笑顔の破壊力 lv.13
今日は、ルルと一緒に、異世界へ来て二度目の中心街へ行く。
前回は問題を起こして逃げ帰ってしまったから、今回は何も起こさないよう、慎重に動くと決意した。
ルル特製の朝ごはんを食べて、歯を磨く。
この世界に来てから今日までの間、毎日ルルにジロジロと見られながら歯を磨いていたのが、今日で終わる。
今も、瞬きもせずにこちらを見ている。
私は今日、口腔ケアの魔道具を買うのだ。最後の歯磨きを目に焼き付けると良い。
ウキウキしながら身支度を整え、ルルと家を出た。
植物達に挨拶をして水をやる。
一ヶ月あれば芽を出すものもあるだろうとは思っていたけれど、殆どの野菜や果物が収穫真近にまで成長していた。
ここの土や気候は特別らしい。
玄関扉のそばに植えたオルレアは満開だ。
透明感のある美しい白。元の世界では図鑑で見た程度だったが、実物を見ると本当に美しい。
丘の上には風がそよそよと吹き、暖かい太陽の光が降り注ぎ、緑が青々と広がっている。
最高のお出かけ日和だ。
前にルルから聞いて気になっていた『時星』もゆっくり見たい。
空を見上げると、太陽よりも近い位置にオレンジ色の星が浮かんでいる。
「あれが『時星』だよね。時星は時間により色が変わるって言ってたけど、オレンジの時は何時くらいなの?」
私はルルに聞いた。
ルルは、得意げに腰に手を当て胸を張り、
「そうです! 時星は一日で四度、色が変わりますが、オレンジの時は、ご主人様の元の世界でいう午前六時から十二時くらいになります。この約六時間の中でも、時星が浮かんでいる位置でだいたい朝寄りなのか、昼寄りなのかがわかります。ちなみに今は朝寄りです。細かく言うと、おそらく午前九時くらいです!」
時星を指差している。
「この、オルカラ王国では王都『イチノ』を中心として、十二時の方向に『シーム』、三時の方向に今ルル達がいる『ニライ』、九時の方向に『サンチ』、六時の方向に『ゴウカ』が位置しています」
ルルはここまで話し、私の反応を窺う。
私が頷くと、ニコッと笑い続けた。
「前に見た地図で把握されていると思いますが、イチノを四つの街で囲んでいる感じです! 今が午前九時頃だとわかったのは、オレンジ色の時星が『サンチ』の方向にあるからです!」
ルルは街の名前を言いながらその方向を指さした。
意外とわかりやすい。
これが自然現象だと言うのが信じられない。
ズーム機能を使って見ると、時星の事が何かわかるのだろうか……。
「九時か、良い時間だね」
私は時星を見ながら答えた。
前回は、早歩きくらいの速度で歩き、二十分程で中心街に着いた。
普通の人なら歩いて一時間以上かかる距離だが、身体強化のある私と、完璧超人のルルならゆっくり歩いても、半分程の時間で着ける。
今日は、ルルとおしゃべりをしながら、景色を見て、ゆっくり歩いて向かう事にした。
ルルとは、家族でも友達でもなく、どんな関係なのかと聞かれると答えに困ってしまうのだが、ルルは今の私の生活の一部で、大切な存在だ。
ルルは私の事を良く知っているけれど、私はルルの事を殆ど何も知らない。
明るくて、元気で、笑顔がかわいくて、たまに怖い。
私は、ルルが食べる事が好きだという事や、やけに物知りな所など、一緒にいて気付ける事しか知らないのだ。
中心街に着くのは四十分程かかるだろうから、ルルの事を聞いてみる。
「これだけルルとずっと一緒にいるのに、私はルルの事全然知らないよね。知られたくない事は答えなくて良いんだけど、気になる事をいくつか質問しても良い?」
私は隣で歩くルルに聞いた。
「ご主人様に知られたくない事なんてありませんよ。何でも聞いてください!」
ルルはニコニコしながら答える。
「じゃあ、まず、ルルはどんな存在で今何歳なの? 見た感じ私より年下だと思うんだけど、私を導くって使命があるんだよね? 辛くない? 女の子だし他にやりたい事とかあるでしょ?」
私は、とりあえず今気になる事を並べた。
