第七話「抑える事を覚えたら楽勝ですか? 」
“大失敗”を経て何故かエルフの村で歓迎を受ける事と成った俺達は、そのお陰で幸運にもエルフ族との友好関係を築く事が出来たのだが……
……反面、“スライムの草原をふっ飛ばす”と言うとんでも無い大失敗のせいで、記念すべき皆との初めての依頼は失敗に終わってしまった。
だが……この日、訪れた“本当の問題”はそんな規模では無くて……
「……残念ながら、今回の依頼は“失敗扱い”と成ります。
ですが、皆様がお怪我無くお帰りに成られて安心しました」
帰還後、俺達はギルドの受付嬢さんからそう伝えられた。
これは……“良かった”と思うべきなのだろうか? 彼女の口振りからすると、少なくとも俺のせいだとバレては無いみたいだが……反面、ほんの少し、罪悪感を覚えたし……
「ナ、ナニカアッタンデスカー? 」
そのせいで自白に等しい棒読みに成ってしまった。だが……
「えっ? ……ご、ご存じなかったのですか?!
スライムの草原に対し魔王軍の手の者が攻撃を行ったらしく、その攻撃は――
“地形が変わる程の大惨事であった”
――との情報が、魔導隊の皆様から寄せられて居るのです。
それで、皆様がお帰りになられなかったのでもしや巻き込まれたのではないかと、ヴェルツの女将様も心配して居られたのですが……」
「そ、そうだったんですね~……って?!
……不味い、ミリアさんに連絡入れ忘れてたッ!!! 」
「……でしたらお早めにご連絡された方が宜しいかと思います。
それはそうと……事件当時、皆様は何処に居られたのですか? 」
突如として真剣な表情に変わり、そう、問い質す様に言った受付嬢さんの態度に、ほんの一瞬狼狽えた俺だったが……
「そッ?! れは……ス、スライムの草原に向かう途中、道に迷って居たら、親切なエルフ族に村へ案内されまして……
……ギ、ギルドのバッジのお陰で宴まで開いて頂いちゃって!!
そッ……それで帰りが遅かったんですよ!! 」
と、何とか体裁を整えそう伝えた、直後……
「えっ?! ……もしかしてオルガ族長の村ですか?! 」
何やら興奮気味にそう問うた受付嬢さん。この問いを肯定した瞬間、受付嬢さんのテンションは“ブチ上がり”……
「えぇぇぇぇぇぇぇっ?! 羨ましいですっ!
オルガ族長と言ったら! ……」
と、口を開くや否や超絶興奮状態でマシンガントークを続けた受付嬢さん。
……話を聞く限り、彼女はどうやらオルガさんに対し“憧れ”と言う言葉では足りない程の強い恋心を持って居る様だった。
まぁ……“草原の一件”から話が逸れてくれる分には大歓迎だし、受付嬢さんの夢を壊さない為にもオルガさんが“半端無く尻に敷かれてた”って事は内緒にして置くべきだろう。
まぁ、なにはともあれ……
「たッ、確かに格好良い人デスヨネ~……」
「ですよねっ?! ……っと、失礼致しました。
ほ、本題に戻らせて頂きます……
……本来、依頼の失敗は罰金を頂戴する事もあるのですが、今回の場合、状況が状況ですので罰金は免除と言う形と成ります。
ギルドとしてお伝えすべき情報は以上ですが……本当に皆様がご無事で何よりでした」
「……本当にご心配をお掛けして申し訳有りませんでした。
そ、その……一先ずミリアさんに挨拶してきます! 」
「ええ、そうされた方が良いかと思います! 」
直後、受付嬢さんに別れを告げギルドを立ち去ろうとして居たその時……
「おぉ、帰って来たか……しかし、良くぞ無事じゃったのぅ? 」
「あッ! ラウドさん! ……それなんですけど、有り難い事に、エルフ族の村でお世話に……」
「ん? ……と言う事はオルガの村じゃな?
主人公殿の事は良く自慢して居るし、“色々と”聞かれたじゃろう? 」
「ええ、そのお陰と言いますか、族長直々に“魔導技の特訓”までして頂きまして……
……この件を今度ラウドさんに“自慢する”って言ってましたよ? 」
「何ぃっ?! ……奴め、抜け駆けとは汚いっ!
