笑顔の破壊力 lv.12
私は、神力の修行が安定した次の日から、『特別な眼鏡』の扱い方の訓練を始めた。
まず、『文字の翻訳』から使ってみる。
これは、異世界の文字の読み書きができる、という機能だ。
読むにしても、ここには異世界の本がない。以前雑貨屋で、目覚まし時計を売った時に貰った契約書で試す事にした。
実際は、契約の時に既に文字の読みはできていたし、サインした時にこの世界の文字を書いている。
契約書を読んでいる時も、サインしている時も、全く違和感が無く、異世界の文字に触れているだなんて気が付かなかった。
契約書を、部屋にある机の引き出しから取り出す。契約内容が書かれており、私のサインがある。
眼鏡を外して契約書を見ると、全く知らない文字になった。さっきまで読めたものが読めない。
眼鏡をかけている時も見ているものは知らない文字のはずだが、知らない文字という認識が無くなり、すらすらと読めるようになる。
なんとも不思議な機能だ。
眼鏡が無い時に困らないよう、裸眼で文字の読み書きを勉強するのも良さそうだ。
次に検証するのは、『ズーム機能』だ。
どの程度の距離が見えるのかわからないが、これは家の外で使ってみる。幸いこの家は丘の上に建っている。四方を森に囲まれているが、見晴らしは十分だ。
出来るだけ遠くを見るように意識する。
とりあえず遠くを飛ぶ鳥を追いかけてみる。距離は三百メートル位。
鳥が段々と近付いてくる。
小さいと思っていた鳥は結構大きそうだ。元の世界の図鑑では見たことのない種類の鳥で、金色の羽に真っ赤な嘴がきれいで、しばらく目が離せなかった。
この機能は思った以上にすごいものだった。あの鳥が見えなくなるまで二十分近く夢中になって見ていた。恐らく双眼鏡よりも鮮明に見える。質感もわかるほどだった。
この機能を使い図鑑を作ると、普通は知り得ないレベルの豆知識も書けそうだ。
『十六年間で読んだ事のある本全てをいつでも読める機能』
これは本当に最高の機能だ。眼鏡の機能の中で随一かもしれない。
これは、私の本を読む時の定位置である、森の中にある大きな木の下で検証する事にした。
私は相当な数の本を読んだ。
この、本を読める機能は、『本を読みたい』と念じればすぐに成果が出た。念じると、目の前に二十冊の本の表紙が並んだ。
多すぎず、少なすぎず、どれを読むかが選びやすい数。
眼鏡に直接映し出される、というよりは、目の前に画面のような、モニターのようなものが現れて、そこに映し出されている。
頭の中で違うのが見たい、と考えると違う本が現れる。こういう物語だったけれど、題名がわからないと考えると、『お探しの物はこちらですか? 』と女性のような声が聞こえ、候補を上げてくれた。
更には、本の並べ方まで指示ができた。あいうえお順でも、作者順でも、出版社順でも自由だ。
なんて素晴らしい機能……。
見やすく、カスタマイズできて、本が傷まない。
私は、本が時を経て焼けていき、色褪せていくのを見るのも味があって好きだった。本の匂いや質感の違いを感じるのも良いものだ。
もう、この本達の実物を拝む事はないけれど、二度と読む事が出来なくなるはずだった本達を、何回でも読み返せるということがとてつもなく嬉しい。
『特別な眼鏡』の機能は、四つの内三つが便利機能だった。どれも私にとって興味深く、ありがたい機能になりそうだ。
最後の、『異世界の生き物が纏う色が認識できるようになり、その色により、人ならどんな人なのか等がわかるようになる』という今までのものとは完全に異質な機能。
今まで読んできた本で、味方だと思っていた人が実は敵だった。味方だと思っていた人が何かと引き換えに裏切った。というエピソードを何度も見てきた。
この機能を使うには覚悟がいる。もし、自分が信じて好きになった人、自分を好いてくれていると思っていた人が悪い色を持っていたら、立ち直れないかもしれない。
わかってはいたけれど、この機能はやはりチート能力なのではないだろうか。
生き物が纏う色が見れるのなら、森にいる動物や、虫等にも有効なのだろうか……。
『異世界に行く方法』には、使うのにはコツがいると書いてあった。
どういう意味なのだろう。
早速使ってみる。近くを飛んでいる蝶の色は……。
蝶に視線を集中する。ぼんやりと何かが蝶の周りを覆っているような気がする。
なかなか鮮明にならず、色も沢山の色にどんどん変わっていっているようだ。モヤモヤして見えづらい。
五分程その状態でいると、蝶を覆っているものがパリーンッと割れた。音はしなかったが、完全に割れていた。それを見て、これが失敗なのだという事はわかった。
周りに何かが見えただけでも幸先は良さそうだ。
先程とは違う蝶でもう一度試してみる。
視線を蝶から離さずに集中。
ぼんやりと蝶の周りを何かがモヤモヤと覆う。さっきと変わらず色が定まらない。
少し経つと、パリーンッと蝶を覆っていたものが割れた。
何故失敗したのだろう。私は蝶をしっかりと見ていた。そして、集中もしていた。
だが、私に見えていたのは蝶だけではない。
人間には目が二つあるのだから、両目を使うと両目分の風景が目に映る。
蝶の周りにある、花、土、木、草、石や他の虫など、沢山の物が視界に入っていた。
色んな物が見えている分、蝶への集中力は散漫になる。
ということは、神力の修行の時と同じだ。片目を隠す。それで解決するのではないか?
神力では右目を使うから、チート能力は左目を使う。
私は右目を手で隠して再度蝶を見た。
蝶を白いものがふわふわと覆っている。蝶が移動するとそれも一緒にくっついて移動している。
これは……成功だ。
他の蝶にも数匹試してみたが、全部が白だった。
白はこういう時には一番良い色だと認識している。蝶は虫だから、悪意もなくただ日々を生きているだけなのだ。
純粋な物を見れた気がしてなんだか嬉しくなった。
案外早く使いこなせそうで良いのだが、左目で見ている時に見える範囲も意外と広い。これでは他に視線が動いてしまう可能性がある。
『それしか見えないようにする』これが大事だ。
左目で見える範囲を少なくする。その為には左手の指で丸を作り、それを左目にあて、覗く。それだけだ。
見える範囲がすごく狭まった。
蝶を見てみると、白いものに覆われる一匹をピンポイントで見る事ができた。こんな簡単な方法でも、成功したら良いのだ。
これで『特別な眼鏡」の機能を全て使えるようになった。
中心街に行った日から、一ヶ月以上が経過していた。
身体強化のおかげかはわからないが、どれだけ神力を使っても、チート能力を使って目を酷使しても、疲れない。
神力のコントロールが出来るようになった事で、自分に課した『神力が使いこなせるまで敷地内を出ない』というルールは撤回された。
前に出来なかった買い物をしに、中心街へ行きたい。
「ルル、明日は中心街に買い物に行きたいんだけど、もう一度着いてきてくれる?」
私が聞くと、
ルルは、洗い物の手を止め、
「当たり前じゃないですか! 喜んでお供します!」
と元気な声が返ってきた。




