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チートスキル

 レセラの治療を終えて、宿の一階の食堂へ2人で夕食をとりにきた。

 すっかり体調は良くなったようで、とりあえず安心だ。

 体調は良くなったみたいだけど、眠そうな瞳と独特な会話の間はそのままだったので、きっとマイペースな子なのだろう。かわいい。

「あの、先ほどの術は巫術……ですか?」

「あー、あれはね……巫術だよ、体調不良を改善する巫術なんだよ」

 レセラの質問に対して、あたしは咄嗟に嘘をついてしまった。

 とは言っても、自分の()()()()()を他人に簡単に教えたりしないのがこの世界の常識ではあるから、間違ったことではないはず……。  

 あたしの場合は特に、世の中に同じ能力を持っている人がいない特殊な固有スキルなので、勇者パーティのメンバー以外には固有スキルの詳細を話したことはない。


 そうそう、この世界では習得した技術を『スキル』と呼ぶんだ。巫術、魔術、精霊術の三大系統はもちろん、体術や剣技、料理や農工業の技術などを習得すると、『〇〇のスキルを持っています』と公言することができるの。

 一方、突出した才能の事を『固有スキル』と呼ぶ。あっという間に熟練のレベルを超えてしまう生まれつきの才能や、他の誰にも真似ができない能力。神から与えられた特別な贈り物。

 明らかに突出して一つの才能が伸びるので、この世界では多くの者が若いころに固有スキルを自認することができるらしい。


「なるほど、ご主人さまは巫術士なのですね。あの……貴族様なのですか?」

 先ほどの商人との会話からそう察したのだろう。うーん、これは誤解を解いておきたいけど、どこまで話そうか……。

「ううん、あたしは貴族じゃないよ。ただの巫術士……だね」

 いや、本当は巫術士ではないんだよ。でもさっき巫術を見せてしまったので、巫術士と名乗っておくべきだろう。

 ちょっと特殊な固有スキル持ちだから、術士の分類も説明がややこしくなるんだよなぁ。


 あたしの固有スキルは……仲間や知り合い、一緒に過ごしたことがある人に()()()()ことで、その人のスキルを再現できる能力。

 あたしはこれを『ロールプレイ』と呼んでいる。


 ロールプレイングゲームでプレイするキャラクターを選ぶように、この世界の誰にでもなる事ができるんだ。

 しかも、見たことがあれば固有スキルですら再現できてしまう。

 巫術士アルテアや聖女シャノンの巫術、騎士団筆頭魔術士フォティアの強力な殲滅攻撃魔術、ハーフエルフのエレインの多彩な精霊術。様々な術を『ロールプレイ』で扱うことができる。

 普通、術士は巫術・魔術・精霊術の三大系統から、どれか一つを選択して契約するので、ひとつの系統の術しか使うことができない。

 なので、この固有スキルの詳細を知らない人から見たら複数の系統の術を扱える固有スキルに見えるらしく、「賢者」と呼ばれてるってわけだ。

 でも賢者だなんて名乗れるわけないから、この国ではあたしは巫術士として生きていこうと思う。


 異世界転生者――「流れ人」はだいたい、世の中に存在しないスキルを持つ。所謂『チートスキルを持って異世界に転生しました』ってやつね。

 それにしても、他人のスキルを再現できるって最強のチートスキルだと思うじゃない? いやいや、そんなことはないんだよ。

 ロールプレイのスキルを持ってる反動なのかもしれないけれど、あたしは他のスキルがまったく身に付かない。あたし自身は術の適性がびっくりするほど皆無だし、剣を扱うとか道具を扱うような力も器用さもない。極端にない。

 運動神経も無いし体力はゴミカス。その上に臆病者だし優柔不断だしコミュ障だ。顔はまあまあかわいいけどスタイルがいいわけでもない。

 ロールプレイをしている時は身体能力も上がるんだけど、ロールプレイをしていない生身のあたしは一人では何もできない最弱のポンコツなのである。かなしい。

 この固有スキルを自認する以前は本当に何もできない子だったので、この世界に来てから1か月くらいは『遊び人』などと呼ばれたりしていた。つまり、あたしは遊び人から賢者に転職したことに……。ネタっぽいけど、本当なんだよ?


