第二章 仲間割れ
「エヴァン、これは一体どういうことだ!」
ハンフリーの後から駆けつけてきた二人の騎士のうち一人が、血溜まりの中に息絶えて横たわる貴婦人と、軍服ではなく礼服を纏うエヴァンを交互に見て、驚いたように声をあげた。
「……貴様らこそ、どういうつもりだ」
エヴァンは立ち上がりざまに、ドスの利いた声で聞き返した。彼らのどちらかがジョージだかクレイグであるという認識しかないが、東口方面の警備を任されていたのは覚えている。ここまで来たということは、自分の後をついてきたに違いない、とエヴァンは顔をしかめた。
「……ある貴族の青年二人組から、紺色の礼服を着た赤茶色の髪の男が、義勇十字団だという通報があった」
もう一人の騎士が、冷静さを取り戻そうとしながら、説明した。
(あいつらか……!)
エヴァンは絡んできた青年らを思い出し、苛立ちでギリッ、と歯ぎしりをした。
「それで駆けつけてみれば、同僚のエヴァンがそこなレディと仲良くおしゃべりしていました――というわけだ」
手柄を横取りして悪かったな、とハンフリーはふざけた調子で言い、貴婦人に一歩近づく。致命傷を負った背中に施された、百合の花に剣を突き立てた黒い刺青を、爬虫類のごとき三白眼の鋭い目つきで確認する。
エヴァンはカッと灰色の目を見開いて、バックルに仕込んでいた短剣を、彼の胴めがけて振りかざしたが、ハンフリーも素早く抜刀してかわした。キィン、と鍔迫り合いの音が響く。
こら、やめろ!と二人の騎士が動揺しながら諫めるも、エヴァンとハンフリーの争いは止まらなかった。
「おい……いきなり何しやがる……」
俺じゃなきゃブッ刺さってら……、とハンフリーは剣を交わしながら凄んだ。剣の柄を握る両者の力は拮抗している。
エヴァンは向かって左へスウェイし、ハンフリーの肝臓を狙って短剣を突き立てたが、ハンフリーもとっさに短剣の攻撃をサーベルで交わし、そのままキィィィンと耳をつんざく音を立てながら刃を滑らせて回避した。
しかしエヴァンは足運びを変え、ハンフリーの太腿や肝臓など、電光石火の勢いで執拗に急所を狙ってくる。
負けじと応戦するハンフリーは、間合いに入られたら面倒だな、と舌打ちしてエヴァンを押し出すように斬撃を繰り出した。この勝負、より俊敏な者が制するスピード技の戦いである。
「やめろやめろ! 仲間同士で殺し合ってどうする! 剣おろせ、剣!」
「よせって言ってるだろう! 馬鹿か! 危ないんだよ!」
ジョージとクレイグは右往左往して何度も懸命に訴えるが、エヴァンたちには届かない。もはやこの争いは仲間割れという域を超え、リスクやダメージを顧みない、プライドのぶつかり合いと化した。
「彼女は、国王暗殺に異を唱えていた穏健派だ……。貴様は無害な人間を殺したのだッ! 外道!」
エヴァンは獣のごとく犬歯を剝き出しにして、低いうなり声をあげる。そして大きく踏み込むと、短剣を逆手持ちに構え、ハンフリーへ突き出した。
「ヒヨってんじゃねぇ、甘ったれがぁ! 義勇十字団がどれほど気高い志を掲げようとも、王に仇なす国賊であることに変わりないのだ! 見ろ、彼女のその背中の刺青を! 王家に剣を向ける反逆者の覚悟を……!」
ハンフリーはこめかみに青筋を立て、怒号をあげた。短剣の軌道を読み、サーベルの刃を一閃のもと走らせる。秒単位で避けたものの、エヴァンの攻撃は、明らかにハンフリーの喉を狙っていた。
「彼女は義勇十字団としての生を全うした。お前も命を賭して騎士道を征け! ――ウオォリャァッ!」
武者震いするハンフリーは、全力で殺意を向けてくる同僚をねじ伏せたい一心で、剣を振り上げた。エヴァンもまた、彼との間合いを一気に詰めて急所を刺しに行った。
「ダァアアアア!」




