笑顔の破壊力 lv.88
オルレアの表情が無くなり、目だけが動いている。
『思話』で話している姿は、何度見ても慣れない。
しばらくするとオルレアに表情が戻った。
ニコッと笑いこちらを見る。
「明日の朝で大丈夫のようです。場所は、何日に及ぶかわからないから王宮で、との事でした。魔人の方々もいらっしゃるので、大会議室を用意して下さるそうです」
オルレアは少し不安そうに言った。
まだ直接、魔人達と話していないオルレアは、魔人が敵では無いと信じられないのだろう。
「ありがとう、じゃあ王宮に行く準備をしないとね」
私は部屋に向かった。
王宮の敷地内にある『聖女の塔』で暮らしているオルレアは、明日の準備は不要だ。
バッグに服を詰める。
元々私物が少ない私は、部屋にあまり物が無い。
何が必要になるかわからないので、部屋にある物全てをバッグに入れた。
やはり、マジックバッグは物凄く便利だ。
ダイニングの方に戻ると、オルレアはまだ椅子に座っている。
気配を感じたのか、こちらを振り返った。
「植物達に、明日から家を空ける事を伝えないといけませんね」
私は頷き、オルレアと家を出た。
外は薄暗くなっているが、植物達の様子はよく見える。
オルレアは、手の平から溢れる小さな白い光を植物達に纏わせた。
「皆さん、明日からレイちゃんはしばらくここを離れますので、お留守番をよろしくお願いしますね」
『レイル、行ってしまうの?』
『待っているわ』
『ふふふ、たくさんになった土を見た?』
『もう大丈夫よ、レイル』
植物達が、思い思いに喋っている。
土は、大きな木の周りにもの凄い量が盛られている。
ヴェルデも土集めに協力してくれたようで、だいぶ量が増えているように見える。
この土を何に使うのだろう。
「あんなに沢山の土をどうするかは教えてくれないの?」
私は植物達に質問した。
『まだその時ではないわ』
『すぐにわかるようになる』
土の使い道は教えてもらえなかった。
「明日から少しいなくなるけど、朝はちゃんとあなた達に会いに来るから心配しないでね」
私には、ワープが出来る魔道具である、『黒の輪』と『白の輪』がある。
『黒の輪』は王宮へワープする事ができ、『白の輪』は黒の輪を使った場所へワープする事ができる。
「そういえば、植物達のお世話は、白の輪を使えば困らないんですね。私も安心しました」
オルレアは嬉しそうに言った。
『ありがとうレイル』
『ありがとう嬉しいわ』
『わたしたちは待ってる』
植物達が纏う光が消えると、辺りは暗くなり静かになった。
オルレアと庭の芝生に座り、ぼーっと景色を眺めてから私達は家に入る。
夕食は、パンと、ホワイトシチュー、採れたての野菜で作ったサラダにした。
自分で作ると、ルルの料理の腕の良さを、改めて思い知らされた。
ルルが帰ってきたら感謝を伝えなければ。
夕飯後は新しく買ったキュインをした。やはり、ミント系は爽やかですっきりする。
お風呂に入り、オルレアと一緒の布団で眠る。
朝になり目を覚ますと、いつもは私よりも後に起きてくるオルレアがいなかった。
リビングに向かうと、良い匂いがする。
オルレアが料理をしているようだ。
「あ、レイちゃん、おはようございます。朝食は私に任せてください! レイちゃんにばかり任せるのは悪いですからね」
鍋をかき混ぜながらオルレアが笑う。
キッチンの使い方は、私が料理をしているのを覗いている時に覚えたらしい。
無事に料理が完成すると、オルレアは料理をトレーに乗せ、ダイニングテーブルの上に置いた。
メニューは、少し焦げたトーストと、あまり味のしない野菜スープだった。
どうやらオルレアはあまり料理が得意では無いらしい。
私は、眼鏡の機能で料理本を見ながら作っているが、もし何も見ずに作ると、オルレアと同じくらいのクオリティになるだろう。