ルルはこちらを見て珍しく真剣な顔をしている。
「ルルはご主人様の為に存在しています。生物ではないので、年齢もありません! ご主人様を導くのがルルがここにいる理由なので、辛くなんてないですよ! むしろ毎日色んなご主人様を見て、色々な事を一緒に経験できるのが楽しいです!」
初めこそ真面目な口調で話していたが、途中からはいつものルルだった。
そして、ルルは最後の質問、『女の子だし他にやりたい事とかあるでしょ?』への返事を口にした。
「ルルは女の子じゃないですよ! 今のこの姿は、ご主人様が警戒せずに受け入れてくれそう、という理由で形作ったものです! ルル達に性別の概念はありませんので、ご主人様が男性が良いのであれば、男性になる事も可能ですし、動物にもなれます!」
何もおかしい話ではない。そもそもルルは生物では無いとずっと言っていたのだから。
確かに、私を取り込むのなら年下の女の子で大正解だ。
これが、男性や、老人だと警戒しただろう。私はまんまと術中にはまった訳だ。
今も隣を歩きながら、きょとんとした表情でこちらを見ているルルは、人間の女の子だ。誰が見ても人間の女の子なのだ。
少し胸がぎゅっとなった。何故かはわからない。今、私は変な顔をしていたかもしれない。
「ルルってすごく不思議な存在なんだね。前から聞きたかった事をやっと聞けたのに、結局全然わからなかった。でも、私もルルと同じ時間を過ごして色んな経験ができて、楽しいよ。これからも今の姿でお願い」
私は笑顔を向けた。
ルルは嬉しそうに頷いた。
今した全ての質問の答えが理解できなかった。本当にルルは何者なのだろうか。
触れると体温もあり、感情や表情も豊かだ。
もしかすると、生物ではない、という事の方がルルの嘘なのかもしれないと思い、ルルに了解を得て、左目に左手で輪を作り、ルルを見た。
透明だ、色がない。本当に生物ではないようだ。
そんな話をしている間に、ニライの中心街に着いた。相変わらず人が沢山歩いている。
前に来た時は、元の世界の目覚まし時計を売るのが最大の目的だった。
『もし目覚まし時計が売れたら買いたい物』を色んなお店で見たけれど、忙しなく動いていたせいか、街並みや人等の、視覚から入る情報をあまり覚えていない。
改めて街を見渡すと、人間とは少し違う見た目をした人が街を歩いている。
耳が尖っている人達……美しいあの種族はエルフだろうか……。
背が低く恰幅の良い人達、がははと楽しそうな笑い声をあげている。おそらくドワーフだ。
猫耳が頭についている可愛い女の子がお母さんらしき同じく頭に猫耳を付けた人と手を繋ぎ幸せそうに笑っている。おしりに尻尾もついていてかわいい。
獣人もこの世界にいるようだ。
呼び方は本で得ただけなので、この世界では違う呼び方があるのかもしれない。
「人間以外の種族が気になりますか? 前回はあまり周りを見る余裕がなかったですもんね」
ルルが私の様子を見て聞いてきた。
私は頷き、
「色々な種族がいるんだね。でも、ここにいる人達はほとんど人に近い見た目をしているけど、リザードマンのような、少し人から離れた見た目をしている種族もいるの?」
あまり長い事じろじろ見ないように、周りに目をやりながらルルに聞き返した。
「この世界には、人に近い見た目の種族しか存在しません! この国には、人間・エルフ・ドワーフ・獣人・そして、妖精や精霊という、今言った種族の中でも、上位の存在だと言われる種族もいます。まあ、妖精や精霊にはそうそう会えるものではないですけどね! 精霊なんて形を持たない現象みたいなものですし、もし目視できる機会があればラッキーです!」
種族名は私の認識と同じらしい。ものすごくファンタジーを感じる。
精霊が現象……よくわからないけれど、会ってみたい。
歩きながら話しているうちに、目当ての店についたようだ。
「では、買い物を始めましょうか!」
元気に言った後、ルルは魔道具の店の扉を開けた。