……こ、今度はわしも特訓に付き合う故、いつでも来るのじゃぞ?!……絶対じゃぞ?! 」
“何だ、この人可愛いな”
そんな感想が脳裏を過った直後、俺は、ある事を思い出し……
「あ、ありがとうございます……って、そうだ。
装備に関する質問が一つあるんですけど……
……“減衰装備”って、この間のお店で手に入ります? 」
「ほう? ……唐突にどうしたんじゃね? 」
「それが、その……技の威力が“難あり”で、特訓の際にオルガさんの減衰装備を借りて特訓して居たんですが、その……壊しちゃいまして」
「何? ……奴の減衰装備が壊れたじゃと?
ふむ、それは間違い無く“必要”じゃ……主人公殿。
この間の材料の余りじゃが……まだ持っておるかね? 」
「はい……流石に重いのでお店にそのまま預けてますが……」
「ふむ、ならばその材料で作れるじゃろうて!
では、早速行ってみるかのぅ? 」
「いえ……その前にヴェルツの女将さんに挨拶したいんです。
俺達、とても心配をお掛けしてしまって居て……」
「ふむ……では、わしは先に行って居るから、用が済んだら来るんじゃよ? 」
「はいッ! ……」
と、そんな訳で一度ヴェルツに帰宅した俺達。だったのだが……
「……ミリアさ~んッ! 」
「なんだい、大きな声で人を……って。
主人公ちゃん?! ……ぶ、無事だったんだね?!
良かったよ……あんた達が受けた依頼の場所で“魔王軍の攻撃があった”って聞いて、居ても立っても居られず見に行ったら酷い状態でねぇ……
……差し詰め、魔王軍は力の誇示でもしたつもりなんだろうが、全く、傍迷惑な真似をする物さね……」
“魔王軍への熱い風評被害”は兎も角として。
この直後、またしてもマリアは不敵な笑みを浮かべつつ……
「ミリアさんの言う通りですよ~
本当に“魔王軍”って怖いですよね~……主人公さん? 」
「う゛ッ……マリア、もう止めてくれないか……」
“此処まで来ると最早恐怖を感じる”
……なんて事を考えて居たら、メルちゃんはエルフ村での出来事をミリアさんに説明し始め……
「えっと、その……エルフさん達の村でお世話になってたから無事だったんですっ! 」
「あぁ、そうだったのかい! ……って、所でメルちゃん、綺麗なネックレスだけどそれ、高かっただろう? ……
……まさかとは思うけど、依頼の報酬で買ったのかい? 」
「そ、そうでは無くて……その、エルフさん達の村で、族長の奥様のガーベラさんって方に頂いたんですっ!
そ、その……似合ってますか?? 」
「あぁ、良く似合ってるよっ! ……
……しかし、ガーベラから装備をねぇ?
それは、相当“期待”されてるんだねぇっ! 」
「へっ? ……ガーベラさんとお知り合いなんですか? 」
「知り合いも何も……有名人だよ?
エルフ村のオルガとガーベラと言ったら、この国でも有数のハンターで、魔導師さ。
そんな著名な魔導師様から魔導道具を譲り受けるなんて、凄く名誉な事なんだよ? 」
「そうだったんですね……わ、私っ!
頑張って、期待に応えられる凄い回復術師になりますっ! 」
「ああ! ……頑張りなよっ! 」
そう、力強くも優しくメルちゃんの夢を応援してくれたミリアさん。
……暫くの後、挨拶と報告を済ませた俺はこの日の本題である“減衰装備”を手に入れる為、ラウドさんの待つ装備屋へと向かう事と成り……
「……俺、装備を作りに行かないとなので装備屋さんに行って来ますね!
っと……俺一人で大丈夫だろうし、二人はヴェルツでのんびりしてて良いよ! 」
「了解ですっ! ……って、だっ、大丈夫ですか? マリアさん」
「うぅ……駄目です……やっぱり頭痛いです……」
「……あら、マリアちゃんは二日酔いかい?
