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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第一章

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第七話「抑える事を覚えたら楽勝ですか? 」

<――エルフ村でお世話になり、エルフ族との友好的な関係を築く事が出来た俺達。


けど、スライムの草原をふっ飛ばした失敗の所為で

記念すべき初めての依頼は失敗に終わってしまった。


だが、問題は其処そこでは無くて――>


………


……



「残念ながら今回の依頼は失敗扱いと成ってしまいましたが……


……そんな事よりも、皆様がお怪我無くお帰りになられて安心しました」


<――ギルドの受付嬢さんに心配をされた。


良かったと言うべきだろうか……彼女の口振りからすると

少なくとも俺の所為だとはバレて無いみたいだ。


けど、あまりにも心配され過ぎて罪悪感が凄い――>


「ナ、ナニカアッタンデスカー? 」

(……不味い、緊張し過ぎてお経レベルの棒読みに成ってしまった! )


「ご……ご存じなかったのですか?!


スライムの草原に対し、魔王軍の手の者が攻撃を行った様で

地形が変わる程の大惨事であったとの情報が

魔導隊の皆様から寄せられて居るのです。


それで……皆様がお帰りになられなかったので

もしや巻き込まれたのではないかと

ヴェルツの女将様も心配して居られましたよ? 」


「あっ、ミリアさんに連絡入れ忘れてた……


……えっと、スライムの草原に向かう途中に

親切なエルフ族の村に招かれまして……


……そ、それで帰りが遅かったんですよ」


「えっ?! ……もしかしてオルガ族長の村ですか? 」


<――はい、と答えた瞬間

受付嬢さんは異常なテンションに成った。


興奮状態でマシンガントークを続ける受付嬢さんの話を聞く限り

どうやらオルガさんに憧れと言うか……恋心を持っている様だった。


確かに素敵な人だとは思った……けど、実際は

半端無く尻に敷かれてたって事は内緒にして置くべきだろうなぁ……


ともあれ――>


「た……確かに格好良い人ですよね」


「ですよね?! ……っと、失礼致しました。


……本題に戻ります。


依頼の失敗は本来罰金もあるのですが

今回の場合は状況が状況ですので罰金は免除という事になります。


何よりも、皆様がご無事で本当に良かったです」


「本当にご心配をお掛けして申し訳有りませんでした。


その……取り敢えず、まずはミリアさんに挨拶してきます」


「ええ、そうされた方が良いかと思います」


<――と、受付嬢さんに別れを告げ

ギルドを立ち去ろうとしていたその時――>


「おぉ、帰って来たか……良くぞ無事じゃったのぉ」


「ラウドさん! ……ご心配をお掛けして申し訳有りません。


その、エルフ族の村でお世話になっていたお陰で無事で済みました! 」


「ふむ……と言う事はオルガの村じゃな?

主人公殿の事は良く自慢しておるし、色々と聞かれたじゃろう? 」


「ええ、魔導技の特訓をして頂きまして……


……それを今度“自慢する”って言ってましたよ? 」


「何ぃ?! ……奴め、抜け駆けとは汚いっ!

今度はわしも特訓に付き合う故いつでも来るのじゃぞ?!


……絶対じゃぞ?! 」


「あ、ありがとうございます……っと

減衰装備ってこの間のお店で手に入りますかね? 」


「ほう? ……オルガから教わったんじゃな? 」


「は、はい……俺の技の威力がちょっと“難あり”だったので

オルガさんの減衰装備を借りて特訓したんですが……壊しちゃいまして」


「何? ……奴の減衰装備が壊れた?


……そうか、それは間違い無く必要じゃよ。


あの店ならば、この国でも

一、二を争う程の質の良い減衰装備が手に入るじゃろう。


この間の材料の余りがあった筈じゃが……まだ持っておるか? 」


「はい……流石に重いので

お店にそのまま預けちゃいましたけど……」


「ふむ、ならばその材料で作れるじゃろう。


……早速行ってみるかのぉ? 」


「いえ……その前にヴェルツの女将さんに挨拶してから向かいます。


とても心配をお掛けした様なので……」


「うむ……では先に行っておるから用が済んだら来るんじゃよ? 」


「はいっ! ……」


<――と、そんな訳で

一度ヴェルツに帰宅した俺達だったのだが――>


………


……



「……ミリアさ~んっ! 」


「なんだい! 大きな声で人を……って。


……主人公ちゃん達じゃないかい! 


心配してたんだよ? ……主人公ちゃん達が受けた依頼の場所が

“魔王軍の攻撃にった”って聞いてねぇ

心配で見に行ったら、地形が変わる程の攻撃を受けてるじゃないかぃ!

