第六八話「楽であれ苦であれ、何れにせよ辿り着いた場所で」
オルガの姉“ヘルガ”との出会いに驚きつつも
何とかチナル共和国を通り抜ける事に成功した一行は
日之本皇国行きの船が出ると言う港までの道のりを
危なげ無く、のんびりと進んで居た。
◆◆◆
「しかし、まさかオルガにお姉さんが居たなんてね……」
と、俺が何気無く発した直後から
ガルドは彼女の事を
“相当な胆力を有して居る”と評価し
ディーンやギュンターさんはそれに同意し
子供達は、その殆どが“怖かった”と言う意見ばかりだった。
反面、リーアを始めとする女性陣は
あの状況で何故そんな所に注目する余裕があったのかも謎だが
彼女の“スタイルの良さ”を褒めて居た。
まぁ、何れにせよ……ヘルガさんに対する
三者三様の反応を見せて居たオベリスクの船内、だが
その一方で俺はある恐怖を感じて居た
「でも……本当に強そうだった。
もしあのまま戦ってたら
お互いに無事じゃ済まなかった気がする位……それに
まさか、政令国家からこんなにも離れた所で
大切な仲間の姉弟と出会うとは思っても見なかったし
そう考えると、やっぱ怖いよ――
“もしこれから先戦う事になる相手が
誰かの知り合いや親兄弟だったら”
――そんな事ばかり頭の中を駆け巡ってて
出来る限りもう“誰とも戦いたく無い”って思いが……」
「あ~……主人公さ~ん? また暗くなってますよ~? 」
「あぁ、ごめんマリア……」
この後も港を目指しオベリスクに揺られて居た俺達。
だが、そんな中……俺達の進む道の少し先に
道の端を歩く一人の女性が居た……彼女は
此方の存在に気が付くと
軽く振り向き此方を確認し……そして
ほんの一瞬だが“怪訝な表情”を浮かべた。
……その後、早足で歩き出したかと思うと
突突として林道を逸れ、妙に慌てた様子で
生い茂る草木を掻き分けながら森へと消えて行き
「皆様……唯今お話に挙がったヘルガ様同様
オベリスクの偽装を“見破った可能性の有る”女性が
あちらの方角へと足早に立ち去りました。
それと……森へ消えていった際、ほんの一瞬ではありますが
“人間離れした動き”を為さった様に思います。
……今ならまだ追いつく事も可能かと
ですが、このまま見逃す事も可能で御座います。
御判断は皆様にお任せ致しますが……」
俺と同じく
その“異常さ”に気付いて居たギュンターさんは
俺達に対し、そう判断を仰いだ
「う~ん……リーアはどう思う?
その女性が消えたって言う方角から何かを感じ取れるかい? 」
「少なくとも……“人間では無い”事だけは間違い無いワ
それに……今も遠くから此方の様子を窺って居るもの」
直後
リーアの指し示した方角へと目を向けた俺達、すると
数百メートル程離れた所に聳え立つ木の影から
様子を窺う人影が、僅かだが確認出来た。
だが
「けど、仮に魔族か何かだとしても攻撃して来る訳でも
何処かや誰かに俺達の存在を伝えに行く訳でも無い
唯“様子だけ窺ってる”って……
……一体、何がしたいんだろう? 」
そう疑問を呈した俺に対し
マリーンは
「確かめたいなら、話し掛けたら良いじゃない」
「いや、そんな――
“パンがないならケーキを食べれば良いじゃない”
――みたいに言われても。
って……兎に角
全員で出て行くと怖がって逃げられる可能性もあるし
一人か二人位で降りて、呼び掛けてみるのも手かもな……」
直後
リーアと共に、尚も此方の様子を伺って居る
“人間では無い女性”に対し呼び掛ける事を選んだ俺達は
「……あのぉ~ッ!!
俺達、旅の商人なんですけど~~ッ!!
み、道に迷ってて~~!!!
