第六話「力を持ちまくってたら楽勝?いいえ、適度に持つのが楽勝なんです」
メルちゃんを仲間に迎えてから数日経った頃、何故かこの国の中で俺の“悪い噂”が広まって居た。
何でも――
“暴君なトライスターが誕生した”
――と言う類いの噂なのだが、幸か不幸かその噂のお陰もあり、メルちゃんやメアリさんに対し悪意を持って接する奴らは鳴りを潜めた。
まぁ、逆に俺の存在が二人の迷惑に成って居る様な気がしないでも無いが……兎に角、そんな俺達三人はこの日、ヴェルツで朝食を摂りながら“これから”についての話し合いをして居た。
「……それにしても、俺達ハンターに成ってから一度も依頼受けてないし、そのせいで“黒い粒子”は今日も元気に俺の回りを回ってる。
……って事で、今日はそろそろ簡単な依頼でも受けてみようと思うんだ! 」
「そうですね……私もこの装備手に入れてから、ミリアさんの薪割りのお手伝いに使っただけですからね」
と斧を片手で軽く振りながら語ったマリア。
何だか凄く厳つい絵面だ。
「いや……仮にも“伝説級”と謳われる武器が号泣しそうな使い方だなぁおい」
「いやいや、それを言うなら主人公さんなんて――
“薪割り俺も手伝うよ! ……男だからなッ!”
――な~んて言いながら、あんな小さな手斧ですら全く持ち上げられなかったじゃないですか~!
物理適性が全く無くて大笑いですよ! ……アッハッハ! 」
「う゛ッ……転生の時、何を考えてたんだ俺は?!
“物理は無しでも良い”とか言ってなければこんな事には……クソッ!
そもそもマリアが言葉通りに受け取らずある程度気を使ってだなッ! ……」
そう言い掛けた瞬間、メルちゃんは俺に対し……
「てん……せい? 何ですかそれ? 」
そう問うた。
不味い、気を抜き過ぎて居た。どう言い訳すれば良いのだろう?
「えッ?! ……あッ、いや……その……そうッ!
“天才ッ! ”……お、俺は魔導の天才だから物理なんて要らないって言っただけでッ!! ……」
「……そ、そうなんですね!
た、確かに主人公さんは凄い実力がありますし……」
「い、いや……メルちゃん。其処は少し位否定してくれても良かったと言うか何と言うか……その、何かごめん」
メルちゃんの純粋さに心が折れそうに成って居た一方で、マリアは何だか退屈そうで……
「って言うか、本当にそろそろギルドで依頼受けましょうよぉ~。私もこの斧を有効活用したいですし! 」
「そ、そうだなッ! ……取り敢えずギルドに行って良さそうな依頼でも探そうか! 」
この後、三人でギルドへと向かい“営業スマイルな受付嬢さん”に新人ハンター向けの依頼が無いかと訊ねた所、“スライム討伐が安全で良い”との事だったのでこれを受けた俺達。
依頼内容は至って単純――
“スライムコアを一人当たり十個集める事”
――報酬は一人“銅貨百枚”で、多く手に入れれば、それだけ報酬も増える歩合制らしく、この上有り難い事に“依頼場所を知って居る”と言うメルちゃんに案内され、俺達は地図さえ必要とせず依頼場所である“スライムの草原”と呼ばれる場所に辿り着いたのだった。
「……“名は体を表す”とは良く言った物だな。
それにしても、凄い数だ……」
到着後、眼下に広がる広大な草原には、大小様々なスライムが確認出来るだけでも数百匹程生息して居た。
……転がる奴、跳ねてる奴、ひたすらに形状変化を繰り返す奴……嗚呼、可愛い。
と言うか、そのせいで倒さなければ成らない事に若干の“罪悪感”を感じる。
「ほぇ~っ……初めて見ましたけどスライムって可愛いですね~」
「俺も同意見だマリア……けど、そのせいで罪悪感が凄い。と言うか“スライムコア”ってどうやって取り出すんだろ? 」
と、依頼書を片手に悩んで居た俺に対しメルちゃんは……
「え、えっと……まず、火系の魔導を使いスライム表面の水分を飛ばし、倒した後、刃物などを使い、傷つけない様に取り出すのが定石……ですね! 」
と、教えてくれた。
てか、博識だ……あれだ。“勉強出来る委員長さんタイプ”だ、この子!
