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プリムローズ・ストーリア  作者: 刈安ほづみ
第二章
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第二章 作戦準備


 西口側の回廊では、グスタフ、ノーマン、報告から戻ってきたユリエル含め、6名の三毛猫の騎士と30人以上の警備兵が、すでに敵襲へ向けて待機していた。


「グスタフよ。ネズミが西口からやってきても、あえて見逃すとはどういう意味だ?」

「同感だ。この回廊ですぐに仕留めたほうがいいだろう」

 西口を任されている騎士たちは、偏屈な同僚の提示する作戦に、疑問を投げかける。


 するとグスタフは両腕を組み、眉間に皺をよせながら団子鼻を鳴らした。

「うむ、お前たちは立派な騎士だ」


 唐突に持ち上げられた騎士たちは、急にどうした? と、動揺する。


「だが相手は騎士ではない」

 グスタフはぴしゃりと言い捨てると、両腕を組んだまま、同僚たちに背を向け、その場で歩き回り始めた。物思いに耽るときの癖だ。また、独り言に近い長話を始める予兆でもある。


「これから始まるのは、騎士道を重んじた一対一の潔い戦いではないのだ。敵は如何なる手段も厭わない危険な集団ということをゆめ忘れるな。――ここ西口の回廊は晩餐会のため、給仕人や文官が多く出入りする。屋内で奴らを追い込めば、逆上して通りすがりの非戦闘員を人質に取ったり、危害を加える恐れがあるのだ。王家の方々がご無事であっても、賊に城を攻め入られたという汚点を残してはならない。こちらが流す血は一滴でも減らすべきだ」


「……」

 被害を最小限にとどめたい、という彼の言葉に騎士たちだけでなく、近くにいた警備兵らも静かに納得した。

 ノーマンはおもむろに背を丸め、刀帯にさしたサーベルの真鍮でできた鍔の、鈍い光を見つめる。


 足を止めると、グスタフは踵を返し、同僚たちに向き直った。

「ゆえに、ネズミを刺激せず塵取り掃除の要領で城外まで追い出し、逃亡手段を得ようとしたところで一網打尽にしたい。私はこの大人数を生かした包囲作戦を提案する。警備隊にも協力を願おう」


 警備兵の一人がもちろんだ、と頷く。


 そこでユリエルが、武装する人だかりから爪先立ちになって、ヒョコッと顔をのぞかせた。

「ところで、フィルはどこへ行ったの?」

「持ち場に帰さず城門で待機させてある。後方支援の準備も抜かりはない」




「さみい……」

 ヒュウウウウ、と吹き荒ぶ秋風は、生乾きのズボンの生地に容赦なくしみこんでくる。フィリポは尖った長い両耳ごと身体を震わせながら、軍服の通気性を呪った。


 彼は今、城門の最上部である、門塔という場所にひとり、地面に腹ばいになるような体勢で伏せ、待機している。

 キャンディス城は石造りの城壁に囲まれており、門塔とは、城壁と城門が接する壁面に空けられた狭間である。敵が城門から攻め込んできた場合、弓兵が攻撃するために見張り台が設置されている。


(北の中庭から南下してホールの副団長のところへ行って、西口の奴らに連絡して、今度は東の城門かよ……。俺、城中走り回ってないか今日)

 ビクターに唆されて連絡係になった結果、まさに東奔西走といった調子であちこち振り回されているフィリポは、心の中で悪態をついた。


 そして、風が鼻腔に砂埃を届けたのか、ブゥエックシュン! と慎みのないくしゃみをすると、小さく鼻をすすって鼻水が垂れないよう空を見上げた。

「ズズッ……あれ?」


 中庭にいた時は曇っていて見えなかった満月が、天高く浮かんでいた。その輝く月光を、モヤモヤした黒い物体が横切るのを、彼の眼は見過ごさなかった。

(雲? にしては違和感あるな。煙みてぇ)

 しかし、物事を深く考えるのが好きではないフィリポは、それ以上気に留めず、寒さに縮こまりながら鼻の下を指でこすった。


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