心配で心配で……良く無事で居てくれたねぇ~! 」


<――“魔王軍への熱い風評被害”である。


会った事無いけど魔王軍の人達……すまん!


などと考えていた俺に対し、マリアはまたしても――>


「……本当に魔王軍って怖いですよねー主人公さん? 」


「マリア、もう止めてくれ……」

(……此処まで来ると、殺意と言うより“恐怖”を感じ始めて居た俺)


「えっと、その……エルフさん達の村で

お世話になってたから無事だったんですっ! ……」


<――モヤモヤしていた俺に代わりメルちゃんがそう説明してくれた。


正直凄く助かる――>


「そうだったのかい! ……所でメルちゃん

綺麗なネックレスしてるじゃないかい。


高かっただろう? ……討伐依頼の報酬で買ったのかい? 」


「えっと……エルフさん達の村で

族長の奥様のガーベラさんって方に頂いたんですっ!


そっ、その……似合ってますか?? 」


「あぁ、良く似合ってるよ! ……しかし、ガーベラから貰ったのかい?

それは相当“期待”されてるんだねぇ」


「えっ? ……ガーベラさんとお知り合いなんですか? 」


「知り合いも何も……有名人だよ?

エルフ村のオルガとガーベラと言ったら

この国でも有数のハンターで魔導師さね。


……その魔導師から魔導具を譲り受けるなんて名誉な事だよ? 」


「そうだったんですね……私

頑張って、期待に応えられる凄い回復術師ヒーラーになります! 」


「ああ! ……頑張りなよっ! 」


<――メルちゃんが嬉しそうで俺まで嬉しく成った。


だが何か忘れている様な……あっ!


“減衰装備”だ! ――>


「挨拶も出来ましたし……取り敢えず俺は

魔導具を作りに行かないとなので……メルちゃん、マリア

俺一人で大丈夫だろうし、ヴェルツでのんびりしてて良いよ! 」


「了解ですっ! ……って、大丈夫ですか? マリアさん」


「駄目です、やっぱり頭痛いです……」


「あら二日酔いかい? ……兎に角、気をつけてねぇ~! 」


「はい! ……行ってきます! 」


<――直後、ミリアさんと二人に別れを告げ

ラウドさんの待つ装備屋さんへと向かった俺――>


………


……



「お待たせしました! ……挨拶、済ませてきました」


「ミリア殿、喜んでおったじゃろう? 」


「ええ、凄く心配して下さってて

俺達の帰りをあんなに喜んで下さるとは思っても見なかったので

何だか嬉しくて……思わず泣きそうになっちゃいました」


「ふむふむ、ミリア殿は本当に優しい人じゃからのぉ……さて

さっそく減衰装備制作に取り掛かるとしようかのぉ。


と言う事で……店主、頼むぞぃ」


「ええお任せを……では主人公さん。


まずはこの水晶に対し、ありったけの魔導力を注ぎ込む

“イメージ”をしてください……」


「はい……行きますっ! 」


<――言われた通り水晶に魔導力を送るイメージをした俺。


すると、水晶は俺の魔導力を吸い取り始め……そして

じわじわと“大きく”成り始めた……見ていると

何だか、風船みたいに感じられたが――>


「ふむ……ある程度予想はしておりましたが

やはり恐ろしい程の魔導力ですな。


万が一水晶が砕ければ大惨事間違い無しと言った所ですが……


……さて、この程度で良いでしょう。


魔導力供給を止めてください」


「はい……結構疲れますね」


「当然ですよ、主人公さんが持つ魔導力の約九割を

この水晶に貯めておるのです……疲れを感じなければ貴方は化け物です。


さて……次はこの鍋に手をかざし

“我を収める鞘となれ”……と、唱えてください」


「は、はい……


“我を収める鞘となれ”――」


<――そう唱えるた瞬間

鍋の中で溶けた黄金は、オルガさんの減衰装備よりも小さい何かを作り始めた。


何だろう……


指輪か? ――>


………


……



「形が出来てきましたな……ほぉ、指輪ですか。


ん? 一つ……いや……二、三……四つ?! 」


「えっ……何か不味いんですか? 」


「本来、一つで充分に減衰させる事の出来る装備なのですがね……


……まさか四つも出来るとは思っても居りませんでしたよ。


ある意味当然と言った所ですが、此処から先の方が苦労しますぞ? 」


「えっ? ……もう完成したのでは? 」


「ええ、減衰装備は完成です。


ただ、次は水晶に手を当て……“魔導よ我に戻れ”と

ご自身の身体に魔導力を戻さねば成りません。


そして、その際……全てを一気に戻してしまうと体への負荷が大き過ぎる為

数秒毎に手を離し、休憩する必要が有るのですが

主人公さんの魔導量は大量ですから……相当な苦行かと」


「そ、そうなんですか……覚悟してやってみます。


“魔導よ我に戻れ”――」


「はい……早いですな。


主人公さん、そろそろお手をお離しに成って下さい……」


「はい……えっ?! 離れないっ?!


