第八話「楽な装備で、楽ではないハンター生活を」
“装備”一つを手に入れる為、俺は、命の危機を経験する事と成った。
“減衰装備”
……力を抑える為のこの装備の代金は、ラウドさんのご厚意で彼が負担してくれる運びと成ったのだが……反面、“トライスター専用装備”のせいで、俺達のパーティは稼ぐ前から大赤字と成ってしまって居て……
「あ゛~ッ……八〇〇万金貨の借金とか洒落にならん!
ってかマジで、ラウドさんもこんなに高いなら最初に教えておいてくれたら良いのにさぁッ! ……」
「で、でもっ! ……それだけ強い装備って事ですから、地道に依頼をこなしていけばいつか必ず完済できますよ! 」
ヴェルツ一階。朝食時、愚痴を溢す俺に対しそうフォローしてくれたメルちゃん。
一方、そんなメルちゃんとは対照的な反応を見せたマリアは……
「……メルちゃんの意見に賛成したいのは山々ですけど、さっきギルドの掲示板を見てみたらスライムの関連依頼が暫く受けられなくなってましたよ?
もしかしてですけど……他の依頼も“魔王軍”の餌食に成ったりして? 」
「う゛ッ……お前、何時までそれを引っ張るつもりだ……」
「で、でもでもっ! 減衰装備も手に入りましたし、力の制御も出来る様になった訳ですから、次の依頼はきっと上手く行くと思いますっ! 」
「ありがとうメルちゃん、少し元気が出たよ……
……さて、そう言う事なら取り敢えずギルドにでも行って依頼を見てみよっか! 」
「はいっ! 」
直後、ギルドへと向かい依頼掲示板に目を通した俺達。
掲示板には難易度別に様々な討伐依頼が掲載されて居るのだが……
……確かに、マリアの言った通りスライム関連の依頼が全て受けられなく成って居て……
「う゛ッ……うーん、どれが良いんだろう? 」
言うまでも無く、報酬が大きい程危険で、安全を優先すれば雀の涙程の報酬しか稼げない。
そもそも、今日受ける依頼は減衰装備を装備した状態で挑む始めての依頼だ。
適切な物を選べなければ、再び俺は失敗し八〇〇万金貨の返済もより遠のいてしまうだろう。
だが……悩みに悩み、唸り声さえ上げて居たこの瞬間、俺達の背後に現れた“著名なハンター”。
それは……オルガさんだった。
どうやら彼も依頼を受けに来た様だ。慣れた様子で依頼を見比べて居る彼ならば、俺達に向いて居る依頼を見つけられるかも知れない……
「あ、あのッ!! ……先日はお世話になりましたッ!! 」
「おぉ! 主人公か! ……御主も依頼を受けに来て居たのだな? 」
「え、ええ……でも、どれを選んで良いのかが正直……」
「ふむ……御主の実力ならば討伐出来る魔物は多いだろう、だがパーティで動く際は全体を見る必要が有る。
無いとは思うが“金額だけ”を見て居る様では失敗の憂き目に遭う可能性が高まるだろう。
……くれぐれも用心する様にな」
「う゛ッ……すみません……で、でもその、俺の装備のせいで今借金が八〇〇万金貨程あって出来る限り早く稼がないと……」
「ん? ……待て主人公。
八〇〇万金貨……だと?
い、一体……何がどうなったらそうなるんだぁぁぁっ!? 」
瞬間、ギルド中に響き渡る程の大声でそう叫んだオルガさん。
直後、ギルド中の視線が俺達に注がれる事と成り……
「ちょッ?! とッ、兎に角落ち着いてくださいッ! 」
「落ち着けとは言うが……だ、大丈夫なのか?
“専用装備”が高いと言う事は私も知って居たが、まさか……そこまでとは」
「……お、俺もです。
唯その、俺より二人に対しての方が申し訳無くて……」
「はい! 主人公さんの装備のせいで私達、貧乏生活まっしぐらって感じです!
