第4話 香炉に潜む罠
翌朝、紗那は宮廷の宴会場に向かっていた。
昨日、香料庫で感じた微かな違和感――焦げた匂い――が頭から離れない。
誰かが、宴で香を操ろうとしている。
「香りは嘘をつかない……」
紗那は胸の中で繰り返し、自分の鼻を信じることにした。
宴が始まり、後宮の部屋は華やかな香りに包まれる。
しかし、紗那はすぐに異変を感じた。
金色の煙の中に、微かに酸っぱい匂いが混じっている――
「……やはり、誰かが香を操作している」
紗那は香炉に近づき、目を凝らす。
炭の置き方、香木の組み合わせ、煙の上がり方――すべてが不自然だ。
誰かが意図的に香を変えている。
紗那は香炉を手で軽く押さえ、煙を嗅ぎながら匂いの流れを追う。
すると、奥の席に座る侍女のひとりが、何かを落として逃げようとしているのに気づいた。
「そこで何を……!」
紗那が声をかけると、侍女は驚きと恐怖で固まった。
「……すみません! 私はただ、香を届けるだけの者です……!」
紗那は深く息をつき、侍女の手から落ちた小さな包みを拾う。
中には、細かく刻まれた香木と、微量の不自然な香粉が混じっていた。
「これは……宴で使う香に混ぜるつもりだったのね」
紗那は心の中で静かに呟く。
香りの流れと匂いの違和感から、事件の構図が少しずつ見えてきた。
その場で侍女に事情を聞くと、彼女は小声でこう答えた。
「……上からの指示でした。誰からとは言えません……」
紗那は眉をひそめた。
つまり、黒幕はさらに上層にいる――。
香を操ろうとした者はただの手先。
本当の狙いは、后妃や宮廷に潜む誰かを混乱させること。
「香りは嘘をつかない……でも、人は簡単に嘘をつく」
紗那は香炉を見つめながら、静かに決意した。
次に起こる宴こそ、必ず黒幕を見抜く――香の迷宮を抜けて、真実にたどり着くために。
その夜、後宮には甘く、そして少し鋭い香りが漂った。
紗那はその香りを頼りに、次の一手を練る。
香りの先には、まだ見ぬ影が潜んでいる――。




