身分証
身分証の騒動があったあと、レセラは実技試験のためにギルドの地下の演習場に移動していった。
あたしは騒動の心労により、ギルドのすみっこでぐったりとしている。
主人の身分確認かぁ、そりゃそうだよね。迂闊だった。
レセラだけで傭兵ギルドの登録が済むわけないなんて考えれば分かったことなのに、身分の確認を求められ、めちゃくちゃ動揺してしまったよ。
ギルドの奥の部屋に連れていかれて、ギルド長とかいう怖そうなおじさんとギルド職員のお姉さんに詰められて、観念したあたしは帝国の騎士ギルドでの身分証、星階級を提示したんだ。
大きな星のモチーフが付いた騎士のバッジをね。
ギルド長はすぐ意味を理解したらしくて青ざめた顔をしていたけど、ギルド職員のお姉さんは時間差があったな。
だって、一級星の星階級なんてそうそう目にすることないしね……。あたしだって自分以外に見たことないよ。
星の明るさに準えて、一番上の階級が一級星。主に王族などに贈られる栄誉階級だ。続いて二級星、三級星、四級星、五級星の5階級。
奴隷がギルドに登録する際はさらに下の階級、六級星に分けられる。
つまり、一級星の星階級を持つ人物……帝国か王国の王族関係者に無礼を働いてしまったと勘違いをして、ギルド長も職員も青ざめた表情になってしまったわけだ。いや、あたしは王家と関係ない普通の女の子ですから……。
王族とかに贈られる栄誉階級をなんであたしが持っているのかというと、帝国騎士団の支援のために前線に来ていた聖女シャノンの命を救うなどという謎の主人公イベントが発生していたからだ。
そのときに、あたしは初めて『聖女の奇跡』を使ったんだったな。シャノン本人が力を使えない状態だったから、どうしてもあたしがやるしかなかったんだ。
ロンド王国の王女でもあるシャノンを救った功績で、あたしは一級星を賜ってしまった。
魔族との戦いでは逃げ回っていたし、戦闘で功績を立てたわけでもないから、本当に帝国騎士団に所属していた1年間で大した活躍なんてしてないのに……。王女様を救った功績ひとつだけで階級が一気に上がってしまった。
でもね、いいことは全然なかったな。
ロンド王国民にとって『聖女の奇跡』は、聖女の象徴みたいな力らしい。
それを帝国側にいたあたしが使えることは、ロンド王国出身の騎士たちからは強烈に嫌われていた。
裏では偽りの聖女だなんて、不名誉な呼び名まで付けられていたとか。
偽物なのは事実ですけど……。
一級星なんて持ってていいことは全然なかったけど、昨晩はレセラを買う際に奴隷商人に提示して、先ほどはギルド職員に提示して、なんか「この紋所が目に入らぬか!」みたいな使い方をしてしまっているなぁ……。
身分を隠して過ごしたいから、本当はなるべく人に見せたくはないんだよ。
ってか、いま思えば勇者リアンも含めて貴族のフォティアやゼノンですら二級星だったから、あたしがパーティ内で1番高位の星階級だったのが気に入らなくて、あたしを追放したのかも……。
星階級に見合った人物だったら彼らも気を悪くしなかったかもしれないけどね。
でも勇者パーティを追放されたことに関しては、あたしの不甲斐なさが理由だし、彼らを見返してやろう、復讐してやろうなんて気持ちは微塵もないんだ。
だって、この物語はほのぼの日常系なんだもん!
しばらくそんな考え事してると、職員たちと共にレセラが戻ってきた。
どうやら無事に試験に合格して、六級星で登録が完了したようだ。
犯罪奴隷のギルド登録は、左手首の奴隷の腕輪に追加の契約を付与するようだ。
模様のない鉄の腕輪だったものに、赤い線が浮かび上がった。なるほど、これで見分けをつけるのか。
レセラは最初の仕事として王都の付近の見回りという仕事を受けることとなった。女性数人の傭兵チームに加わって、仕事を習うらしい。
城外の見回りだなんて危ない仕事はせず、もっと城内の簡単なお仕事を受けさせたかったけど……城内の仕事はほとんどが力仕事だったんだ。建築の荷運びや引っ越しの手伝いなど、ほぼほぼ肉体労働。
傭兵のお仕事って日雇い派遣だったのかな?
まぁ、それだけロンド王国が労働力不足な国って事なんだろう……。
若者はみんな帝国に出稼ぎに行っちゃうからね。
心配だ。心配だけど……。
王国の傭兵ギルドでも一級星の扱いになったあたしは、仕事を受けることが必須ではないので明日はおやすみなのである。働きたくないでござる。
身分証明事件のことは何も触れずにいるけど、なにか納得してないような表情のレセラ。
うーん、帝国での星階級の話は、いつか、いつかレセラにも話すからね……。
「ご主人さま。私に武器を買っていただけますか? ダガーやナイフで十分ですので、武器の所持を認めていただきたいです」
うーん、そっかぁ。明日は城外で仕事をするわけだから、丸腰ってわけにはいかないよね……。
「わかった、じゃぁナイフを買いに行こう。服装もちゃんとしたのを着させてあげたいしね」




