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追放の翌日

 ゴーン、ゴーン、ゴーンと時を知らせる鐘の音で目を覚ました朝。

 ……3回鳴るのは確か……12時の時報?


 あれ?


 あたしは昨晩、契約終了というていで、勇者パーティからの追放を宣告された。

 あの後、諸々の手続きや騎士団から貸与されてる備品の返却などのためにバタバタとしていたけど、かなり遅い時間になってしまったので夜番の騎士に返却物を無言で託してから()()を取ったんだ。

 宿舎を出る時に勇者パーティと顔を合わせたくなかったので、朝早くに街を出てしまおうと思ってね。


 ……いやぁ、10時間は寝てたかな。よく寝た。

 この世界に来てからここまで爆睡したのは初めてかも。


 もう魔族との戦いに参加しなくていいという安心感があったのだろうか、とても深い眠りに落ちていたみたい。

 布袋にコットンや羽毛を詰め込んだだけのマットレスの寝心地はそれほど良いとは言えないけど、この世界のベッドでこんなに幸せを感じたのは初めてだ。

 なんなら勇者パーティを追放されたショックがすっかり何処かに吹き飛んでいるくらいには気分がスッキリしてる。

 職を失った身でこんなに心が楽になってていいんだろか。

 あぁ、これはダメっす、ずっと寝てられちゃう、睡眠さいこー。


 とは言っても、ここは騎士団専用の宿舎。

 あたしはもう騎士団員じゃないから、さっさと出ていかなきゃ。


 フォティアに追放を宣告されたあと、貸与品の返却と契約解除の手続きのために騎士団の事務室を訪れた。

 意外と言っていいのか分からないけど、クラテール帝国は契約が重視される国なんだ。

 書類には『度重なる戦闘放棄、及び帝国騎士団として不適格な性格』なんてもっともな理由が書かれていて、ぐうの音も出ずに涙目。

 ただ、契約終了にはなったけど、ありがたいことに夜中に宿舎から叩き出されるようなことはなかった。いや、こんな時間まで寝てて大丈夫だったのかな……。


「よしっ、起きよう」


 ようやくベッドから起き上がったあたしは、とりあえずシャワー室へ。

 騎士団の宿舎には温水が出るシャワーが部屋ごとに備え付けられているからいつも快適だったなぁ。

 この世界には電気器具のようなものは存在しないんだけど、『魔術』や『精霊術』が付与された不思議なアイテムのおかげで意外と生活で困る事は少ないんだよね。

 貴族も多い帝国騎士団の宿舎には温水シャワーや、全身を一気に乾かせる温風機、火を使わずに手鍋でお湯を沸かせるプレートなど……便利なアイテムが設置されている。

 ただし、どれも庶民には手が届かない高級品ばかり。この国の若者たちがみんな騎士団を目指すのもこの待遇の良さが理由なんだろう。


 シャワーを浴びてすっきりしたあたしは、アイボリー色のワンピースに着替え、腰紐をきゅっと結ぶ。

 ……いつも騎士団の法衣を着ていたから、この地味な1着しか私服が……ないんだよね……。

 こんな服装で大丈夫か?

 ……大丈夫、問題ない。

 だってさぁ、この世界の衣服はかわいくないんだもん!

 貴族でもない限り、市街地ですれ違う人々はみんな地味で質素な服装だからだいじょーぶ!


 街で手に入る衣類はコットンやリネンなどの生地のシンプルでゆったりした服が多くて、貴族が着ているような刺繍や装飾の施された身体にぴったりサイズのブラウスやドレスはオーダーメイドの高級品なんだ。

 貴族の服を作ってる職人さんの売り込みを受けたことがあるけど、とんでもない価格だったな……。騎士団の給与が良いので払えないほどではなかったけど、とても一着の服のために出せるような金額ではなかった。

 無償で貸与される藍色の法衣は帝国騎士団の紋章入りでちょっとかわいいから、それがこの世界で一番オシャレでマシな服だったんだよね。


 でも突然、騎士団をクビになって法衣を着れなくなるなんて想像もしてなかったよ。

 部屋着にしているこのワンピースしかないから、さすがに服を買わないと……。

 セミロングの銀髪に色白の肌のあたしがアイボリー色のワンピに、革のショートブーツという本日のコーディネート……いや地味だなぁあたし。

 どこかでオシャレな服屋を探して、一番いいのを頼もう……。

 この世界の洋服にかわいさは期待してないけどね。


 全財産が入った袋と身分証のバッジをショルダーバッグに入れて、出発準備完了。

 このバッジは職業ごとの所属元で発行されるもので、あたしのバッジも元々は騎士団から発行されていた身分証だった。だけど、ちょっと特殊な事情があってあたしのバッジは返却を受け付けられないって言われたの。