エルフ村の酒は強いからねぇ~……っと、主人公ちゃんは気をつけて行っといで~っ! 」
「はい! ……行って来ますッ! 」
ともあれ。
ミリアさんと二人に別れを告げ、ラウドさんの待つ装備屋へと向かった俺は……
「お待たせしましたッ! 」
「おぉ、待っておったぞぃ? ……っと、その前に、ミリア殿、喜んでおったじゃろう? 」
「ええ……けど、俺達の帰りをあんなに喜んでくれるとは思ってなかったので、何だか嬉しくて……す、少しだけ泣きそうになっちゃいました」
「そうじゃろう……ミリア殿は本当に優しい人じゃからのぅ。
さて……早速じゃが、減衰装備の制作についてじゃが……店主よ、頼むぞぃ? 」
「ええ、お任せを……では、主人公さん。先ずはこの水晶に対し、ありったけの魔導力を注ぎ込む“イメージ”をしてください」
「は、はい……行きますッ! 」
直後、言われた通り水晶に魔導力を送るイメージをした瞬間、水晶は本当に俺の魔導力を吸い取り始め……そして、硬い筈の水晶は……微かにだが“大きく”成り始めた。
まるで“風船”の様に……
「ふむ……ある程度予想はして居りましたが、やはり、恐ろしい程の魔導力ですな……もし、万が一水晶が砕ければ“大惨事間違い無し”と言った所ですが。
さて……この程度で良いでしょう。
主人公さん……魔導力の供給を止めてください」
「は、はい……って、結構疲れますね……」
「それは当然です……この水晶は今、主人公さんが持つ魔導力の約九割を貯めて居る状態なのですから、もし、これで疲れを感じなければ貴方は化け物です。
……さて、次はこの鍋に手を翳し、“我を納める鞘と成れ”……と、唱えてください」
「は、はい……では。
“我を納める鞘と成れ”――」
そう唱えた瞬間、鍋の中で溶けた黄金は、オルガさんの減衰装備よりも遥かに小さい何かを作り始めた……何だろう?
これは、指輪か?
「形が出来てきましたな……ほぉ、指輪ですか。
ん? 二つ? ……いや、三つ……よ、四つ?!! 」
「な、何か不味いんですかッ?! 」
「……ほ、本来一つあれば充分に減衰させる事が出来る装備の筈なのですが、まさか四つも生み出される事に成るとは。
まぁ、ある意味当然と言った所でしょうが、ともあれ、此処から先が“本番”ですぞ? 」
「へッ? ……も、もう完成したのでは? 」
「ええ、減衰装備自体は完成ですが……今度は水晶に手を当て、“魔導よ我に戻れ”と唱え、ご自身の身体に魔導力を戻さねば成りません。
その際、全てを一気に戻してしまうと体に掛かる負荷が大き過ぎる為、数秒毎に手を離し休憩を挟む必要が有るのですが、主人公さんの魔導量はご覧の通り“大量”ですから……
……これは、相当な苦行かと」
「う゛ッ……か、覚悟して挑みます。
で、では……
“魔導よ我に戻れ”――」
「ん? ……妙に“早い”ですな?
……主人公さん、そろそろお手をお離しに成って下さい」
「は、はい! ……って、えッ?!
は、離れないッ?! ……な、何でッ?!
くッ?! ……
……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!! 」
張り付いた様に外れなく成った俺の手から舞い戻る大量の魔導力。この上更に不味い事に水晶の“元の大きさに戻ろうとする力”までもが加わってしまった。
直後感じた、身体を貫く様な激しい衝撃。
そして、水晶は跡形も無く砕け散った。
「ま、不味い! ……主人公さん!!! 」
「主人公殿っ!! ……主人公殿っ!!! 」
◆◆◆
直後、主人公は意識を失い、程無くして、呼吸と心臓の拍動も失われた。
「主人公殿っ!!! ……いかん、このままでは。魔導通信っ!! ――」
直後、著名な回復術師であるガーベラを呼ぶ為、魔導通信を試みて居たラウド。
だが、そんな折店の扉を開いたのはメルだった。
「……主人公さん、装備は完成しましたか?
何だか、ガーベラさんに貰ったネックレスが光り始めてて……って
主人公さんっ?! ……ラ、ラウドさんっ!
一体何が起きたんですかっ?! 」
「メ、メル殿? ……説明は後じゃ!!!
――ガーベラ殿、緊急事態じゃ!
急ぎ、馴染みの店に! ……」
突如として齎された緊急連絡に慌てつつも装備屋へと急行したガーベラ……だが、攻撃術師以外に転移魔導は使えず、彼女が到着するまでの間、主人公の命が持つ可能性はとても、低かった。
「嫌っ……主人公さんっ! 死んじゃ駄目っ!!!
ダ、二重治癒っ!!
