第九話「理解するのは楽勝でした……この女(ひと)ヤバいんですッ!」
初仕事から一夜明け、思いのほか寝過ぎてしまった俺。
何故だろう? 酒を飲んだ訳でも無いのに頭が痛い。
そして、何だか“煩い”……寝起きの俺の耳に聞こえて来た声。
これは……マリアとメルちゃんの声だ。
何だか楽しそうな様子だが、頭に響いて余計に痛い。
「……さぁ~てメルちゃん!
今日もギルドの依頼バンバンクリアして稼ぎましょ~っ!
S級か或いはSS級に挑戦して見るのも手ですよ~っ! 」
「は、はいっ! ……頑張りますっ! 」
「二人共おはよ……ってか、マリア。昨日はオルガさんが手伝ってくれたから何とかなったけど、流石に毎日手伝って貰う訳にも行かないし、今日はB級位の依頼にして置かないか? 」
「え~! 私はもっと骨のある敵が良いんですけど」
「……お前はそうかも知れないけど、メルちゃんは攻撃手段が無いんだぞ?
もっと仲間の事考えてだな……」
「い、いえっ! ……わ、私はお二人のお決めに成られた依頼で大丈夫ですからっ! 」
「……いや、駄目だよ。メルちゃんが悲しんだり苦しんだりする姿はもう二度と見たくないんだ、だから返済に時間は掛かっちゃうかも知れないけど、此処は、俺の我儘だと思って……ね? 」
「で、でもっ! ……」
「へぇ~? ……何だか主人公さんってメルちゃんにだけは甘いですよね?
そもそも“永久防護”が掛かってるんだから、メルちゃんはダメージなんて受けないのに! 」
「マリア、お前……そんな言い方はないだろッ?!
もし俺達がやられたらメルちゃん一人に成るんだぞ?
危ない場所で防御も何も無い状態で、メルちゃんがどう成ると思ってんだよ?! 」
「それは……じゃあ言いますけど!
私だって結構頑張ってるのに褒めてくれないし!
なのにメルちゃんばっかり! ……ズルいですよ! 」
「確かにマリアは強いし助かってるよ……けど!
寝言で“ギガタウロス余裕”みたいな事を言う位には何も考えてないじゃないか! ……この脳筋馬鹿ッ!! 」
「なっ?! ……寝言の盗み聞きとか変態ですか! 」
「……だッ、誰が変態だッ!
寝れなくて考え事してたら聞こえただけだッ! 」
「あのっ……お二人とも……止め……」
「もぉ~っ!!! ……主人公さんなんて……」
「マリアなんて……」
「……やめてっっ!!! 」
この日、俺達は、初めてメルちゃんの怒り声を聞いた。
「メ、メルちゃん? ……」
「主人公さんも、マリアさんもっ……
……わ、私が原因でお二人の仲が悪くなってしまうのなら、私はもう……一緒に居られませんっ! 」
「なッ?! ……ま、待ってくれ! 悪かった!
居なく成るなんてそんな……」
「いいえ、駄目ですっ! ……
……確かに主人公さんはマリアさんに厳しく見えます。でも、マリアさんだって主人公さんの優しさに気付いていないじゃないですかっ! 」
「し、主人公さんの優しさって……
……メルちゃんにどう見えてるのかは知らないですけど、私には全然優しくないですよ! 」
「マリアさん……やっぱり分かって無いですっ!
マリアさんがタウロスと戦って居た時、私やマリアさんの事を気に掛け過ぎて、一瞬、主人公さんの動きに遅れが出てた事……
……マリアさん、知ってましたか? 」
「えっ? ……そ、そうなんですか? 主人公さん」
「そりゃ大切な仲間だから、心配は……するけど……」
「そもそも……主人公さんだって分かってないですっ!
