に行けばいつでも読むことができた物語も、今の私には遠い存在になってしまいました……。


 ☆ ☆ ☆


 私が育った孤児院は、オラクル教のリピカ修道会という会派の教会に併設されていました。

 7人の孤児が家族同然で生活をしていて、私は1番年下。

 アリステア司祭の庇護の元で、付近の住民にはアリステア一家と呼ばれるほどに7人の孤児たちは仲良く暮らしていたのです。


 しかし、アリステア一家には隠された顔がありました。それはリピカ修道会から与えられた使命、暗殺。

 と言っても、王国に逆らう者を都合よく消すような暗殺者ではありません。

 私たちが取り除くのは、人の魂を喰らい、その身体を乗っ取って王国内に潜んでいる低級魔族。

 強欲な低級魔族は、貧しい者よりも金や土地や人を動かせる者の身体を好むそうで、私たちが対処する相手は領地を持った貴族や裕福な商人がほとんどでした。


 子供たちにはそれぞれ得意とする役割がありましたが、私は瘴気を観ることができる特別な才があったため、その者が本当に魔族に乗っ取られているのかを見極める役目を任されていました。

 見た目は普通の人間とまったく変わりません。

 ですが、人が変わったかのように突然強欲な態度を取る者は、すでに魂を喰われ、身体を魔族に乗っ取られている場合が多く、その身体からは瘴気が滲み出ているんです。

 乗っ取られた者を元に戻す術はなく、魔族の国内侵入が公にされることも避ける必要がありました。

 なので、暗殺という手段が取られていたのです。


 暗殺された貴族や商人は、表向きは病死や突然死として発表され、魔族に乗っ取られていたことは公表されません。

 魔族が王国内に入り込んでいるだなんて知られたら、きっと大きな混乱になりますので。

 騎士たちが剣を持って国を守るように、私たちは日陰から王国を守っていくのだと司祭様は仰っていました。


 ただ、低級とはいえ、相手は魔族です。時には帰ってこない兄姉もおりました。

 帰ってこない兄姉は消息不明になったと司祭様は仰りますが、命に代えてでも暗殺は実行せよと教えられていましたので、おそらく……。

 兄姉たちはひとり、またひとりと戻ってこなくなり、最後は私1人に。

 2年ほど前からは対象を見極める役目だけでなく、実際に暗殺を行う役目も私が担うようになりました。

 低級魔族とはいえ、屋敷に侵入して気づかれる事なく聖なるナイフを突き刺すことができれば交戦になることはなかったので、どうにか1人でも役目を果たすことができていました。

 暗殺をしくじることなく、しばらくは1人で魔族を排除する日々を過ごしていましたが……。


 10日ほど前のあの日、私は忍び込んだ貴族屋敷で気を失い、ついに捕らえられてしまいました。

 司祭の言いつけ通りに物品を盗むことを最初に実行していましたので、何かしらの力が働いたのか、よくある孤児の窃盗事件として処理されて犯罪奴隷となったのです。

 何かしらの力が働いたのは、刑期が終わったら教会に戻れるための措置……とも考えられますが、3年も先のことです。まだどうなるか分からないですね。

 それまで私が生きている保証もありませんしね。


 ☆ ☆ ☆


 ……私もそろそろ眠くなってきましたが、床に寝てはダメだと言いつけられています。

 そういえば、強欲になった領主は若い奴隷を求め、一緒に寝ていることが悪事だと司祭様に教わりました。理由はよく分からないですが。主人と奴隷が一緒に寝るのは良くない事だと司祭様は仰っていました。


 ですが私は今はご主人さまに仕える身。司祭様の言葉よりもご主人さまの言葉を優先しなければ。

 主人の求め通りに、一緒のベッドで寝ることにします。

 ご主人さまを起こさないようにそっとベッドに横になりました。


「うーん、レセラ……おなかいっぱいご飯食べてね、お姉ちゃんが幸せにするからねぇ……」

 夢の中でも私のことを考えているのでしょうか。まだ出会って間もない私のことを。

 私を幸せにする……?

 一体このお方は何を言っているのでしょう。

 獣人であり犯罪奴隷でもある私には、幸せになる価値などないのに。

ここまでが1話です。

10話くらいまで構想があるので、執筆を頑張ります。

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