「成程……だとすれば魔導書の……あった、この技で良いのか?
“火環”
火系魔導の中でも比較的初歩の技らしいんだけど、どう……かな? 」
「はいっ! 良いと思いますっ! 」
「よぉし! メルちゃんのお墨付きも貰った事だし、あの辺に集まってるスライム達を狙ってみるか。
正直、ちょっと可哀想だけど……ごめんっ!
火環ッ!!! ――」
と、思い切って技名を唱えた俺。
だが……あまりにも上手く行き過ぎてしまって……
「あの……主人公さん? 」
「……な、何だいマリア? 」
「何なんですか? この威力……」
「ち、地形が変わっちゃってますっ……」
「い、いやぁ~……た、多分気のせいじゃないかな~? メルちゃん」
嗚呼、やってしまった。
何て事だ……スライムの草原が“抉れた”。
「良し……逃げようッ! 」
「えっ? 」
「ふぇっ?! 」
「二人とも早くッ!!
街の人達に見られたら絶対にヤバいから!
ほら、急いでッ!! 」
「あわわわわわわっ! ……」
「もぉぉっ!! 主人公さんの馬鹿ぁぁっ!! ……」
直後、俺達は急いでスライムの草原を離れた。
大体こんな状況で依頼の失敗とか成功とかそんな事を考える余裕なんか、無い。
◆◆◆
「ほう……これは、報告の必要がある様だ」
急いでその場を離れた三人。だが、そんな一行を遥か遠方から監視していた謎の男。
彼は頭巾の奥でニヤリと笑いそう言い残した直後、煙の様に何処かへと消えた。
……一方、近くの森へと逃げ込んだ一行は……
◆◆◆
「はぁッ……はぁッ……何なんだあの技は……ッ! ……」
「本当ですよ……主人公さん、何か間違えたんじゃ無いですか? 」
そうマリアに責められ、“でも、間違い無く初級の技だった筈ですっ”……と、肩で息をしながらも必死に俺をフォローをしてくれたメルちゃん。
だが……
「だとしたら、主人公さんが技名を馬鹿みたいに叫んだから威力が狂ったんじゃ無いですかねっ?! 」
と続けたマリアに対し、俺は、言い返せる言葉が何も無くて……
「でっ……でも! 皆無事ですし誰にでも失敗はありますからっ!
そっ、それよりも……もっと安全そうな技を探してみませんか?
……ねっ? 」
と、再びフォローを入れてくれたメルちゃんに従い他の技を探そうと魔導書を開いた俺に対し……
「ちょっとぉ!? ……止めて下さいよこんな森の中で!
さっきみたいな“爆撃”レベルの技出されたら私達“丸焼き”ですよ?! 」
とマリアに制止されたこの直後……
「お前達、其処で何をしているっ?! 」
何処からとも無く現れたエルフ族らしき男。
彼は弓を構え、警戒心を顕にそう言った。
「ま、待ってくれッ!! ……俺達は怪しい者じゃない! 」
「あの~……その言い方が一番怪しいと思いますよ? 主人公さん」
何故こう言う時に冗談が言える余裕がマリアには有るのだろうか?
ある意味羨ましいが、ちょっとイラッとする節もある。
「黙れッ! ……先程の“地鳴り”について聞く。知っている事があれば、話して貰おう……」
「さ、さぁ……何の事だか……」
(知っているも何も“俺のせいです”とは、口が裂けても言えない)
「怪しいな……しかし、そんな事よりも貴様の周りを回っている“黒い粒子”は一体何だ? 」
「へッ? ……こッ、これは俺の“魔導の杖”みたいな物でしてッ!!