……私、昨日マリアさんから戦いの後、怪我を“主人公さんにバレない様に”って秘密で治す様頼まれました。
“余裕で討伐した様に見えてないと、きっと私達に気を使うから”……って。
……マリアさんだって主人公さんの為に気を使ってる事、主人公さんはちゃんと理解してますか? 」
「そんな……マリア、それは本当か? 」
「そ、それは! ……装備の借金も大変だから、少しでも稼げた方が良いと思って……」
「ごめん、俺……何も分かって無かった。
俺さえ強けりゃ二人を護れるって自惚れてた……マリア、本当にごめん」
「い、いえそんな! ……私だってちゃんと主人公さんの事見てませんでしたし、その……私こそ、ごめんなさい」
「……それで良いんですっ!
これからは辛い時は辛いって、お互いに言い合う事にして下さいっ!!
分かりましたかっ?! ……」
「は、はい……すみませんでした……」
「ああ、俺もちゃんと口にするよ……ごめんね、メルちゃん」
「いえっ……お二人が仲良しに戻れるのなら、私はそれで……はぅぅぅ……」
「メ、メルちゃん?! ……」
俺達二人を仲直りさせた事に安堵したのか、直後、メルちゃんはその場にへたり込んだ。
……いつも優しいメルちゃんが珍しく上げた怒り声。俺のせいで、メルちゃんに慣れない事をさせてしまった。
「主人公さん! 取り敢えず何か飲み物を!! ……」
「だ、大丈夫ですマリアさん……ちょっと張り切り過ぎちゃっただけですからっ……」
直後、飲み物を貰いに部屋の扉を開いた瞬間、騒動を聞きつけ、俺達の部屋へと駆けつけたミリアさんと鉢合わせした俺は……
「朝っぱらからどうしたんだい大声出して?!
って……大丈夫かい? 」
「すみません、全部俺のせいです……
……お騒がせしてすみませんでしたッ! 」
「……何だか分からないが、仲良くしなよ?
朝ごはんは用意してるから、食べてシャキっとしな! 」
「は、はいッ! ……メルちゃん、大丈夫? 」
「ええ……もう落ち着きましたっ……」
直後、ヴェルツ一階へと降りた俺達は……朝食の席でメルちゃんの“凄さ”を再認識して居た。
「……しかし、あんなにも俺達の事を見てくれてたとは。メルちゃんってやっぱり凄いよ」
「そうですねぇ~……メルちゃん、これからもよろしくお願いしますね! 」
「そっ、そんなっ! ……私は唯お二人の事が大好きなだけで……」
「メ、メルちゃん……」
と、俺達がメルちゃんの優しさと愛情に感動し、共に言葉を失って居た、その時……
「お~っお前達っ! ……今日も討伐に行くぞっ! 」
「ブーーーッ! ……ゲホッゲホッ! 」
「あわわっ?! ……大丈夫ですか? 主人公さんっ!!
って……おはようございますっ! 」
「……ゲホゲホッ!
ごめんメルちゃん……って言うか、オルガさん。“昨日限定”じゃ無かったんですか? 」
「いや、限定とは言ったが……楽しかったものでな!
暫くの間は“限定パーティ”で動くのも良いだろう。
それだけで無く……今日は安全の為に妻も連れて来たのだ! 」
「……メルちゃんお元気~?
って……あら? ちゃんとネックレスしてくれてるのね!
とっても嬉しいわ♪ 」
「あっ! ガーベラさん! ……はいっ!
このネックレスのお陰で沢山治癒出来てますっ! 」
「あら、役に立ってるのね~嬉しいっ! ……
……あ、そうそう主人公さん。
貴方……“ギガタウロス”を討伐したんですって? 」
「ええ、一応……でもオルガさんと皆のお陰って言うか……」
「でも、一撃で倒したと聞いたわよ?
今、私達の村でもその話で持ち切りなのよ」
「そ、それは光栄ですが……
……じ、実はマリアとメルちゃんも凄くてですね?!