 ちなみに、どうしても人と会話をしなきゃいけない時、交渉が必要な時はフォティアになりきって、フォティアが持っている『交渉術』のスキルを使うんだけど、「ですわぁ!」とか言ってる時、正直言ってめちゃくちゃ楽しい。


 それはさておき、『聖女の奇跡』はなるべく使わないようにしている。

 ロンド王国では聖女にまつわる力はかなり特別なものなので、きっと面倒なことになるから。


 なのでレセラには、「体調不良を改善する巫術」って嘘をついてしまった。

 レセラを治したかったのは本当だけど、王国ではこの力をできるだけ隠しておこう。

 あたしは亜人ちゃんたちと、静かで平和な日常系を過ごすんだ。


「明日は王都に向かおうと思ってるよ」

「……もしかして、ご主人さまは帝国からいらっしゃったのですか?」

「あ……うん、元々は帝国の傭兵ギルドで巫術士をやっていたけど、ロンド王国に移住しようと思っててね」

 帝国騎士団の勇者パーティにいたって事は隠しておきたいので、また嘘をついてしまった。


「先ほど仰っていた使命のために、ロンド王国へ移住されるのですか?」

「そ……うだね、あたしは自分の使命のために帝国を離れたの」


 亜人のかわいい友達をたくさん作るという、あたしの使命に関しては、もう少し一緒に過ごしてから話そう。いきなり全部を話して引かれちゃったら悲しくて寝れなくなっちゃうから。


 それにしても、レセラから色々と質問をしてくれるのが嬉しい。今までの経歴、使える術についてなど。答えにくいことは曖昧な返事をしちゃったけど、あたしに興味を持ってくれているみたいだ。

 いっぱいあたしを知ろうとしてくれてるから、レセラと仲良くなれる予感しかない。ここまで会話のすれ違いもなく、ばっちりとコミュニケーション取れてるもん。これはもうお友達といっても過言ではないんじゃない?


 あぁ、本当にレセラはかわいいな。今はまだ奴隷としての質素な服のままなので、明日王都でかわいい服を買ってあげよう。

 どんなのがいいかな? なんでも似合いそう。例えば……。

「制服……」

「え?」

「あぁっ、なんでもないっ」

 危ない、気持ち悪い心の声が漏れ出てしまった。

 この世界には存在しない、学生の制服というものを着てくれたらなぁなんて考えてしまったよ。かわいい服が存在しない世界なのが本当に悔やまれる。


 そんな妄想をしてるうちに、運ばれてきた料理がテーブルを埋め尽くした。

 港町なので新鮮な魚介類を使った料理が豊富で、魚の煮物や焼き魚を数種類頼んでみた。レセラにおなか一杯食べてもらいたいからね。

「さぁ、ご飯を食べよう。好きなだけ食べていいよ」

「えっ、好きなだけ食べていいんですか……?」

「うん、遠慮はいらないよ、食べて食べて」

 こんなに痩せてて、今までの食生活は苦しいものだったんだろな。これからはお姉ちゃんが毎日おなかいっぱい食べさせてあげるからね。


「あっ、あの、この魚は食べないほうがいいです……」

 お?好き嫌いがあるのかな?

 ……あぁ、もしかして!

 田舎料理を食べる時のお作法を忘れていた。


 騎士団の調理担当のおばさまのことを思い浮かべる。あたしにとっての料理の師匠だ。

 肉や魚の食材は、少なからず瘴気を持っていることがある。その食材が魔獣だったときには、特に残存する瘴気に気をつけなくてはならない。

 瘴気は生き物にとって毒だけど、普通は目に見えるものではないからややこしい。

 だから食材を扱う人は、巫術で清めるか、危ない食材を避ける経験値も必要なんだ。

 調理の仕事に就くものは巫術を使えるものが多く、調理担当のおばさまも例外ではなかった。

 地方都市では、巫術を使える調理士ってなかなか珍しいから田舎料理は注意が必要なんだよね。


「清めよ」


 瘴気を払う巫術をテーブルの料理全体にかける。

 少量であれば食べても大きな害はないらしいのだけど、取り除けるなら取り除いた方がいいよね。


「さぁ、これで大丈夫だよ、食べよう」


 その後はあまり会話もせずだったけど、レセラは目を輝かせて黙々とたくさん食べてくれた。どうやらレセラは食いしん坊みたいだ。かわいい。

 それにしても、よく瘴気が残ってるって気づいたな。そういうスキルを持っているのかな?


 それほど凝った調理をしていないシンプルな味付けの料理だったけど、数日ぶりに仲間と一緒に食べるご飯は美味しかったな。


 やっぱりね、何を食べるかじゃない。誰と食べるかなんだよ。


 ☆ ☆ ☆


 食後。あたしもいつもより多く食べてしまったので、すぐに眠気に襲われていた。

 最近はよく寝ているのに、もう眠すぎる。

 部屋に戻って寝てしまおう。


 明日からはレセラと二人で、のんびりと暮らすんだぁ。

 魔族と戦わなくていい生活、守ってあげたくなる小柄な獣人の少女との穏やかで平和な日常系がやっと始まる。

 楽しみだなぁ。


「あれ、レセラ?」

「はい」

 わ、びっくりした!

 振り返るとレセラは足音も気配もなくあたしのすぐ後ろをついてきていた。

 レセラは布靴を履いてるし、猫族だから足音なく歩くことくらい普通にできるのかな。ホントびっくりしたぁ。


 もしかして、音殺して動くのクセになってるのかな? 暗殺者一家の出身なのかな?

 いやいや、んなわけないって。

 暗殺者一家に目をつけられたら、あたしなんて一瞬で殺られちゃうよね。

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