第二章 接触
「お二人とも、私がお食事を取りに行きましょう。何を召し上がられますか? 飲み物やデザートもあるようですよ」
ジェレミアは微笑みながら、整えられた指先で、料理の並べられたテーブルを示した。銀の皿に盛りつけられた獲れたての肉料理は、ベリロナイトでは高貴な身分の人々でもハレの日にしか食べられない御馳走である。
長い戦争の歴史を経たためか、食糧を貯蓄する習慣のあるベリロナイト料理は、漬物やスモークなど保存食を調理するのが一般的なのだ。
「お気遣いありがとうございます。ね、シャーロット、冷たいお水をいただきましょうよ」
プリムローズはシャーロットに提案した。
「ええ……」
シャーロットは少し弱々しげに頷いた。そんな彼女の様子を、ジェレミアはじっと見つめると、テーブルを示していた手を下ろした。
そこへ先程の中年男性の貴族たちが、我先にと料理を乗せた小皿を持って、シャーロットの元へ駆けつけた。
「シャーロット様、お飲み物を取りに行ってまいりました」
「なんの、こちらは鴨肉のステーキにございます」
「甘いものなどいかがですか? シュークリームをどうぞ。シャーロット様」
小皿をずい、と差し出されて取り囲まれたシャーロットは、食べ物の匂いでますます気分が悪くなったのか、何か言いたげに眉をひそめてたじろぐ。
「あの、えっと……」
「よさないか、シャーロット様はただいまご不調であらせられる。お二人に道を譲ってくれまいか」
ジェレミアは一歩前に出ると、取り囲む貴族たちを制した。そして振り向きざま、王女たちに目配せする。プリムローズは彼の厚意を受け取り、頷いた。
「シャーロット、お部屋に戻りたい……?」
「うん……」
姉が小声で尋ねると、顔色が悪くなり始めたシャーロットは、すまなさそうに俯いた。気丈に振る舞っていたが、そろそろ限界のようである。
プリムローズは微笑みながら周囲の貴族たちに一礼しつつ、シャーロットの手を引いて、その場を後にした。
「……」
窓辺に佇む女性は二人の王女が去っていくのを見送ると、手にした絹のハンカチをそっと床に落とし、自らも立ち去ろうとしていた。
「そこのマダム」
すると、背後から声をかけられた。よく通る若い男性の声だった。女性が恐る恐る振り向くと、赤茶髪をオールバックにした青年が立っていた。
「落としものですよ」
彼が差し出したのは、故意に落としたはずのハンカチだった。
「……ッ!」
女性は目を見開き、慌てて逃げようとしたが、その華奢な手首を青年にパッと軽く掴まれてしまった。
「お待ちください」
近寄る青年は切れ長の灰色の目で、女性の暗褐色の瞳を見つめた。もう片方の手で彼女のダークブラウンの髪を緩く梳きながら、耳元でささやく。
「美しい人よ、宴の席でなぜそのように瞳を曇らせておいでか。せめて今宵だけ、ご一緒させて頂きたい。貴女の憂いを拭いとってしまいたいのです……」
「えっ……! ええ、喜んで……」
青年が自分の思惑に気付いてないと思った女性は安堵し、美形に口説かれた恍惚も混ざり、頬を染めながら微笑んだ。