マリアなんて、タウロスだけじゃなくてメガタウロスを立て続けに二頭倒してましたし、メルちゃんは治癒魔導や補佐的な魔導を沢山使えるんです!
だから俺……今回の勝利は、全て二人のお陰だと思ってます」
そう言った俺の横でマリアは……
「正直ギリギリでしたけどね~。もしメルちゃんの治癒魔導が無かったら終了してましたよ~」
と、メルちゃんの事を褒め始めたマリア。そして……
「わっ、私はお二人について行くだけで必死でしたし、わっ……私こそ、お二人のお陰があってこそですっ! 」
と俺達の事を褒めてくれたメルちゃん。
……だが、傍目に明らかな程の余所余所しさに、事情を知らない筈のガーベラさんでさえ察せてしまったのだろう……直後、ガーベラさんは不敵な笑みを浮かべ……
「つまり……全員とっても強いって事よね!
なら、今日はSにでも行こうかしら! 」
と言い出してしまった。
……この露骨な発言には何らかの考えがあっての事だとは分かった反面、“皆の安全を考えB級を選びたい”と伝えこれを断った俺。すると……
「で、でも……ガーベラさんも来て下さる訳ですから、其処まで私達に気を使わなくても……」
と気を遣い始めたマリアの姿に、オルガさんは一言……
「成程、やはりか……御主達“喧嘩”したな? 」
そう、言い当ててしまった。
「な゛ッ?! ……何で分かったんですか!? 」
「余りに極端過ぎてな……一目瞭然だ」
「貴方の言う通りね……大方マリアさんと主人公さんが喧嘩をして、メルちゃんは二人に対して苦言を呈した……
……って所かしら? 」
「ガーベラさんまで……盗み聞きしてたレベルで正解です。
でも……本当に、お恥ずかしい限りです」
「……恥ずかしがる必要は無いわ?
それに、私達はB級でも構わないわよ? 」
「お気遣い有難うございます……」
「良いの良いの! ……でも、その代わり!
……二、三個同時に受けてみない? 」
「え? ……そ、そんな事出来るんですか? 」
「あら? ……貴方、教えてなかったの? 」
「い、いやその……主人公の腕の良さならばA級に挑むべきかと……その、教えては居なかったが……」
「それでもエルフの長ですか! ……全く! 」
ヤバい。
“夫婦喧嘩”が始まり掛けて居る。止めなきゃ!
「い、いやそのッ!! 自分達の腕とか戦い方とかお陰で色々勉強になったんでッ!! ……なッ! マリア?! 」
「そ、そうですよ! ……そんなに悪い戦いじゃなかったですから! 」
(私に振らないで下さいよ主人公さん! )
「そッ……それよりも、二、三個同時に受けてってどう言う事なんですか? 」
「い、命拾いした……」(主人公、マリア……ナイスフォローだ! )
「……貴方? 」
「い、いや! ……なんでもないっ! 」
ともあれ。この後……
「……例えば、スライム討伐を請け負う場合、其処までの移動の間に薬草の採集に適した場所があるなら、それに関連する依頼も受けて居る方が効率的でしょう? 」
「ああ……成程ッ! 」
「……B級の依頼ならそんな事も可能なのが多いの。だから二、三個受けて見ないかを聞いたのだけれど……
……どうかしら? 」
「その案……賛成ですッ! 」
この提案を受け入れた瞬間、オルガさんは何だか“妙なテンション”で……
「……さ、流石は俺の妻だっ!
こんな妻を嫁に貰ったなんて、し……幸せだなぁ!
