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僕たちが出来ること  作者: 環流 虹向
九夏三伏
122/174

サプライズ

僕は信じがたい現実を受け止められないでいた。


「うううぐぅっっ…。」


あの独特の唸り声が樂から聞こえる。

数珠丸さんが凶妖化する前の時と似ている。


「虎ガ!離れろ!」


少し遠くからせいさんの声が聞こえたと同時にまたあの空を切る音が聞こえる。


虎雅「痛…。」


痛みのある頬を触ると微かに血が出ている。


世永「虎雅、危ナい!」


せいさんが駆け寄りそのまま僕の体を持ち上げ、樂から離れる。


虎雅「せいさん!樂が…」


世永「…大丈夫。俺がいるガら。」


せいさんが僕の頭を撫で、キラキラと樂の周りに起こる鎌鼬(かまいたち)を受けながら樂に馬乗りになって抱きつく。


せいさんの白い団服はだんだんと切り裂かれ赤く染まっていく。


世永「樂、みんな来ダから大丈夫。樂は独りじゃない。梵唄樂の生きデいるこの世界には、お前を大切に想っている人ダヂがたくさんいる。もちろん死んでいっダみんなも、樂の心の中で今デも大切にお前の事を想っデいる。

俺は冗談は言うケド、嘘はつかないよ。だから安心してこっちに戻っデきて。」


せいさんのいつも以上に温かい声に僕は心動かされる。


虎雅「樂、僕もせいさんもいるよ!僕は樂がいないと寂しい!」


僕はその場から樂に声をかける。


世永「俺も樂がいないド、寂しいなぁ。」


せいさんはそう言うと樂の体を起こしながら目を見開き、無造作に振られる刀を脚で止める。


世永「ジジィはそろゾろおネムなんダから、いい加減目覚まジて。」


そう言うとせいさんは樂を自分の体にもたれさせ、樂の濡れた髪をわしゃわしゃと撫でる。


「…ぜぇ。」


世永「あ、起きた?」


せいさんが笑顔で樂の肩を掴み、顔を覗く。


樂「うぜぇからやめろ。」


世永「いつも通りダねー。よちよヂ。」


せいさんが撫でようとした手を樂が叩く。


虎雅「よかったぁー…。」


僕は樂が凶妖化しなかった安堵感で涙が溢れる。


樂「何でお前は俺の上に乗ってんだよ。状況を理解しろ。」


樂は怒りながらせいさんの脚の下から這い出ようとする。


虎雅「樂、あのね…」


僕は駆け寄りながら、樂に起こったことを説明しようとしたがせいさんが僕にアイコンタクトを送る。


世永「シー。これが樂ダからそれでいいの。」


せいさんは笑顔でそう言い、立ち上がる。


樂「で、何でこの森燃えてんだ。」


樂は周りの明るさに気づき、せいさんに質問する。


世永「燃やした。」


虎雅「え!?せいさんがやったんですか?」


世永「そヴだよー。サプラァイズ♡」


せいさんが指でハートを作る。


樂「凶妖怒らせるなよ。」


世永「誰がそうザゼたのー?」


と言いながら、せいさんは自分の団服を切り取り樂が噛まれた腕に巻く。


虎雅「せいさん、傷…」


『飲まれろ。』


その言葉が僕の頭に流れた瞬間、

風と雨が一段と強くなり立っているのもやっとなほど。


僕はせいさんに声をかけたのも忘れ、上を見る。


するとあの凶妖が豆粒ほどに小さくなって空高く飛んでいる。


世永「だいぶ飛んデるねー。」


樂「…火が怖いのか?」


『あいつらを今殺す。』


何故声が聞こえるようになったかは分からないけれど、あの凶妖の思考の声が分かるようになった。


虎雅「僕たちの事、だいぶ怒ってるみたい…。殺すって…」


世永「多分、俺の血で燃えデるように見えるからガな?ごめんねー!…ゴホッ。」


樂「なんで大声出してるんだよ。休めって言っただろ。」


世永「休んでる暇はないね。救える命ガそこにある限り。」


せいさんがキメ顔をする。

僕たち2人で呆れてその顔を見ていると、パチッと小さくて冷たい物が僕の額に当たる。


虎雅「何これ?」


僕は額に当たった小さい粒を拾おうと体を屈める。


「危ない!」


どこからか真司の声と走り寄ってくる足音が聞こえる。


樂「…っおい!避けろ!」


ドンっと樂に蹴られ、僕はその場に倒れる。

その頭に(またが)るように団服を着た真司が僕の上でこん棒をバットの要領で振る。


その場で樂とせいさんはしゃがみこむ。


[パァンッ!パラパラパラ…]


