第二章 三毛猫の騎士たち
ホール西口の回廊前は、2人の騎士が警戒に当たっていた。
「わぁ~、プリムローズ様とシャーロット様のドレス姿素敵だなぁ! せっかくの晩餐会なんだから、ボクだっておめかししたいよ」
セミロングのベージュに近い金髪を、女性のようにハーフアップにし、セピア色のリボンで結んだ華奢な少年は、扉の陰から晩餐会の様子を眺めながら、茶色の瞳を爛々と輝かせた。
隣にいる眉が太い焦げ茶の短髪の青年は、団子鼻に皺を寄せながら憤慨した。
「何をたわけたことを抜かしているのだ、ユリエル。副団長も仰っていた通り、我々は重要な警護を任せられているのだぞ。派手な格好をしていては目立ってしまって仕事にならない。ただでさえお前は、でかいリボンを頭につけて妙ちきりんな振る舞いをしているのだから、もっと慎ましやかな行動を心がけるべきだ。そもそも騎士とは本来、主君の影に徹し、御恩に報いるための奉公、忠誠を尽くし、研鑽を重ねるストイックな生き様こそ誉としている。上等な晴れ着で着飾りたてるより、己が心の錦を仕立てろ」
「もうっ、グスタフさんのお説教って陛下のご挨拶より長いよう!」
ユリエルとグスタフ。彼らもエヴァン達と同期の騎士である。そこへ、背後から上背のある灰褐色の髪を角刈りにした青年が、ふらっとやってきた。
「どうした、ノーマン」
グスタフは説教から気持ちを切り替えて、持ち場を一時離れていたチームメイトに声をかけた。
「……体調を崩した老婦人を介抱して、医務室へ連れて行った」
ノーマンと呼ばれた騎士は、無表情のまま何となしに答える。
「すごい! ノーマンさんお手柄~」
ユリエルは両手を合わせて、はしゃいで跳び跳ねる。ノーマンはニヤリとほくそ笑んだ。
「……晩餐会にいる、婆さんかい」
「ところでお前のズボンの裾、なぜ膝上まで詰めたのだ。短すぎる。足には急所が集中しているのだぞ」
「えー! だって動きやすいじゃない?」
ユリエル達はノーマンの駄洒落をあえて無視した。
さらに回廊の向こうから、長い耳をした騎士が息を切らしながら駆けてくる。
「あれ、フィル。どうしてズボンの裾、濡れてるの? うける」
ユリエルは短く結った髪を揺らしながら、フィリポにぴょんっと駆け寄った。彼はフィリポよりひと回り小柄だが、それもそのはず、騎士団では最年少の15歳だ。
「ネズミが晩餐会へ逃げ込んだ。三毛猫をけしかけてくれ」
フィリポの伝言に、3人は思わず息を飲んだ。先程まで呑気に会話していた雰囲気とは打って変わって、険しい表情になり、ノーマンに至ってはすでにサーベルを構えている。
「わかった。ボク、トラ猫の皆さんを呼んでくるね……!」
連絡係のユリエルはそう言うと、助走をつけて回廊の欄干を軽々と飛び越え、高さ5メートルはある階段をすっ飛ばして下の階の床に着地すると、弾かれたように東口の方面へ走りだした。
「なっ……!」
フィリポは口を開けたまま唖然としたが、グスタフとノーマンは曲芸じみたユリエルの身軽さをとっくに知っているので、平然と見送っている。
(……うちの騎士団って色んな奴がいるよな……)
自分のことを棚に上げて、エルフの弓兵は感心した。