で……では、さっそくギルドに向かうとしようか! 」
と、相変わらず“尻に敷かれて居る”姿を披露したのだった。
……ともあれ。
暫くの後、ガーベラさんの案を基本に俺達は掲示板に並ぶ依頼を見比べて居た。
今まで、金額だけを見て居た俺からすれば盲点の様なやり方だったが、ガーベラさん曰く、組み合わせ次第ではA級を一つ達成するより稼げる事も多いそうだ。
……有難い、これなら安全に依頼を受けられる。
そんな事を考えつつ、ガーベラさんの説明を聞いて居ると……
「でしたら……この依頼とこの依頼。あと、この依頼を組み合わせてみたらどうでしょうかっ!? 」
「あら! ……メルちゃん見る目あるわね!
これならルートも適正だし……これで行きましょう!
流石はメルちゃん……偉いわね~♪ 」
「えへへ……じゃあ受付しましょ~っ! 」
ガーベラさんに褒められたのが余程嬉しかったのだろう。
凄まじく上機嫌に成ったメルちゃんは、自ら選んだ依頼書を嬉しそうに抱え、受付の方へと進みだした……だが。
受付に着いた俺達を確認するなり、受付嬢さんは俺達に対し、謎の依頼を受ける様頼んで来て……
「それで……此方が皆様にお願いしたい依頼書です」
直後、受付嬢さんが差し出した依頼書には、等級に全く見合わぬ高額報酬が記載されて居た。
これは明らかに……怪しい。良くある“騙し討ち”かと思える程の高額報酬だ。
たった今、安全に稼ぐ方法を教わったと言うのに、まさか、俺がギガタウロスを倒した一件に関し“尾ひれ”の付いた噂が独り歩きでもしたのだろうか?
……などと、マイナス思考をフルに発揮させて居た俺は、完全にこの依頼を断るつもりで居た。
だが……
「あら? ……この依頼良いわね!
荷馬車代ギルド持ちの護衛任務……距離も然程では無いし、他の依頼をこなしながら行ける道順だけれど……
……にしても、妙に報酬が高いわね? 」
「ええ、護衛対象はガーベラ様なら良くご存知な……」
「あぁ……あの“変わり者大臣”ね、納得したわ」
「な、何ですか?……その“変わり者大臣”って」
「ええ……この国に一人。政治家にしては珍しく薬草採集が趣味、と言うか……」
「マニアと言うか、なぁ……ガーベラよ」
「え……ええ、貴方……」
この瞬間、オルガさんとガーベラさんは奥歯に物の挟まった様な微妙な反応を見せた。
しかし、聞く限りでは悪くない依頼の様だったし……
「そもそも“御二人”が居るとなれば、御本人も喜ぶかと思いますので! 」
そう受付嬢さんが言った事で、俺は完全に安心して居た。
だが、当のオルガ・ガーベラ夫妻がどう見ても乗り気とは思えない……何と言うか、二人から“苦手意識”の様な物を感じるのだ。
「そう言われても苦手なんだがな……何と言うか、疲れる」
「悪い子じゃないんだけど、少し“マニア”過ぎるのよね……
……まぁ、いいわ?
これはボーナスみたいな依頼だから、今回は特別に受けておきましょう。
主人公さん、護衛対象は少しだけ“大変な人”だけれど……
……構わないかしら? 」
そう、僅かに濁しつつ、俺達に許可を取ってくれたガーベラさん。そして……
「なら、この依頼もお願いね」
「承知致しました……では、合計四つの依頼をお願い申し上げます。
それでは、皆様……お気をつけて! 」
暫くの後、受付を済ませ、ギルドの建物を後にした俺達。
……すると、ギルドの入り口には既に、豪華絢爛な装飾の施された通常よりもかなり大きな荷馬車が到着して居た。
何だか“荷を載せる事を主軸に置いた馬車”とは思えない程だし、信じられない程乗り心地が良さそうだ。
「で……デカいし、妙に豪華な荷馬車ですね。
これ、普通に借りたら幾ら掛かるんだろ? ……」
「恐らく……金貨五〇枚は取られるでしょうね」
「凄い金額だ……やっぱり大臣が乗るからですかね? 」
「そう言う事かしらね? ……
……さて、そろそろ“本人”が来る頃かしら? 」
ガーベラさんがそう言ったと同時に、ギルドの建物から俺達目掛けて物凄い勢いで走り寄って来た、見た所、一五歳位の少女……
……まさかとは思うが、“この子”じゃ無いよな?