いや……失いたくない……主人公さんが居なかったら私……生きていけませんっ……だから……だからっ!!!
お願いします……私を……
一人に……しないでッ!!! 」
主人公に縋り付き、自らが使う事の出来る最上位の回復魔導を用い、彼を必死に救おうとして居たメル……だが、現状の彼女の実力では主人公を救う事は難しかった。
だが、それでも彼女は諦めず決死の覚悟で回復魔導を掛け続けて居た。
……徐々に青褪めて行く主人公の顔。加速度的に募る不安を抑え、彼女は彼の復活を祈り、力を注ぎ続けた。
だが、やはり……彼女の実力では彼を救う事は叶わず……絶望と言うべき感情がこの場を覆い尽くさんとし始めて居た頃……ラウドは彼女の“ある一言”に強く反応した。
「……メル殿、御主は今、主人公殿が居ないと生きていけぬと言ったか!? 」
「はい……でも、私の力じゃ主人公さんを助けられ……」
「待つのじゃ! ……“それ”じゃよ!
その“心”こそが主人公殿の助けに成るやもしれんのじゃっ! 」
「ど、どう言う事ですか?! ……わ、私に主人公さんを助けられる方法があるんですかっ?! 」
「うむ……一か八かじゃが、御主の“愛の力”で助かるかどうかが決まる。
じゃが、失敗すれば御主も只では済まん……
……それでも、やるかね? 」
「わ、私……主人公さんの為だったら何でもしますっ! 」
「うむ、その意気じゃ!!!
では……主人公殿に愛の告白をしながら主人公殿に口づけをするんじゃっ!!! 」
「こんな時にふざけないでくださいっ! 」
「この顔がふざけておる様に見えるのかね?! 」
「へっ? ……じ、じゃあ本当に……それで助かるんですかっ?! 」
「……断言は出来ん、じゃがこの技は間違い無く回復術師が用いる事の出来る最高位の技じゃ。
御主の魔導力と、主人公殿に対する想い……その全てを懸け、全てを擲つ覚悟で挑まねば成らん。
……半端な覚悟ならば、止めて置くべき程にのぅ? 」
ラウドの提案に戸惑い、ほんの一瞬俯いたメル。だが、主人公の顔を見つめ……彼女は覚悟を決めた。
そして……この直後、彼女は、意識の無い主人公に対し優しく語り掛け始めた。
「主人公さん……お母さんや私を護ってくれて、助けてくれて、大切にしてくれた貴方の事が、私は、とても大切で……大好きですっ。
……もし、主人公さんが居て下さらなかったらきっと私は、笑顔になんて成れなかったです。
主人公さんの居ない世界なんて……嫌なんです。
だから……主人公さん。
今度は、私が主人公さんを助ける番です……
……大好きです、主人公さん。
だから、お願い……戻って来て下さい。
主人公さん……っ!! ――」
胸に秘めた想いさえ、余す事なく全てを伝えた直後、彼女は……
「ラウドさん! 一体何が……っ?! 」
静寂の中響き渡ったガーベラの声。直後、彼女は全てを理解したかの様にメルを補佐する為、主人公に対し数種類の回復魔導を掛け始めた。
そして……
◆◆◆
(んッ? な……何だ? 柔らかい物が口元に――)
「――むぅぅぅッ?!!
メ、メル……ちゃん!? ……なッ、何を……ッ?! 」
「へっ? ……ひゃぁぁっ?!
し、主人公さんっ?! ……意識が戻っ……て……
良か……った……」
主人公の復活に安堵し、笑みを浮かべた直後、彼女は、意識を失った。
◆◆◆
「えッ? ……メルちゃん?
メ、メルちゃんッ?! ……い、一体何が……確か俺は……」
「……主人公殿。
メル殿は御主を救う為に、本来、熟練の回復術師でも成功率の低い最高位の魔導を使用したのじゃ……それだけでは無い。
それまでにも御主に対し回復魔導を掛け続けておった。間違い無く、これは“魔導欠乏症”じゃ……」
「ど、どうすれば助けられるんですか?! 」
「焦りは禁物じゃ……助けたいのならば、先ずは落ち着くんじゃ……主人公殿。
“魔導欠乏症”はその名の通り、魔導力が著しく不足した際に起こる物じゃ。
それ故、治す為の方法も単純じゃ……じゃが、御主が冷静で無ければ、助けられる物も助けられん」
「わ、分かりました……ですから早く助ける為の方法を!! 」
「御主はトライスターじゃ……故に水晶に流し込んだ時と同じ様にメル殿に手を当て、先程と同じ様に念じれば魔導力を流し込める。
……良いな? くれぐれも精神を落ち着かせて挑むんじゃぞ? 」
「は、はいッ!! 」
俺は、絶対に失わない。
“護る”と言った約束を違えたりなどしない。
「メルちゃん……頼む。
息を吹き返してくれぇぇぇぇぇッ!!! ――」
「主人公……さん……っ? ……」
「メ……メルちゃんッ!!
