第九〇話「楽しい筈の記憶が楽しくない事も有って……後編」
《――怯えるユーリに対し、主人公は唯一言
“話をするだけだ”……と言った。
そう言われて尚、怯えて居たユーリだったが――》
………
……
…
「ユーリ君……俺は君にやって欲しい事が有るんだ」
「な、何をやれって言うんだ? 」
「それは――
“親が生きて居る間に、これでもかって程、仲良くしておく”
――って事だ。
どれ程望んでも、もう二度とそう出来ない辛さ
俺は良く知り過ぎてる……だからこそ
君には、精一杯経験して欲しいんだ」
《――ユーリに対し真剣な面持ちでそう言った主人公
だが、ユーリは主人公に対し――》
「あ……あんたに何が分かるんだよ!!
おれは父さんに“出ていけ”って言われたんだぞ?!
だっ、だから出て言っただけだし!
大体こんな辛い気持ちにさせる二人の事なんか大嫌いだっ!
分かったらほっといてくれよ!! 」
《――そう言い放ったユーリ
だが、これに臆するどころか――》
「ユーリ君……俺はね、両親を強盗に殺されたんだ」
「なっ……」
「ユーリ君、本当の辛さを知らないのは君の方だ。
……当たり前に有る日常が突然奪われた時
大切だった事に気付いても……もう、遅いんだ。
ユーリ君、何で俺がこんなに煩いか分かるかい? 」
「つ、連れて帰る様に頼まれたからってだけじゃないの? 」
「それも理由の一つではある……けど、本当の理由は違うんだ。
……君の両親は俺の両親と驚く程に似て居る
“雰囲気”とかそんなレベルじゃ無く
後で二人に聞けば分かるけど、見た瞬間
“取り乱してしまった”位には俺の両親にそっくりなんだ。
だから、君が両親の事を嫌って
ずっと悪く言ってる所を見て居ると
“なんて勿体無い事を! ”……って思うんだ。
無論そんなのは俺のエゴだって分かってる
けどねユーリ君、仲良く出来る時間なんてたかが知れてるんだ。
勿論、喧嘩出来る事だってそう……いつ何時
両親が自分の前から消えてしまうか、君に想像出来るかい?
……それがもし、今みたいに喧嘩をした直後だったら?
例えば君がもし“死んじゃえ!”……って言った後だったら?
二人が本当に死んでしまったら、君は
本当に心の底から嬉しいのかい? 」
《――この瞬間、一切の気を使わず
子供には少々厳し過ぎる様にも思える質問を投げ掛け
それを受けたユーリは次第に俯き
遂には黙り込んでしまった。
だが……暫しの沈黙が続いた後
顔を上げたユーリは主人公に対し――》
「そ、そんな事望む訳無いよ!! ……だけどっ!
聞いてよ! ……二人は絶対おれの事が大切じゃないんだ!
父さんも母さんも……いつだっておれのやる事を
毎回毎回、頭ごなしに否定するんだ!
一回位おれの言い分を聞いてくれたって良いじゃないか!
それでもしおれが間違ってたら
それは、怒られても仕方無いって思えるけど……」
「成程……ユーリ君、その考えは俺にも痛い程分かる
“同士よ!! ”……って抱き締めたい位に良く分かる!
……でもね。
親って言うのは“経験で物を言う生き物”なんだ。
……自分が昔、同じ様な事をやった時
失敗したり、痛い目に遭った経験が有るからこそ
やる前から答えを出して来るんだ。
ひょっとしたら君は
“おれはそんな失敗しない!”って思うかも知れないけど
大抵の場合は失敗の程度が違うだけで
長い目で見ると良くない結果が待って居る事が多いんだ。
二人は君の事を大切に思って居る……だからこそ
大切な我が子に嫌な思いをして欲しく無いから
君のやる事にいちいち文句を言うんだと思う。
けど、確かに君にとってはキツい言い方だったり
イライラする事も多々あると思うし
だからこそ家出をしたんだって言うのも分かる……だけど
君が思い直して“謝ろう”
若しくは両親を“許そう”と家に帰った瞬間
君の両親が……俺が経験したみたいに成って居たら?