「あ~っ!……ガーベラさ~ん! オルガさ~ん!
あれぇ?……他にも沢山居るじゃんか~。こぉ~れは、沢山採集出来るかもぉ~っ? 」
「あ、あの……もしかして“依頼主さん”ですか? 」
「ん? ……そだよぉ~?
君は確か~……“主人公くん”だっけ?
ラウドさんから聞いてるよぉ~っ?
凄っっっごい、強いんだってね~!
でも~……“国に仕えるのが嫌”とか我儘だねぃ?
ま、私は別に構わないんだけどねぇ~っ! 」
「あ……あの、何とお呼びすれば? 」
「あ~そぅそぅ忘れてた~っ! ……私の名前はエリシア!
この世界にある全ての薬草を集めるのが私の熱い目標なぁ~のだっ! 」
そう言うと、エリシアと名乗ったこの子は俺に向け“決めポーズ”をした。
……うん、確かに“大変な人”だ。
などと思って居ると、ガーベラさんは俺に対し……
「信じられないかも知れないけれど、これでも一応、この子……魔導大臣なのよ? 」
「えっ?! と言う事は……」
「そう、つまりはギルドのトップでも有ると言う事よ」
「えっ……この子がですか?
見た感じ一五歳位ですよね? ……」
「見た目はそうかも知れないけれど、実年齢はもう少し上……」
そうガーベラさんと話し込んで居たその時、段々と不機嫌な表情に成り始めて居た魔導大臣“エリシア”は……
「むぅ~……“この子”とは何だ失礼なぁ~っ!
ま~ぁ? 若く見てくれるのは嬉しいけどぉ~?
これでも攻撃術師としてはハイクラスなんだよ?
ま……“トライスター”な主人公さんからしたらぁ~?
大した存在じゃないんでしょうけどぉ~? 」
「う゛ッ……し、失礼しました。それで、その……本日のご希望はどの様な? 」
(確かにこれは調子が狂う……)
「そ・れ・は……もちろんっ!
“薬草”……なんだけどぉ~っ!
今の時期はねぇ~っ……なんとぉっ!! 」
「あー……これが長いのよね……」
いつ何時、凛としているガーベラさんが珍しく項垂れながらそう言った……直後。
俺達は、ガーベラさんが“項垂”なった理由を、嫌と言う程知る事に成るのだった。
「なんとなんとぉ~っ! ……この時期にだけ取れる七色草!
これがとってもレアなのよ~っ!
この草を煎じた煮汁を空中に噴霧するとね!
なんと! ……なんとっ!! 」
「な、何が起きるんです? 」
「……虹がどこでも出せるのだっ! 」
「は? ……えッ? 」
「ねぇ、凄くない?! ……凄いよねぇ~?!
だ・か・ら! ……早く取りに行くよぉっ!
さぁさぁ! ……早く乗って乗って! 」
この、色々と“ぶっ飛んだ”大臣に促され、俺達は荷馬車へと乗り込んだ。
と、同時に……気のせいかも知れないが、オルガさんとガーベラさんの肩が僅かに沈んだ様に見えた。
「……しっかし、今日はいい天気だねぇ~っ!
絶好の採集日和だ~っ!
……いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぃ! 」
「そ、そうですね……って、あの、俺達、依頼を他にも受けてまして、それもやりながらの護衛任務なんですが……
……ほ、本当に構わないんですか? 」
「ん? ……いいよ~?
本来なら護衛なんて必要ないんだけどね~?
秘書官が煩いから仕方無く~っ?
……で! どうせなら仲良くしてくれるガーベラさんとオルガさんが居てくれたら楽しいし~!