と、ガラスが砕ける様な音がする。

その音の方を見ると、キラキラと砕けた氷が落ちている。


真司「虎雅にぃ、気抜き過ぎ!」


虎雅「え、ごめん。」


僕は何がなんだかさっぱりで、体を起こしながら謝る。


『脳天、かち割れ。』


僕はその声で空を見上げる。

すると、野球ボールくらいの大きさの雹が僕たち目掛けて降ってくる。


真司「これくらいなら、壊せる!」


真司は僕たち3人の前に立ち、しゃがむよう促す。

僕は森の木の陰に隠れようと提案したが、真司は何十個の雹を打ち壊していく。


真司が打ち壊した雹は消えていくせいさんの炎の灯りでキラキラと輝いている。


世永「ナイス、バッツマン!」


真司「ありがとうございます!」


雹が降り終え、せいさんが真司を褒める。


『人間は最悪な生き物だ。生き物の中で一番無価値だ。』


酷い言葉が僕の中で流れる。

僕は驚き、下を俯く。


『下等な人間がこれだけ増えたのは悪知恵しか脳に無いからだ。生き物としての恥だ。こんな生き物全て消えればいい。』


樂「…おい。どうした。」


『あの炎が私たちの全てを奪った。文明かなんだか知らないが、他の生き物の命をゴミ同然に扱うクズなど全て死ねばいい。』


真司「虎雅にぃ?」


『この雨でここから見える街は今日沈ませる。まだお許しを得てはいないが今までやっていた事をするだけだ。数は少ないがあの土地はもう終わりだろう。その方が國琉様もお喜びになる。』


世永「…どうした?」


『あいつらがいなければ今頃沈んでいたと言うのに、小賢しい事してまた私たちの場所を奪う気か。これだけの土地を得てまだ欲しがるとは貪欲にも程がある。生き物の中でも一番汚い奴らだ。』


…そうか、君は人に住む場所を奪われたんだね。

昔はきっと人を殺す事なんかせずに生きていたんだろう。

けれど、恨みを生んでしまった人間に仕返しをしてたくさんの命を奪っていった。


僕が住んでいた街は今でも復興途中。

僕の家も、通っていた中学校も、行きつけの図書室も今でも立ち入り禁止区域。

けど、そこに思入れのある人たちが生き延びて必死にその街を復興させようとしている。


君も僕も奪ったもの同士なんだ。

君も気づいて欲しい。


初めに奪ってしまったのは僕たちだ。

本当に酷い事をした。

炎で森が焼け、仲間の動物たちが逃げ惑う中、

人は安全な場所で状況を映像で見て、他人事の様に怖いねと言っていたんだろう。

その中でたくさんの命が失われてるとも知らずに。

クズで悪知恵ばかり働く人間たちだけれど、その中には君たちのために動いてくれている人もいたはずなんだ。


森を鎮火して火傷した君の仲間を救助し治療した人間。

山火事を今後起こさない様に対策を練る人間。

その森や動物のために寄付をする人間。

そんな人たちも君はクズと呼べるのだろうか。


人間は人間だけれど、1人1人個性を持ってそれぞれの生き方で過ごしている。

その中には君たちの事を何も思わない人もいるけど、一生命として大切に思い行動に移してくれる人もいるんだ。

人間を1つの個にして考えないで欲しい。


僕たちもそうだ。

君たちの中で凶暴化したものが自然災害を起こす事を知って考えを改めた。

全ての凶妖が危険な存在では無いと教えてくれたんだ。

君も普段はそうなんだろう。

ただ、何か癇に障って今に至るんだろう。

けど、やっていい事といけない事がある。


僕たちは君の命を取る訳ではない。

だから不用意に武器を振り回さない。

出来る事なら体を傷つけたくない。


でも、そう言っても受け入れてくれないんだろう。

もう根本に人を恨む心があるから。


そこまで人を嫌うような事をしてしまってごめん。

でも、これからは少しでも人と動物が分かり合える世の中にするから痛いと思うけど我慢してね。


虎雅「…あの凶妖は國琉様を知っているけど指示された訳じゃないっぽい。あの子が住んでいた地域が人の手で燃やされたらしい。きっとさっきの炎で相当腹を立ててしまったんだと思う。」


世永「そっか…。俺、酷いゴとしちゃったね。ちゃんと謝らなイと。」


「世永さーん、虎雅、樂、真司!お待たせー!」


と言って、絢愛さんと清くんが走ってきた。

絢愛さんは走りながら剣を元の大きな形に戻し、清くんはワイヤレスマイクを片耳につける。


世永「準備ありがドう!よし!役者はゾろった!命大事に頑張ろう!」


絢愛「おー!」

真司「おー!」

虎雅「おー!」

樂「おう。」

清「はい。」


その様子を見た凶妖が僕たちに迫ってくる。


君の思いは僕が受け取ったから、大丈夫。

僕たちがちゃんと君の思いを伝えるから、もう辛い思いを抱えなくていい。


もう、自分や他を傷つけることはしないでくれ。


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