……ね~っ! メルちゃん! 」
「へっ?! あ、いやそのっ……で、でも楽しいですからっ!! 」
と、例に依ってマリアにイジられ、メルちゃんにフォローされる事と成った俺。
……だが、そんな二人の態度を見て居たオルガさんは、何故だか妙に“感動した”様子で……
「お前達……良し、分かった。
ならば今回は私が限定的にパーティに加わろうではないか!
そうすれば高額依頼も達成出来よう! 」
「えッ? ……い、良いんですか?! 」
「何……他ならぬ御主達の窮地だ、是非とも救わせてくれ。
それに、その……なんだ。
……お前達を見て居ると、懐かしくてな。私も久しぶりにパーティを組んでみたく成ったのだよ」
「オ、オルガさん……」
「だっ……だが!
私が参加するからには最低でもA級の依頼を受け、御主達の生活を少しでも楽にしてやらねば成らないっ!
……お、御主達も気を引き締めるのだぞ?! 」
「はいッ!! 」
オルガさんと言う頼りになる味方を得たこの日。
俺達は……“D級”だったスライムコアの採集からすれば余りに飛び級が過ぎる“A級”の依頼を受けられる事と成った。
の、だが……
「とは言え、A級の依頼って全部大変そうですけど……」
「いや……これならば容易いだろう。回避に専念すれば、この魔物は御し易い」
そう、慣れた様子で言ったオルガさんだったが、反面、メルちゃんはとても慌てた様子で依頼書の“詳細欄”を指差し……
「で、でもっ! ……“メガタウロス三頭”ですよっ?! 」
「……安心しろメル、こう見えても私は腕に覚えがある。
それに……万が一危ない状況に成ろうとも、主人公が減衰装備を外す事で……って主人公?!
お、御主……何故減衰装備を四つも着けて居る?! 」
「へ? い、いやその……何か作る時に四つ出来ちゃって……」
「何と……全く、御主は只者では無いな。だが、それならば戦略に幅が出ると言う物だろう。
……状況に合わせ“外す個数を変える”と言った形でな」
「な、成程……そう言う使い方も出来ますね!
じ、じゃあ取り敢えずその依頼を受け……」
「……あっ!
この依頼、材料で報酬がプラスされるみたいですよ? 」
俺を遮る様にそう言ってマリアが指差した依頼書の“備考欄”。
其処には――
メガタウロスの角:一つにつき金貨一〇枚
メガタウロスの心臓:一つにつき金貨二〇枚
――と記されて居た。
マリアがこれを指摘した瞬間、オルガさんは急いで依頼書を引き剥がし受付に持って行った……恐らく、余程“美味しい条件”だったのだろう。
……その際、受付嬢さんの目が“ハート”に成って居るのが遠目からでも分かった事は兎も角として……この後、節約の為荷馬車は雇わず、依頼場所まで徒歩で向かう事に成った俺達。
しかし、俺の“物理適性の無さ”が災いし……
「け、結構遠いな……足が痛い」
「治癒魔導で直しますね……治癒っ!
ど……どうですかっ? 」
「おぉ凄い! 楽になったよ……って言うか、治癒魔導にこんな使い方があるとは知らなかったよ。
……ありがとうメルちゃんッ! 」
とお礼を言った瞬間、少しだけ誇らしげな顔を見せたメルちゃん、だがその一方でマリアは俺の軟弱さに……
「……主人公さんったらダメダメですねぇ?
私なんて斧と甲冑ですよ~? ……ま、全然軽いんですけど! 」
汗だくで、今にも倒れそうな俺とは対照的に、マリアは汗一つかかず、斧を振り回しながら元気にそう言った。
……一方、そんな姿を見るなりオルガさんはマリアを称えるかの様な口調で……
「ふむ……剛毅な事だ。
“バーバリアンの再来”とも言えるこの勇姿、主人公も少しは見習うべきであろうな! 」
そう言った。
だが……
「うぅ……それ、褒められてる気がしないです……」
マリアは何故か落ち込んだ様な表情を浮かべ、斧を大人しく構え直したのだった。
ともあれ……暫くの後、俺達は漸く依頼の地域へと足を踏み入れる事と成ったのだが……
「も……もしかして“あれ”がメガタウロスですか?