うわぁぁぁぁっ!!! ……」


<――必死に離そうとするも俺の手は水晶から外れてくれず

急激に元の大きさに戻ろうとする水晶の力も加わり

全ての魔導力が急激に俺の体に戻ってしまった。


この状況を例えるならば

“冷え切ったグラスに熱湯を注いだ”かの様に

俺の体に耐えきれない程の衝撃が走ったのだ。


そして……全ての魔導力が体に戻った後


水晶は跡形も無く砕け散った――>


………


……



「不味い! ……主人公さん!!! 」


「ア゛ァァァッッ!!!!! ……」


「主人公殿っ!! ……主人公殿っ!!! 」


《――直後

意識を失った主人公かれに対し必死に呼びかけ続けたラウド。


だが、彼からの返事は無く……程無くして

彼の呼吸は“停止”した――》


………


……



「いかん!! ……戻って来るのじゃ!!


……まずい。


このままでは……魔導通信っ!! ……」


《――直後

ラウドは著名な回復術師ヒーラーであるガーベラを呼ぶ為、魔導通信を試みていた。


だが、そんな時……この場に

メルが現れた――》


………


……



「……主人公さん、装備は完成しましたか?

何だかガーベラさんに貰ったネックレスが光り始めてて……


……って主人公さんっ?!


ラウドさん、何があったんですっ?! 」


「メル殿! ……作業の途中、事故が起きたのじゃよ!


くっ……主人公殿っ! ……戻って来ん!


魔導通信……ガーベラ殿!


……緊急じゃ!!! わしの馴染みの店に来てくれ!

急ぎ主人公殿を助けて貰いたいっ!! ……」


《――ラウドからもたらされた緊急の通信に

ガーベラは慌てつつも急行した……だが

攻撃重視マジシャン以外の魔導師には転移魔導が使えず

ガーベラが到着するまでの時間、主人公が持つかどうかは賭けであった――》


………


……



「嫌っ!!! ……嫌っ! ……主人公さんっ!

死んじゃ駄目ですっ!!!


……二重治癒ダブルヒールっ!!

生き返って! ……嫌っ!!! ……失いたくない!!

主人公さんが居なかったら私……生きていけませんっ!!


だから……だからっ!!!


お願いします……一人に……しないでッ!! 」


《――主人公にすがり付き

みずからが使う事の出来る最上位の回復魔導を用い

彼を必死に救おうとしていたメル。


だが当然、彼女メルの実力では主人公かれを回復させる事は難しく……


……それでも、彼女メルは諦めず

決死の覚悟で回復魔導を掛け続けていた。


だが……そんな時


ラウドは、彼女メルの“ある一言”に反応した――》


………


……



「……メル殿。


御主は今、主人公殿が居ないと生きていけぬと言ったか!? 」


「は、はい……三重治癒トリプルヒールっ!!!


……駄目、私の力じゃ主人公さんを助けられないッ!


いやっ!! ……主人公さんっ! 主人公さんっ!! 」


「待つのじゃ! ……“それ”じゃよ!


……その“心”こそが主人公殿の助けに成るやもしれんのじゃよ!!

メル殿……今から、わしの言う通りに出来るな!? 」


「はいっ! ……主人公さんが助かるなら何でもしますっ!!! 」


「一か八かじゃが……御主の愛の力で助かるかどうかが決まる。


失敗すればお主もただでは済まぬ……それでもやるか!? 」


「はいっ! ……主人公さんの為だったら何でもしますっ! 」


「……よう言うたッ!

では……主人公殿に愛の告白をしながら、口づけをするんじゃ! 」


「く、口づけっ?! ……こんな時にふざけないでくださいっ! 」


「バカモンっ!! ……この顔がふざけておる様に見えるか!! 」


「……ほ、本当に……それで助かるんですか?! 」


「御主の魔導力と愛の力……その全てを掛けて行う

回復術師ヒーラーだけが使える最高位の技じゃ!