一風変わってるだけですから気にしないで下さいッ!! 」
「やはり怪しい……何れにしろ貴様らを調べる必要がある……ついて来い」
何を伝えた所で、一度疑いの眼差しを向けた存在をそう簡単に見逃してくれる人は居ないだろう。
だが、彼の警戒心が暴発すれば確実にメルちゃんやマリアに危険が及ぶ。
「抵抗はしない……だが、二人は見逃してくれないか?
怪しいのが俺だけなら、好きなだけ協力するから……」
「成らん、全員だ……逃げるつもりなら容赦はしない」
余りにも不味い。
相当警戒されて居る上に、そもそもメルちゃんはかなり酷い迫害を受けて居る立場だ。
ともすれば、このエルフはそれを理由に因縁を付けて居るのかも知れない……もしそうなら、この言い争いに平和的な解決は有り得ない。この瞬間、俺はそんな最悪の想定をして居た。
にも関わらず……
「し、しつこい男は嫌われるんですよ!?
……それに、私達を調べるとか言いながらどうせ“イヤラシイ事”をするつもりなんでしょ!
エッチな本の“そう言うシーン”みたいにっ!! 」
この上更に話をややこしくしてくれたマリア。
嗚呼、ついさっき僅かでも“羨ましい”とか思った俺は間違って居た。
「うん、マリアはちょっと黙っておこうか? ……マジで」
「貴様ら……これ以上抵抗するなら此方にも考えがある! 」
「ま、待ってくれ!! ……くそッ! 」
騒ぎはどんどん大きくなり、俺達はエルフ族の男に連行されそうになって居た。
……だがそんな時、この騒ぎを聞きつけこの場に駆けつけた、綺麗な金色の髪をなびかせた美しいエルフの女性は……
「何事です!? アルフレッド」
「ガーベラ様! ……怪しい者達を発見致しましたのでこれから連行をと! ……」
「そうですか……あら?
ねぇ、アルフレッド? ……全員“ハンターバッジ”を付けているでは有りませんか!! 」
「ええ、ですが……こやつらの言動が怪し過ぎるのです!
人間など、皆野蛮な者だらけです。此処は一度、調べるべきかと」
「お止めなさいっ!!
ハンターギルドのラウドさんとは懇意にして頂いて居るのですよ?
にも関わらず、要らぬ波風を立てる事を……私は望みません」
「し、しかし!! ……」
と、言い争う二人を見ていて気付いた。
ガーベラと呼ばれたこの女性と俺には共通の“知り合い”が居るッ!
「あ、あの! ……今、ラウドさんって仰られました? 」
「あら……お知り合い? 」
「知り合いも何も……恩人です。俺に“自由なトライスター”として過ごす事を許して頂きました」
「あら……では貴方が“噂の”トライスターなのですね? 」
「う゛ッ……どんな“噂”なのかが怖いんですが」
「別に、普通ですよ? ――
“可愛い女性ばかりを無理やりパーティに加入させハーレムを築き上げようとして居る”
――そんなトライスターとして有名です」
「さ、最悪な噂だったぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!! 」
「ふふっ♪ 冗談ですよ? ……エルフジョークです」
「いや、TPOの欠如ッ!!! 」
「ふふっ……愉快な御方ですわね。
貴方がラウドさんからお聞きしたトライスターであるならば何も問題は無いでしょう。
お顔を拝見するのは初めてですが、ラウドさんの仰る通り、良いお顔立ちをしていますね。
……アルフレッド、この方達は危険ではありません。ご迷惑をお掛けしてしまったお詫びに宴の準備をする様、皆に伝えなさい」
「う、宴? ……あの、お待ちを!