良かった、俺……って、ぬわぁッ?! 」
「主人公さんっ……主人公さんっ! ……」
「メ……メルちゃん……ごめん……本当に……ごめん……」
直後、息を吹き返した彼女は、涙ながらに俺を抱き締め何度も何度も、俺の名を呼び続けた。
俺は、唯――
“ごめんよ……ごめんよ……”
――とひたすらに謝る事しか出来なかった。
それでも彼女は怒りもせず、唯、ひたすらに――
“良かった……良かった……”
――と、俺の事を抱き締めたまま俺の生還を喜び続けたのだった。
「メルちゃん……ラウドさんから聞いたよ。俺の為に、最高位の魔導技を使ってくれたって。
メルちゃん……護ると約束をした君の事を、俺は、こんな危ない目に遭わせてしまった。
全ては俺のせいだ、本当に……すまなかった」
「いえ、主人公さんさえ無事なら私は何も……って。
あ、あのっ……ど、何処まで聞いたんですかっ?! 」
そう問うや否や仰け反り、飛び退ける様に俺から離れたメルちゃん。
だが、この直後……そんなメルちゃんの事をこれ以上無い程の笑みを浮かべつつ微笑ましく見つめて居たガーベラさんは、詳しい技の“説明”をし始めてしまって……
「主人公さん? ……メルちゃんはたった今、貴方に対し“愛の魔導”を使ったのよ? 」
「あ、愛の魔導? ……そ、それってどう言う物なんですか? 」
「そうね……私ですら成功確率の低い技とでも言うべきかしら?
正直、こんなにも早く使える様に成るなんて、メルちゃんは将来有望かも知れないわね……でも。
メルちゃん……緊張しなかった? “口づけの儀式” 」
耳を疑った。
だが……言われてみれば“憶えがある”様な気がしないでも無い。
直後、本人に問おうとした瞬間……
「なななななっ?! ……何もしてませんっ!!
き、きっと主人公さんったら眠ってる間に……
え……エッチな夢を見たんですっ!! ……さ、最低ですっ!!
私とキキキ……キスする夢を見るなんてぇ~っ!!
だ、駄目なんですからっ!!! 」
みるみる内に真っ赤に染まったメルちゃんの顔。
やはりと言うべきか……その姿を“満面の笑み”で見つめて居たガーベラさんの様子で何と無く、いや……確りと理解したし。
記憶が“朧げ”なのが余りにも“勿体無い”。
「そ、そう言えば確かに……」
「へっ!? ……わ、私は何も知りませんっ!! 」
まぁ、何はともあれ。
眼前で顔を真赤にして居るメルちゃんを含め、この場に居る全員の協力に依って得られた装備品、“減衰装備”。
……この後、店主さんに手渡された瞬間の軽さとは裏腹に、この装備の重さを噛み締めて居た俺に対し……
「……今回の装備の代金はわしが払っておこうかのぅ? 」
「へッ?! ……わ、悪いですよラウドさん!
それに例の約束を考えたら……」
「……個数こそ多いが“トライスター装備”と言う訳では無いからのぅ?
構わんじゃろうて……そもそも、年寄の厚意を無下にしてはいかんぞぃ? 」
「で……では、ラウドさんのご厚意、有り難く受け取らせて頂きますッ! 」
「うむ! ……良い返事じゃ!