にしても、大きいな……」
所謂“猛牛”と言った出で立ちの魔物を前に、圧倒され僅かに腰が引けた様な発言をしてしまった俺に対し、オルガさんは冷静な口調で……
「いや……あれは普通の“タウロス”だ。
討伐対象はあれの約五倍程ある」
「は? ……いや、それってもう化け物の類では? 」
「シッ!! ……その“化け物”が向こうに居るぞ」
そう言って彼が指し示した方角には、ゆっくりとした足取りの、全高一〇メートルを超える巨体が見えた。
……成程。
“A級”ってこう言う事か……
「あ、あの……討伐方法は? 」
「……意外かも知れんが“真正面”が奴らの死角だ。
それ故、出来る限り正面から近づけば安全だが、その為には周りのタウロスが鬱陶しい。
故に、先ずはタウロス共をマリアに押さえて貰おうと考えて居るのだが……出来るか? 」
「はい、頑張ります! 」
「良い返事だ……ならばメルは念の為マリアの補佐を、主人公は私と共に行動だ……減衰装備は一応、そのままで良い。
一度、威力の確認をしたいからな。
……私が合図をしたら一つずつ外す事、出来るだけ綺麗な状態で素材を手に入れる必要もある……水魔導の“氷刃”で切り落とすのが良いだろう。
主人公……出来るか? 」
「は、はいッ! ……頑張ります」
「良し……角と心臓を傷つけず絶命させる必要がある。
少々残虐な攻撃方法に見えるかもしれないが、奴を苦しめぬ為にも、先に頭部を切り落とすべきだ。
その為にも……先ずは私がメガタウロスを引きつけよう。
全員……私が合図をしたら状況開始だ。
……良いな? 」
「はいッ! ……」
直後。
オルガさんの合図を受け、マリアとメルちゃんは“囮作戦”を開始……
……作戦成功の為、少しでも注目を集めんと凄まじい勢いで斧を振り回しながら走り回って居たマリア。
一方、その様子を見たメルちゃんは――
“凄い、やっぱり……マリアーバリアンですっ”
――そう、小さく呟いた。
だが……メルちゃんの居る場所から遥か遠くに居た筈のマリアは、そんな小さな呟きにさえ反応し……
「もう! メルちゃん! ……その語呂悪い呼び方やめてくださいっ! 」
と、文句を言いながらも既に数体のタウロスを討伐して居たのだった。
「マリア、凄いな……」
「うむ……やはり“バーバリアンの再来”だな。
さて……此方も準備が整った、征くぞ主人公ッ!!
ウォォォォォッ!!! ……憤怒の視線ッ!! 」
瞬間。
オルガさんは“憤怒の視線”と言う魔導技を発動させた。
どうやら、この技は対象の注意を自らに向ける事が出来るらしい。
……成程、ゲームで言う所の“タンク役”っぽい動きだろう。
直後……それを証明するかの様にメガタウロスはオルガさんの方に向き直り、凄まじい勢いで突進を繰り出した……だがオルガさんは動かない。
急激に距離を近づく距離……だが、それでもまだ動かない。そうして、限界まで惹き付けんとするオルガさんの額には冷や汗の様な物が見えた。
……“余裕”じゃ無い、のか?
直後、俺の腕に疾走った緊張感……
「主人公……今だっ!!! 」
「はいッ!