勿論、君がずっと素直で良い子にしてたとしても
二人が君に対して理不尽とも思える事ばかり言う確率は
驚くほど高いと思う……でも、君が大人に成って行く過程で
そんな理不尽が可愛く見える位の
酷い不条理に遭遇する確率の方が
人生に於いては遥かに高いんだ。
……もし、君が今両親との関係を断ち切って
俺の危惧する様な人生を歩む事に成ったとしたら
これから経験するかも知れないどんな不条理も
まるで比べ物に成らない程の苦しみが、生涯君を襲う事になる。
そして、もしそんな事になれば
君は間違い無く、一生自分を責めて生きる事になってしまう。
……俺から見たら君はとても頭が良いし
様々な可能性を持って居る様に思う、そんな頭の良い君が
後悔に塗れた人生を送る事に成ってしまったとして
それは一体誰が喜ぶんだろう?
君の両親が喜ぶと思うかい? ……俺は思わない
勿論俺だって喜ばないし
そんなの……悲し過ぎるよ。
……確かに、俺が此処までおせっかいをしてる動機は
俺の“エゴ”ではある……けど、その分君には
俺の分まで両親と仲良くして欲しいんだ……頼むよ」
《――敢えてか
ユーリに対し子供に話す為噛み砕き
表現を優しくする事など一切せず
一人の人間を説得する様に話し続けた主人公。
この後、彼の説得を受けたユーリは
一つの答えを出した――》
………
……
…
「……父さんや母さんがそんな事を喜ぶとは思わないし
もしそんな事になったら、お兄さんの言う通り
悔やんでも悔やみきれないと思う。
お兄さんはもしかして……ずっと自分を責めてるの? 」
「うん……“少し”ね、けど俺の場合は楽しい記憶の方が多くて
どちらかと言えば苦しいよりも
“寂しい”って気持ちの方が圧倒的に大きいんだけどね。
さて、君を説得する為とは言え
かなりキツい話をしてしまった事は謝らないと……
……本当にごめん、でも
君がとても素直で頭の良い子で良かったよ。
唯、両親との接し方とか
距離感が分からなくなる事はこれからもあると思う
だから……これから先、喧嘩になったら
出来る限り早く仲直りをする努力をする事を意識して欲しい
とは言え、君だけにそれを強いるのは違うとも思ってる。
だから、今から俺は君と一緒に親御さんの待つ家について行くし
俺から見て、二人が間違ってる様に思えたら
俺は君の味方をする……その代わり
君は自分の考えや想いを……“家出”じゃない形で伝える事
二人に対し、確りと腹を割った話し合いをする事。
……出来るね? 」
「分かった、お兄さんを信じて帰るよ! 」
「良かった! ……それじゃ早速帰ろうか! 」
《――こうして
無事ユーリを保護する事に成功した主人公。
暫くの後……両親の待つ家へと辿り着いたその一方で
“腹を割った話し合い”をする事となったユーリは
いざ、玄関前に立つと些か緊張して居た。
……だが、そんなユーリの背中を後押しするかの様に
玄関の扉を叩いた主人公は――》
………
……
…
「ユーリ君を保護しましたァァァッ! 」
《――そう“少々”大きめに報告をした。
直後、その声に慌てた様子で扉を開いた両親は
ユーリを見るなり彼を抱き締め
“如何に心配して居たか”を涙ながらに語り
父親はユーリを叱った……だが。
そんな父親に対し、主人公は――》
「無事再会させる事が出来て良かったです……が。
お二人にはユーリ君を叱るよりも先ず
ユーリ君の言い分を聞いて貰いたいんです」
「ユーリの言い分……ですか?
確かに私が出ていけと言ってしまった手前
此方にも非は有りますが……」
《――そう言い掛けた父親に対し
それを遮る様に主人公は――》
「家出の原因の“最たる発言”をして置いて
“非は有りますが”とは余りにも自分勝手では?
“出ていけ”……とは
教育する事を放棄したとでも取れる様な発言ですよ? 」
「そ、それは……」
「俺は先程……お二人の元へユーリ君を送り届ける前
彼の年齢には決して見合わない
途轍も無く重い話を聞いて貰いました。
……今、敢えてその内容についての説明はしませんが
兎に角、ユーリ君はとても理解力があり
俺の話を真面目に聞いた上で、お二人と
腹を割った話し合いをするつもりで帰って来たんです。
其処で……お二人にお願いがあります
ユーリ君が“子供だから”と頭ごなしに否定するのでは無く
お二人自身が子供だった時を思い出し
ユーリ君が反抗的な態度をとった理由や
成長段階の過敏で多感な心を考えてください。
……ユーリ君からしてみれば
自らを全否定されるかの様な態度を
お二人から取られたのと同じなんです。
その事でどれだけ彼の心が傷ついたのか……
……二人を愛して居るからこそ、その傷は深かった筈です。
どうか、昔の自分を思い出して下さい
大切な愛する息子さんなのでしょう?
