模擬戦
ギルドに関しての説明を聞いた後、何が起こったのかわからないまま、私はギルドの地下へと案内されました。
登録者の適性を確認し、受けられる依頼の幅を決めるために、ギルドの男性職員と模擬戦を行うそです。
どうやら私、無事に傭兵ギルドへ登録できるみたい。
「あー、お嬢ちゃんは獣人か? 魔術士ではないよな? 腕も細いし、ショートソードがいいか」
そう言って私に短い木剣を渡します。
短い木剣……それでも長いですね。
「剣の訓練を受けたことはあるかい?」
「はい……。孤児院で、魔獣を狩るための訓練を受けていました」
「まぁ試験と言っても、よほど身体を動かすのが苦手じゃなければ試験に落ちることはないから、気楽にな」
職員は木剣を手に構えます。
「軽く何回か打ち込むから、まずはかわすか受けるかしてみてくれ」
無言で頷く私に、職員は低い姿勢で駆け寄り木剣を横に振ります。
この身のこなし、職員といえど元は傭兵だったのでしょうか。
私は軽く後ろに跳んで避けました。軽い打ち込みだったので、本気ではないのでしょうが。
「ふむ、そこそこ動けるみたいだな。それならどれくらいやれるのか、手加減なしで試させてもらおうか」
職員は再び構え直し、一呼吸おいてから先ほどよりも素早い動きで仕掛けてきます。
鋭い横薙ぎを後ろにかわした私に、職員はさらに踏み込み斜めに打ち込みました。
それを屈んでかわした私に対して職員は再び横の薙ぎ。
さすがにかわしきれなかった私は短剣でどうにか防ぎますが、その力に剣は弾かれ体勢が崩れます。
「なるほどね、全くの素人ではない身のこなしだ。ただ……その木剣は重たいか?」
本物より軽いとは言え、ショートソードはやはり扱いづらいです。
私の動きを見て身体に合わない武器だと気づいたのでしょうか。
「おい、もっと短いのはあったか?」
職員の男性は、試験を見守っていた受付の女性に問いかけます。
「そうですね、一応ダガーサイズもありますが……」
「うむ、このお嬢ちゃんにはそっちの方が手に合いそうだな」
そういって武器の交換を促します。
私は短剣を返して、受付の女性からダガーサイズの木剣を受け取りました。
「ほほぉ、逆手に持つのか」
……無意識でした。
「では、次はお嬢ちゃんから打ち込んでみてくれ」
そういって職員は木剣を構え直します。
しかし……私は自分から仕掛けるのは得意ではありません。暗殺の仕事は、深夜に忍び込んで心臓を一突きです。
人と向き合って自分から仕掛けるという経験はほぼありません。
しかし相手が待ち構えてる以上、自分から仕掛けることも覚える必要があります。
ご主人さまの身を護るためにも、新しい戦い方が必要になることもあるかもしれませんし。
私は低く構え、その姿勢から素早く突進して何度か右手を振ります。
しかしそのすべてが職員の木剣で防がれ、相手の身体に到達することはありません。
「いいねぇ、なかなか鋭い動きをするじゃないか。では、こちらからもいくからな」
職員は楽し気に笑いながら剣を振り上げます。
どうして楽しそうに笑うのか私にはわかりませんでしたが、あちらから来てくれるのは好都合です。
しかも振り上げた姿勢から大振りの一撃。今度は後ろにかわすのではなく、素早く突進して職員の懐へ。
職員が木剣を振り下ろすのと同時に、私の逆手に持った木剣が職員の左胸を突きました。
「っっうぉ!!」
驚きの声を上げて大きく後ろに飛びのく職員。
「あぶねぇ! いま木剣じゃなかったら俺死んでたな!」
自分の左胸に傷がないことを確認しながら、安堵のため息をつきます。
「おいおい、なんだ今の!? 怖いもの知らずか? このお嬢ちゃんなかなかやるぞ。魔獣狩りや護衛の仕事を回してやってくれ」
「は、はい!分かりました!」
「合格だ。階級は一番下になるが期待してるぞ」
無事に私の登録は確定したようです。
「でもな、ギルドは常に人手不足だ。切られても構わないみたいな顔した危ねぇ突進は控えてくれな? 命は大事に!」
……振り下ろされた剣に斬られてでも心臓を刺すつもりで突進しましたが、この戦い方は良くないようです。難しい。
やはり正面から向かい合って戦う事は、私には向いてないのかもしれません。
でも、このやり方しか知らないんです。
初めて魔獣を狩ったのは7歳の頃。
私が育った孤児院での暮らしはとても貧しいものでした。そもそもロンド王国自体が豊かな国ではないのですが。
教会から孤児たちに与えられる暗殺の使命は報酬が発生するものではなく、日々の生活は自分たちでどうにかする必要があったのです。
孤児たちで力を合わせて魔獣を狩り、薬草を採り、肉や毛皮、司祭様が作った薬などを村人や行商人に売って、どうにか皆が飢えずに食べていける生活でした。
生きていくためには、孤児たちは山へ入り魔獣を狩る必要があったんです。
なので私は、できる限り早く魔獣を狩れるようになりたくて、幼いころから剣技や体術を学んでいました。
猫族の私は人間やほかの亜人よりもとても非力で、重たい剣はうまく扱うことができません。
ですが孤児院の兄姉にはない獣人特有のスキルと、ダガーの扱いの上手さで小型の魔獣であればすぐに狩れるようになりました。
とはいっても、突進してくる魔獣に対して、一歩踏み込んで、心臓を突くというやり方は怪我と隣り合わせでしたが。
巫術を使える孤児の姉が居なかったら、私は幼いうちに命を落としていたかもしれないですね。
そんな、巫術使いの孤児の姉も、私が魔獣狩りに慣れたころには行方不明になっていましたが……。