出来れば道をお訊ねしたいんですが~ッ!! ……」
(自分で言ってて“古いナンパの常套句”みたいで嫌になる
けど、警戒を解かなきゃ……)
「そうですワ~ 決して怪しい者ではありませんワ~! 」
「いや、リーアそれだと逆に怪しい……って言うか可怪しいぞ?
明らかに聞こえて居る筈なのに、あの場所から全く動く気配が無い。
隠れてるんだとして、居場所がバレてるのが分かったら
普通、何らかのアクションを起こしそうなモンだよな? 」
この後も木の陰に隠れたまま微動だにしない
“人間では無い女性”に引き続き話し掛け続けて居た俺達
……だが、埒の空かない状況に業を煮やし
オベリスクを下りたマリーンの“気付き”から
状況は一変した
「ねぇ主人公、もう諦めてオベリスクに……って
ねぇ……あの木の陰から何か聞こえない? 」
「へ? 俺には余り……」
「って?! これは“魔族系の呪文”よッ! 」
そう言い放ったマリーンの一言に
思わず防衛魔導を展開してしまった俺。
だが
「あッ!!! って……に、逃げた? 」
直後
木の陰に隠れて居た“人間では無い女性”は
“魔族の物と思しき翼”を生やし、勢い良く木の陰から飛び出し
此方を確認すると俺達を攻撃……せず。
……そのまま、森の奥深くへと
逃げる様に飛び去って行ったのだった
「……間違い有りません、あれは魔族ですワ。
あの様な魔族が此処に居ると言う事は
この奥に魔族が大量に居る可能性が高いと言う事……
……森の平穏を乱す魔族を……何としてもッ!!
主人公、お願い……魔族達を倒してッ! 」
血相を変えてそう言ったリーア
直後、慌ててオベリスクへと乗り込んだ俺達は
森の木々を薙ぎ倒しながら、逃亡した“魔族”の追跡を開始した。
だが……まるで先程の魔族を“逃がす為”かの様に
俺達の行く手を阻む大量の魔物が現れ――
「皆様ッ! ……オベリスクの力だけでは対処出来ませんッ!
至急、甲板での掃討作戦をお願いしたくッ! 」
――四方八方から群がる様に沸いて出た大量の魔物を前に
慌てた様子でそう言ったギュンターさん。
直後……ディーンとタニアさんは甲板後方を
俺とマリーンは甲板前方を担当し
続々と現れる魔物達を懸命に討伐し続け
「操縦室へお戻り下さいッ! このまま突破致しますッ! ……」
直後
一瞬の隙を見逃さず、巧みな操舵技術で
魔物の群れを突破する事に成功したギュンターさんは
一気にオベリスクを加速させ
“魔族”の逃亡した方角へと驀進した。
だが――
◆◆◆
「私めとした事が……迂闊でした
敵は中々に手練の様です……申し訳有りません」
――静かにそう言うと
オベリスクの舵からゆっくりと手を下ろしたギュンターさん。
この直後、オベリスクは“完全に包囲された”
「お前タチ!! ……その“化け物”から降りロ!!!
私タチ……お前タチと戦う筋合い無イ!!!!!
お前タチこれ以上暴れるなラ……許せなイ!!
殺られる位なら……私タチ……お前達……殺ル!!!
……全員気を抜くナ!! 」
ざっと見ても二〇体程の魔族に取り囲まれ
絶体絶命の状況に有る筈の俺達……だが、妙だ。
……俺達を取り囲んだ魔族達は圧倒的有利な状況にも関わらず
此方を攻撃する気配も、その意思も無い。
オベリスクを酷く警戒して居る様子ではあったが
その反面“平和的解決”を望んで居る様な口振りでもある。
正直、俺達はこの要求を受け入れても構わないと思って居た
だが……リーアだけは
尋常成らざる怒りを顕にして居て
「……受け入れられないワ!!
貴方達魔族は精霊族や数多の生物が生きる
豊かな森を幾つも焼き払ったワ!
