4話 嵐の前
「舞踏会?」
「ええ。今度の満月に。いかがですか?」
何度目かの逢瀬の後、ハンスは私の家で一緒に食事をとっていた。
「その舞踏会は、殿下の主催ではありませんこと?」
「はい。――だからこそ、です。」
ハンスは笑っている。――けれど、どこか引っかかる。
「……まあいいですわ。久しぶりに殿下の吠え面も見たいことですし。」
「ありがとうございます。」
割いた肉から、どろりと赤い液体が皿に広がった。
そして満月の夜。
「今日も盛況ですこと。」
名だたる婦人や殿方が勢揃い。流石殿下が主催なだけありますわ。
「サブリナ様、メヌエットです。」
「ええ。」
私とハンスは手を取り、音楽に合わせて踊る。こうして体を合わせると、たくましいのね。軍で鍛えてきたのがよく分かりますわ。
目線も私より一回り上で、さすがの私も少しときめいてしまいますわ。周囲の貴婦人たちも「美しいわ……。」「まるで絵画のよう。」とため息をつくのが耳に入る。
その時、階段の上から視線を感じた。
(殿下……。)
やはりフローラとの婚約を台無しにし、顔に泥を塗った私を恨んでいるのかしら。ま、自業自得ですけど!
むしろ見せつけるように踊っていると、ハンスがぴたりと止まる。
「ハンス?」
真剣な眼差しで私を見つめる。どうしたのかしら?音楽はまだ続いているのに。
ハンスはスッと足元にひざまづいた。
「これを。」
取り出したのはアクセサリーケース。ハンスの大きな手によって、まるで儀式のように開かれる。
すると、中には眩いダイヤモンドでできた白のツツジのブローチ。
「なんて……眩しいの……。」
流石にここまで精巧なものはあまり目にしたことがなく、目が眩んでしまう。
「私の今の気持ちです。サブリナ様、あなたは私の初恋です。永遠に。」
立ち上がり、私の胸元にブローチを飾るハンス。
「そして……。」
――一瞬、空気が止まる。
キッと頭上を睨み、王太子に白手袋を投げつけるハンス。
「大事な方を傷つけた方は許せない。たとえ王太子殿下であろうとも!」
会場の方々が口々に騒ぎ出す。殿下はぴくりと眉をひそめた。
(な、な、な……。)
何を言い出しますのー!!この人はー!!




