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プリムローズ・ストーリア  作者: 刈安ほづみ
第二章
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第二章 錯綜する暗殺計画

 

 詰め所裏で待機する警備兵たちは物陰から顔を出して、ノーマンたちの決闘を手に汗握り、見守っていた。


「暗がりからだとわかりにくいが、あの赤い軍服のほうは、騎士だよな?」

 警備兵の一人がノーマンを指差して、グスタフに尋ねる。


「ああ。そして、もう一人がネズミである」


「えっ! そんな、あいつが……」

 グスタフに言われ、警備兵は更に身を乗り出して、戦う同僚の姿をまじまじと見つめた。


「私の推測だと、招待客を助けるべく、暴れ馬を止めに行こうと先導した者――ネズミは、正義感が強く人道的で、義憤にかられやすい性格だろう。私やノーマンの奴のような、封建社会にどっぷり浸かった騎士とは、民主主義を提唱する組織の人間と価値観の相違で衝突するのは明らかだ」


「確かに……あいつは融通の利かない生真面目なタイプだったが……」

 警備兵は、同僚だった義勇十字団員の働きぶりを思い出した。他の者が手を抜くような作業でも熱心に取り組むので、煙たがられたり、仕事を押し付けられているのを目にしたのは少なくない。あれほどの堅物が過激派政治組織に属していたとは、いや、そういう曲がったことが許せない人間だからこそ、自らの思想をも追い詰めたのかもしれない、と戸惑いつつも警備兵は無理やり納得した。


「ノーマンをあえて接近させることにより、ネズミを炙りだす試みであったが、こうも上手くいくとは……重畳」

 グスタフは満足そうに団子鼻を鳴らし、両腕を胸の前で組んだ。最初から、ノーマンが青年貴族たちに服を脱いでもらうことは不可能だとわかっていた。ただ彼特有の、初対面の人間に誤解を受けやすい性質と、興奮するとすぐ剣を抜く悪癖で、意図せずとも義勇十字団員を挑発できると踏んだのだ。


「しかし、このまま向こうの好きにさせていたら、作戦に影響するのではないか」


 もう一人の警備兵がそう言って眉をひそめたが、グスタフは何でもないように答えた。


「今のところ、ネズミが想定内の動きをしているので問題はない。そもそも包囲作戦とは、敵を一か所に囲まなければ成立しない。ネズミを我々の攻撃範囲内まで掻き集めることによって、はじめて布陣の効果を発揮する――む」


 彼は話の途中で、城門の上から強い光が点滅しているのに気が付いた。フィリポが門塔より龕(がん)灯(どう)でメッセージを送っているのだ。チカチカと明かりを覆って明滅させることで、暗号を単語ごとに区切っている。


(我、索敵成功ス。城壁ノ裏口ニ、敵アリ……)

 暗号化されたメッセージを解読すると、グスタフは警備兵からランタンを借りて、門塔のフィリポへ返信した。龕灯より光力は弱いが、エルフの眼には十分である。


「既に向かわせた? マジかよ。つうか今、どうなってんの」

 門塔に一人佇むフィリポは、眼下にあるオレンジ色の明かりを確認した。その近くでは、ノーマンと警備員の格好をした人物が真剣勝負をしている。彼はまだその人物がネズミだと知らなかった。向こうの指示があるまで待機とのことだったが、状況からすっかり置いてけぼりにされたようだ。

「あーもう俺の出る幕ないかも」

 フィリポは吹き荒ぶ木枯らしが、胸の奥まで通り抜ける心地がした。

 

 

 その頃、城壁の裏口付近にいる4人の義勇十字団員は、もぬけの殻になった厩を背にして松明を片手に、同胞がここへ逃げてくるのを、今か今かと待ち構えていた。

「……遅いな」

 そのうち誰かが呟いた。

「もしかすると、作戦がまだ完了してないんじゃないか……」

「……」


 その可能性は否めなかった。ただ、その事実と向き合おうとすると、同胞が城内から脱出しきれていないにも関わらず、暴れ馬を放ってしまったという過失を認めなければならない。そんな勇気など、彼らには持ち合わせていなかった。


「馬鹿野郎、俺らの綿密な作戦が滞っているって言うのかよ!」

 短気な性格の男が、松明を片手でブン、と振り回しながら、不安を紛らわすように恫喝した。


「だが、誰一人として脱出してこないじゃないか! これは最悪の事態を想定したほうがいい……」


「ふざけんなてめぇ! 物事を悪いほうに考えて良いことあるのか、アア?」


 短気な男は、冷静に分析しようとする仲間の襟首に掴みかかった。あとの2人がよせ、やめとけ、と諫め続けると、男はぞんざいに手を放し、地面に唾を吐いた。


「今度同じようなことほざいてみろ、てめぇの睾丸引きちぎってケツの穴にぶち込むからな……?」


 襟首を掴まれた者は、下卑た悪態を吐く男の背中を、許すまじと鬼の形相で睨みつける。

 作戦の停滞から、苛立ち、不安などの精神的ストレスが溜まり、メンバー間の不和が勃発し始めていた。

 

「ねぇねぇ、何してるの?」


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