今此処で魔族の要求を飲む位ならッ!!! ――」
言うや否や
謎の呪文を唱え始めたリーア
まるで“特攻”でもするかの様な気迫を発しながら……だが。
直後
「ぬわぁッ?! 」
突如として俺の懐から“何か”が飛び出した事で
状況は再び一変した
「それハ何ダッ?!! 」
この瞬間
懐から飛び出し、俺の周りを漂い
魔族達の神経を酷く“逆撫で”した物、それは……
……出発前、エリシアさんから預かった“謎の木の欠片”だった。
懐から飛び出した木の欠片は
俺の周りを漂った後
周囲を取り囲む魔族達の間をすり抜け
何処かへと飛んで行った。
そして
「まッ、待ってくれ! ……俺にも判らないんだ!
……故郷の仲間から預かった物の一つで
友達と師匠さんのお墓に供えて欲しいって言われて
預かって居た物の一つって事しか知らないんだ! 信じてくれ!!
友達の名前がヴィオレッタで、師匠の……」
「何だト?! ……今何と言ったッ?!
ヴィオレッタだト?! ……何故。
……何故貴様があの子の名前を呼んダ?!! 」
直後
何故か“ヴィオレッタ”と言う名前に対し
過剰反応した一人の魔族は、興奮気味に俺を問い詰めた。
だが、そんな中
「大変ダ! あの“板”ガ……復活しタ!! 」
何処からとも無く現れた魔族は大声でそう言った。
……直後、俺を問い詰めて居た魔族は
僅かに表情を和らげ
「何だト?! な、ならば……今の欠片ハ……お前タチ。
……戦う気が無いなラ、その“化け物”から降りロ
そしテ……大人しく我々について来イッ!!
“化け物”の中に居ル“ゴブリン達も”ダ!!!
……匂いで分かルぞ!! 」
「なッ?! ……わ、分かったッ!
けど……ゴブリンだけど仲間なんだ!!
抵抗しないと誓うから、そちらも手荒な事をしないと約束してくれ。
や……約束して貰えるなら素直に従う!
“俺達全員を無事に帰す”と約束してくれるなら! 」
「何? ……不思議な事を言う人間ダナ。
わかっタ……そちらがおかしナ行動をしない限リ
此方も危害を加えないと約束しよウ! ……付いてこイ! 」
直後、急激に収まり掛けた状況
だが、リーアだけは尚も受け入れ難い様子で
「主人公……幾らアナタのお願いでも、それだけは嫌ですワ」
「リーア、頼む……もしこの選択が間違って居たなら
俺はリーアの望む事を望むタイミングで望む様にすると誓う。
だからお願いだ……今だけで良い。
俺の為とは言わない……皆の為でもあるんだ
頼む……」
リーアに対し必死に頭を下げた俺
暫しの静寂の後
「……分かりましたワ。
その代わり……もしもこの選択が“失策”なら
アナタがどれだけ嫌悪感や罪悪感を感じようと
必ず、ワタシの“望む事”を実行して頂きますワ……」
そう言って
一先ずは俺の要求を飲んでくれたリーア
この後……俺達は魔族達に連れられ
彼らの“本拠地”らしき所へと向かう事と成った。
◆◆◆
暫くの後
本拠地らしき場所に到着した俺達は
「全員集まって座レ! ……
……怪しい動きをすれバ全員死ヌコトになル! 」
そう指示され言われた通りに従って居たその時
俺達の元へと“ヒビの入った謎の板”を持ち現れた一人の魔族。
この板を見るなり驚いたのは他でも無い……俺だった
ついさっき、懐から飛び出た“木の欠片”が
この板に対し物の見事に嵌って居る……だが、意味が分からない。
エリシアさんは何故
魔族が持つ謎の板の一部を持って居たのだろうか?
そして何故、魔族達はこの状況を
喜ばしく思っては居ないのだろうか?
「其処のお前ッ! ……何故この板の欠片を持っていタ!?
