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【蛇足追加】他の誰かにはなれない  作者: 篠月珪霞


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進展がないまま数日が過ぎた。

何でもない風を装っていても、リディアは焦燥感に駆られていた。


もし、人為的なものではない現象で、何も手立てがないとしたら?

もし、人為的なものであったとしても、ただ『リディア』を苦しめるためだけに仕掛けられているものだとしたら?

もし、原因が特定できないままだったら?

もし、このまま元に戻ることができなかったら…?


考え出すと、可能性はいくつも出てきて、落ち着かなくさせる。

もちろん、表に出すようなことはしない。

だから、動きがあったと報告を受けたときは、ほっとしたのだが。

安心するのはまだ早いと分かっていながら。







「第二王子、ですか」


どうやら、今までは少人数で秘密裏に”リディア”を探していたらしい。なかなか見つからないことに業を煮やしたのか、目立つほどではないが、分かりやすい動きをしていたという。


「確か、以前婚約の打診がありましたね」

「ええ、あなたが5歳のときよ」


現在、政略結婚はさほど重視されていない。もちろん、貴賤結婚は法で禁止されているし、完全に自由というわけではないが(特に王族)、あまりにも相性が悪い組み合わせで事件に発展した例が続いたので、当人の意思を無視した婚姻は減少傾向にあるのだ。

事業は事業、婚姻は婚姻ということで、信頼関係は別に築くものという風潮にある。


「顔合わせのとき、お母様からいただいた髪飾りを盗られたんですよね…」

「それで即お断りしたのよね」

「王家からの打診だったというのに、なんと無礼な振る舞いであったか」


母と父の当時の怒りが再燃したようで、うんうんと頷いている。

何が気に障ったのか、リディアには理解できなかった。普通に挨拶をして、席についた途端の出来事だったから。

誕生日に母から贈られた1点もので、とても気に入っていたリディアは毎日のようにつけていた。

返還を求めたが、代わりにと言わんばかりに高価な、別のものが送られてきた。形だけの謝罪と共に。そちらは丁重に送り返した。


「やけに魔法の属性に拘っていたようではあったが」


リディアも、光属性であったから打診されたと聞いている。

この国の光属性をもつ者は、同年代では他に2人しかいない。

1人は子爵家の男性。

もう1人は、侯爵家の女性。


「…王太子殿下の婚約者の方が、光属性なのも何か関係があるのでしょうか」


我儘でろくに勉強もせず、優秀と評判の王太子殿下に、対抗心を燃やしていると噂のある第二王子。

第二王子であるにも関わらず、継承権は5位と低く、それだけで器量が窺えるというもの。


「それは何とも言えないが、今のところ手掛かりがアレしかないというのが頭が痛いな」

「あちらからの接触を待った方がいいでしょうね」

「”リディア”を公爵家で保護していると、経緯も含めて王家に報告するか。気は進まないが」


心底不本意だと言わんばかりに、父が溜息をつく。面倒という思いを隠しもしない父。気持ちは分からないでもない。


後始末もあり領地の問題もあるので、ターナー男爵家の内情は既に王家に報告されている。

オースティ公爵家は、男爵家の寄親でもなく、血縁関係もない。

本来なら、”リディア”が公爵家に滞在しているのは不自然なのである。

まあ、父のことだ。入れ替わりなどは伏せた上で、適当に言い包められるだろう。


これも何かの縁ということで、公爵家として”リディア”に支援はするつもりだった。

元に戻ったときに、彼女が望むのなら、ターナー男爵家を継げるようにしてもいいと。一応正当な跡継ぎの子息もいたりするが、どうにでもなる。


子息について調査結果を教えてもらったが、”リディア”の件は薄々気付いていて、無関心を貫いていたとのこと。

彼が言うには、認知もされていない庶子がどうなろうと自分には無関係だから、らしい。

何も知らずにいたのなら連座になるのは酷かと思っていたが、同情の余地なしとリディアは考えを翻した。

別段、異母とはいえ血の繋がりが、などという気はない。

貴族は血を重んじるが、何より優先すべきは、”家”であり領民である。身内であろうと切り捨てなければならない場合もある。

問題は、”家”に無関心だったということだ。たかが庶子というなかれ。何が弱みになるか分からないというのに、実に愚かだと言わざるを得ない。

ちなみに、子息は学園での成績も振るわず、このままでは退学になるという。学費を払う当てはなく、成績面でも見込みがないのなら、当然の帰結である。


”リディア”の教育は順調に進んでいる。

本人の意欲もさることながら、吞み込みが早く、考え方が柔軟だ。貴族になるのなら素直すぎる気質が懸念材料ではあるが。

男爵の血を引いていないわけではなし、無能な子息よりも伸びしろのある”リディア”の方が余程適任だろう。


ターナー男爵家領地は今、王家預かりになっている。

継ぐ者がいなければ、侯爵家領地に併呑される予定だ。

”リディア”が貴族の在り方を学んだ後、彼女の選択次第でそれも変わるかもしれない。


「お願いしますわ、お父様」

「ああ、待っておいで、リディ」










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