主人公くん御一行も何だか仲良く出来そうで私は楽しいよぉ~っ?
あっ! ……どうせなら愛称で呼んでも良いかな?!
“主人公っち”……とかどうだろ?! 」
「え、ええ……お好きな様に呼んでくださって大丈夫ですので……」
(嗚呼“マシンガントーク”ってこう言う事を言うんだな)
◆◆◆
この日、主人公は“大人の対応”を会得した。
主人公の“疲労度”が少し上がった。
◆◆◆
「……あ、私の事ですけど、“マリアっち”って呼ぶのだけは止めてくださいね?
何か凄い“歌いそう”な感じに聴こえるので」
「え~……じゃあ“マリアちゃん”って呼ぶ~。メルちゃんの事も“メルちゃん”って呼ぶね~っ♪ 」
「は、はぃっ! ……ってあのっ!
そういえば、エリシアさんって攻撃術師さんなんですよね? 」
「そだよ~?? ……そうは見えないかな~メルちゃん? 」
「い、いえその……“杖”的な物が見当たらないので……」
「あぁ~あれね! ……私のは重いから持って来て無いよぉ~? 」
「えっ?! ……でもそれだと何かあった時に……」
「だいじょぶだいじょぶ~ぅ♪
ガーベラさんとオルガさんが居てくれたらよゆーよゆー!
そ・れ・に……
………“大地は裏切らない”んだよ~? メルちゃん! 」
「へっ? ……そ、そうですよねっ! 」
◆◆◆
この日、メルも“大人の対応”を会得した。
メルの“疲労度”が少し上がった。
◆◆◆
暫くの後、俺達は第一の依頼目標地点へとたどり着いた。
依頼内容は青柳の周囲に生えるキノコの採集。目標個数は五〇個、尚収穫量に依り報酬の増減あり……
……と言った感じらしい。
だが、ガーベラさんが依頼内容の説明を終えるや否や、エリシアさんは荷馬車を飛び降りキノコの採集をし始めた。
の、だが……
「では早速……って、エリシアさんッ?! 」
「全部私に任せろぉぉぉ~! ……エイッ!
そりゃそりゃそりゃぁぁぁぁぁぁっ! 」
とても人間技とは思えない速度でキノコを採集し、荷馬車の横に恐ろしい勢いでキノコを積み上げて行ったエリシアさん。
あまりの光景に完全に引いていた俺達……だが、オルガさんとガーベラさんは見慣れて居るのか手伝おうとした俺達に対し……
「座ってるだけで良いと思うわよ? 」
「そうだな……それに毎回こんな調子だ。気にしていたら……“疲れる”ぞ? 」
「そうなんですか……に、しても凄い速さ……って。あれ、もう一〇〇個位ありませんか? 」
「本当ね……もうその辺でいいわ!
次の場所に行くわよエリシアっ! 」
「え~っ? もっと採集したかったのにぃ~っ!
ま、いっか! ……あとは任せたっ! 」
うず高く積まれたキノコ。どうやら荷馬車に乗せる役目は俺に託された様だ。
だが……
「よいしょ……って、これ重ぉッ?! 」
「えっとねぇ~……気をつけないと腰がぶっ壊れるよぉ??
そのキノコ、一個大体約一キロはあるからね~っ! 」
「なッ!? ……このキノコ鉄か何かで出来てるんですか?!
