表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕たちが出来ること  作者: 環流 虹向
九夏三伏
127/174

言葉

苦しい…。


ここは…、おじさんたちの家…?


「…い雅。大丈…」


おばさんの声が僕の寝ている背後から聞こえる。


虎雅「おば…さん…。僕は大丈、夫。」


「よ…かった。」


絶え絶えに聞こえるおばさんの声。

呂律があまり回っていないおじさんが僕の名前を呼んでいる。


2人ともそんなに喋ったらもっと苦しくなるからやめなよ。

僕はちゃんと意識があるから大丈夫。


[バガガガガガガガガガガ…!]


屋根を無理矢理退ける音が僕の耳を劈く。

そして体が軽くなるのを感じる。


「虎雅…、だけは…」


「お前は…」


「「生きて。」」


どんなにうるさい音が響いていようと、2人の思いは僕の耳に届いた。


虎雅「2人も…、一緒に生きよ…」


僕が言葉を言いかけた時、頭にとてつもない痛みが走る。

何か大きい物が僕の頭にかぶりついている。


その痛みで僕は2人に伝えたい事を伝えきれなかった。


これで最後かもしれないって分かっていたんだ。

だからこの思いは伝えたかった。


もっと2人と一緒に暮らしたかった。

自分の子供のように育ててくれたおじさんとおばさんに父さんと母さんに出来なかった、育ててくれた恩返しを少しずつでも返していけたらと思っていた。


成人式も一緒に写真を撮ろうね、2人の好きなウイスキーが一緒に飲めたらいいなってたくさん将来の事を話していたのにその将来は来ることがない。


僕を生かしてくれた人に恩さえ返させてくれない。


その世界が酷く辛くて憎い。


そんな世界を少しだけでも生きやすくなるように、僕は僕に出来ることを見つけてきた。


それでも、やっぱり自分の手に抱えられない命があってこぼれ落ちていく様を見ると自分の不甲斐なさが目に見えて落ちこむ。


それでも、今いる仲間が僕に前を向かせてくれる。

僕の震える体を支え、背中を押してくれる。


その存在がいつも僕を生かしてくれる。


その存在にいっぱいのありがとうと恩を渡したい。

だから、まだ僕は死ねない。


僕が目を開けると、目の前に涙目の愛芽李さんがいた。


虎雅「…あ、め?」


愛芽李「虎雅さん起きました!」


僕の顔も見て、ボロボロと涙を流しながら愛芽李さんはみんなを呼ぶ。


一番に駆けつけてくれた絢愛さん。

お腹にコルセットを巻いて腰をかばいながら僕を覗いてくる。顔に切り傷が残ってる。ちゃんと僕が守り切ってあげられなかったのか…。ごめんなさい。


その次に真司と清くんがやって来た。

真司はとても湿布の匂いがきつい。きっとあの戦いで相当無理をしたんだ。

清くんは喉に冷えピタみたいなお札を貼ってる。

僕が守るって言ったのに、2人ともたくさん無理をさせてごめん。


その2人の後ろから樂の顔が見える。

樂は喉と口に冷えピタのお札を貼っている。

僕にデコピンして意識を確認するその腕は包帯がぐるぐる巻いてある。

あの時、相当深く噛まれてたからな…。

僕がしっかりしていれば樂が噛まれる事は無かった。

弱くてごめんな。


樂のデコピンする腕を振り払う傷だらけの手が僕のほっぺたを包む。


世永「おはよう。生きてくれてありがとう。」


世永さんのその言葉で僕は自分の生を確認し、安堵感が溢れて涙が出た。


みんなが僕の生を喜ぶ言葉が心を温める。


みんな…、僕を生かしてくれてありがとう。


僕は少し掠れた声でみんなに伝えたけど、みんなの声が勝ってしまってちゃんと届かなかったみたい。

でも、愛芽李さんがみんなにちゃんと伝えてくれた。


その様子を見て、やっぱり僕は1人だと何も出来ないなと少し寂しく思った。


絢愛「虎雅!お祭り行こう!」


虎雅「お祭り?」


僕が目を覚まして、数時間。

日が暮れ始めた頃、絢愛さんがひまわりの浴衣を着て僕に言ってきた。


確かに夏休み最後の日だけど、こんなにボロボロな状態でよく行こうと思えるなぁ。


虎雅「どこのお祭りですか?」


絢愛「ん?虎雅の住んでる団地の近くにある桜岸神社だよ!」


今日祭りが開かれてるなんて知らなかったな。

…でもなんで絢愛さんがその事知ってるんだろ?


