第三章 密会
夜もすっかり更けた頃、キャンディスの城下町の路地裏。
戸籍のない流浪民の建てたあばら家の一軒に、いかめしい表情をした男たちが数十人でひしめき合って座り込んでいた。その大所帯から、なかには壁の隅に立っている者、はみ出して外から覗いている者もいる。
「もっと詰めろよ」
「おお、すまん」
ハンチング帽を目深に被った男は、隣に肘で押されると、口角を釣り上げた愛想笑いを向けた。帽子のつばが陰になっていたが、一瞬だけ爬虫類のような三白眼を覗かせる。
天井の梁に小さなランプが吊るされているだけの薄暗い部屋で、男たちのぎらついた双眸は、まるで夜目の利く獣のように鋭い光を放っていた。
そこへある男がやって来ると、出入り口に佇んでいた者たちは二手に避け、その中央を譲った。男の容貌は暗がりでわからないが、色あせたジャケットに、労働者が履くような、裾が足首まである茶色いズボンを身に着けている。
「……皆、集まったな」
そう言いながら男があばら家に入ると、皆一斉に彼を見上げ、道を譲る。
部屋の奥まで来た男が腰に手を当て、「全員、起立!」と声を張り上げると、その場にいた者たちはざぁっと大波のように立ち上がった。
衣擦れの音が静まったところで、男は演説を始めた。
「……よく聞いてくれ。去年は勇敢な同胞たちが惜しくも敗れ、志半ばで命を落とした……。それでも俺たちはあいつらの遺志を継ぐためにも、革命を成功させようと、ここまで前に進んで来られたんだ」
彼の言葉を聞きながら、皆は噛み締めるように頷いたり、拳を固く握って肩を震わせた。
「今まで皆よく頑張ったな。俺も厳しくしてしまったし、辛いこともあっただろう。だが厳しい訓練を乗り越えたお前たちは、誰にも負けない最強の革命戦士だ。それに、今回は強力な助っ人を呼んできた! あの狡猾なベリロナイト騎士団だって倒せる!」
男は高らかに右の拳を掲げた。
「さぁ――王家を暗殺しよう! 栄光あれ、我ら義勇十字団!」
オオー! と、あばら家に雄叫びのような歓声が沸く。
アルカネット暦445年5月4日。プリムローズが、スターチス宮殿へ出立する一週間前のことである。