氷刃ッ!! ――」
叫ぶ様なオルガさんの指示に従い俺の放った氷刃は、凄まじい勢いでメガタウロスの首に直撃した。
だが……駄目だ。
これでは“両断”どころか掠り傷だ。
……尚も迫るメガタウロス。狼狽える俺に対し、再びオルガさんは叫んだ。
「一つ外せぇぇぇぇッッ! 」
「は、はいッ!!
ひ、氷刃ッ――」
危機的状況に於ける二撃目の氷刃は、再び、メガタウロスの首へと直撃……その首を一刀両断した。
「ふむ……一つ外してこの威力とは恐ろしい。
この調子であれば、日暮れまでには達成出来るだろう……」
「そ、そうですね……って、オルガさん……あれッ!! 」
俺の指差した場所に居たのは、メガタウロスすら霞む程の巨大なタウロスだった。
……“それ”は唸り声をあげながら地面を抉り取るかの様に、猛烈な勢いで此方に向かって来て居た。
「あれは……ギガタウロス?!
不味い、奴はこの場所の“ヌシ”だっ! 」
「ヌ、ヌシぃッ!? 何でそんなのがいきなり……って、だとしても減衰装備をもう一つ位外して氷刃を放てば! ……」
「馬鹿な事を言うな……全て外して良い位の敵だ!
死にたくなければ全力を出せッ!! 」
この瞬間。
目を血走らせながらそう叫んだオルガさんの様子に、全ての減衰装備を外そうとした俺……だが、焦りの感情は俺の動きを鈍らせてしまって……この上不味い事に、時間稼ぎの為とオルガさんの繰り出した“憤怒の視線”は“ヌシ”には全くの意味を為さず……
「何っ!? ……主人公っ!
避けろぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!! 」
唐突に訪れた危機的状況。
他への興味など一切無い様子で一直線に俺へと差し迫った“猛獣”は、その規格外の体躯を以て、俺を粉砕せんと更に速度を上げた。
嗚呼……間に合わない。
あの日、俺を轢いたトラックが赤子に見える程に大きなこの猛獣に、この瞬間、俺は“諦め”を感じた。
だが……この直後、そんな俺達へと齎された、何処からとも無く飛来した黒く禍禍しい槍状の“何か”……“それ”は“猛獣”の胴体に突き刺さり、その動きを完全に止めた。
「……と、止まってる?
い、一体これは……」
「彼処だっ!! 」
直後、オルガさんは遥か遠くの丘を指差し、そう叫んだ。
……其処に佇む頭巾を被った謎の存在。
彼は……
「まだ……甘いな」
此方の視線に気付き、敢えて聴こえる様にそう言い残し、何処かへと消え去った謎の存在。
「奴は一体……」
釈然としない何かを感じたこの瞬間、俺は、それが“悔しさ”だと知った。
「主人公よ……例え他を捨ててでも“ヌシ”の材料だけは必ず持ち帰るぞ」
暫くの後、動かなくなった“ヌシ”を見つめながらそう言ったオルガさん。
「わ、分かりました……えっと、角と心臓で良いんですよね? 」
「うむ……それと目、尾の芯、蹄の付け根の計五箇所だ。
……どれも高級な装備や薬を作る際の材料だ。高く買い取ってくれる店が多い。
ある意味、運が良かったのだろう……まぁ“黒槍”の存在は少し気掛りだがな……」
「ええ……でも、助けてくれた訳ですし悪い奴では無いのかも知れませんね……」
「いや、どうだろうな……だが、一先ずは後二頭のメガタウロスを討伐せねば成らん。
何処かにメガタウロスは……って、いかんっ!!!
マリアに突進して居るぞ!! 」
「な゛ッ!? ……マリア、危ないっ!!! 」
「わあっ!? ……って、何ですかもぉぉっ!!!
びっくりさせないで下さいよぉぉぉぉぉっ!!!
許しませんからねぇぇぇぇっ!!!
“十連乱撃ッ!! ”――」
瞬間。
マリアの繰り出した咄嗟の乱撃は、メガタウロスをいとも簡単に討伐してしまった。
嗚呼、心配して損した……のか?
