笑顔の破壊力 lv.42
「猶予ないのは分かってるんだけど、先に今のオルカラ王国の状況について話した方が良いと思う」
私は、今回の話し合いの本題を切り出した。
それを聞いてゼンが頷く。
「そうだね。じゃあそれは僕から話そうか」
ゼンは、何かしらの方法で相当強力な精神操作がオルカラ王国全体にかけられている事、それが精神操作に強いアークやゼンにも効いていた事を話した。
王様は、自身が魔法にかかっていた事にショックを受けた様だったが、クロエは表情を変えずゼンの話を聞いていた。
それから、精神操作によりオルカラ王国の人々がゴウカに対して無関心になっている事、ゴウカの見張りが何故か半年に一度変わっている事を話した。
「まあ、緊急で話さないといけないのはこれくらいかな」
ゼンは王様とクロエを見る。
「そんな事が……確かに、余もゴウカについてあまり知ろうとしていなかった。だが、それは平和だからだと……まさか精神操作が原因だったとは……」
王様は混乱しているようだ。
「今のお話は国民には?」
クロエが質問する。流石に冷静だ。
「こんな話を国民にしたら、国中でパニックが起こって暴動になるかもしれないよ? 全て国の怠慢だと、国民様はさぞお怒りになるだろうね」
ゼンは嫌味たっぷりに答えた。
「そうでしょうね。国民に隠し事をする事は心苦しいですが、今回は特別、国の存続に関わる重要な案件になります。仕方ないでしょう」
「わかってるのに聞いたの? 効率重視のクロエらしくないね」
表情ひとつ変えずに話すクロエを、ゼンが挑発する。
「ただ、国民へ伝えるのかどうかを聞いただけです。これに効率など関係しません」
クロエは淡々とゼンへ返す。
側から見ると、ただゼンが噛み付き受け流されている様にしか見えない。
「ゼン、お前はまだあの時の事を引きずっているのか。天才といえども、見た目と同じで中身もまだまだ子どもだな」
王様が言った。
あの時の事……。
「君は本当に口が軽いね。それで一国の王だなんて、ゴウカの事が無かったとしてもオルカラ王国の未来が心配になるよ。ちなみに、ぼくのことをペラペラ人に話したら、君の記憶を全て奪うからね?」
ゼンはニヤリと笑った。
「それは怖い……あの事は墓場に持っていくとしよう」
王様は、大袈裟に怖がる素振りをした。
あの事とやらが気になったが、私が知る事はないのだろう。
「では続けましょう。この件は、オルカラ王国の弱味になってしまいますので、他国に知られる訳にはいきません。精神操作の解除法は『精神操作をされている』と認識する事ですので、それを私達の中での共通認識にしておきましょう」
先程のゼンと王様の話は無かったかのように、クロエが言った。
「お母様、なぜ解除法がわかったのですか?」
アークが不思議そうに聞いた。
「今、精神操作の話を聞いた途端、ゴウカへの意識が急速に上がりました。聖女様も陛下も、今はゴウカに関心があるのでは?」
クロエは、精神操作に耐性のある2人をあえて避けて聞いたようだ。
その方がはっきりとした結果が出ると判断したのだろう。
「そうだな。余はなぜ今までゴウカに力を入れなかったのか分からない。明らかな異常事態に対策をしようとしなかった事が恐ろしい」
王様はクロエと目を合わせる。
オルレアは驚いた様な表情をして、口を開く。
「確かに今は、ゴウカの事が気になって仕方ありません。なぜ無関心でいられたのか、自分の意識が誰かに変えられるというのはこんなに怖いものなのですね」
「私もお二人の意見に同意です。知りたくなかった事実ではありますが、知らずにいれば国もろとも滅ぶだけですので、教えていただけて良かったです。ありがとうございます」
クロエはゼンに頭を下げた。
先程まで、クロエに嫌味を言っていたとは思えない程、ゼンは嬉しそうな顔をする。
「まあ、他に何か分かればまた教えてあげるよ」
そんなゼンを見て、私はこれがツンデレなのだと生の現場で見られた事に感動した。
ゼンは以前、クロエに何かで負けたのだろう。
プライドの高いゼンの事だ、おそらくそれをずっと引きずっている。
クロエも、それをわかって付き合っているようだ。
そしてクロエは私達を見る。
「お二人の証言により検証終了と致します。よって、オルカラ王国への精神操作は、魔法をかけられた者が精神操作だと気が付いた時点で解ける仕組みで間違いなさそうですね」
精神操作の解き方が思ったよりも早く分かった。
「解除法が分かった。あとは……ハンス、ゴウカの見張りを半年に一度変えてたのは何故か教えてくれるかい?」
ゼンが王様に質問すると、王様は戸惑った様子を見せる。
「余にもわからないのだ。五十年前も余は王だった。ゴウカに魔物が出現したのはいきなりだったと記憶している。そして、見張りを命令したのは余のはずだが……交代制にして、引き継ぎも無い見張りなど何の意味があったのか」
王様は悔しそうに拳を握る。
ここでルルが口を開いた。
「精神操作は、魔物の進化ようにジワジワと浸透したのでは無く、五十年前にゴウカの魔物が出現したのとほぼ同時に展開されたのかもしれませんね」
「それで間違いないだろうね。五十年前にオルカラ王国全域に精神操作をかけた者がいるはずだ。それを見つけない限りこの戦いは終わらないかもしれないね」
ルルの言葉を聞き、ゼンが困ったように言った。
戦うだけでは終わらない。
精神操作が解けたからといって、当時の記憶が戻る訳ではないらしい。
「長い戦いになるかもしれませんね……何をもって勝利とするのでしょうか」
オルレアは不安そうだ。
「『何をもって』なんて考え無くても良いんじゃないか? なんとなくだが、その時になると分かるような気がする」
勇者の勘なのか、アークは何の根拠もない意見を述べた。
アークは、こういう時に意外と頼りになる。
「それでは、私の役目は終わりましたので、これで失礼させていただきます。もし何か私にできる事がございましたら、ご連絡ください」
クロエが帰って行った。
このまま自分がここにいても出来ることはないと判断したのだろう。
「じゃあ、今からは作戦会議だな」
そう言ったアークに私達は頷き、改めて話し合いを始めた。