お気持ちはとても有難いのですが、一応、俺達は討伐依頼の最中でして今日中に“スライムコア”を最低でも三〇個程集めないといけなくて……」
「そうだったのですね……しかし現在、スライムの草原は壊滅的な被害を受けて居ると聞きました。
なんでも“魔王軍の幹部級が現れた可能性すら有る”とか……
……その依頼、敢えて失敗としておいた方が安全かと思いますわ? 」
「そ……そうなんですか」
(魔王軍の幹部?! ……いや、まぁそう思うのも無理ないですよね~。ええ、大失敗でしたよ~だッ!!!!! )
と、内心不貞腐れていた俺の気持ちを知ってか知らずか……
「魔王軍の幹部級ですか~。それはそれは、さぞ恐ろしい風体をしてそうですね~?
ね~……主人公さん? 」
「ぐッ……そ、そうだな~マリア!
し……仕方有りません、依頼は諦める事にしておきます」
(嗚呼……マリアに対して時々殺意が湧く件について、小一時間語りたい気分だ)
「それが良いでしょう……ですが、スライムコアならば少し蓄えてあります。
……いらぬ疑いをお掛けしたお詫びとして幾つかお譲り致しましょうか? 」
「えっ!? それは有り難……いや。
そ、それもお気持ちだけで! ……その、俺達今回が初依頼なので、出来れば自分達の力だけで達成したいんです。
折角お気遣いを頂いたのに我儘を言ってすみません……」
「いえ、素敵な考え方だと思いますよ?
ならば……どうでしょう?
依頼はどの道達成不可能です……
……やはり、宴にお越しに成られませんか? 」
「ご迷惑で無ければ……是非ッ! 」
「ええ、では早速エルフの村へご案内致しましょう」
直後、ガーベラさんに案内されエルフの村へと招待された俺達。
凄い……皆、背が高いし耳が長い。
“ウォォォォォッ! 俺の想像する通りのエルフ達だァァァッ! ”
……と、感動している俺達を余所にガーベラさんが宴の準備をする様命じると、この村のエルフ達は慌ただしく宴の準備を始めてくれた。
モデルみたいな美男美女が走り回って居ると宛らファションショーの舞台裏みたいだ。
って、舞台裏に行った事は無いが……ともあれ。
準備が終わるまでの間、ガーベラさんと他愛の無い話をして居ると、騒ぎを聞きつけたのか村で一番高い所に有る建物から異常な程に“ガタイの良い”エルフの男が現れ……
「これは……何の騒ぎだ? 」
「貴方、今日は此方のハンターさん達の為に宴の準備をしていますのよ? 」
「ほう、来客とは珍しい……
……私はオルガ、エルフ族の族長をして居る」
「お、お招きに預かり光栄です! ……俺の名前は主人公です! 」
(エルフらしからぬ筋肉質だ、握手が超痛い……)
「私はマリアです、よろしくお願いします! 」
「メ、メルですっ! ……よ、宜しくお願いしますっ!! 」
「うむ……だが、堅苦しい挨拶は苦手でな。あまり緊張せずとも……ん?
……其処の小娘、メルと言ったか?
どうだ? ……母は元気か? 」
「はいっ! 主人公さんのお陰で……って、お、お母さんをご存知なのですか? 」
「ああ、良くも悪くも多種族の中では“有名”だ……
……私は気にしないが、な」
「そんな……わ、私……ご迷惑でしょうか? 」
「アナタっ!!! ……メルちゃんごめんなさいね~。メルちゃんを悲しませるなんて、本当に貴方ってデリカシー無いわねっ!!! 」
「い……いや、待ってくれガーベラ!
族長の私が“気にしない”と言えば少しはその娘も気が楽に成るかと思ってだな! ……」
「もう、知りませんっ! ……メルちゃん、私の魔導道具コレクションを見せてあげるからついて来て! 」
「は、はいっ!! ……」
言うや否やガーベラさんは自室へとメルちゃんを連れて行き、オルガ族長は、去り行くガーベラさんの背中に向かい……
「お、おいっ! ガーベラ!! ……愛しの妻よ!!
