ティアの幸せ
「異能軍に襲撃されてるじゃん」
九人程の異能軍と思われる奴らが軍の人を異能で無差別に攻撃している様子が見えた。
二十人ほど軍人はいるらしいが、敵に【防壁】が使える奴がいるらしく、銃を弾かれている。
【防壁】の異能軍は三人、他の六人は色々な攻撃魔法っぽい異能を使いながら防壁の後ろ、つまり安全な場所でニヤニヤ笑っている。
『軍なんてこんなもんかよ!!【エア】』
結構エアって使えるやつ多いんだな。
まぁ、その分・・・
『イテッ!!何だこの石ころ』
ピコンッ
【人探しできちゃう石ころがエアIIを覚えました】
レベルが上がるから良いけど。
防壁は今は壊さない。
今壊したらこいつらが蜂の巣になるからな。
銃が弾切れたら使おう。
『はいはい、じゃあ俺が行くぜぇ!!』
『お、まさかアレやっちゃう?えげつねェ〜』
『うるせーよ、じゃあ軍人、あばよ【サンダーランス】』
サンダーランスって確か、魔法の中でも珍しいって聞いたことがある。
魔法は希少な物だけど、属性?みたいなのがあってサンダーランスはその中でも少し珍しい雷属性の下級中位クラスの魔法だったっけ。
ふっ、王城にあった【誰でも分かる魔法の基礎・まずは属性を覚えよう編】はわかり易かったぜ。
『くっ!!またあの大技がくるぞ!!総員、盾を構えろ!!』
『もう遅いんだよ!!いけぇ!!』
あ、やべ、いつの間にかサンダーランス構築してるじゃん。
でも魔法陣が無いと操れないみたいだな。
はい、ご愁傷さまです。
『あの技が次来たらもう耐えられません!!』
『・・・分かった、確かにそうだな』
『た、隊長?』
『グレネードを十個ほど貸してくれ、それとお前らは逃げろ』
『ま、まさか!!ダメです隊長!!』
『お前達、妻や子供がいるんだろ?それを守らせてくれや』
『うぅ・・・隊長・・・』
何この感動回。
この人の事を俺も経緯を込めて【隊長】と呼ぼう。
まぁ、サンダーランスをとりあえず消すか。
『ってぇ!!なんだよこの石ころ!!』
『その石ころさっきからなんか飛んでくるんですよね』
『ったく、めんどくせぇな、もう一回使わなきゃいけねぇじゃねぇか』
魔法陣が妨害されてサンダーランスが一回消える。
しかし、もう時遅し。
ピコンッ
【人探しできちゃう石ころがサンダーランスを覚えました】
『【サンダーランス!!】・・・あれ?』
『どうしたんですか?』
『いや、異能使い過ぎたみたいだ』
『ぷっふー、ダサ!!』
『しょうが無いだろ!!サンダーランスは結構回数が制限されてるんだから!!』
その様子をみて他の奴が『やれやれ』と言いながら異能を使う。
『ロック』
『ファイア』
『ウォーター』
『エア』
綺麗に基本の属性が揃ってるな。
まぁ、全部貰うけど。
明らかに異常な動きを見せながら腕に当てていく。
そしてコイツらの異能を奪った後に軍人さんたちへ視点切り替えする。
軍人達が隊長の頑張りで逃げているらしいので隊長が残ってるだけだ。
隊長が乱射しまくってる銃も弾切れらしく、ナイフで『アイツらは追わせない!!』と最後の威嚇。
防壁の三人もまとめてご馳走様です。
『なぁ、あの石ころやっぱりおかしくないか?』
『自然にあんな動き出来るわけないし・・・』
『もしかして、誰かが操ってるのか?』
そんな疑問を浮かべてる中、俺は隊長の近くに石を飛ばす。
「あー、テステス、聞こえてますかー」
『な、なんだこの声は・・・この石ころか?』
「その通り、ここから少し離れた場所で援護させてもらった」
『援護って何を・・・『なんだこれ!!』ん?』
『俺の異能も使い過ぎになった!!』
『俺もだ!!』
次々と異能が使えなくなってる異能軍の声を聞いて隊長は不思議そうに見ている。
「あれは俺の異能でやった、あなたの部下の一人も保護している、そいつらは異能もう使えないから対処は任せる」
『き、君は・・・』
「じゃ、ちょっと待っててくれ」
俺は異能軍に【拘束】を使い、鎖で締め付ける。
「コイツらの身柄を受け取るところが知りたい、どうすればいい」
『凄いな・・・とりあえず異能軍は軍が責任を持って罪を償わせる事になっている』
「わかった、とりあえずそこは危険だからこっちに来い【転移】」
俺が転移と唱えると、隊長と異能軍がすぐ隣に現れる。
「こ、ここは・・・」
「じゃあティア、治癒を頼む」
「はい!!」
治癒を終えると早速俺の異能を聞きに来た。
面倒くさいのでマコトにパスして石ころを探索に行かせる。
説明が終わると、隊長は「頼む!!こんな事を学生の頼むのは間違っているが異能軍を倒してくれ!!」と言われた。
正直、食料の支給がくれば俺は良かったのだが・・・
