第二章 グスタフの考え
「ノーマン、臨戦態勢のようだが何か策があるのか」
国賊との戦いへ逸る気持ちを抑えられないノーマンに対し、グスタフは両腕を胸の前で組みながら、横目でたしなめるように言った。
「怪しそうなのを片っ端から、斬る……ッ」
「阿呆。晩餐会を血の海にする気か」
そして、息を荒げる興奮気味の同僚にぴしゃりと言い返すと、彼は得意の長話を始めた。
「ネズミがわざわざ会場から離れた中庭にいたということは、間接的な妨害行為……つまり陽動作戦か。おおかた中庭で何らかの騒ぎを起こし、晩餐会にいる全員を混乱させるつもりだったのだろう」
「ああ、黒色火薬っつうの? そんなの持ってたよ」
フィリポの言葉を聞いているのか否か、グスタフは喋るのに夢中で、その場でぐるぐると歩き回った。
「ところが、フィルたちが中庭の陽動を阻止したのだから、計画が狂い、たった今晩餐会に紛れている連中も内心焦っているに違いない。さて、次に考えられる行動は二つ」
グスタフは突然立ち止まり、右手の人差し指と中指を天井へ突きつけるように掲げた。
「一つは強行――周りの警備兵や騎士と刺し違えてでも、作戦を実行する」
「それは有り得ない。その前に俺が仕留める」
ノーマンは真顔のままサーベルを振り上げて、ヒュンッと空を切った。あっぶね! と隣にいたフィリポはたじろぐ。しかし、グスタフはそんな光景には目もくれず、両腕を組み直し、太い眉根を寄せて、自分の考えを語り続けた。
「ああ、一つ目の可能性は低いかもしれん。なんせ貴族の客人に紛れ、中庭で小細工を仕掛けるような小賢しい奴らだ。わざわざリスクのある行動に出るとは思えん。……二つ目は撤退。作戦を中止して逃亡する」
「うーん、俺だったら強行より撤退だなぁ」
フィリポは両耳をパタつかせて、顎に手を当てた。
「いずれにせよ、生き残るには逃走経路を確保しなくてはなるまい。そして会場のホールには、東口、西口、南口、北側の窓の四方の経路があるわけだ」
「じゃあ、その4か所を塞げばいいのか?」
結論になかなか辿りつかないグスタフに、フィリポはじれったさを感じていた。
「いや、それでは危険人物を晩餐会に留めてしまう。ここはあえて奴らの逃亡をゆるし、終着した先で包囲しよう」
「でもさ、どっちへ逃げ込むかわかんないじゃん。南口なんて王家の住まいと繋がってるから入られたらやばいぞ」
フィリポが唇をとがらせて反論すると、グスタフは彼へ振り向いて、やっと視線を合わせた。
「逃走するなら周囲の目をくらませないと詰むぞ。晩餐会の最中、あの目立つ階段をぞろぞろと駆け上がる集団は阿呆と言える。東口とて国王陛下と騎士団長の直線距離にあるから、注目されやすい。北側の窓など論外。さて、ノーマン。お前はさっき客人を、医務室へどう連れて行ったのだ」
「どうって、この西口から一階に下りて……あ」
先程まで殺気に満ち溢れていた背の高い男は、脱力したように、剣を持った右手をぶらんと落とした。いったんしまえよ、とフィリポは諭す。
グスタフは不敵な笑みで、腰に手を当てた。
「名付けて、袋のネズミ作戦! だ」
「そのまんまじゃん! 要するに、西口のここが一番逃げられやすそうだから、この先で待ち伏せしようってことだろ? 話まわりくどっ」
グスタフの思わせぶりな語り口に、何か上策があるのではと最後まで聞き入ってしまったフィリポは、あまりにも単純な作戦を提案され、膝から崩れ落ちそうになった。
「グスタフは、喋りながら頭の中を整理するから……」
ノーマンは遠い目をしながら、扉の向こうの煌びやかな晩餐会を見つめた。