真司「絢愛さん、腰にヒビ入ってるのに行くんですか?」


絢愛「行くしかないよ!アキ…?って子からメッセージ来てて、その子が私たちの代わりに準備してくれてたんだって!お礼言わないと!」


真司「あ、そうなんですね!行きましょう!」


あれ…?いつアキと知り合ったんだ?


虎雅「絢愛さんって前からアキと友達なんですか?」


絢愛「そうっぽい!」


真司「昨日お祭りの準備した時に知り合って告白されたんですよ。覚えてないの?」


お祭りの準備…。アキが絢愛さんに告白…?

確かにタイプっぽいけど、1日で告白したのか?


絢愛「あちゃー…、そこノートで確認してなかったな。でも告白されたのは覚えてる!」


[パァン!]


勢いよく襖が開いたと思ったら、はっぴ姿の琥崙さんが目を血走らめながら絢愛さんの手を取る。


琥崙「受けたか。」


絢愛「受けた?」


琥崙「告白だ。」


絢愛「確か断った!」


琥崙「…本当か?」


真司「…断ってましたよ。」


琥崙「ならいい。」


と言って、外で待ってたはっぴ姿の嘉蘭さんと用事を済ませるためどこかに行ってしまった。


真司「あの人…、怖いね。」


絢愛「琥崙兄さんは優しいよ!」


虎雅「思いの一方通行だから。」


真司に耳打ちして伝えると納得した様子。


真司「琥崙さんと嘉蘭さんが俺と轟の代わりに山車だしを引いてくれたんだ。やりたかったけどしょうがないよね。」


後悔が残る笑顔をする真司。


虎雅「そっか…。ごめん。」


真司「何で虎雅にぃが謝るの?」


虎雅「僕が一発で仕留めていればもっと被害が少なかったと思うんだ。」


川付近の住宅は一階が30㎝浸水したと聞いた。

僕が一番始めに凶妖の喉に銃弾を打ち込んでいたらそんな事にもならず、みんなこんなに怪我をしなかったはずなんだ。


真司「仲間がいたからあの凶妖は封印出来たんだ。世永さんも手こずったんだもん。1人じゃ封印出来ないよ。」


絢愛「そうだよ!あんな大きいのは1人じゃ手に負えないよ。」


虎雅「…でも、もっと何か出来たんじゃないかなって思うんだ。」


絢愛「過去は過去!みんな生きてるなら何でもいいよ!」


絢愛さんが僕の隣にゆっくり座り、携帯の画面を見せてくる。


絢愛「見て!ニュースになった!」


ニュースの動画を流し始める絢愛さん。

映像に映ってるのは穴の空いた雲の映像と森からの謎の光。あとは一直線に雲を刺す巨大な白い柱。


真司「これだけの量が俺たちの住んでる街に流れてたら本当に大惨事だったよ。被害はあったけどたった6人であの街の人たちを救えたんだ。謝る事なんてないでしょ。」


絢愛「ないない!私たちが選択出来る中で最高の今だよ!」


虎雅「…うん。」


真司「だから謝らないでよ。後悔することなんかないよ。」


真司がそう言ってくれると心の重りが少し軽くなる。


「まだ、グダグダしてんのか。」


その声が聞こえ、扉を見ると甚平姿の樂がストールをつけて立っていた。


絢愛「あー!外しちゃだめって世永さん言ってたじゃん!」


樂「指文字がだるい。」


真司「ぼんにぃ喋って大丈夫なの?」


樂「治った。」


絶対嘘だと真司が怪しむ目で見る。


樂「祭り行くならあと5分で準備しろ。もう待たない。」


絢愛「だって!虎雅、みんなでお祭り行こ!」


真司「行こう!彩晴も翔馬も優太も来るよ!」


虎雅「うん。行こう。」


2人が笑顔になり僕の浴衣を取りに行ってくれる。


樂「行く気なかったのか?」


虎雅「なんでみんな大怪我なのに祭りに行こうとしてるの?楽しいのは分かるけど…」


樂「俺たち慰撫団が主催した祭りだ。全ての団員が参加する事になってる。」


虎雅「なんで教えてくれなかったの?」


少し樂の眉が寄り、目つきが悪くなる。


樂「急に始まった事だ。知らなくて当然だ。」


と言って、樂は僕のボサボサの髪を解いて軽くワックスをつける。


虎雅「そっか。どんなになってるか楽しみだなぁ。」


樂は髪の毛をセットし終わると少しせいさんと話しがあると言って部屋を出て行った。

少しすると絢愛さんと真司が戻ってきて外に出る支度を一緒にしてくれる。


急に決まったなら小さいお祭りなんだろうな。

でもしばらく夏っぽい事をしてきてなかった気がするから楽しみだ。


僕は心がだんだんと軽くなるのを感じながら出かける準備をした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