なんて事だ……怒らせてしまった……」
そう、意気消沈しつつ言った。
と言うか……目の前でエルフ族の族長が奥さんの尻に敷かれてる所を目撃してしまった。
この筋肉を持ってしても、いやエルフ族でも奥さんには勝てない事を知ったこの日、俺は、改めて“結婚って大変なんだ”と知った。
「さ、さて! ……そ、それでだが!
饗すと言ってもお前達の好みを知らん。
何をやりたい、何を食べたいなど希望があるならば申しておけ……」
と、完全に今の流れを“無かった事”にしたオルガさんに対し……
「私は兎に角、美味しい物が食べたいです! 」
「マリア……少しは気を使おうか」
「いや……素直で良い。主人公とやら……斯く言うお前は何が望みか」
「……へッ!?
い、いやその俺は……まだ見習い魔導師なので、“魔導の特訓が出来る場所が有ったら良いな~”とか思ってるんですけど、力の制御方法がまだ解らなくて……正直ご迷惑をお掛けしてしまうかも知れませんから、歓迎して頂いて居るだけで光栄です! 」
と精一杯に気を使って発言をしたのだが……
完全に逆効果だった。
嗚呼、人付き合いが分からない。
「やーぃやーぃ……主人公さんの方が迷惑かけてる~っ! 」
「ぐっ……マリアお前ッ!
そ、その……オルガ族長様、別に特訓場所を用意して頂きたい、と言う意味では……」
「いや、構わんぞ? ……魔導師か。私は防衛術師でな……御主の職は? 」
「そ、その……トライスターです」
「何!? ……成程、ラウド殿が自慢していた小僧は御主の事か! 」
「えっ? ……ラウドさん俺の事“自慢”してたんですか? 」
「ああ、まるで自らの孫の様に語って居た。
……良かろう、御主の特訓を請け負ったと成れば、ラウド殿に自慢し返してやれると言う物よ! 」
「そ、そうなんですか……」
(なんか、見た目のゴツさと裏腹に可愛い性格してるなこの人)
「よし……そうと決まれば早速私の訓練場所へと同行するが良いッ!
マリア殿は村を自由に見て回ると良い……では行こうか! 」
「は、はいッ! ……」
「行ってらっしゃい主人公さ~ん! 」
この後。
“族長直々に”と言えば有り難いのだが、半ば強制的に訓練場所へと連れてこられた俺は唯唯戸惑う事しか出来ずに居た。
一方、そんな俺に対しオルガ族長は……
「それで、何を特訓したいのだ? 」
「そ、その……出来れば、各属性の“初級技”を使いこなせたら良いなと思って居るんですが、失敗がその……“酷く”て」
(失敗すると草原が“抉れます”とは言えない)
「……その口振りならば攻撃術師の技を使いこなせる様に成りたいのだな?
であれば私は“吸収魔導”を使うとしよう。心配せず、私に向けて技を放つと良い」
「そんな技があるんですね……
……後で防衛術師の項目を見てみよう」
「ん? ……トライスターの魔導書は恐ろしく分厚いな。よし……まずは水属性の技で来い! 」
「は、はい! ……では一番初級の技で行きますッ!
