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傭兵ギルド

 ダヴ港から馬車で、王都へ移動してきました。

 私にとっては1日ぶりの、帰還。

 馬車で移動しただけなのに、ご主人さまは何故か疲労の表情を見せています。


 馬車の同乗者……リナさまは瘴気とは全く逆の神聖な気配を持った、オラクル信者の女性。オラクルの信者でもあのような気配を持った方は、出会ったことがありません。まるでオラクルの経典に出てくる天使のような方でした。天使に出会った事はないですが。


 しかし、馬車の中でもご主人さまはリナさまと、あまり会話をしませんでした。

 おそらくご主人さまは極秘の使命で行動をしているので、王国民との会話を避けているでしょう。私の想像ですが。

 でないと、あんなに目を逸らして無口になる理由がありません。

 寡黙な旅人を演じているわけですね。素晴らしい演技力です。


「傭兵ギルドはどこかな……。あっ、登録するのはレセラだけね? あたしは登録しないよ」


 極秘の行動なので、ギルドには登録しないのでしょう。だとすると、私がギルドに登録することは……。


「あの、私がギルドに登録するのは、ご主人さまの使命のご迷惑にならないでしょうか……?」

「ん? 迷惑じゃないよ、一緒に行動できない方が困るもん!」


 なるほど。王都でもご主人さまと私が一緒に行動する必要があるのですね。つまり……私は護衛。

 極秘行動を邪魔するものが現れたら排除しなければなりません。


「分かりました、それでは傭兵ギルドへ向かいましょう」


 乗合馬車の従業員に傭兵ギルドの場所を聞き、辺りを警戒しながら歩き始めます。

 大聖堂が正面に見える大通りをしばらく歩くと、すぐに傭兵ギルドが見つかりました。

「よし、レセラ。一人で登録してきてね」

 ご主人さまはそう言って、私に大金貨を5枚渡します。

 ……いったいご主人さまはどれだけの大金を持っているのでしょうか。


「で、でも私一人で、大丈夫なのでしょうか?」

「うーん、わかんない。できれば1人で登録を済ましてきて欲しいな。あたしは入り口の辺りにいるからさ」


 極秘行動中のご主人さまは、ギルドの職員に存在を知られることも避けたいのかもしれません。私1人で登録を済ませるのは……重要な任務です。


「こんにちは! えっと……傭兵ギルドへの登録でしょうか?」

 私の左手の腕輪を見て、受付のギルド職員は困惑の表情を浮かべます。

「はい、登録をお願いします。私はギルドへの登録は初めてです。登録料はこれで足りるでしょうか?」

 ご主人さまから預かっていた大金貨5枚を受付に差し出します。

「ちょ、ちょっと待ってください!? えっと、あなたは犯罪奴隷の方ですよね? ご主人の方は本日はいらっしゃいますか……? 奴隷のギルドへの登録手続きは、主人の同伴が必要になります」

「申し訳ありません。ご主人さまからは私1人で登録を済ませるよう、指示されております」

 ご主人さまからの指示を守るために私は引き下がりません。


「えーっと、主人の方の身分証明が必要になりますね……。主人の方は外にいますか?」

「いえ……。では登録は結構です」

 ご主人さまの身分証明。極秘行動中のご主人さまの身分をここで明かすわけにはいきません。

「えっ、あのちょっとお待ちくださいっ」

 呼び止める職員の声を無視して、私はギルドの入口へ戻りました。


「あれ、もう登録終わった?」

「いえ、ご主人さま。今すぐここから、離れましょう」

 そう言ってご主人さまの手を取り、ギルドから離れようとした、その瞬間……


「えっと……あなたがご主人の方ですか……?」

 職員が私を追いかけてギルドの外まで出てきました。

「あっ、えっ、あっ」

 困惑の表情を浮かべるご主人さま。

 私は職員の声を無視してギルドから離れようとします。

「待ってください! あなたたち、逃げたら手配をかけますよ」

 職員の声に、ご主人さまの動きが止まります。

「えっ、レセラ……? どういう状況?」

「ご主人さま、申し訳ありません。ギルドの登録には主人の身分証明が必要とのことで、登録をせずに引き返してきてしまいました」

「あっ、そうなんだ……」

「あの、ギルド内でお話を聞かせていただけますか?」

 職員の大きな声に道行く人々が反応して、私とご主人さまに視線が集まっている。

「は、はい……」

 ご主人さまが震える声で返事をして、私の手を引きながらギルドの中へと入って行きます。


 ここでご主人さまの身分が明かされてしまったら、ご主人さまの使命が失敗に終わってしまう。私は自分の使命を果たせなかっただけでなく、ご主人さまの使命も失敗に終わらせてしまうのでしょうか。


「では、主人の方の身分の確認をさせてください。ギルドや教会の身分証はお持ちですか?」


 ギルドは確か、騎士ギルド、傭兵ギルド、商業ギルド、農業ギルドと、工業ギルドが労働者の所属する場所で、それ以外にも教会に所属する巫術士のための身分証が存在しています。

 教会所属でも、孤児である私には身分証は存在しませんでしたが。


 身分の提示を求められたご主人さまは、ギルド職員から目をそらし、無言で俯いています。

 やはり、ご主人さまには身分を明かせない理由があるようです。


「ギルドの星階級、または教会の身分証をご提示ください」

「そ、それは……」

 ご主人さまの挙動不審な様子に、ギルド職員の表情は不信感を隠しません。

「あなた、もしかして王国民ではなくて、帝国の方ですか?」

「えっ、あのっ、そのっ」

 ご主人さまの焦りようを見た職員は、ご主人さまが王国民でないと確信したようです。


「もし帝国から王国へ移り住んでギルド登録するのであれば、帝国での所属ギルドの星階級の提示が必要となります。姉妹国であるクラテールとロンドは互いにギルド会員の情報を共有しておりますので、階級の引継ぎはもちろん、犯罪歴の共有なども行っていて、不正登録を防ぐ仕組みが存在しています」

「え、えっと、やっぱり登録しないで、帰りますっ」

 ご主人さまは絞り出すような声でそう言い放ち、窓口を離れようとしました。


「お待ちください! 少しこちらでお話をお伺いできますか?」

 ギルド職員はご主人を強く制止しました。

 すると奥から別の職員も出てきて、ご主人さまの腕をつかみます。


「あ、あぅ……」

 ご主人さまは抵抗する様子を見せず、ギルド職員に奥の部屋で連れていかれました。

 ……ひとり残された私は、そのままここで待つことにしかできません。


 もしご主人さまが他国からの極秘任務を受けて王国に来ていたのだとしたら、任務の内容によっては捕縛されてしまうかもしれません。

 もしご主人さまが捕まってしまったら、私はまた売りに出されることになるのでしょうか。


 今後の自分の心配をしていたら、奥からご主人さまとギルド職員が戻ってきました。

 ギルド職員は自分の立ち位置に、ご主人さまは私の横に、それぞれ無言で立ちます。


「……それでは、登録を続けさせていただきます。登録料は」


「えぇ!?」

 思わず大きな声を出してしまいました。

「ご主人さまの、疑い……は?」

「こ、こここ、この方に疑いなど何もありません!」

 ギルド職員は引きつった表情で答えました。

 部屋の奥でいったい何が……?

 私の横にいるご主人さまは、俯いて何も言いません。


「そ、それではギルドの説明をさせていただきますね?」

 もう何も聞くな、という表情をしているので、このまま説明を聞くこととします。

 ギルド職員は息を整えるように深く呼吸をしてから、説明を始めました。

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