じゃが……ガーベラ殿程の腕利きであっても

夫であるオルガ以外には成功せん程に難しい技でな……正直、賭けじゃが

これ以上詳しく説明しておる暇も無い。


主人公殿の顔から血の気が引いておる……早くせねば」


《――唐突なラウドの発案に戸惑うメルだったが

急激に青ざめていく主人公の顔を見つめ……彼女は覚悟を決めた。


そして……直後


彼女は意識の無い主人公に対し、優しく語り掛け始めた――》


………


……



「主人公さん……


……お母さんや私を護ってくれて、助けてくれて

大切にしてくれた主人公さんの事が大切で大好きです。


主人公さんが居て下さらなかったら、きっと私は

笑顔になんて成れなかったです。


“主人公さんの居ない世界”なんて……嫌ですっ!!


主人公さん……今度は私が主人公さんを助ける番です。


大好きです……お願い。


戻って来て下さいっ……主人公さんっ!! ――」


………


……



《――思いの丈を全て伝えた後

主人公に対し、優しく口づけをしたメル――》


………


……



《――静寂に包まれる中、ガーベラが到着。


……メルの姿を見るなり全てを理解したのか、彼女メルを補佐する為

主人公に対し数種類の回復魔導を掛け始めた。


そして、暫くの後――》


………


……



(な……何だ? 柔らかい物が口元に――)


「――ってうわぁぁぁっ?!!


メ、メル……ちゃんッ?! 」


「ひゃぁぁっ?! ……主人公さん?! ……良かっ……た……」


「って、メルちゃんッ?! ……ちょっと!? ねぇってばッ!! 」


《――決死の蘇生術により息を吹き返した主人公。


だが……それに安堵した瞬間


彼女メルは倒れた――》


「えっ、メルちゃん? ……メルちゃん?! 」


「……主人公殿。


メル殿は御主を救う為、本来ならば

熟練の回復術師ヒーラーでも成功率の低い最高位の魔導を使用したのじゃよ。


それだけでは無く……それまでにも

主人公殿に対し回復魔導を掛け続けておった。


恐らく、これは“魔導欠乏症”じゃよ……」


「そんな……どうすれば助けられるんです?! 」


「……助けたいのならばまず落ち着き

主人公殿の余りある魔導力をメル殿に分け与える為の準備をするのじゃ」


「分かりました……早く方法を! 」


「お主はトライスター……故に、水晶に流し込んだ様にメル殿に手を当て

先程と同じ様に念じれば流し込める筈じゃ。


良いな? 精神を落ち着かせて挑むんじゃぞ? 」


「……分かりました。


メルちゃん……頼む……戻って来てくれッ! ……」


………


……



<――メルちゃんを失いたく無いその一心で

ありったけの魔導力をメルちゃんに注いだ俺――>


「頼む……俺の所為でこんな別れに成るなんて絶対に嫌だ。


頼むから……息を吹き返してくれっ!!! ――」


………


……



「んっ、主人公さん? ……」


「っ?! ……メルちゃんッ!! 」


<――直後、何とか息を吹き返したメルちゃん。


けど……自分の命など二の次だとでも言わんばかりに

メルちゃんは俺を心配し、俺を優先し続けてくれた。


俺はただ――


“ごめんよ……ごめんよ……”


――とひたすらに謝る事しか出来なかった。


それでも、メルちゃんは怒りもせず、ただ――


“良かったです……”


――と俺の事を抱きしめたまま

俺の生還を涙ながらに喜んでくれて居た――>


………


……



「すまないメルちゃん……ラウドさんから聞いたよ。


俺の為に最高位の魔導技を使ってくれたって。


でも、その所為でこんな危ない目に……ごめん

俺の所為で……俺はどうやって責任を取れば良いんだろう。


本当に……すまなかった」


「いいえ、主人公さんさえ無事なら私は何も……って。


……ど、どこまで聞いたんですか?!


ま、まさか……私の……」


<――何を思い出したのか

俺から飛び退く様に離れたメルちゃん。


……だが、そんなメルちゃんの事を微笑ましく見つめていたガーベラさんは

詳しい技の説明をしてくれて――>


………


……



「主人公さん、メルちゃんは貴方に“愛の魔導”を使ったの」


「あ、愛の魔導? ……どう言う物なんですか? 」


「……私ですら成功確率の低い技ね。


それをこんなに早く使えるなんてメルちゃんは将来有望かも知れないわね?

でも……緊張しなかった? “口づけの儀式”」


<――耳を疑った。


そして、慌てて“その件”をただした俺に対し――>


「なななななっ! ……何もしてませんっ!!

主人公さんが眠ってる間に……エッチな夢を見たんですっ!!

