弟から見た姉の片想い遍歴 その2
末公子エルネスト視点です。
末公子エルネストは双子の姉クラリーチェを追いかける。
中庭を抜けて行くとクラリーチェの姿を見付けた。
海を見下ろす欄干の間に頭を突っ込んで膝を抱えてしゃがんでいた。
「…………」
少し離れた所でフイリッポが同じ格好をしてしゃがんでいる。彼は兄公子ベルナルドが付けてくれた護衛の少年だ。
勿論、本物の護衛騎士が何かあれば直ぐ飛び出せる位置に立っていた。エルネストは目礼し、自分の護衛騎士も近くに配した。
特に何も言わず、けれども足音は発たせて近付きクラリーチェの斜め後ろで膝を抱えて座った。
どれぐらい其所にいたのだろうか。波の音と風の音が、いつまでたっても離れなかった。
クラリーチェは暫くの間フイリッポの傍にいたが、彼があまり構ってくれないせいかその内近付かなくなった。今までの様にエルネストを連れて遊んでいる。
編み物を放り出し調理室でお菓子をくすね中庭で走り回り、疲れたぁと言って地べたに座るとメイドに持って来させた焼き菓子と紅茶でおやつタイム。
そうして、また新しい恋をする――――
家庭教師に護衛の騎士にコックに庭師。貴族の少年に友達のお兄さん、ベルナルドの友達ティノ、隣の国の留学生、それからそれから……。
クラリーチェは恋をする度に「私〇〇さまを好きになってしまいましたわぁ」と、うっとりとした表情で言う。仲の良い友達がキャーキャーと囃し立て、「どれこれこういうところが良いの」とクラリーチェは答える。
エルネストは決して輪には入らず、けれども同じ室内に居て(出て行こうとするのだが、いつもクラリーチェが行かせてくれないのだ)定位置の椅子に腰掛け本を読み空気になる努力をする。
エルネストは恋をしたことは無い。
多分、クラリーチェが恋ばかりしているからだ。
無いけれども、クラリーチェがしている恋は本当の『恋』では無いと思う。
彼女のうっとりとした表情も恋している故ではなく、恋に憧れている少女の瞳なのだと思う。
勿論そんなことは姉に言ったことはない。
「恋をしたことも無いお子ちゃまエルに分かるわけないでしょっ!」と言われるのがオチだ。
正論だから、反論のしようもない。
けれども、やはり、クラリーチェは恋をしていない、と思ってしまう。
何故だろうか、何故だろうか。
今も子供だけど、もっと幼い頃の兄公子達に対する失恋への癇癪は、玩具を取り上げられた子供のようなそれだったし。気軽に好意を伝え感触が悪いと「失恋しちゃったぁ」と直ぐ諦める。次の恋も早い。
好きになる理由も簡単で、一番多いのは『優しい』から。公女相手に優しくない城勤めの人間がいるだろうか。いや、いない。一応、見目も年齢も重要なようで、さすがにおじ様方には恋していないのが救いか。
恋多き公女クラリーチェ。
そうして、また。
姉は恋をする。
「ねえ、エル。アンブロワーズさまって素敵ね!」
乙女ゲームは第2弾として、
公女クラリーチェをヒロインで考えていたとかいないとか。
ゲームが始まる前に年上に粗方、失恋している……。