そもそモ……何故ヴィオレッタを知っていル!? 」
直後
過剰反応を見せた先程の魔族は
俺の胸ぐらを掴みながらそう言った。
「だから……それは故郷の仲間“エリシアさん”から預かった物で
さっきも言ったけど……“ヴィオレッタ”って人は
エリシアさんの友達の名前で……」
出来る限り冷静に大人しく
事実だけを伝える為エリシアさんの名を出した瞬間
何故かこの場に居る魔族達は一斉に騒がしくなり始めた。
だが……唯一
俺の胸ぐらを掴んで居た魔族だけは、急激に大人しくなり
「……成程、そう言うコトか。
ニンゲン……エリシア嬢ちゃんハ、元気カ? 」
「じ、嬢ちゃん? ……って事は
エリシアさんを知って居るんですか?! 」
「“知っていル”も何モ……私の娘の親友であリ
そう言う意味では特異な人間であリ
エリシア嬢ちゃんよりも更に特異な人間……
……あのヴィンセントの弟子デ
我らの為に必死に成ってくれたあの娘ハ……
……今もこの集落では宝の様な嬢ちゃんダ」
「い、今ヴィンセントって……
……エリシアさんの師匠の事までご存知なのですね。
その……正直、聞きたい事が山の様にありますが
取り敢えず、俺達に貴方達を攻撃する意思が無い事をご理解下さい
その上で……此処までの状況の整理と
幾つかの質問をさせてください。
先ず……俺達はてっきり貴方達が
“森を破壊した”と言う魔族達かと思い
念の為追い掛けたのですが……そもそも
先程俺達を取り囲んだ際貴方達は武力では無く
“話し合いで解決しよう”と為さっていました。
それでその……正直、凄く失礼なのですが
そんな平和的な魔族が居るなんて未だに信じられないんです。
何故、俺達の事を攻撃せず“追い払おう”としたのですか? 」
頭に浮かんで居た疑問の全てを口に出した俺
すると
「……やはりそう考えて居たカ。
我らへの誤解を解く為……先ずハ
お前タチに……ある“事実”を伝えよウ」
「し、事実? ……」
「……我らハ、人間や
魔導力の高い者達を襲わず暮らす方法を知っていル。
お前タチの言葉で言ウ
“共存共栄”が出来る術をナ」
「人間や何かを襲わず生きる魔族? ……あッ!! 」
この瞬間思い出した。
政令国家を旅立った日
政令国家を護りたい一心で使用した固有魔導の最中
魔族に対する“認識阻害”を掛けた際
“敵意の無い魔族”と言う存在が居た事を。
そして……恐らくは目の前に居る彼らが
“その者達”だと言う事を
「成程……それで“敵意の無い魔族”か。
そ、そうとは知らず大変ご迷惑をお掛けしてしまって……」
「お前の言っている意味が解らない……ダガ、兎に角
我らは人間を襲う事など無イ、先程の様に
襲われル位ならば戦うガ……唯の誤解なのだナ?
しかし、お前タチが乗って居たあの“化け物”も気になるガ
一体|何処にに行くつもりデ
あんな化け物に乗って旅をしていタ?