俺が頭を下げて理解してくれるなら幾らでも下げます。
……これから先、沢山意見はぶつかるでしょうが
最終的には仲直りして、素敵な親子関係を続けられる様
“怒る”のでは無く“叱る”
口を“荒らす”のでは無く、意見を“言う”
“親しき仲にも礼儀あり”を念頭に
彼を一人の人間として捉え、接して欲しいんです。
無論、これはお二人だけじゃ無く
ユーリ君にもお願いしたい考え方です。
兎に角、お互いにちゃんと話をして下さい……
……俺が早々に奪われた“大切な宝物”を
貴方達親子は持って居るんです。
大切な宝物を、投げ捨てないで下さい。
お互いを……もっと大切にして下さい」
《――全ての思いを吐き出した後
深々と頭を下げ、彼らに決して見えない様
そっと涙を拭った主人公。
一方、そんな主人公のお願いに対し――》
「……ユーリ、父さんが言い過ぎた。
よく考えれば父さんにも、ユーリの様に
“活発な時期”があった事をすっかり忘れて居たよ。
……これからはもっと話をしよう。
何故そうしたいのか
どうすれば望む結果が得られるのか
父さんと母さんとユーリの三人で
一緒に見つけ出せる様、努力をしよう」
「そうねアナタ……ねぇユーリ
お母さんはこれから先も
ユーリが間違ってると思ったら叱るわ? けれど
お母さんが間違っている所が有ったら
ユーリもお母さんを叱ってね?
お母さんもちゃんとユーリの注意を聞く様にするから」
「う、うんっ! ……おれもちゃんと説明するし
二人の注意もちゃんと聞く様にするよ! 」
《――主人公の発言が功を奏したのか
それとも、遅かれ早かれこの様な結果と成って居たのか。
……何れにせよ、三人が仲直りし笑顔で話す姿を確認すると
主人公は笑顔で別れを告げ、早々にこの場を立ち去ろうとした。
だが――》
「……お、お待ちを!
ユーリが貴方様の様な立派な人に育つ様、これから先
より一層親として責任を持った人生を送って行こうと思います。
発言には気を付ける事を肝に銘じ
優しさと強さを兼ね備えた、息子が誇る事の出来る父親として
確りと生きようと思います。
……そう気づかせて頂けた事
心から感謝しております……」
《――主人公を引き留めると、そう告げた父親
その姿に一瞬、子供の様な表情を見せた主人公だったが
少し俯き、目元を擦ると顔を上げ
直ぐに微笑み――》
「……光栄です。
お父様もお母様もどうか健康で長生きして下さい
ですが、ユーリ君に対し
“俺の様に成れ!”……なんて教育は止めてあげて下さい。
恐らく、とんでも無く“堕落した人生”を送ると思いますので。
唯……精一杯、出来る限り長く一緒に居て
沢山の愛情を注いであげて下さい。
さて……夜も遅いのでそろそろ俺達は御暇します。
どうか、皆さん末永くお元気で」
《――そう言うと直ぐに踵を返し
御礼を言う両親とユーリの方には決して振り返らず
皆と共に転移魔導で宿へと帰宅したのであった――》
………
……
…
「ふぅ、疲れたね~! ……皆、有難うな!
子供と両親を再会させられて良かったよ!
皆も疲れただろうし今日はゆっくり休んでくれ!
んじゃ~各自“自由行動”って事でッ! ……」
《――宿に転移するや否や、皆への労いもそこそこに
足早に自室へと向かった主人公。
……この、余りにも“分かりやすい”
主人公の空元気に、仲間達は敢えて何も触れず
特にやる事の無い“自由行動”を取る事にしたのであった。
一方――》
………
……
…
《――自室へと戻るや否やベッドへうつ伏せに倒れ込んだ主人公
彼は……枕に顔を埋め、声を押し殺し泣いて居た。
だが、そんな彼の部屋の扉をノックする音が聞こえ――》
「ちょ?! ……ちょっと待ってね! ……」
《――慌てた様子で涙に濡れた目元を拭いつつ
大きく深呼吸し、入室の許可を出した主人公。
すると――》
「主人公さん……私達がご両親の代わりを務めるのは無理です
でも“家族”としてなら中々良い線行ってるんじゃないですか? 」
《――現れるなりそう言ったマリア
そして――》
「そ、それなら……わ、私が妻かしらね?! 」
《――と
マリーンが言うと――》
「アラ? それなら……ワタシは愛人でも構いませんワ♪ 」
《――と、冗談の積もりなど微塵も無さそうな様子で
そう言ったマグノリア――》
「では吾輩は主人公の兄弟と言った所か……
……うむ、良いかも知れぬな」
《――と、妄想に思いを馳せながらそう言ったガルド
そして――》
「私は……どんな立場でも良いですっ!