何だか判らないが……兎に角、疲れた。
「ま、マジかマリア……信じられない馬鹿力だ」
「うむ、やはりマリアはバーバリアンの再来か」
マリアに集まって居た俺達の視線。
勿論、全員引いて居た。
「えっ? ……私何かやっちゃいました? 」
「いや、自覚が無いのが怖いしそもそも何でお前が“その発言”するかなぁ……
……一般的に考えて、それ“俺の役目”じゃないの? 」
この瞬間のマリアの異次元な物理適性の高さは、まるで“カンスト”して居るかの様ですらあって。
……そんな異次元に正直かなり引いて居た俺達だったのだが、一方で、オルガさんは……
「ふむ……それ程の腕が有るのならば最後の一体はマリアに任せるのが良いだろう。
マリア……あれを倒せるか? 」
と、マリアに対しメガタウロス討伐を指示し……直後、二つ返事でメガタウロスの元へと走り去っていったマリアは更に余裕で討伐し……俺達はより一層“ドン引き”した。
「みなさ~んっ! ……やりましたよぉぉぉ! 」
「お……おう、ナイスだマリア」
(うん、マリアを怒らせるのだけはやめておこう)
「ちょ? ……なんで皆さん引いてるんですか?
ひょっとして……私、やっぱり何か変な事を!? 」
「い、いや……マリアは素敵だよ」
そう言った俺を皮切りに……
「そ、そうだな……マリアは素敵だぞ? 」
と、妙に緊張したオルガさんがそう続け……
「サ、サァ~皆サン! 素材を集めないとデスヨーッ! 」
と、メルちゃんまでもがとんでも無く余所余所しい態度を取ってしまった事で……
「やっぱり皆さん何かおかしいですよ~! ……もぉぉっ! 」
マリアは少しだけ拗ねたのだった。
ともあれ……全ての採取が終わり、材料と共に転移魔導でギルドへと戻った俺達は、討伐報酬分として“金貨四三〇枚”、そして、受付嬢さん曰く、俺・マリア・メルの三人に付いて居る“初心者初達成報酬”が一人あたり“金貨五〇枚”加算されるとの事だったので、晴れて俺達は合わせて“金貨五八〇枚”を受け取る事が出来たのだった。
だが、そんな中オルガさんは……
「……私は端数で構わん、残りは皆で分けると良い」
「えッ? ……そんなに貰っても良いんですか? 」
「構わん……まだ“ヌシ”の素材があるのだから気にするな」
「確かに……って、あれ?
そう言えば“ヌシ素材”はギルドに納品しませんでしたけど……」
「ああ……ギルドでは買取が低くてな。
心臓だけは薬屋に持って行く必要があるが、後の素材は、全て武具店が一番高値で取ってくれる筈だ」
「ほぇ~ッ……詳しいんですねオルガさん」
「村を護る為、少しでも稼がねばならんだけだ」
「成程……けどそれなら尚更八〇枚程度では申し訳無いですよ! 」
「……ならばギガタウロスの素材の儲けは半分ずつにするか?
始めに言って置くが……此方の金額は相当に大きいぞ? 」
「はい! ……その方が落ち着きます! 」
「ふむ……真っ直ぐな男よ!
良し! では少しでも高く買い取って貰う為、新鮮な内に急いで売りに行くとしよう! 」
「はいッ! 」
直後、オルガさんに連れられ薬屋へと到着した俺達。
……店の扉を開けるや否や、何故か薬師の店主は大興奮して居て……一方のオルガさんは、その姿を見るなりニヤリと笑い、慣れた様子で金額の交渉を始めた。
だが……二人は何故か、金額では無く“何個分”と話して居て……
「成らば……二〇個分が妥当か」
「いやぁ~毎度上手い所を突いてきますなぁ?