水の魔導……水珠ッ!! 」
直後、俺の右手から放たれた“水珠”は文字通り水の球と成ってオルガさん目掛け飛来した。
だが、その“規格外の大きさ”に少し慌てた様子のオルガさんはこれを何とか吸収し終え……
「ぬぉっ?!……何と恐ろしい。
水珠とは思えん……吸収に失敗していれば村が“壊滅”していたやも知れんぞ……」
「そ、その……本当にすみません。
大きさもですけど、威力の調節方法が全然判らなくて……」
「成程……それは“イメージの問題”だな」
「イメージ……ですか? 」
「……ああ、例えには成るが防衛術師の技には物理攻撃を防ぐ為の強力な盾を出現させる物が有るのだが、これを展開する時、重要なのが“イメージの力”だ。
“自分の体を隠す程度の物”
“二人分”
“村全て”
“国を全て”
……などとイメージするのだ。無論、本人の魔導力も関係はするが、重要なのは具体的な大きさをイメージする事だ。
魔導書には、まるで一部の技しかそう出来ない様に記されて居るが、それらは全て無視しろ」
「そうなんですか……では、威力の調節はどうすれば? 」
「威力か……初級の技だからな、適切な大きさをイメージすれば極端な威力の物に成る事は無いだろう。
それを踏まえてもう一度……
……水珠を放って来いっ! 」
この時、何かしらの盛大な“フラグ”が立った気がしたが、ピンポン玉位の大きさならば問題に成らないだろうと判断しオルガさんにむけて水珠を放った俺。
だが……
「……これまたえらく遅い速度で飛ぶ物だな。
吸収魔導の必要も無さそうに思うのだが……」
と、吸収魔導を解除してしまったオルガさん。
しかし……この直後、オルガさんの顔にあたった水珠はオルガさんを完全に“溺れさせ”……
「なっ!? そんなバカな威力が……ゲホッゴボッ!!
うっ……」
「は? ……ちょ?!
オ、オルガさぁぁぁぁぁんッ!
……やばい。
これがバレたら絶対エルフ族に殺される!!
治す方法……治す方法……そうだッ!!
パッ……完全回復ッ!!! ――」
「ふがっ?! ……曽祖父様っ?!
わ、私は此処で何を……」
「すみませんすみません命だけは命だけは……」
「いや、私の油断が原因だ……治癒魔導は御主が? 」
「は、はい……本当にすみませんでしたッッ!!! 」
「気にするな……さて、威力は殆ど落ちず姿だけが小さかったが、流石にあれでは危ない……
……トライスターと言うのはもしかすると基礎魔導力が高過ぎるのかもしれんな。
そうなると“減衰装備”をつけるべきかも知れんが……」
「えっと……なんですか? それ」
「……本来は魔導師同士の練習試合や決闘の際などに使われる道具だ。
誤って相手を殺めてしまわぬ様、技の威力を減衰させる装備でな、本来ならば魔導道具屋で自分の魔導量に合わせて一から作るのだが……今は私の物を貸してやろう。
とは言え、私の物程度では御主の魔導力を抑えるには足りんかもしれんがな!
ガッハッハ!!! 」
「そんなご謙遜を~! ……っと有り難くお借りしますッ! 」
と、オルガさんに手渡されたのはとんでも無く重そうな腕輪だった。
が、装備しても変化らしい変化を感じられず、首を傾げて居た俺に対し……
「安心しろ……動きの阻害はされん。魔導の威力だけが落ちるのだ。
試しに一度放って見ると良い……さぁ来いッ! 」
「は、はいッ!! ……水珠ッ! 」
(念の為、ビー玉位の大きさで……)
「これはなんとも……死に掛けの虫の様に飛んで居るな」
そうは言いつつも念の為か、ガチガチに吸収魔導を展開していたオルガさん。
けど、俺が放った水珠はオルガさんの遥か手前で力尽きた様に地面に落ち消滅してしまった。
まさに“死に掛けの虫”状態で……
「落差が激しいな……だが、これで威力の問題も解決しただろう。
良い機会だ、他の属性も試すか……次は火属性だ! 」
「ひ、火属性ッ!?
流石にちょっと怖いですけど……やってみます! 」
「……何故怖がる?
まぁ良い……吸収魔導は展開済みだ、何時でも来いッ! 」
「では……火環ッ! 」
(五〇センチ……いや、三〇センチ位で! )
と、恐る恐る放った火環はほんの一瞬地面を焦がした程度で収まり、オルガさんの展開した吸収魔導に吸い取られ……
「うむ……威力、大きさ共に安全圏まで抑えられて居る様だな。
だが、言葉にすると不思議な気分になる……」
「そうですね……っと、この調子で全ての属性を試しても良いですか? 」
「ああ……この際だ、纏めて撃つが良い!