最低ですっ!! 私とキ、キスする夢を見るなんてぇ~っ!! ……」


<――みるみる真っ赤に染まったメルちゃんの顔。


その姿を微笑ましく見つめていたガーベラさんの様子に

本当にそんな事が起きたのだと“理解した”俺は――>


「そ、そう言えば唇に感触が有った様な……」


「へっ!? ……もうっ! 知りませんっ!! 」


<――何はともあれ。


メルちゃんも俺も……この場にいる全員が

大変な思いをしつつ得られた装備品


“減衰装備”


この後、店主さんに手渡され

その“色を見て”驚いて居た俺だったのだが――>


「やっと完成ですね……って、全部銀色ッ!?

勿体無いな、材質は金なのに……」


「主人公殿……今回の装備の代金はわしが払っておこうかの? 」


「えっ?! ……悪いですよラウドさん!

それに例の“約束”が……」


「ん? ……個数こそ多いが

“トライスター専用装備”と言う訳では無いから構わんぞい?

それに“年寄りの好意”を無下むげにしてはいかんぞぃ? 」


「わ……分かりました。


ラウドさんのご好意……有り難く受け取らせて頂きますッ! 」


「うむ! ……良い返事じゃ!

これで“オルガに自慢し返せる”ぞぃ! 」


「……では今回の装備はラウドさんがお支払いと言う事ですね。


ああ、代金で思い出しましたが……


……トライスター装備の“ツケ”でございますが

主人公さん……一千万金貨、本日お支払いになられますか? 」


「一千万……えっ? 」


「ですから、装備の……」


「い、いや店主さん……俺の聞き間違えだと思うんですけど

金額をもう一度……」


<――と、慌てる俺の横で

ラウドさんは冷静に――>


「……何も間違っておらんよ主人公殿。


トライスターの装備はその絶対数が少ない上

材料は全てが黄金、更に完全受注生産な上

高度な制作スキルが無ければ作れん。


要するに……“国宝級”なのじゃよ」


「で、でも……ラウドさん

そんなに“高い”って教えてくれなかったじゃないですか!!! 」


「ん? ……これでも“知り合い価格”じゃよ? 」


「に、してもですよラウドさん……


……どうやって払うんだろうこれ。


って言うか失敗しましたけど、スライム討伐依頼の成功報酬が

三人分合わせても“銅貨三〇〇枚”だったんですけど

一金貨っていくら位なんですか? 」


「ん? ……金貨の価値を知らんかったか。


銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚

ちなみに魔導隊員の平均的な月の給料が約五万金貨じゃ。


……彼らは比較的高給取りじゃぞい? 」


「えっと、それってつまり一千万金貨稼ごうと思ったら……」


「少なくとも……“スライム討伐”だけじゃと終わらんじゃろうな」


「そうですか……なら、俺にも考えがあります」


「ん? ……何をするつもりじゃ? 」


《――直後

呼吸を整え大きく息を吸い込むと、静かに正座をした主人公。


そして、この場にいる皆が彼の動向に注目したその時――》


………


……



「お……お値引きお願い出来ませんかぁぁぁぁっ!


靴でも何でも舐めるんでぇぇっ!! ……」


《――彼の考えとは


まさかの“土下座”であった。


この、あまりの唐突な行為に呆気に取られて居た店主は――》


「……これでも大負けに負けておりましてね。


本来なら五千万金貨は頂く所を

ラウドさんの紹介で特別に一千万金貨まで下げたんです。


これ以上は流石に……」


「其処を何とかっ! せめて……


……あと百万金貨だけでも値引いてくださいぃぃっ!! 」


「困りましたなぁ……まぁラウドさんの顔もありますし

主人公さんは仮にもトライスター様です。


……今回、命の危険があった訳ですから

残りの黄金を譲って頂けるなら、二〇〇万金貨ほど値引き致しましょう。


この程度の黄金では本来、其処までの価値はありませんがね……」


「あ……ありがとうございますっ!!! 」


「良かったですね主人公さん……ヨシヨシ」


「うわぁ~ん……メルちゃ~んッ!! 」


《――と、半泣き状態の主人公がメルに慰められていた中

店の扉は開かれ――》


………


……



「……主人公さんメルちゃん!

ミリアさんが晩御飯は奢りだって……って何この状況っ?! 」


「おぉマリア殿……いや、まぁ……色々。


色々有るのじゃよ……人生には」


《――こうしてハンターとしての道を歩む事と成った主人公は

同時に“八〇〇万金貨”と言う大借金を抱える事と成った訳だが……


……果たして彼は

全額返金する事が出来るのだろうか――》


===第七話・終===

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