まぁ、俺はもう異能軍はスキルが稼げるボーナスステージとしか思ってないから良いんだけどさ・・・
「良いけど、条件がある」
「それは?」
「異能軍が殲滅できたら、俺の事を忘れてほしい」
「それは、何故か聞いてもいいか?」
「異能軍が無力化されるという事は俺が全ての異能を奪ったあとになる訳だ。そうなると俺が一番危険視される、俺は異能軍消したらすぐに行方不明にでもなるから死んだ事にしてくれ」
「死んだ事に?何故だ、隠れるなら行方不明だけでも良いだろう」
「俺は・・・」
ミーシャとティアの方へ目をやる。
ミーシャは不安そうに俺を見てティアは真剣な表情で話を聞いている。
「この子達に幸せになって欲しいんだ」
「誰だ?見たところ日本人では無さそうだが・・・それにそっちの子は猫耳・・・?上手く出来てるな、本物みたいだ」
「この子達は俺にとって命よりも大切な存在だ」
俺は考えていた。
魔王を倒すために異世界にミーシャとティアを連れて旅をするつもりだった。
けれどそれはミーシャとティアを戦いに行かせるということ、戦いに行くならもちろん、死ぬ可能性もある。
ミーシャは【リセット】があるので死んでも蘇るが、娘が死ぬのをみて嫌な気持ちにならない親なんている訳がない。
そんな危険なことをさせるなら日本で平和に生きてくれた方が俺は良い。
そっちの方がミーシャとティアも幸せになるはずだから・・・
「ぱぱ・・・」
「アシュレイ様・・・」
二人はなにか察したのか不安気な表情を見せる。
俺はそんな二人の優しく頭を撫でる。
「二人には、自分がやりたい事を見つけて欲しいんだ」
俺は手を離し、県庁に向かう為に体育館の出口に歩いていく。
県庁は歩いて二時間の所だが、このステータスで走ったら十数分で着くだろう。
体育館を出ようとすると、背中に何かが密着する。
「みーしゃは、ぱぱと、ぱぱといっしょがいいの・・・」
「私だってどこまでもアシュレイ様について行きますよ・・・」
「ミーシャ、ティア・・・」
ミーシャとティアが俺の背中に抱き着いているようだ。
「ぱぱ、みーしゃのこときらいになっちゃったの?」
「アシュレイ様は私のこと嫌いですか?」
「・・・嫌いになる訳、ないじゃないか」
膝を付き振り返る。
そしてミーシャとティアの事を真っ直ぐと見て、話を続ける。
「俺はな、ミーシャ、ティア、お前達が好きだ、大好きだ。守る為なら敵の大軍に一人で飛び込むことだって出来る。だから分かってほしい、大好きなお前達が傷付くのだけは絶対に嫌なんだ」
俺が話をを伝え終えるとティアが口を開いた。
「私だって・・・貴方が傷付くのが何よりも嫌なんです・・・私に、アシュレイ様を最後まで治癒させて下さい・・・」
「ティア・・・」
ティアの決意は本物だ。
目を見るだけで嘘を言ってるかなんてことは俺には分からない。
でも、少しだけど分かる気がする。
俺はティアとミーシャを傷付ける奴は許さない、と言うか傷つけさせない、その逆でティアは俺が傷付いているのを考えるのが嫌なんだな。
「・・・わかった」
「アシュレイ様・・・!!」
「ぱぱ!!」
ティアとミーシャの表情が明るくなる。
「けどな!!お前らは絶対に俺が守るからな!!俺から離れるなよ!!」
「はい!!」
「うん!!」
「それで・・・アシュレイ様、幸せにしたいって言っれくれましたよね?」
「あぁ、言ったが?」
「私は今、とっても幸せなんですよ?」
「え?」
「だって、大好きな人と一緒にいられるんですから」
その一瞬、時が止まった気がした。
唇に当たる柔らかい感触、甘い匂いが漂う女の子の髪。
そして気付いた。
俺は今、女の子にキスをされてる。
「え?え?」
「私の初めて、取られちゃいましたね」
ティアは恥ずかしいのか頬を赤らめながら言った。
「ぱぱー、みーしゃもー」
「ん?どうし・・・!!」
振り向いた瞬間、不意打ちを受けたのであった。
これは不可抗力である。
大事な事なのでもう一度言う。
これは不可抗力なのである。
「よし!!ミーシャちゃん、良くやったわね!!これでミーシャちゃんが家に来れば毎日モフモフ・・・」
「母さんの差し金か・・・、ミーシャ、嫌な事はいやって母さんに言ってもいいんだぞ?」
「ううん、みーしゃもぱぱがだいすきだもん!!」
「そっか・・・」
俺は一息置いてから二人に言う。
「これからもよろしくな!!」
「はい!!」
「うん!!」
「色々と見せ付けてくれるな〜若いっていいね」
・・・・・・
隊長がいたの忘れてた。
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