分かりました、では今回のお品は二〇個分で……」
「あ、あの……一〇個とか二〇個とか何の話ですか? 」
「ん? ……メガタウロスの心臓の二〇個分という事だが? 」
「へ? じゃあ二〇掛ける二〇で……よ、四〇〇枚ですか?! 」
「そうなるな……ちなみにこれを材料とした薬は、その値段の更に“一〇倍”の価格で取引されている様だがな」
「ヒエーッ……恐ろしい」
少なくとも今の俺に取っては天文学的な金額を、余裕の表情で口にするオルガさんに驚いて居ると、薬師の店主は……
「ええ……昔から“薬九層倍”と言いますからねぇ? 旦那」
そう言うとニヤリと笑った。
嗚呼、なんか怖いこの人。
「たッ、確か……“儲けが九倍”って意味ですよね? 」
「おや? 良くご存知ですな……」
「い、いえ……それよりもその素材ってどんなお薬に成るんですか? 」
そう質問した俺に対し、オルガさんは困った様な表情を浮かべ“女性陣に聞かせるべきでは無い”と言い切った。
だが、これが不味かった……完全な逆効果だ。
そんな事を言われれば“聞きたく成る”のが人の常で……
……マリアとメルちゃんは薬師の店主に対し興味津々で薬の効能を訊ねた。
そして……次の瞬間、店主の口から飛び出したのは二人が決して聞くべきではなかった“効能”……
「……絶倫薬。
つまり、男性の"股間”を元気にする薬ですな! 」
「えっ? ……あのっ、そのっ……はうぅぅぅぅ……」
と、見る見る内に顔を真赤にしたメルちゃんとは対照的に、マリアは至って冷静な表情で……
「ああ、それ系ですか」
「マリア、お前……引くわ。メルちゃんを見習おうか……その“恥じらい”的な意味でさ」
などと話していると、オルガさんは興味津々な様子で薬師の店主に対し……
「そう言えばだが、人間はその様な物が必要なのか? 」
「ああ、旦那の種族には必要ありませんが、人間は歳を取ると……」
“不味いよ、掘り下げちゃったッ! ”
……この時点でメルちゃんは顔だけでは無く耳まで真っ赤に成って居た。
一刻も早くこの“猥談”を止めなければ、メルちゃんが“沸騰した薬缶”みたいに成りかねないッ!
「て……店主さんもオルガさんももう止めましょうよこの話!
メルちゃんが真っ赤っかだから!
てか、外出てようかメルちゃん……ねッ?! 」
「はぃぃっ……」
暫くの後、オルガさんと店主の“猥談”も終わりを告げ、店の外で待って居た俺達の元へと帰って来たオルガさんは、二〇〇金貨を俺に手渡すと、残りの材料の話を始めた。
……何でも“特級武具店”と呼ばれる店へ持って行く事に決めたらしいのだが……
「良いか? ……あの店は交渉が肝だ。
気に入らない話だが、彼処の店主は大人数や女連れで行くと足元を見る……故に主人公と私の二人だけで行くのが得策だろう。
つまりだが……二人は宿に帰って居ると良い」
この後、オルガさんの指示通り二人をヴェルツに送り届け、特級武具店に向かう事と成った俺。
……だが、店の近くまでたどり着いた時、オルガさんは何故か俺に対し……
「主人公……“蹄の付け根”と“尾の芯”は御主が隠し持って居てくれ。
私が合図をしたら台の上に置くんだ……嫌味な程に堂々と。
それと……金貨をそのまま持って居ては危ない。“インベントリ”に保管しておくと良い。
使い方は……唱えれば判る」
「は、はいッ! ……インベントリ! 」
呪文を唱えた瞬間、魔導力で形成された宝箱が俺の前に出現した。
……そういえばラウドさんも使って居たが、残念な事に、オルガさん曰く入れられる物は純粋な金、銀、銅……及びそれらで作られた現金だけ、との事だった。
此処に荷物とか素材とかも入れられたら一体どれだけ楽なのだろう?