魔王軍の捜索隊が現れたと思イ……我々は肝が冷えタ」
「そ、それは本当に申し訳の無い事を……って
み、皆さんは魔王軍に追われて居るんですかッ!? 」
「曲がりなりにモ、私達は魔族ダ……
……魔王に忠誠を誓わない魔族ハ、疎まれるのダ」
「成程……その、他にもまだ
質問したい事が沢山有るんですが……」
「……此方もダ、情報交換をしよウ
まずはお前タチからで構わなイ……」
「ありがとうございますッ! ……ではまず一つ目の質問を。
……魔族である貴方達が何故
魔導力や生命力を維持する為の食事方法として
人間や各種族を襲わずとも生き続けられるのか
その……“代替手段”と成る様な方法があるのなら
教えて頂きたくて……」
俺の質問にほんの一瞬表情を曇らせた魔族は
暫しの沈黙の後、重い口を開いた
「血を……混ぜるのダ」
「血を混ぜるって……どう言う事です? 」
「……簡単に言えバ、私達の体に流れル血液を抜き取リ
魔導適性の高い人間の血液と混ぜル……そして、それを飲むのダ。
……一度その方法を取れバ、殆どの場合
人間達と同じ様な食事で魔導力の回復が可能となル」
「そ、そんな嘘みたいに簡単な方法が……でも今
“殆ど”と仰いましたけど……
……“例外”があるのですか? 」
「ああ、定期的に行わなけれバ
“元の体質”に戻る者モ少なからず……イル」
この説明を聞いた瞬間、マリーンは
「ねぇ……もしかして
お母さんが言ってた“美しく無い方法”って……」
そう言い掛け口籠った
そして、そんなマリーンに対し
「お嬢さん……貴方からは半魔族の匂いがすル
嫌で無いならバ、お母様のお名前を教えて欲しイのだガ」
「そ、その……お母さんの名前はマリーナよ
少し前まで水の都の女王をして居たわ……因みに純粋な魔族よ」
「何ッ?! ……するとアナタはマリーナ様のお嬢様デ?! 」
「そ、そうだけど……って、マリーナ“様”ってどう言う事よ?
お母さんって魔族達の中ではそんなに偉い身分だったの? 」
「偉いも何モッ! ……私達が魔王から逃レ
この場所で平和に暮らし続けていられル……
……その一端を担ったと言ってモ過言ではなイ
“血液混成法”はマリーナ様から教わったのダ! 」
「で、でも……お母さんは私達に対して
“決して美しくは無い方法”って……」
「それハ……先程説明した“一部の例外”が問題なのダ。
マリーナ様は残念ながラ、その“例外側”だっタ……
……人間から見れバ
定期的に血液を分け与えて貰ウ不気味サ
事情を知らない者から見れバ
“大層気味の悪い方法”と見られても仕方の無い事
ましてマリーナ様は大変ニお優しい方だっタ
その生き方に誇りをお持ちには成れなかったのだろウ……」
「お母さん……苦労してたんだ
私にはそんな素振り全く見せなかったのに……」
「……“母は強し”だよマリーン。
一つ確かな事は……マリーンのお母さんは
本当に本当に素敵なお母さんだって事だ。
マリーンに出来る事は
この事実を知らなかった事を悲しむんじゃなくて
これだけ沢山の――
“平和的に暮らす事を尊ぶ魔族達を助けた”
――その事実と、その行いを誇りに思う事だと思う
少なくとも……俺は今
マリーナさんの事をより一層尊敬してる」
「有難う主人公……私、ちょっと風に当たって来るわね」
直後、そう言い残すと
涙を拭い立ち上がったマリーン。
この瞬間――
“一箇所に纏まって座れ”
――と、警戒心から
強く俺達の行動に制限を掛けて居た筈の魔族達は
彼女の行く道を一切邪魔しなかった。
「そ、その……マリーナさんが
その“方法”を見つける事が出来た理由はさておき
他にも質問があります……
……大切な事なので真剣な返事をお願い致します。
この集落に“定期的に血液を必要とする方は”
何名いらっしゃいますか? 」
「成程、私達ガ平和な暮らしをする為
犠牲と成ル――
“血液供給用の人間を飼っていル”
――とでも思ってイルのだナ。
無論、そう疑ウのも理解出来ル……だガ
私達には協力者が居ル。
……その様な野蛮な行為をすル必要は無イ! 」
「そ、そう言う意味で聞いた訳では無いのですが……兎に角