全く……唯の採集依頼で何故B級なのか理解しましたよ。
って、それはそうと……流石に一人だとキツイんで手伝って貰えます? 採集の時、“これ”を軽々と投げてたエリシアさんなら……」
「よぉ~しっ! この調子で早く次の採集場所に行くぞぉ~っ♪ 」
「ああ、無視ですかそうですか……」
ともあれ。
暫くの後、二箇所目の依頼場所へと到着した俺達。
次の依頼内容は――
“モグラどんぐりを五個(匹)採取”
備考:毒系の魔物につき注意
――と言う物だったのだが。
この採集対象にエリシアさんは……
「うわ、あれかぁ~っ……あれ、ちょ~っとだけ手間なんだよねぇ~っ……」
「……と言うと? 」
「えっとねぇ~……“モグラどんぐり”って言うだけあって、生きてて、動くんだけど~……尖った所で刺されると治癒程度では治らない猛毒を食らうから、眠らせて、頭のヘタを取って動かなくさせないと駄目なの。
だから……此処はガーベラさんの出番だねっ! 」
「……睡眠魔導で良いのね? 」
「うんっ! ……けど、襲い掛かって来る可能性もあるし?
……主人公っち~! 雷魔導使えるかなぁ~っ? 」
「い、一応使えますが……俺は何をすれば? 」
エリシアさん曰く、指し示した場所に雷魔導を放って欲しいらしい。
これを了承すると、エリシアさんは直ぐに三箇所を指し示し、少し慌てつつもその通りに雷魔導を放った俺。
すると……電撃が直撃した場所から、感電状態のモグラどんぐりが顔を出した。
意外と可愛い見た目に罪悪感を覚えた俺だったが、すかさずガーベラさんが睡眠の魔導を放ち……
「睡眠の魔導……眠れ、永久に! 」
モグラどんぐりは完全睡眠状態となった。
一方、エリシアさんはその隙を見計らい、迅速に確実に、採集用のナイフでモグラどんぐりのヘタを取り外すと、毒のある尻尾の棘にそのヘタを被せた。
……後で聞いた話だが、ガーベラさんの使用した強力な睡眠の魔導ですら数十秒で目覚める程、状態異常耐性の強い魔物なのだそうだ。
もし仮にエリシアさんが居なければ誰かが大怪我をして居た可能性もあるだろう……
……話し方が“独特”過ぎて気が付かなかったが、俺は、彼女が凄い人だと言う事をこの時漸く知った。
ともあれ……残るモグラどんぐりも危なげ無く採集したエリシアさんは、次の最終目標をガーベラさんに訊ねた。
だが、ガーベラさんは……
「……エリシア、仮にも貴方は護衛対象。次は面倒な魔物の討伐依頼だから……貴方は隠れてて」
護衛対象であるエリシアさんの危険を考えてか、少し冷たい雰囲気を纏いつつそう言った。
だが……
「別に……私が倒しても良いよ? 」
さっきまで天真爛漫だったエリシアさんは、一瞬だが、怖い位に真剣な表情を浮かべ静かにそう言った。
だが、その反面“杖”すら持って来て居ない彼女に対し……
「へっ? でもさっき杖は置いて来たって……」
そう、当然の疑問を口にしたメルちゃん。
だが、彼女は再び……
「だいじょぶだいじょぶぅ~! 」
と応えたのだった。
この直後……
「兎に角……移動するわよ! 」
そう、僅かに少し語気を強めたガーベラさんの号令に急いで荷馬車へと戻った俺達は……この後、荷馬車に揺られ辿り着いた最後の目的地で依頼内容に目を通した。
依頼内容は――
“ウッドウルフを五体倒し、その牙を回収する事”
――との事だったが、さっきまでのほんわかムードは何処へやら、オルガさんとガーベラさんの顔つきが明らかに変わって居る事に気付いた……何を言わずとも分かる。
この敵は、相当に危険度が高いのだろう……
「……少し面倒な敵だけれど、この人数なら何とかなるわね」
少しピリついた雰囲気でそう言ったガーベラさんに対し、どう面倒のかを訊ねた俺……だが、この問いに応えたのはエリシアさんだった。
「えっとね~……単純に言えば“木で出来た狼”なんだけどぉ~。土の上に居る限り何度でも回復するし、動きが早いから、ちゃんと止めないと辛いかもねぇ~?
割とマジで~……油断してたら危ないよん? 」
「そうなんですね……って噂をすればあれ!