「ありがとう。素材の味がしっかり出てるね」
「私も少しはレイちゃんのお役に立てるんですよ? 会議では、食べ物が沢山出てくると思いますので、軽いものにしました」
確かに、話し合いの時には、ゼンが沢山のお茶やお菓子を用意してくれる。
毎回ルルが大喜びして、キャラに似合わず上品に食べていた。
「そう言われると、これ位の量が丁度良いかも。ゼン様が用意してくれるお菓子は種類も量も多いから」
私が言うと、オルレアはニコッと笑う。
「あまり食べ過ぎないようにしないとですよ、夕飯も私が作りますから」
そう言うと、スープを飲んだ。
「ま、まだ、お料理には不慣れですので、味に自信は無いのですが……」
どうやら、オルレアはスープの味見をしていなかったようだ。
「ふふっ、大丈夫、美味しいよ」
食事が終わると、キュインをして、出かける準備をする。
家を出て、植物達に水をやり、私はバッグから『黒の輪』を取り出した。
「行こうか」
「はい、いつでも大丈夫です」
オルレアの返事をきいてから、私は頷き、黒の輪のボタンを押した。
少しの浮遊感があり、地面に足が着くと、王宮の門の前にワープした。
見覚えのある二人の門番が門を開け、笑顔で私達を通してくれた。
オルレアと二人で、目の前にある城に向かい歩く。
城に着くと扉があり、私が開けようとすると、オルレアが慌てたように口を開く。
「レイちゃん! お城の扉はこの取手で叩くと開くんですよ!」
そして、扉に付いている輪っかを持ち、トンッと扉に打ちつけた。
すると、あの重い扉がゆっくりと内側に開いていく。
私も、輪っかで叩く種類の扉がある事は知っている。
だが、この扉の輪っかは小さく、両開きのドアのどちら側にも付いており、ただの取手にしか見えなかった。
私とルルは力を入れて開けていたが、誰も何も言わなかった。いや、何も言えなかったのか……。
「もっと早くに知りたかった……」
扉が開く。
『お待ちしておりました』
メイドと執事がズラッと並び、声を揃えた。
「では早速、大会議室にご案内致します」
メイド長のジェイナが、私達を部屋へ案内してくれた。
しばらく歩くと大会議室の扉の前に着いた。
ジェイナがノックをすると、ガチャッと扉が開いた。
私とオルレアはジェイナにお礼を言い、中に入る。
「やあやあ待っていたよ! 久しぶり、と言いたい所だけど、まだ一日しか空いていないんだね」
ゼンが嬉しそうに声をかけてきた。
そして、私達を見て悲しそうな表情をする。
「やっぱり、本当にルル様はいなくなってしまったんだね……」
「レイル様、オルレア様、おはようございます。どうぞお掛けください」
私達は、挨拶を返し、ダンが引いてくれた椅子に座った。
大会議室は、今まで会議をしていた部屋の数倍の広さがあり、大きな机には紅茶やお菓子が沢山並んでいる。
既に部屋にいたのは、ゼンとダンのみだ。
他の皆はまだ来ていないらしい。
恐らく初めに発生するイベントは、オルレアとローズの再会になるだろう。
私達は、お茶を飲んで全員が揃うのを待つ事にした。
ガチャッという音が聞こえ、扉の方を見ると、アークがいた。
アークはゼンとダンへ挨拶をし、テーブルの方へ歩いて来たかと思うと、私の正面に座った。
「レイル、オルレアおはよう。昨日はゆっくり過ごせたか?」
「昨日は二人でニライの中心街に行って、気分転換してきたよ。新しい目標も出来たし、良い一日を過ごせたと思う」
私が言うと、アークは嬉しそうに笑う。
「それなら良かった。新しい目標か、気になるな……俺が聞いても良い事か?」
「アークに聞かれて嫌な事なんて殆ど無いよ。実はね……」
ルルの事を話そうと、口を開いた時に、ガチャッと扉が開く音が聞こえた。