唯、そのっ……あのっ!
……主人公さんが元の世界で経験した
沢山の理不尽や不条理
私にその辛い気持ちを癒せる力があるとは言いません。
でもっ! ……その悲しい気持ちを
一緒に背負う事なら出来る筈ですっ!
だっ、だからっ! ……その気持ちを背負う為にも
これからも、ずっとずっと一緒に居てくださいっ!!! 」
《――そう必死に言ったメル
そして――》
「皆、どうして……って、ごめん
ずっと暗い雰囲気出してたのは俺の方だよな……有難う、皆。
……確かに、俺は辛い経験をした
けど、過去ばかり見てても仕方無いんだって
今、必死に理解しようとしてるんだ。
両親と一緒に過ごした時間は間違い無く幸せだったし
精一杯、幸せに暮らしてた……だから、これから先は
皆と一緒に、これ以上無いって位に幸せを謳歌したい。
だから……皆もやりたい事があったら
遠慮無く言ってくれ!
今日、こうして俺がして貰ったみたいに……俺もッ……
皆に……ッゴメン……バカだな俺
今日は……泣いてばかりだ……ッ……」
《――瞬間、堪え切れず
溢れ出した涙を必死に拭った主人公、だが
そんな彼に対し、ガルドは――》
「男が泣く事は即ち、敵に隙を見せる事
戦士としてならば許されぬ行いだ……だが。
今は吾輩が許す……我慢などせずとも良い」
「ガルド……うぅッ……ガルドぉッ……」
「……今だけは泣いてもイジったりしませんから
幾らでも泣いてください」
「マ、マリアまでッ……うぅ……うぅッ……」
《――皆の優しさに感極まった主人公は
この後、我慢する事を止め……力の限りに泣いた。
……一方、そんな騒ぎを聞きつけ
主人公の部屋へと駆け付けたアリーヤと子供達
そして、号泣する主人公に気付くや否や
理由も分からぬままに彼を慰め
その事に更に感動した主人公は、更に
“大号泣”し続ける事と成ってしまったのであった――》
「みんなぁぁぁぁぁッ!!! ……大好きだぁぁぁッ!!! 」
………
……
…
《――翌朝
鳥の囀りで目覚めた主人公は
泣き腫らした目を擦り、痛めた喉に難儀しつつ
本来の目的である“北地域の評価”を行う為
身支度を済ませると、朝食を摂り
仲間達と共に再び街の散策を再開した。
の、だが――》
「北地域なぁ……正直“寒い”事位しか欠点無いぞ? 」
「確かに寒いですね~……あ、私が温めてあげましょうか?? 」
「な゛ッ?! マ、マリア一体何を?! ……って、分かったぞ?!
お、お前の中の“おっさん”が出てきたんだな!? 」
「あっ酷いッ!!“昨日の今日”だから優しくしてみたのに! 」
「えッ?! あッ……ごめん……あ、ありがとなッ!
け、けど……は、恥ずかしいよ……でもその……」
「ブツブツウルサイデスヨ~」
「な゛ッ?! ……マリアお前ッ!! 」
《――なにはともあれ
楽しげに散策をして居た一行。
……この後、街行く者達に問題は無いかと訊ね続けたが
誰一人として不満など語らず、寧ろ
民達からの声は皆北地域を褒め称える様な物ばかりであった。
加えて“天照の関わり深い地”である事も手伝い
皆、北地域の民である事に誇りすら持って居る様子であった。
この後、ある意味“収穫の無かった”一行は
報告も兼ね一度、紅の元へと戻り――》
………
……
…
「……と言う訳ですので
俺の個人的な意見にはなりますけど
北地域に有る欠点と言えるかも知れない欠点は――
“寒い”
――って位ですかね? 」
《――そう紅に対し報告をした主人公であったが
この報告に対し、彼女は大層不満げで――》
「あ、あの……俺、何か不味い事を言っちゃいました? 」
《――この場の空気に耐えられなく成った主人公は
恐る恐るそう訊ねた、すると――》
「主人公さん? ……一つ訊ねますけど
何処の世界に他国から来はった“お客さん”に対して
べらべらと自地域の“恥ずべき部分”を晒す人が居ります?