木で出来た狼……本当だ、あれがウッドウルフでは?! 」
「そうだけど~……あちゃ~っ、一〇匹以上居るね。
……取り敢えず、主人公っちは減衰装備を一個外して動きを止める技を使ってみてね~♪ 」
直後、エリシアさんの指示通りウッドウルフの群れに足止めの魔導を放った俺。
だが、二匹取り逃がし……あろう事かその二匹はエリシアさんを狙い突進した。
だが何故かエリシアさんは避けようとせず静かに目を閉じ……
「エリシアさんッ!!! 危ないッ!!!!! ……」
「……大丈夫。
大地は裏切らない、から――」
「――大地よ、微睡め。
狂泥之沼――」
“一体、何が起きた? ”
彼女は確かに呪文を唱え、眼前の地面は沼地の様に変化した……だが、杖も無しに此程強力な魔導技を放てる理由が分からない。
「そ、そんな……杖も無しで……」
「主人公っち! 驚いてないで~早く討伐討伐~ぅ!
火環辺りを使えば牙だけが残るよ~ん♪ 」
「は、はいッ!!!……火環ッ!! 」
直後、何とか無事に討伐は出来た……だが、エリシアさんが使用した技は一体何だったのだろう?
少なくとも、この瞬間“訊ねたい気持ち”が顔に出て居たのだろう。
直後、エリシアさん本人から……
「えっとぉ~っ……主人公っちが“不思議に思ってる”事、当てても良~ぃ? ……」
そう問われ、素直に頷いた瞬間……
「“この美少女は杖も持たずにどうやって魔導を?!
まさか、この美少女は天才なのか?! ”
……って思ってるでしょ~っ♪ 」
そう言った。
まぁ“美少女”は否定しないが、若干、イラッとする。
「い、いえ……あの……」
「……もぉ~っ! ノリが悪いなぁ~っ!
っと……一つ質問っ!
主人公っちは“固有魔導”って知ってるぅ~? 」
「いえ、初耳ですが……」
「……なら教えてあげるっ!
因みに今、私が使ったのも“固有魔導”なんだけど~、固有魔導は装備なんて無くてもフルパワーで発動出来る唯一無二の魔導なのだ~っ!
……えっへんっ♪ 」
「そ、そんな技が……」
「そうだよぉ? ……で!
私の固有魔導は、今見た通りの奴だよぉ~!
頑張れば、主人公っちもメルちゃんもいつか手に入れる事が出来ると思うよぉ~? 」
「えっと……どんなのが手に入るのか自分で判るものなんですか? 」
「えっとねぇ~……心から好きな物や、自らの出自に依る物、若しくは心から望む事に関する事象が固有魔導になる事が多いかなぁ?
……回数制限のある物とか、乱発出来る物とか~その人によって千差万別なのだ~っ! 」
「な、成程……精進します」
「す、好きな物っ?! はうぅぅぅぅ……」
「……ん~っ?
何でメルちゃんは顔が赤くなってるのかな~っ?
って! そんな事より……“あれッ!! ”」
直後、興奮し、ある場所を指差したエリシアさん。
彼女が醸し出した“ただ成らぬ雰囲気”に緊張が走った。
だが……
「レ……七色草。
……あったぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!! 」
「な、何だ……って。
敵かと思ったじゃないですか!!!
テンション考えて下さいよもうッ!!
って、聞いてないし……」
「だから言っただろう? 主人公よ……“疲れる”と」
ともあれ。
こうして日が落ちるまでの間、エリシアさんは全力で採集を続けたのだった。
……帰り道、一人興奮状態のエリシアさんと、御者を含めた俺達全員のぐったりとした姿の対比が余りに酷な状態だった事は、言うまでも無いだろう。
「い~っぱい採集出来たぁぁぁっ! ……いやっほぉぉぉぉっ! 」
===第九話・終===




