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僕たちが出来ること  作者: 環流 虹向
九夏三伏
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背中

数メートル先にいる凶妖が足を向け、僕めがけて飛んできている。


どうする。

このまま僕だけ避けても周りの誰かが捕まる。

だったら僕が囮に…


え…?


僕がそう考えた瞬間、凶妖でも絢愛さんでもない強風が吹く。

僕はその風に煽られ瞬きしてしまう。

すると、僕の目の前に清くんが現れて凶妖の頭を鷲掴みにする。


清「堕ちろ。」


清くんがマイクを外しその凶妖に向かって大声で唱える。

すると、凶妖が白目を向き急速に減速して重い体を地面に叩きつける。


虎雅「清く…」


『…小僧が気安く触れるなァアッ‼︎』


その言葉が聞こえた瞬間、凶妖の目が開きギラギラと輝きを放ちながら、ぐるんと首を回し清くんの片腕に噛み付く。


『食いちぎってやろう!』


凶妖が噛み付いたまま顎を上にあげる。


僕はその場から凶妖の鼻を狙い撃つ。

銃弾は命中し、凶妖の口元が緩む。


絢愛「君!離れて!」


絢愛さんが一歩踏み出しながら清くんに指示する。

そして、体を斜め下に捻り足を地面に埋め刃を寝かせる。


絢愛「ぶっ飛べぇぇぇええ‼︎」


絢愛さんの声が森中に響き渡りながら、突き上げる風が僕たちを襲う。

僕たちは必死に茂みに掴まりながら空高く上がる凶妖を目で追う。


空中に上がったまま凶妖は自力で羽ばたくことなく、空に浮いている。


するとガサッと茂みが動き、せいさんが立ち上がる。


世永「みんな、耳塞いで!」


せいさんは両手に持ったガラス細工の容器5本を振りかぶる。


僕たちは言われた通り耳を塞ぐ。


せいさんがそれを確認し、血の入った容器を追い風に乗せて凶妖に向かって投げる。


その容器が凶妖に刺さった瞬間、とてつもない断末魔が僕たちを襲う。


耳あても手の平も意味がないほどに大きく脳を揺らし、地響きを起こす。


僕たちは目眩と頭鳴りに耐えられなくなり地面に倒れこむ。


だめだ、脳がちぎれる、目の前が…、霞む。


…僕、死ぬのか?


そう思った時、断末魔が鳴り止み地面が揺れる。

凶妖はきっとあのまま地面に落ちたんだ。


僕は耳から手を離す。


耳に通り抜ける風が針を刺すように痛い。

喉の少し奥に何かがつっかえているあの感覚。

目の前の小石にさえ定まらない焦点。


「ゲェッホ!…ハァ、ハァ、ハァ…。」


誰かが咳をしている。

僕以外にも誰かが意識がある。

けど、顔が見えない。

このまま頭を動かしたら引きちぎれる。


僕は突っ伏した体を腕だけで起こしてみる。


虎雅「うっ…!」


喉につっかえていたものを全て出してしまった。

口と鼻、両方から出て顔周りの穴全てに痛みが走る。


目の前にある嘔吐物にさえまだ焦点が合わない。


…こんな僕じゃ戦いきれない。

もう…、だめなのか?


僕は目を力強く瞑り、涙を堪える。


『大丈夫よ、ここに母さんも父さんもいるから。』


僕の背中を優しく触る母さん。


『きついな。俺がお前と変われれば…。』


目の前にあるバケツを取り替えてくれる父さん。


…ああ、そうだった。僕が無理にご飯を食べて戻してしまった時、いつも父さんと母さんは寄り添ってくれた。


小さい頃の僕は日々起こる災害のニュースを見て生きる力を失って、ご飯を食べなくなってしまった。

どんなに美味しいご飯を作ってくれても匂いで拒絶してしまうほどだ。


その様子を見て悲しそう顔をする2人を見るに耐えられなくなって、僕は無理矢理食べ物を詰め込んだ。


今まで半人分も食べて来なかったから、2人分も無理に入れた胃は驚き全ての食べ物を吐き出してしまったんだった。


『虎雅、無理しなくていいの。』


『虎雅のペースでいいんだ。全て入れる必要はない。』


虎雅「でも、そうしないと2人が悲しそうだったから。」


『私たちは虎雅が健康で元気よく過ごしてくれたらいいの。』


『少しずつ、虎雅の出来ることからやっていくんだ。無理をすると体は壊れる。』


虎雅「…無理しないと死んじゃうでしょ?」


『いいや。虎雅の目の前で起こるもの全てが自分の力に備わった物、周りにいる俺たちがいればなんとかなるもんだ。』


父さんと母さんは僕の背中を撫でながら汗を拭いてくれる。


『今こうして出来ないことがあっても、虎雅が諦めなければ出来るようになるわ。』


『『だから、大丈夫。』』


2人の温かい声が頭を包みこむ。


その懐かしさに涙が流れる。


「おい、大丈夫か。」


その声で僕の顔周りを乱暴に布で拭かれている事に気付き、目を開ける。

顔をあげると樂が僕の嘔吐物を拭いてくれていた。


虎雅「…え、汚いよ?」


樂「どうでもいい。お前は動ゲるのか?」


虎雅「…え、うん。」


僕は目を開けると頭痛も目眩も止まっていて体が軽くなった感じがした。


虎雅「樂は喉大丈夫?」


樂「まじないはギつい。直接凶妖の肌に触れるジかない。」


虎雅「そうだよね…。凶妖はどこ行っ…」


僕の頭の上からあの凶妖の色が見える。

瞬時に僕は顔をあげる。


『このまま永遠に眠れ。』


バサッと音をさせ、あの無数の羽を僕たちに投げつけようとする凶妖。


虎雅「移動させないと!」


僕と樂は体に鞭を打ち、4人を抱え逃げようとするが僕の体に上手く力が入らず間に合わない。


虎雅「…みんな!起きて!このままじゃ…」


僕の声が震え、嫌な想像をしてしまう。

ごめんみんな。守るって約束したのに守りきれない。


僕は担いでいた真司と絢愛さんに覆いかぶさり、盾になって死を覚悟した。


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