さぁ……来いッ!!! 」
「はいッ!!! ――」
直後、オルガさんに向け残る雷・土・風・闇・光の初級魔導を連続で放った。
だが……最後に放った“光の魔導”だけ何故か威力の減衰効果がみられず……
……オルガさんの目に凄まじいダメージを負わせてしまい、俺は、再び慌てて完全回復を使用する羽目に成った。
「と……兎に角、威力の調節は出来る様に成ったと思って良い。
所で……“まさか”とは思うが、スライムの草原を焦土にした犯人だが、御主では無かろうな? ……」
「そ、そんな馬鹿な~!
そんな事ある訳無いじゃないですか~!! 」
と、否定しつつも俺の身体は滝の様な汗をかいて居たし、明らかにオルガさんが疑いの眼差しを強めたのにも気付いて居た。
だが、この直後……
「……仮にそうだとしても隠し通すのだぞ?
要らぬ詮索を受け、その結果護るべき者達を傷つける事と成るのは避けるべきだ」
“族長”と言う役目を負う人だからだろうか?
オルガさんは静かにそう言うとこれ以上の詮索を止めた。
「は、はい……肝に銘じておきます」
ともあれ。
オルガさんとの特訓は無事終了……しなかった。
オルガさんから借りて居た減衰装備から“嫌な音”がしたこの直後、オルガさんの減衰装備は粉々になってしまったのだから……
「あ゛っ?! ……私の減衰装備が!! 」
「い゛ぃッ?! べ、弁償しますから命だけは命だけは……」
「高かったと言うのに……いや、まぁ良い。
それにしても、主人公よ。私はそんなに“御主の命を狙って居る”様に見えるのか?
まさか、顔が怖いのか? ……
……何れにせよ、少々悲しいぞ主人公よ」
「い、いえ……お顔はイケメンだと思います」
「……その他の理由で恐れられて居ると言う事か。
まぁ、良い……それを装備せぬ状態で先程の連撃を受けて居たならば、私は無事では済まなかった筈だ。
恐らく、光魔導に減衰効果が見られなかったのも破損の予兆だったのだろう。
弁償など必要無い……気にするな」
「そ、その……本当に色々とご迷惑を……」
「構わん構わん! ……良い自慢話が出来た。
ラウド殿が悔しがる顔を今から想像して楽しめると言う物だ!
此方こそ長く付き合わせて済まなかったな……
……そろそろ宴の準備もできている頃だろう。
さぁ、皆の元へ戻るぞ! 」
「は、はいッ! ……」
この後、オルガさんに連れられ村に戻ると、豪勢な食事とエルフ達の楽団が用意されており、一足先にマリアもメルちゃんも宴の席について居た。
そして、オルガさんに依る“乾杯の音頭”の後……
「では……主人公、マリア、メル。
三名の優秀なハンターと、エルフ族の良い交流の宴となる様、此処に乾杯の音頭とする……乾杯っ! 」
宴は開かれ、俺達は美味しい料理とエルフ楽団の素敵な演奏に酔いしれて居た。
そんな中、メルちゃんは俺に対し嬉しそうに“ネックレス”を見せてくれた。
聞けば“ガーベラさん”から頂いた物らしく……
「おぉ! 似合ってるよメルちゃん!
……ガーベラさん、本当にありがとうございます! 」
「いえいえ……お下がりだし私があげたくなっただけだから気にしないで。
それに、メルちゃんは私と同じ回復術師だって言うじゃない?
