笑顔の破壊力 lv.87
そこには、小さな宝石のついた、シルバーの細いブレスレットが飾られている。
ちょこんと付いた宝石が可愛らしい。
悪目立ちせず、どんな服装にも溶け込む、さりげないお洒落といったちょうど良いデザインだ。
「いいね、どの宝石でも値段が同じようだし、それぞれ腰袋と同じ色にしようか」
「良いですね! 私は緑でしたのでこれで、レイちゃんはピンクなので、これですね。ルルさんはオレンジでしたのでこれになりますね! 全部可愛いです」
オルレアは一つ一つ指をさし、確認をして、嬉しそうに笑った。
私達は店員を呼び、三つのブレスレットを買った。
私とオルレアは自分の分は自分で、ルルの分は二人で出しあった。
店にある水晶に、二人で半額ずつを入れる事で購入できた。
「ありがとうございました」
綺麗で上品な雰囲気の店員に見送られ、私達は店を出る。
「良い買い物をしたね。オルレアのセンスが良くて助かったよ」
オルレアとルルとお揃いのアクセサリー。
「このブレスレットは、ルルさんが帰ってきたら三人でつけることにしましょう。それまで触るのは禁止、という事にしませんか?」
両手の人差し指を交差させ、オルレアが言った。
ルルが帰ってきたら、か。
「そうだね、しっかり保管して無くさないようにしないと」
ルルのいる未来の話が出来る事が嬉しい。
その後、私達は昼食に喫茶店を選び、紅茶と軽食を頼んだ。
この世界に来てから、紅茶ばかり飲んでいる。
「そういえば、戦闘服と腰袋ってどうしたら良いんだろう。腰袋に関しては、色々入ってるから失くしたら大変だよね」
戦闘関連の物は、一式バッグにしまってあるが、戦闘服に関しては、全員がオーダーメイドのようなものだ。
「戦闘服は用意して下さった、ローレン夫人が何と仰るかですね。腰袋については、集まった時にでも、大神官様に聞いてみましょう」
オルレアが言うと同時に、お茶と軽食が運ばれてきた。
香りの良い紅茶と美味しそうなサンドイッチだ。
私達は、運んで来てくれた店員に小さく頭を下げ、食事を始めた。
「確かに、今ここでわかる事じゃないね」
私はお茶を飲む。
ふんわり広がる甘みと茶葉の香りで、思わず笑みがこぼれる。
「……いつ集まりますか? 大神官様は私たちのタイミングで良いと言ってくださっているので、いつでも良いと思いますが、レイちゃんはまだお疲れでしょうし、しばらくは難しいですよね」
オルレアはあまり乗り気ではないようだが、時間をおいて良い問題ではない。
知らなければならない事、解決しなければならない事がまだ残っている。
今日はあくまでも気分転換だ。これが毎日になると、気が抜け切ってしまうだろう。
「こういうのは、早いうちに終わらせないと……遅らせて良い事ってあまり無いんだよね」
「そうですね、記憶が新しい内に話し合った方が良いですよね……」
オルレアは、ルルを引き止めなかった事を、まだ悔やんでいるようだ。
引き止めたとしても、ルルは止まらなかっただろう……それは、オルレアにもわかっているはずだ。
「オルレアも、私と同じように責任を感じてるんだね」
私はオルレアの手を取る。
「きっと全ての事に意味があるんだよ。これからどうなるのかわからないけど、私達にとっての最善を一緒に考えていこうよ」
もうルルと会えないなんて信じない。
私達の最善は、ルルとの再会。
私が空に帰る日までなんて待たない、ルルにまた会う方法を考える。
「はい! 私たちにとっての最善……ルルさんをこの世界に呼び戻す、でしょうか」
オルレアは、自身の言葉が間違っていると思っているのか、不可能だと思っているのか、不安そうに言った。
オルレアにとっての最善が、ルルのいる日常だという事に安堵する。
「ルルを取り戻そう。神様が決めた事でルルがいなくなったなら、神様が決める事で戻ることも出来るはず」
今の私はルルのように、ニヤっと笑っているだろう。
「そうですよね! 神託を受けられる大神官様であれば、神様について何か知っているかもしれません! 会議が終わったらきいてみましょう!」
そう言うと、オルレアは明るい笑顔を見せてくれた。
「こうしてはいられません! 急いで会議を開いていただかなければ……会議はどれ位日数がかかるかわかりませんよね、植物達のお世話の事も考えないといけません」
オルレアは、焦ったように話し出した。
気が急いて仕方ないらしい。
「はははっ」
私はそんなオルレアを見て、嬉しくなった。
「今そんなに焦っても、会議が始まる訳じゃないでしょ? とりあえず帰ろうか」
目の前のお皿が空になっているのを確認して、私は言った。
「はい!」
オルレアは元気な声で答え、立ち上がる。
私達は各々ラルを支払い、店を出た。
クロエに、今回の物資提供のお礼を言いに行きたかったが、しばらくは回収された大量の魔力石の鑑定で店を空けているだろうと思い、雑貨屋に寄るのはやめておいた。
来た道を辿っていく。
ルルとの未来がほんの少し見えただけで、世界が違って見える。
まだ、可能性の段階にも関わらずだ。
ルルのいない世界なんて考えられない、私は、神様を脅してでもルルを取り返す。
「話し合う事多いだろうな……まずは黒の精霊王、ネロ様を探すのが優先かな。でもロー……これも皆と決める事か」
オルレアの前で、ローズの名前を出しそうになった。
私から言ってしまうのは絶対にダメだ。
今日ヴェルデが留守だったのを見るに、もしかしたらヴェルデはもうローズと会っているのかもしれない。
仲の良い夫婦の二人が、五十年ぶりに再会する瞬間には、素晴らしいドラマが生まれているのだろう。
「レイちゃん? そんなに会議が楽しみなんですか?」
オルレアが不思議そうに聞いてきた。
知らず知らずのうちに、ニヤけてしまっていたらしい。
「ふふ……そうだね。会議が楽しみで笑っちゃったよ」
オルレアは、自分の両親の事を考えて私が笑っていたとは夢にも思わないだろう。
「私も、会議が楽しみになって来ました。参加しないとわからない事だらけですもんね」
オルレアは笑った。
私達は、帰りの景色を楽しみながら歩いた。
空に浮かぶ時星は、緑色になっている。時星の位置からして十六時頃だろうか。
丘が見えてくると、私達は目を合わせ笑い、家に向かって少し駆け足になる。
実際は変わらないはずだが、帰りは行きよりも早く着いた気がする。
大きな木にヴェルデはいない、まだ外出中のようだ。
オルレアは少し気にする素振りを見せたが、何も言わなかった。
家の前に着くと、植物達に帰って来たことを伝えてから家に入る。
私がダイニングの椅子に腰掛けると、オルレアは向かいに座った。
「明日にでも集まりたいと、大神官様に連絡しますか?」
オルレアは恐る恐るといった様子で、私に聞いてきた。
「そうだね。三日後に行くって決めても、明日になったら今から行きたいって言うのが私だから……」
私はいきなり計画を変え、皆に迷惑をかけた日を思い出した。
オルレアはクスッと笑う。
「では、朝のうちに向かうとして、集合場所がどこかを大神官様に聞いてみますね」
そう言って固まった。