誤解を与える様な質問にまで答えて頂き有難うございます。
気を取り直し、引き続き質問を……そちらの方がお持ちの
その“板”は……一体、何をする道具なのですか? 」
「それハ……“無作為之板”と呼ばれル
私達魔族に伝わる特殊な“呪具”の一種ダ」
「ど、どんな能力があるんですか? 」
「能力ハ……何故その様ナ事が可能なのかは
私タチにモ分からないガ……それが例え死亡状態であってモ
使用者の望ム相手を復活させる事の出来る力の発動
またハ、使用者自身を途轍も無く強化すル永続的な力の付与。
……何れが発動するにせよ
失敗し、何も手に入れられないせよ……本人に選べはしないガ
成功した場合、どちらか一方を実現可能と言ウ……
……とても強力でとても不思議な力を持つ、そんな板ダ。
だガ……」
「“良い事ばかりでは無い”……と? 」
「その通りダ……この道具には恐ろしい欠点ガあるのダ。
一定の確率で、追加効果として“完全忘却”を付与される上
その忘却は使用者に取って――
“善し悪しに関わらず、その時最も重要な記憶を奪い去る”
――と言ウ残酷な欠点ガあるのダ。
一説にハ“悪魔”と呼ばれる存在が作り上げた道具
とも言われていル……シッて居るのはこの位ダ」
「成程……でも、そんな道具の欠片を
一体何故エリシアさんが持ってたんだろう……」
「それは……彼女がこの板を使用シ
そしてその“欠点”を付与されてしまったからダ」
「は!? ……く、詳しく聞かせて頂いても?! 」
「……彼女は
ヴィンセントを生き返らせよウと試みたのダ。
そして、それは失敗してしまっタ……だガ
皮肉にもその行いに依って……彼女は
師匠に勝るとも劣らない魔導適性を得る事に成っタ。
そして……この道具がまた完全体と成った今
彼女には“完全忘却”に依って失われて居た記憶が
全て戻ったコトダロウ……」
「……エリシアさんが忘れて居た記憶。
意図的では無いにせよ……俺がその欠片を持って来てしまった事は
本当に正しかったんでしょうか?
もしかしたら凄く嫌な記憶って可能性もあるんですよね? ……」
「……正しさとは絶対では無イ
お前ノ優しい心を信ジたからこそ、彼女は託したのダ。
お前タチの先程までの行動を見れば
エリシア嬢ちゃんは、恐らくこの場所を忘れていタのだろうニ……
……ヴィオレッタが辿り着かせたのかも知れないナ。
そう言えばお前……“供える物があル”と言って居たナ?
ヴィンセントとヴィオレッタの墓は近くにあル……案内しよウ」
「ほ、本当ですか?! ……ぜ、是非ッ! 」
◆◆◆
こうして
図らずもエリシアに託された
“約束”を果たす為の場所へと辿り着く事が出来た一行。
その、一方で
同時刻
ある小国の裏路地にて
「姉御ぉ~っ……腹減ったぜ~ぇ?
そろそろ食おうぜ~…なぁ~姉御よぉ? 」
「ええ……ですが“補給”が済んだら追跡を続行しますわよ?
……宜しいですわね? グリフ」
「分かってるよ姉御ぉ~っ……だから早く食おうぜぇ~!
って……それにしても大した魔導力にもならん人間ばかりだぜ姉御?
所長の野郎には“八四名分”……とかって言ってたが
こんなのばかりじゃ後“十倍”は必要になるんじゃねえのか?
姉御よぉ~っ? 」
「……仕方無いでしょう?
“行方知れず”と成っても目立たぬ様な者だけを選べば
自ずとこの程度に成るのですわ?
……文句を言わずに急ぎ補給を済ませなさいグリフ。
所で……“オベリスク”の追跡は順調かしら? ダン」
「はい、エデン様……本船の追跡機能で滞り無く」
「それは良い報告ですわね……であれば早急に回収し
D.E.E.Nシリーズの様な“失敗作”が不必要な存在だと分からせた上
私達こそが“最高傑作”であると所長様に認めさせますわよ! 」
「ああ……姉御の決定に異論はねぇぜ
兎に角、こいつら全員……いい加減さっさと食おうぜ? 姉御」
「そうですわね……」
E.D.E.Nシリーズの視線の先には
身動き一つ出来ぬ程に拘束されたボロ着姿の者達が二〇と数名……
……何れも悲鳴すら上げる事叶わず
唯E.D.E.Nシリーズの糧と成るその時を待って居た
===第六八話・終===