 大きな星がひとつ付いているバッジ、この世界であたしの身分を証明してくれる唯一のアイテム。

 いざという時に役に立ちそうだから大事に持っておこう。


 それにしても、持ち物が少ない生活をしていて本当によかった。帝都の騎士宿舎に一応自室はあるのだけど、何も物がないんだ。エレインにびっくりされるくらい、何もない自室だった。

 なので帝都に戻る理由もないんだよなぁ。


 宿舎を出る際に何人かの騎士とすれ違ったけれど、あたしが騎士団を辞めたって知っているのか誰も声をかけてこない。

 ……昨日までみんなあたしに治療されていたのに! まぁ、声を掛けられても無言でおどおどするだけなんだけど!

 結局この世界であたしに優しいのはハーフエルフのエレインだけなんだ。エレインに会いたいよ……。

 人間って怖いなぁ。できれば人間とは関わらずに生きていきたい。


 行き先もまだ決められていないので、宿舎を出た後はとりあえず遅い朝食をとるために、この遠征で一番お気に入りだった食事処へ向かうことにした。

 ……もうとっくにお昼過ぎてるけど、今日起きて最初の食事だから朝食だよね?

 騎士団の宿舎には食堂があるけど、あたしとエレインはいつも時間と戦況が許す限りは遠征先の街区でその土地の食事を楽しむことにしていたんだ。

 騎士団の貴族サマたちとは違って、エレインは庶民感覚を持った気さくなお姉さんだったから特別仲良くなれたのかもなぁ。


 昼過ぎなのに店内はほぼ満席のようだった。

「まぁ賢者様、今日はおひとりなのですね」

 店の奥の方から大きな声で問いかける若い店員さんに、あたしは小さく頷いて応える。

 言わせるな、あたしはソロだ。


 コミュ障がバレないように寡黙な賢者を演じながら、案内されたカウンター席へ座る。

 あぁ、これからは一人で食事をするんだね、あたし……。

 注文するものは決まっていたので、無言でメニューを指さして注文完了。

 この都市で見つけた一番のお気に入り料理は、この食堂で出されているランケアの名物郷土料理『鶏肉のミルク煮』だ。

 この世界で一般的に流通しているパンは堅すぎて苦手なんだけど、肉のうま味が染み出したクリーミーな汁に浸すことで程よい柔らかさになっていくらでも食べれてしまう。

 鶏のもも肉もフォークでほぐせるくらい柔らかくて、口の中でとろけると言っても過言ではない。この世界の鶏肉が知っている味で良かった。

 はぁ、すっっごく美味しい……。ぼっちで食べても、美味しいものは美味しい。


 やっぱね、誰と食べるかじゃない。何を食べるかなんだよ。


 初めて食べにきたとき、あまりにも美味しさに感動して騎士団の寮の厨房で「鶏肉のミルク煮」を見よう見まねで作ってみたんだ。そして見事に失敗した。

 ミルク煮って言うからミルクで鶏肉を煮込むのかと思ったのに、煮込んでるうちにミルクが分離しちゃって大失敗……。

 悔しいからこの前、食堂のおかみさんにレシピを聞いちゃったよ。

 ……いや、正確にはエレインが代わりに聞いてくれたんだけど。

 鶏肉とキノコを、肉と野菜を煮込んだ出汁とワインでじっくりと煮込んでから、最後にミルクを入れて塩で味を整えるらしい。

 ミルク煮って名前にしっかりと騙されてしまった……。


 それはさておき、あたしは見知らぬ人と話すのがとにかく苦手なので、一人で行動するのは会話の面で不安がいっぱいだ……。

 お気付きかもしれないが、あたしは宿舎の部屋を出てからここまで、一言も言葉を発していない。

 食堂で注文する時にはメニューを指差せば伝わるから大丈夫だけど、お気に入り料理のレシピを聞きたいときはどうしたらいいんだろう。

 これからの人生、不安しかない。

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