何だか親近感湧いちゃったのよね」
「でも、メルちゃんが喜んでる顔見れて俺も嬉しいです」
「そうね……メルちゃんはずっと辛い思いばかりだった筈。だから、せめて貴方は……楽しめる事を沢山教えてあげなさい」
「はい、そのつもりです」
と、真面目な話をしていたガーベラさんと俺。
そんな中……マリアが何だか“妙な”テンションで俺に絡んで来た。
「主人公さぁ~ん♪ ……このジュースおぃひぃれすよぉ~♪ 」
「さ、酒臭ッ!? ……お前それ酒だぞ多分?! 」
「お酒ぇ? れも……おぃひぃからぁ~別にぃぃ……ZZZ」
「酒弱ッ!? ……ってまぁ、今日位良いか」
「ふふっ♪ ……楽しそうなパーティね」
微笑みながらそう言ったガーベラさんは、遠くを見つめながら葡萄酒を一口飲んだ。
「はい……俺には勿体無い程に」
この後も続いた宴。
そんな中……“ガハハ笑い”を響かせながら俺の肩をバシバシと叩く上機嫌なオルガさんが現れ……
「おう! ……飲んでるか? 主人公!
族長権限だ! 構わんから今日は泊まって行け!
じゃんじゃん飲んで楽しく酔っ払うが良い! 」
「は、はい頂いてますッ!
唯、流石にお酒は二十歳を超えていないので一滴も飲めませんけど……」
(とは言え中身は三〇超えてるが流石に不味いだろうし、そもそも俺は下戸だし……)
「ん? ……酒など飲めるならば何歳であろうと飲めば良いと思うが、人間族はそうなのか? ……」
「た、多分そうだった筈です! 」
(……この世界ではどうなんだろう?
てか“設定項目”多過ぎて全部は覚えてないんだよなぁ……)
「そうかそうか……ガッハッハ! ……今日は楽しいな! 」
「貴方がそんなに楽しそうだと私も嬉しいわ? 」
「ああ、族長という職務はつまらんからな……ガーベラよ。
お前が側に居てくれるから何とか保って居る様な物だ。
いつも苦労をかけてすまんな……」
「貴方……」
うん。
珍しく俺が“リア充爆発しろ”と思わないカップルだ。
寧ろ微笑ましいし、理想的過ぎて神々しさすら感じるレベルだ。
「わ、私も主人公さんと……あんな風に……」
「ん? ……メルちゃん何か言った? 」
「な、なんでもないですっ! ……」
ともあれ。
こうして楽しい時間を過ごした俺達はエルフ族の村にお泊まりする事と成った。
そして……嘘みたいな熟睡の後、あっと言う間に翌朝を迎えた俺達は……
「オルガ族長、ガーベラさん……エルフ村の皆様も、楽しい宴と素敵な宿を有難う御座いました。
お陰様で、体の疲れも取れて……」
別れの朝、お世話になった御礼を伝えて居た俺だったのだが、此処でもオルガさんに“堅苦しい挨拶はいらん! ”と、途中でぶった切られると言う気遣いを受けた俺。
ともあれ……その後メルちゃんも村の皆さんに挨拶を済ませ……
「そ、そのっ……ガーベラさんっ!
あっ……ありがとうございましたっ!
私もガーベラさんみたいに素敵なお嫁さん……じゃなくてっ!!
そ、そのっ……立派な回復術師になりますっ!! 」
「あら……主人公さんが“旦那様”かしら?
まぁ“両方とも”……確り頑張りなさいね♪ 」
「そっ……それはあのっ……はぅぅぅ……」
と、ガーベラさんにからかわれ顔を真赤にして照れたメルちゃんの横では、明らかな“二日酔い”らしきマリアが……
「頭痛い~……ガンガンする~……気持ち悪いよぉ~っ……」
と、青褪めた顔で斧に寄り掛かって居た。
「お、お前なぁ……とッ、兎に角!
本当にお世話になりましたッ! 」
「ええ、また何時でも来てくださいね? 」
「ええ是非! ではまた! ……」
こうして俺達はエルフの村を後にした。
の、だが……帰宅途中、気持ち悪さの限界を迎えていたマリアに対し、慌てて完全回復を使用した俺。
だが……ほんの少しだけ“間に合わず”……
「うわぁッ?!服に掛かったぁぁぁぁぁッ?!! 」
===第六話・終===