これで“奴に自慢し返せる”わぃ! 」
と、再び可愛い姿を見せてくれたラウドさんなのだった。
だが、話はこれで平和に終わった訳では無くて……
「……では、今回のお代はラウドさんのお支払いと言う事で……ああ。
代金で思い出しましたが……主人公さん、トライスター装備の“ツケ”でございますが、一千万金貨、本日お支払いになられますか? 」
「いや~すっかり忘れて……って。
……えっ? 」
「ですから、装備の……」
「い、いや店主さん……俺の聞き間違えだとは思うんですが、き、金額の方をもう一度……」
と、静かに慌てて居た俺の横でラウドさんは冷静に……
「ん? ……何も聞き間違ってはおらんぞぃ? 主主人公殿。
……そもそも、トライスター装備はその絶対数が少ない上、材料は全てが黄金、当然じゃが、完全受注生産な上、高度な制作スキルが無ければ作れん代物じゃ。
要するに……小国ならば“国宝級”と言える程の価値を持って居ると言う事じゃよ」
「で、でもッ……ラウドさん、そんなに“高い”って一回も教えてくれなかったじゃないですかッ!!! 」
「何を言う……これでも“知り合い価格”じゃよ? 」
「にしても、ですよラウドさん……てか、どうやって払うんだろう? これ。
そもそも“失敗”しましたけど、スライム討伐依頼の成功報酬三人分合わせても“銅貨三〇〇枚”だったんですけど、一金貨って……幾ら位なんですか? 」
「ふむ……金貨の価値を知らんかったとは。
……銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚。参考までに言うと、魔導隊員らの平均的な月の給料が約五万金貨じゃ……因みに、彼らは高給取りじゃぞぃ? 」
「えっ……と。
それってつまり、俺が一千万金貨稼ごうと思ったら……」
「ふむ……少なくとも“スライム討伐”だけでは終わらんじゃろうのぅ? 」
「そうですか……なら、俺にも考えがあります」
「ん? ……妙に改まって、一体何をするつもりじゃね? 」
◆◆◆
直後、深呼吸し、静かに正座をした主人公。
この場に居る皆が彼の動向に注目したその瞬間……
「おッ……お値引きお願い出来ませんかぁぁぁぁぁッ!
く、靴でも何でも舐めるんでぇぇぇッ!! ……」
彼の考えとは、まさかの“土下座”であった。
直後、彼のあまりに唐突な行為が故、呆気に取られて居た店主は……
「……頭をお上げ下さい主人公さん。これでも大まけにまけておるのです。
これ以上は流石に……」
「そ、其処を何とかッ!
せめて、あと百万金貨だけでも値引いてくださいッ!! 」
「ううむ……困りましたなぁ。
ラウドさんの顔もありますし、主人公さんは仮にもトライスター様で御座います。
……良いでしょう。
では、装備制作中の事故に関するお詫びと、残りの黄金を譲って頂く事で、合計……二〇〇万金貨ほど御値引き致しましょう。
とは言え、この程度の黄金では其処までの価値はありませんが……」
「ほ、本当ですかッ!? ……あ、ありがとうございますッ! 」
「よ……良かったですね主人公さんっ! 」
「よ、良かったとは思うけど……それでも大借金だよ。どうしよう、メルちゃん……」
「だっ、大丈夫ですっ! ……主人公さんはとってもお強いので、難しい依頼も沢山解決出来ちゃう筈ですっ!
ですから、時間は掛かっても必ず返せますっ!
わ……私も手伝いますからっ! 」
「メ、メルちゃん……うわぁぁぁぁぁんッ!
メルちゃぁぁぁんッ! ……俺、頑張るからッ!
うぅッ……グスン……」
「はわわわっ?! ……だっ、大丈夫ですからっ!
よ……よしよ~し……ですっ……」
直後、突如として八百万金貨と言う“重圧”に耐えかね、半泣き状態と成ってしまった主人公はメルの膝下に縋り付き、彼女に慰められて居た。
そして……この直後、再び、勢い良く店の扉は開かれ……
「……主人公さんメルちゃん!
ミリアさんが晩御飯は奢りだって……
……って、何この状況っ?! 」
朗報を伝えるが為現れたマリアは眼前の異質な状況を飲み込めず……そんな彼女に対しラウドは静かに……
「マリア殿……その、何と言うか、“色々”有るのじゃよ、人生には……のぅ」
そう、伝えたのだった。
何はともあれ……トライスターとして、また見目麗しく、頼れる二人の女性と共にハンターとしての道を歩む事と成った主人公は、同時に“八〇〇万金貨”と言う桁外れの借金を抱える事と成った。
……果たして彼は全額返済する事が出来るのだろうか?
===第七話・終===




