最終話
今日は、リディアとライドの結婚式だ。
「おめでとう!」
「幸せになれよー!」
「リディア、ライド、おめでとう!!」
家族たちと、2人の友人、それから”リディア”も参列してくれている。
──あの日。隣国へ行こうと決意した翌日。
目覚めると何故か客室にいて。
鏡を見ると、元の身体に戻っていた。
急いで、自室へ駆け込むと、やはり不思議そうに辺りを見ている”リディア”がいて。
元に戻ったのだと、両親と姉に報告すると、安堵と喜びで涙を流していた。ライドも、息をついていた。
隣国へ、元に戻る方法を探しに行くといっても無期限ではなく、学園に通う3年間が限度だった。それ以上は、公爵家としても、ライドのことも、引き延ばすのは無理だとリディアは思っていた。
だから、何故なのかは分からないにしても、元に戻ったのは喜ぶべきことで、嬉しいことだった。
大聖女様にお会いしたときの話が思い出せなかったり、入れ替わった原因ははっきりしていたはずなのに、分からなかったり、何か夢を見た気がするのに思い出せなかったりと、少々、腑に落ちないことがあるがそれでも。
そして予定通り、学園に通うことになった2人は、たくさんの友人ができた。
”リディア”は公爵家の支援で学園に通い、そこで出逢った商家の子息と婚約している。男爵家を継ぐかとの問いに、彼女は首を横に振った。貴族としての教育は問題なくこなしていたが、自分には向いていないと判断したようだ。
現在は、子息の商会で経験を積んでいるとのこと。
彼女も、大切な友人だ。
今では、”ディア”と愛称を呼ばせてもらっている。私のことも愛称でいいと言ったのだが、身に付いた礼儀と教育が仇になったようで、未だに呼んでくれないのが少し淋しい。
「私ね。あのとき、大聖女様に他に手段がないって聞いて、隣国に行こうと思ってたの」
ライドには話してなかったけれど。
「…へえ?」
「何もしないまま諦めるのが嫌で」
「うん」
「もし戻れなかったら、お父様は養子にしてくれるって言ってくれたけど、そうなると、…ライとの婚約もなくなっただろうから」
こんな晴れの日に、話すことではないかもしれない。そう思いながらも、3年前の絶望に近い、だが最後まで足掻くと決めた気持ちを聞いてほしかった。
宣誓を終え、周囲が少し離れたところで歓談している間に、少しだけ。
「──もしそうなったら、僕は侯爵家の後嗣から退いて、”リディア”と添い遂げただろうね」
知らず俯いていたリディアが隣を見ると、ライドは慈しむような目をしていた。
「父と母にも、『リディア』たちのことは話してあったから。そのつもりだった」
「…ライ」
「もし戻れなかったとしても、僕が愛してるのは『リディア』だけだから」
「……」
「リリー、君を愛してる。どんな姿でも、誰になっても。君だけを」
”リディア”になって顔を合わせ、すぐに『リディア』だと見抜いてくれたライド。
ほんの数年前の出来事。
あの頃はまだ、愛とも言えない、幼い恋心だった。
「私も、…私も、愛してる…っ」
胸がいっぱいで、幸せで、その言葉を言うのがやっとだ。
愛を口にするには幼すぎた想いは、けれど今では、何にも代えがたい想いだ。
諦めなくてよかった。
このひとを、失わずに済んでよかった。
そう思い、顔を上げたとき。
「おめでとうございますー!」
”リディア”の声と共に、何かが降ってきた。
「…花びら?」
リディアとライドに降り注ぐ、白い花びら。
彼女の魔法属性は、”風”。
魔法で、花びらを降らせたらしい。こんなことをするなんて聞いていなかった。
緩やかに下りてくる花は、何だろう。
薔薇?
いいえ違う。
「リディ様に、たくさんの感謝を込めて…!!」
”リディア”が泣いている。
数年前とは見違えるように美しくなった、もう1人の私が。
けれど、それよりも。
「このタイミングで呼んでくれるの、反則じゃない…?」
花びらは、ダリアだ。白いダリア。
花言葉は、感謝。
ディアの、気持ちが、心が、リディアに降り積もっていく。
「…やれやれ、おいしいところは持っていかれてしまったな」
くすりと笑った愛しいひとが、零れた涙を優しい手で拭ってくれる。
「行こうか、リリー」
「はい!」
愛するひとと、愛するひとたちのもとへ、リディアは歩き出す。
ふわりと、ヴェールに下りた白い花びらたちが、風に舞った。
了
ここで終わった方が綺麗な気はするのですが、おまけのざまぁを用意してます。
結局、1万字以上加筆してたわ…(笑)。