“聞かれた無い話”は言わへんもんと違います? 」
「い、言われてみれば確かに……」
「せやろ? ……と責めてはみたものの。
ウチ自身、地域を治める長でありながら
民の考えるこの地域の欠点を聞き出せてへん訳やし
主人公さんを責める権利……ウチにも無いんよね。
……ウチは正直、問題があるなら直ぐにでも改善したいし
そう言う意味でも心の底から問題点を知りたいんやけど
ウチが聞いても素直に教えて貰えるとは思えへんのよね……
……何か“ええ案”無いやろか? 」
「うーん……古い案なのですが
現在でも普通に通用する良案が一つだけ……あるにはあります」
「い、一体どんな案なん?! 」
「えっと……天照様の要望を考えると
今思いついた案は、全地域同時に発布するのが
適切かと思いますのでその時までお待ち頂けませんか? 」
「なんや、えらい焦らすねぇ?
せやけどそれやったら仕方あらへんか……
……正直かなり気になるんやけど
お母さ……天照様の名前出さはる辺り
ホンマ、いけずやね? 」
「本当に申し訳有りません……でも
地域毎の妙な格差を生み出さない為にも
ギリギリまで最適なルールを探りたくて!
その、完璧な物が生まれるまでもう少々お待ち下さい。
さて……取り敢えず、俺達はこの後南地域に向かい
南地域の欠点と利点を調べます。
それが終わり次第天照様と
全地域の長達にお集まり頂き、皆様を交えた
“話し合い”をさせて頂く予定です」
「ほんならウチは楽しみに待っとくわ……
……けど、南地域行かはるんやったら
長である“宗次”にだけは気ぃ付けはった方がええよ? 」
「と、言うと? 」
「……あの男はホンッッッマにガサツやし
品性の欠片もあらしまへんから
上品な主人公さんが毒されへん様に祈っておきますえ? 」
「そ……そんなにですか?!
あ、いえ……気は引き締めて挑む事にしておきます!
と言う事で、そろそろ俺達は南地域へ……」
《――主人公がそう言うと、紅は
“待って!”と主人公を呼び止め、そして――》
「お守り代わりや……んっ」
《――そう言うと主人公の頬に口づけをした。
当然の様に慌てた主人公だったが
彼女の行動の真意は“恋愛感情”などでは無い様で――》
「なななッ?! 紅ベニさんッ?! ……な、何をッ?! 」
「あら……初心な反応するんやね♪
けど、何ってウチの持つ“固有魔導”を掛けただけやし
文字通り“お守り”やから安心してええよ」
「そ、そうなんですか? ……有難うございます」
《――頬を赤らめ俯きつつ
御礼を告げた主人公、だがそんな主人公の反応を
極間近で目撃した女性陣の態度が
“優しい物”とは成らなかった事は言うまでも無いだろう。
……ともあれ。
暫くの後、紅に別れを告げ
一度、豪邸に戻った一行はアリーヤと子供達に対し
数日間離れる事を伝え――》
………
……
…
「……お仕事頑張ってね、主人公お兄ちゃん! 」
「ああ! ……君達もお勉強を頑張るんだぞ?
出来るだけ早く帰ってくるから
心配せずに楽しく過ごしててね! 」
《――別れの挨拶を済ませた主人公は
同行する仲間達と共に、改めて南地域中心部へと転移した。
だが――》
………
……
…
「……よし、着いた!
いや~天照様が予め此処に連れて来てくれてたお陰で
数ヶ月分の時間的な得が出来たぞーッ!
オーッ! ……って、テンション高過ぎかな? アッハッハ! 」
《――転移早々
天照に対する感謝を述べて居た主人公。
だが、突如として現れた主人公一行に驚いた南地域の民達は
この直後、続々と一行の元へと近付き――》
「ま、間違いだったら申し訳ねぇ!
おめえさんはこの間、天照様と一緒に現れなさった御仁ではねぇですか?! 」
《――と、主人公に訊ねた一人の男に対し
素直に“はい”と返事をした主人公、だが
この“返事”を皮切りに――》
「や、やっぱりそうだったぞ! ……おいお前達!
おら達の地域にも“神様”が来なすったぞーー!! 」
《――と、何故か主人公の事を“神”扱いし
主人公に対し手を合わせたこの男……そして
そんな男性に同調する様に、集まった民達は皆
主人公に対し手を合わせ始め――》
「えッ?! ちょ、あの……何かの誤解では……」
《――と、慌てる主人公の声が届く事は無く
散々崇められ続けた挙げ句
民達は天照の居ると言う“御休所”へと
主人公一行を“半ば強制的に”案内し始めてしまって――》
===第九〇話・終===




