曇天
外は雨。湿っぽい雨は夕方まで降り続き、心を憂鬱にさせる。雨を眺めがら、ハルマは割れたガラス壁にダンボールを貼っつけていた。穴を塞いだダンボールにガムテープを貼り、さらに上から"危険ですので触らないでください"と書いた画用紙を貼る。今日の仕事はこんな感じだ。昨日の件で損傷した部分を応急処置していく。並守にやられた店の傷は結構なものだった。
しかしそれより問題なのは、お客さんだった。クレナのおかげで、お客さんの中には被害者は出なかった。だけど、もしここが怪物の出る店と言われ疎遠されてしまったら、それこそ終わりだ。ここにバイトとして働くこともできなくなる。ただハルマにとって、この店が潰れることは、もっと重要な意味を持つものだった。
店長は足を折った。とはいっても、松葉杖をついて今日も仕事に来ている。色々と思うこともあるだろうが、とりあえずは大丈夫そうだ。
午後5時半過ぎ。
店の扉が開く。入ってきたのはクレナだった。
いつもより早いな、と彼は思いながら仕事に集中する。クレナは、店長と一緒に店の奥の室へ
入っていった。何となく神妙な顔つきだったように見えた。
そうしてガラス壁の修繕が終わり、店長の元へ行った。次の仕事を尋ねる。
「そういえば店長、浦箕は?」
「さっき帰った」
「どうしたんですか?今日もバイトじゃ・・・」
返事が返ってこない。
「・・・・・あいつはやめたよ」
「何でですかっ!!!!」
「・・・全部話してくれたんだ。自分の正体も。ここにきた本当の理由も。その後、自分からやめると言った。今日限りであいつはーーーー」
「ふざけんなっ!!!今日って、そんなすぐにやめられるもんじゃないでしょう!!!」
「今回のようなことがあって、店は大変だ。次に同じことが起きないようにするのは当然だろ」
「んなの納得できるかァ!!!!・・・アンタ何言ってんですか。今回のこと、クレナのせいだって言いたいんですか・・・?」
答えない。ふっざけんな。
店の扉を蹴りとばし、走り出す。
ふざけんなっ、ふざけんなっ、ふざけんなっ
クレナとの会話を思い出す。いつもバスでくると言っていた。ーーーーーバス停。
ただ、走った。走った。雨に打たれる。服が濡れる。水しぶきが飛ぶ。ただ、・・・・・・・間に合えよ。
店長は無言でハルマを見送った後、何ともなく仕事に戻った。
床に散らばった本を拾い上げ、本棚に戻す。拾い上げ、戻す。そうして、棚の中を整理していく。
遠くの床に落ちた本を拾いにいく。腰をかがめ、本に手を差し伸べる。立ち上がる。
ふとそちらを見ると、中途半端に整えられた本棚。どことなく煩雑さを漂わせる。
そこにいたのは、二つの影。
楽しそうに笑い合いながら、積み重なった本を並べていく。影は、彼の記憶の中から、うっすらとそこに映っていた。その光景は、彼がずっと見ていたものだった。
泣いた。彼は泣いた。何となく、自分のやっていたことが間違っていたように思えた。そして後悔した。自然と謝罪の言葉が口をつく。彼女が怪物なのかどうか、そんなことは関係なかった。ただ、その光景をまた見たい。そして、ずっと見続けたい。
二人もきっと、それを望んでいたはずなのに・・・・・。
彼は走った。雨を降り注がす曇天の空の下、彼は走った。そして、曲がり角を曲がるとーーーーーー
(クレナ・・・・・・・・・・)
プシューーーーーーーーーッ
バス停には、バスが止まっているのが見えた。そして、その微かな時の間に、細い足が見えた。バスに乗り上がるその足は、すぐにバスの中に消え・・・・・
「クレナーーーーーーーッ!!!」
プシューーーーーーーーーッ
ハルマは一心不乱に駆ける。バスは出発する。ーーーーーーーー1人の少女を残して。
「・・・・・先輩・・・」