ともあれ……この世界を作る際参考にした筈のゲームとは少しだけ違う仕組みに不便さを感じつつ、オルガさんの案内で特級武具店へ入店した俺は……
「らっしゃい……ほう?
この香りは、ギガタウロスの材料ですかな? 」
入店早々、曲者っぽい店主の接客を受ける事と成った。
……オルガさんも顔では笑っているが、正直、余り好みのタイプでは無いのだろう。
「流石だな店主……匂いで判るとは」
「長いですからな……部位は何処です? 」
「残念だが……角と目だけだ」
「ほう? ……手負いを逃しでもしたんですかい? 」
「いや、運良く手に入れただけだ……」
「そうですか……蹄でも有れば一〇〇〇枚……って所だったんですがねえ? 」
「それは……惜しい事をしたな」
「……尾も有れば更に一〇〇〇枚って所でしたが、角と目だけなら……五〇〇枚がやっとですな」
「そうか……残念ながら私は持っていない」
「では、今回は五〇〇枚って事で……」
「いや、待ってくれ……主人公が持って居るのを忘れて居たよ」
オルガさんの“合図”に合わせ机に残りの素材を置いた瞬間、店主の表情が曇った。
「蹄と尾だ……これで二〇〇〇枚だったな? 」
「なっ?! ……食えないお方だ」
「お互い様だよ、他で売っても良いが……どうする? 」
「そ、その必要はありません……
……お約束通り二〇〇〇枚で承りますよ」
「売ったっ! ……主人公、これで良いな? 」
「え……ええ、俺はそれで……」
(ってか完全に依頼報酬より多いのだが……)
「……さて、これで金貨二〇〇〇枚ですな。
所で……そちらの御仁、なかなか恐ろしい装備をして居られますが……もしや貴方様が“噂のトライスターさん”で? 」
「ええ、一応トライスターではありますが……」
「……やはり、そうでしたか。
国宝級の装備を見せられますと流石にウチの店の装備程度では全く太刀打ち出来そうにありませんのでね……まぁ、もし何か材料を手に入れられましたらば、どんな小さな材料でもウチに持って来て頂ければ他所よりは高値で買い取らせて頂きますので、今後とも是非、ご贔屓にお願いしますよ? 」
「そ……それは助かります」
「ほう……ならば、その時は私も付いて来るとするか」
「オルガ様が? ……それはまた痛い話ですねぇ? 」
「相変わらず食えん男だな……店主よ」
「ええ……“お互い様”でございますとも」
「……あの調子だ、買い叩かれん様にするだけでも大変だが、反面、誰よりも物の価値を知って居る男ではある。
さて……ヴェルツに向かうか」
「ええ……オルガさんが居ない時には行かない様にして置きますッ!
そ、その……今日は有難う御座いましたッ!! 」
「構わん構わん! ……今日は良い日だ、盛大に飲むぞ! 」
「はい……付き合いますッ! 」
暫くの後、ヴェルツに帰還した俺達を二人は笑顔で迎えてくれて……
「主人公よ……早く金額を教えてやるが良い」
更に喜ばせる為か“肘で俺を突きながら”そう言ったオルガさんに促され……
「あ、はいッ! ……二人共、喜んでくれ!
何と何と! ……金貨一〇〇〇枚にも成ったんだ! 」
「えっ?! ……って事はさっきの材料の二〇〇枚と合わせると合計七〇〇枚って事ですか?
