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港の夜市

 路地の奥は薄暗い倉庫街のようだ。でもそこには、表の通りにあるような飲食店ではない系統の露店が倉庫の前に軒を並べていた。

 コットンやウールなどの生地が並べられた商店や、果物や穀物を取り扱ってる商店なんかがあるみたい。港町の倉庫街の露店……もしかして、輸入品や輸出予定の商品が手に入る穴場的な市場なのかな?


 路地を抜けた辺りで周囲を見渡していると、こちらへ歩いてくる小柄な人影。

「ここにも無いや……」

 そう呟きながら近づいてきたのは、先ほどのうさ耳フードの少女だった。

 あたしよりもだいぶ背は低くて、見た感じの年齢は10歳前後?

 深緑の瞳と、フードに覆われた髪も綺麗な緑色。超美少女だ。声もかわいい……!

 どうしよう、いきなり遭遇しちゃった。

「あっ、あのっ。すみませんっ」

 とにかく声をかけないと、って焦ってたら、街中で芸能人と遭遇した人みたいになってしまった。『握手してください』の流れのやつ。

「……なに?」

 あっ、警戒されている。めっちゃ警戒の眼差しを向けられている。

「えっと……あの、天気……いいですね……」

「……はぁ? 何言ってるの……?」

 不審者を見るような表情でそう答えた少女は、あたしの横を早足で通り抜け広場へと戻って行った。


 あたしはその場で硬直。


 はぁ?って言われたぁ……。人間の少女、怖い……。

 お洋服のことを聞こうと思ってただけなのに、テンパってしまってミスった……。今夜寝る前にさっきの会話を思い出して寝れなくなるやつだ、これ。

 寝つきはいい方だけど、今夜は間違いなく寝れない夜を過ごすことになりそう……。

 知らない人に話しかけるなんて無茶しやがって、あたしのくせに!

 もう無理をするのはやめよう……。うん、あたしらしく生きていこうね、ぼっちで。


 でも、本当にかわいい服装だったなぁ。

 ロンド王国でかわいい服が手に入るかもという期待はできる。

 もしかして、あの子は服を買いに来た……? 探してみようかな、服屋。


 ☆ ☆ ☆


 いくつかの露店が立ち並び、商人が暇そうにあくびしていたりする倉庫街の景色。

 露店を見ながら歩いて、商人に話しかけられたら早足で逃げるってのを繰り返したけど、服を売っている露店は見当たらないな……。

 布屋とか果物屋の他には奴隷を売ってる商人もいるね。こんな若い女の子も奴隷として売られているのかぁ。


 奴隷商人の店の前に座る少女の足元には『刑期3年。住居侵入、窃盗罪。農工業スキル、身体強化スキル無し』と書かれた木の板が置かれている。

 どうやらこの子は、貴族の屋敷にでも忍び込んで捕まってしまったのだろう。その罰として奴隷として売られているようだ。

 それにしても、窃盗罪で刑期3年の犯罪奴隷って。何かすっごいものを盗んでしまったのかな。お姫様の心でも盗んじゃったかな。

 とても細身な女の子だし、なんだか体調が悪そうにも見える。毒か何かの状態異常……みたいな?

 農工業のスキルを何も持っていない上に、もしも身体が弱かったりしたら労働力として買い手が付かないだろうな。

 ここで買い手が付かなかったら、帝国に移動して買い手を探すんだろう。

 帝国の優しい貴族に買ってもらえるといいね。きっと帝国の貴族にもいい人はいるから、しっかりと3年のお勤めを頑張るんだよ。

 お姉さんはあなたを買ってあげれないけど、幸せになってね、奴隷の少女……って、えっ!?


 待って、猫耳??

 えっ!?


 『ケモミミ!』って叫びそうになった。危ない。


 薄暗くて気づかなかったけどよくよく見るとあたしの目の前に座っているのは、ふんわりした黒髪ボブの儚げな雰囲気の猫耳少女……。

 ケモミミだ! 亜人だ。猫族だ。獣人だ!

 どうしよう、奴隷だよね。お金を払えば買えるんだよね。

 それって合法なのか? 合法奴隷獣人なのか?

 犯罪奴隷は国営の制度だ。ロンド王国でも同じ制度だと思う。つまりこれは、合法奴隷獣人だ。


 合法奴隷獣人ってなんだ?


 でもあたしの目的は亜人の友達を作ることだったよね。お金で買って友達になれるの? 非合法友情獣人なんじゃない?


「お嬢ちゃん、奴隷を買いたいのかい?」

「ひゃひぃっ!?」


 頭の中で葛藤しているあたしに、奴隷商人らしき男が急に話しかけてきた。

 変な声出ちゃったよ。心臓止まるかと思った。

 あと、非合法友情獣人ってなに?


「お嬢ちゃん、果物みたいにお小遣いで買えるような金額じゃないんだなぁ、奴隷は。お父様を連れてくるか、貴族様と結婚してからまた来てくれな」

「あっ、えっと……」


 先日15歳になってこの世界の基準では成人したんだけど、まだまだ子ども扱いされるのは仕方ない。

 しかもあたしを貴族の娘と思っているのか。残念、この世界に肉親はいません!

 でも商人よ、貴族なんかと結婚しなくてもあたしはお金をいっぱい持ってるんだぞ、お客様なんだぞ!

 落ち着けあたし。とりあえず深呼吸だ。


「っすぅ~……」


 刑期3年の窃盗罪の奴隷ならそこまで高額ではないんじゃないかな。犯罪奴隷の売買は社会復帰のための支援という趣旨がメインなので、めちゃくちゃ高いって事はないはず。

 高くはないんだけど、奴隷を購入したら養う義務があるんだ。最低限の衣食住の保証が必要で、不当な扱いが発覚した場合に主人が奴隷落ちなんてこともある。

 だから労働力が必要な貴族や商人でない限り奴隷を買う人はほぼいないんだよね。

 奴隷を買うというのは軽いものではない。軽く決めていいことではないけど……。

 ただ、今のあたしに使役できる労働力は必要ないけど、亜人の友達が必要なんだ。亜人の友達が欲しいんだ……!!


 ……値切っていいかな。

 いや、人の命って値切っていいの?

 うさ耳の少女を追いかけてきたら、儚げな猫耳少女と出会った。これはきっと運命なんだよ。うん、そうなんだよきっと。

 この猫耳の少女が帝国の貴族に買われて不幸になってしまうなら、あたしが買ってこの子を幸せにしてあげるほうがいいに決まってる!

 帝国の貴族にいい人なんているわけないから!


 よし、奴隷の獣人の少女、買ってしまおう……。


 でも失敗は許されない。

 こういう時、フォティアだったら有利に交渉を進められるんだろうな。

 公爵家の跡取り娘でとてもプライドの高い女性だけど、勇者パーティの中では宿舎の手配や商人との交渉を率先して担当してくれていた。

 確かもうすぐ20歳になるとか言ってたかな。意地悪な性格じゃなかったら、面倒見が良くてとても頼れるお姉さんとして慕うこともできたのかもしれない。

 あぁぁぁ、「どうぞ、わたくしを慕いなさぁい!」という甲高いフォティアの声が脳内で再生される……。


 あたしは、商人と値段交渉をしているフォティアの姿を思い浮かべて、深く呼吸をする――

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