俺たち
僕は銃と刀を手に、樂は唄いながら短剣を両手に持ち、とてつもなく大きい凶妖のフクロウに向かって走る。
『飛びかかって直に喉をやるか、あいつを地面に落とすか。』
樂が指文字とジェスチャーで伝えてくる。
虎雅「喉を優先、出来たら地面。」
『了解。』
樂の喉は若干枯れ始めている。
唄っている最中、眉が何度も寄せているから何度も中断するヘマは出来ない。
僕たちは走りを加速して凶妖の背後に迫る。
凶妖は暴風豪雨に気を取られているのか一度もこちらを見ない。
僕たちは容赦なく、後ろから喉がある首を狙う。
[バキィンッ!]
と、僕の銃弾と樂の短剣が跳ね返される。
なんだ?この羽はただの羽じゃないのか?
僕たちの体が宙の頂点に達した瞬間、凶妖の首が180度振り向き僕と目が合う。
クワァ…っと、口を開こうとする動作をする凶妖。
だめだ。この距離であの鳴き声を樂に受けさせてはいけない。
僕は腹の自我穿通で樂を無理矢理蹴飛ばし、凶妖から離れさせる。
その衝撃で僕の体は凶妖に近づく。
僕はそのまま耳を押さえようとした時、凶妖の鳴き声が頭の中で響き渡り、耳を劈き喉を焼く。
何でだ、時間の流れが遅くなるはずなのに。
僕は意識が途切れ途切れのまま凶妖の方を振り向くと今までに出会ったことの無いスピードで僕に近づいてくる。
いつもは何もかも止まってるように感じるのに、この凶妖は人が走る速度でやってくる。
でもこの動きなら、僕にも出来ることがある。
僕は片手に持っていた銃を捨て、刀を両手で持ち直す。
そのまま来い。その喉を突き破ってやる。
僕は一直線に近づく凶妖の喉に刀を寸前で向ける。
すると、後少しで喉に突き刺さるはずだった喉が上に向き刃を免れ、そのまま僕の顔めがけて嘴を刺そうとしてくる。
握っていた刀を僕は持ち替えて、嘴の下顎部分を強引に突き上げる。
その衝撃で僕は下に、凶妖は上に向かって突き動かされる。
今までに感じたことの無い重力の重さを耐えながら地面に落ちる。
その衝撃でつけていた耳あてが取れてしまった。
虎雅「ッ…!」
声に出せないほどの背中の痛み。
肺が苦しい、息が上手く出来ない。
樂「おい!何してんだ。」
樂が僕の元に駆け寄る。
だめだ。まじないを止めちゃいけない、と言おうとしてもうまく声が出せない。
霞み目になりながらも、樂の頭の後ろから凶妖の姿が見え、そのまま叫ぼうとしているのが目に見える。
僕はとっさに体を動かし樂の耳を守る。
[グギャアアアアアアアアアアッ!]
虎雅「ァガッ…!」
一番初めに聞いたものよりも大きい鳴き声で僕の脳を襲う。
樂「…おい!虎雅!」
樂の耳を守れ。今の僕にはこれしか出来ない。
樂がいないとあいつは封印出来ない。
僕の耳も喉も脳もどうなったっていい。
まずは樂の喉を守りきれ。
僕は連続で鳴く凶妖の声から樂の耳を力強く塞ぎ守る。
樂も僕の耳を抑えてくれているがさっきので鼓膜が破れたらしく血の滑りでうまく抑えられないらしい。
樂「しっかりしろ。お前は自我だけ保っていればいい。」
樂は自分の団服を破り、僕の耳に巻きつける。
ドクドクと僕の鼓動が耳の奥から聞こえる。
樂は僕を隅に移動させ、僕の刀を拾い上げた。
樂「借りるぞ。」
樂はそのまま走り出す。
僕は頭鳴りの目眩と戦いながら、さっき落とした銃を拾う為、地べたを這いずりながら向かう。
樂の声が微かに耳あてを通り抜け届く。
樂「俺はお前を殺したいと思う。お前はどうなんだ。」
そう樂は話すと、凶妖が答えるように叫ぶ。
樂「同じ考えの持ち主同士、殺り合おう。」
樂が地面を強く蹴り、凶妖に向かって空高く飛ぶ。
それに合わせて凶妖が翼をはためかせ、樂の動きの邪魔をする。
だめだ。殺しをしちゃいけないんだ。
どんな生き物も平等の命。
どんなに人を殺しても…、平等の命。
虎雅「ハァ…ハァ…」
落ち着け、他我に意識を向けるな。
戻れなくなる。今動けていない自分に怒りを感じろ。
今動かなかったらサイレンの鳴り続ける街の人々が死ぬんだ。
動け、脚でも腕でも何でもいいから体を起こせ。
虎雅「あぁ…、ぐっ。」
力を入れるたびに情けない声を出してしまう自分の不甲斐なさを感じろ。
樂は俺たちと言ってたんだ。僕と樂しかいない、今ここにいる“俺たち”なんだ。
こんな所でうずくまってる場合じゃ無い。
片手を握り、その手で地面から体を離し持ち上げる。
止まるな、前を見ろ。自分の武器を手に取り前に向かって走れ。
向かう先には僕を待っている樂がいるんだ。
僕はふらつきながらも歩き出し、銃を拾い上げる。
動け、ふらつくな。
進め、一歩出したらまた一歩足を出すだけだ。
そんな簡単な事が出来なくて命を救おうなんて思うな。
ふらつき、サイレンの音で強張る脚に力を入れる。
[バンバン!]
脚を叩き、自分の体を鼓舞する。
樂「食いちぎってみろ!その時は腕ごとお前の首を狩ってやる。」
見上げると樂は短剣を持っている腕を噛まれ、その腕の外側に刀がある。
どうやってもその体制からは喉を狙う事が出来ない。
虎雅「樂!一度離れろ!」
樂「目の前のチャンスを捨てるわけにはいかねぇ!」
樂は自分の腕を切ろうと刀を振り上げる。
虎雅「やめろ!」
僕が樂の元へ飛ぼうとした瞬間、周りの木々が一瞬で燃えるが如くこの辺一帯が朝日が射したかのように明るくなる。
その様子を見て驚いたのか凶妖は樂の腕を離し、地面に落とす。
虎雅「樂!何してんだよ!」
地面に落ちた樂は浅い呼吸でギリギリと刀を力強く掴んだまま離さない。
虎雅「大丈夫か!?落ち着いて息し…」
[ヒュン…]
風を切る音が耳あて越しからも聞こえる。
ハラッ…とその耳あてが取れ、拾い上げると何故か鋭い刃物で切られたような跡がある。
僕は周りを見るが凶妖の気配は無い。
[ヒュン…]
またその音がして、僕の腕に少し痛みが走る。
なんだ?鎌鼬に切られたような薄い傷が僕の腕に出来ている。
いや、そんな事より樂だ。
樂に目を落とすと刀を持った腕の位置が変わっている。
待て、これは…。
僕は嫌な想像をしてしまった。




