第二章 騎士団、会議室にて
ベリロナイト騎士団の詰所にある会議室にて、マシュー副団長を前に、二十数名の騎士たちが横二列に並んでいた。
マシューは左手に細長い教鞭を持ち、背後の壁に貼られた四方1メートルある、キャンディス城の地図を指し示した。
「これより、晩餐会における各班の配置を確認する。しっかり頭に叩きこんでおけ」
「了解っ!」
騎士たちは右手の拳を掲げ、左掌を胸の前にかざし、上官に敬礼した。
「ジョージ、クレイグ、ハンフリーと、同じくツェザーリ、レイモンド、スタンリーはホールの東口方面を警戒」
「了解!」
名前を呼ばれた6名は一斉に敬礼する。
「イスカリオット、マックスウェル、メサイア、グスタフ、ノーマン、ユリエルは西口方面の回廊を巡回」
「了解!」
「カルロス、アンドリュー、ライオネル、トレヴァー、マティアス、ロメオは南口前の警備に当たれ」
「了解!」
各チームが割り当てられた配置場所を、目の前にある城内の地図を見ながら確認した。晩餐会が催されるホールは広く、東口と西口、南口という三方の出入り口がある。東口から客人を迎い入れ、厨房へ続く西口から使用人が料理を運び、居館へとつながる南口から王家の人々が登場して挨拶をするのだ。
「……エヴァン、ビクター、フィリポは中庭の警備だ」
「了解!」
最後にエヴァン達が呼ばれ、前の騎士たちに倣い、3人は揃って敬礼した。
(ちぇっ、晩餐会なのに俺ら外の警備かぁ。でも他と比べると楽そうだからまぁいっか……)
フィリポは正直つまらないと思っていたが、真面目そうな表情だけは取り繕った。
教鞭で地図上の配置場所を指し示していたマシューは、部下たちに向き直る。
「ここまで、何か質問はあるか?」
スッ、とすかさず手を上げる者がいた。エヴァンだ。
「何故、我々だけ会場の外なのですか」
上官に食ってかかるチームメイトに、隣にいたフィリポは顔を青ざめて、制止しようとあたふたと両手を振ったが、むなしく空を掴んだ。
「……」
さらにその隣にいるビクターは、口に出さないが彼もまた配置場所に不満を持っていたので、理由を聞こうとひとまず黙した。
「ホールの北側にある中庭は、本日のみ来客に公開している。客人といえども外部からの人間に警戒を怠ってはならない」
マシューの淡々とした返答に、エヴァンはなおも反発した。
「ならば警備兵で十分かと。騎士が王家の方々から離れるなどあり得ません」
「賊を王家の御前に晒し、御目汚しさせる気か」
副団長の言葉は声を荒げずとも、エヴァンだけでなく他の騎士たちを律するに十分な重みがあった。彼の神妙な眼差しは、飄々とした態度の奥底に、一歩も引かぬ強い意志が宿っている。
「此度の晩餐会は、修好条約の祝儀としてアルカネット帝国の皇帝を迎える、我が国の重要な局面なのだ。そこで万が一にも曲者をやすやすと会場に侵入させてみろ。ベリロナイトはアルカネット人の信用を失い、陛下の御顔に泥を塗ることになるぞ。水面下で危険を防ぐのが警護の真髄というもの。王家のお傍から近い遠いで、手を抜いていい配置場所などない。――納得いったか?」
「……ッ、はい……」
エヴァンはそれ以上、口ごたえすることなく渋々と頷いた。他に質問をする者はいないと判断したマシューは、両腕を腰の後ろで組み、話を続けた。
「それでは各チームから一人、連絡係を決めて俺の前に集まってくれ。上官や他のチームに不審物の報告や、緊急事態の人員要請をする役割だ。なるべく足の速い奴が望ましいかな」
お前行ってこい、とビクターはフィリポに耳打ちした。
「俺別に足速くねぇよ」
フィリポは小声で言い返した。できるだけ余計な役目を負いたくないのだ。
「連絡係として持ち場から離れなくてはならない事態があっても、お前の弓なら遠くからでも敵を狙える。それに……何かのはずみでエヴァンが暴走したら抑えられるのか」
ビクターは困ったように苦笑いした。
「あぁ~無理」
フィリポは露骨にげんなりした。エヴァンと連絡係、どちらがより煩わしいか天秤にかけたら、前者のほうが重い。
「貴様らのどちらかが連絡係に就こうが知ったことではない」
傍らで二人の話を聞いていたエヴァンは腕を組み、ふん、と鼻を鳴らした。既に自分が連絡係になるという選択肢を捨てていた。
「ハイハイ、行って参ります」
エルフの騎士は肩を落とし、長い両耳も垂れ、副団長の元へとぼとぼと向かった。