凄い金額ですけど、その反面依頼自体の報酬の方が少ないのは悲しい気がしないでも無いですね~……」
と、冷静な表情でそう言ったマリアに対し、“既に山分けした後だ”と説明した俺。
直後、絵に描いた様に“固まった”マリアが面白かったし、メルちゃんもとても喜んでくれて居た。
だが……今回の儲けを全額返済に充てても残りの返済金額は七九九万八八〇〇金貨だ。
……どう考えても道は遠いし、頭が痛く成る様な数字だ。
正直、国に仕えた方が良かったのだろうかなどと考えながらも、一応の大成功を俺自身も喜んで居たその時、俺達のもとにラウドさんが現れ……
「……ほっほっほ、早速大金を稼いだ様じゃのぅ? 」
「ええ、まぁ“焼け石に水”っぽいですが……」
「とは言え、今回の依頼はA級の魔物じゃろう? 」
「はい、それでも結構苦戦しましたが……」
「ふむ……どうやら主人公殿は自らを過小評価しておる様じゃな?
……慣れぬ最初の依頼、且つオルガ殿が居ったとは言えA級をクリアし、ギガタウロスまで討伐したのじゃろう?
S級やその上のSS級……やがてはL級まで達成出来るじゃろう」
「えっと……S、SSはまだ分かりますけどLってなんですか? 」
「“伝説級”と言う事じゃよ。
滅多に無い依頼じゃし、そもそも魔王軍の幹部や都市級魔物等の討伐依頼と言った規格外の難易度にはなって来るのじゃろうが……」
「た……大変そうですけど、そんなの俺に解決出来るんですかね? 」
「……いきなり挑めばそれは無謀じゃが、SやSS級の魔物との戦いに体を慣らし、此処ぞと思う時に挑戦してみると良い。
そもそも御主は今日“S級相当”の魔物を倒したのじゃからのぅ……」
「えっ……あれってS級なんですか? 」
「ん? 余裕じゃったかね? 」
「いえ、そうでは無く……少し気になる事がありまして」
直後、ラウドさんに対し頭巾姿の謎の人物について伝えた俺。
ラウドさんの方でも調べるとの事だったが、彼奴は一体何だったんだろう……
「……兎も角、ご苦労じゃった!
今日はゆっくり休むと良いぞぃ! ……それではのぅ! 」
「はいッ! ラウドさんもお疲れ様です! ……」
「……やっぱり主人公さんって凄いですっ!
わ、私もなんだか嬉しいですっ! 」
「ありがとうねメルちゃん……けど、メルちゃんが凄く良い動きしてたお陰でも有ると思うな、俺は。
兎に角……お互いこの調子で頑張ろう!
けど、無理だけはしないでね? 」
「はいっ! 頑張りますっ! 」
などと話しているとマリアは……
「何だろ、私的には次の依頼はS級辺りを漁ってみるのも有りかもって思ってますけど、いざと成れば主人公さんは減衰装備外した状態で戦えば良い訳ですし、一個だけ着けて戦う分には“先程”みたいな事には成らないでしょうし?
それに……メガタウロスって凄く弱かったですし! 」
「う゛ッ……さっきのは本当にごめん。
今度からはちゃんと動ける様に気を引き締めて置くよ。
それはそうと……確かにマリアは明らかに余裕があったよな。流石は“マリアーバリアン”だわ……」
「なっ!? だから語呂が悪いっ! 」
「いや、毎回思うけど突っ込む所其処じゃ無いと思う」
ともあれ。
暫くの後、オルガさんとの祝杯も終わり、自室へと戻った俺達。
……初仕事の疲れが原因か、早々に眠りについたマリアとは対照的に、俺は“頭巾の人物”について考えて居た……
(……それにしても、彼奴は一体何が目的だったんだ?
味方の様な行動ではあったけど、どうにも怪しさが勝つんだよなぁ……)
「フフフッ……」
「なッ?!……」
「主人公しゃん……ギガタウロスも……
弱い……れすよぉ~っ……ムニャムニャ……」
「何だ、マリアか……にしても酷い寝言だな。ふわぁ~っ……さて、俺も寝るか」
◆◆◆
「……ええ。
減衰装備を二つ程装着した状態で“氷刃”を放ち、あの、ギガタウロスの首をいとも簡単に切り落としました」
「ほう? それはなかなか……引き続き監視を続けよ」
「ハッ……」
===第八話・終===




