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異世界転生って楽勝だと思ってました。【感謝15万PV突破! 】【六周年&七年目突入! 】  作者: 黒崎 凱
第二章

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第六九話「のたうち回る程の苦しさと、転げ回る程楽しかった気持ちと」

《――“敵意の無い魔族達”の暮らす集落で

主人公の(ふところ)から飛び出した木片

この、木片の正体は“無作為之板(ランダムテーブル)”と呼ばれる

特殊な呪具の一部であった……だが、この呪具が

完全復活してしまった事で、直前の使用者である

“エリシアの記憶”も完全に“復活”してしまって居て……


……ある日の事

政令国家:飲み屋ヴェルツでは

エリシアは“記憶”に苦しめられて居た――》


………


……



「……ずっと友達……違う……親友……ッ!!

何でッ!! ごめん……私が弱かったから……ぐッ!!


……ミリアッ!!!!!

一番強いお酒……何も聞かずに瓶ごと出してッ!!! 」


「エリシア……いきなりどうしたんだい? 」


「……お願い、何も聞かないで

私の事を心配してくれてるなら……持って来て……お願い……」


「ああ、分かった……だが

話し相手が欲しかったらすぐに呼びなよ?

話を聞く位は出来るからさ……」


「ありがとう……くッ!! ……」


《――(なお)も苦しむエリシア


そんな彼女を心配したミリアは……店で最も強く

()つ、出来る限り“後残りしづらい酒”をエリシアへ渡すと

店の入口に“本日臨時休業”の札を立て掛け

静かに店の奥へと消えて行ったのだった……


……一方。


苦しみを忘れる(ため)か、せめて弱める(ため)

グラスに並々と(そそ)いだ酒を一気に飲み干したエリシアは

一筋の涙を流し、思い出したくも無い“過去”を思い出して居た。


これは……彼女(エリシア)()

“魔導師見習い”とでも呼ぶべき程度の実力しか持たず

政令国家も“王国”と呼ばれて居た頃まで(さかのぼ)る。


……当時の彼女は、王国初代トライスターである

“ヴィンセント”の弟子をして居た。


そして、師匠であるヴィンセントの教育方針に()って

彼と共に様々な国を渡り歩き

訪れた様々な国に伝わる魔導の知識や

魔導道具の知識を日々必死に学び続けて居た。


……(きび)しくも楽しく

(けわ)しくも幸せな旅を進んで居た二人

だが、ある日の事……優しい師匠の“気まぐれ”か

それとも彼には“日常”であったのか……時代は

まるで“幼子(おさなご)が捨て猫を(ひろ)う”かの(ごと)

ヴィンセントが、ある“路上暮らしの少年”を

弟子と迎えた日にまで(さかのぼ)る――》


―――


――



「君……其処(そこ)の君! 」


「?! ……っ!! 」


「あぁっ! ……待って待って逃げないで!!

お腹……()いて無いかい? ……ほら、これをあげよう! 」


《――警戒し、逃げようとした少年に対し

パンを差し出しながらそう言ったヴィンセント。


一方、ボロ着姿の少年は

ヴィンセントの差し出したパンを

恐る恐る、奪う様に受け取ると

それを(むさぼ)る様に食べながら、反面

ヴィンセントに対する警戒心を維持し続けて居た。


……だが、そんな少年に対し

ヴィンセントは優しく微笑(ほほえ)み――》


「少年……君がもし、今の生活を続けて行きたいのなら

僕はこのまま何も言わず立ち去ろう。


だが、僕には君の中に……


……“君自身を助ける力”が(そな)わって居る様に思う

だから少年……僕の弟子に成りなさい。


苦しい思いや(つら)い思い……勿論(もちろん)

それは、僕と旅をして居る間にも間々(まま)()るだろう。


けれど……君は必ず強くなれる

そうなった時、今度は君が誰かを……いや、大切な場所を

大切な人を(まも)れる強さを発揮して欲しい。


……そう、僕は願って居る。


君はどうしたい? ……僕は君の選択に(ゆだ)ねるよ」


《――与えられた久し振りの食事を(むさぼ)り食って居た少年

彼は、ヴィンセントの提案を本当の意味で理解して居たのか

それとも、彼の事を“食事をくれる男性”としか見て居なかったのか


(いず)れにせよ――》


「で……弟子に成る……」


「おぉ! ……それは良かった!


……と、言う事だエリシア!

今日からこの少年が君の(おとうと)弟子だよ!

(あね)弟子として立派な姿を見せる様にね! 」


「は……はいっ! 宜しくね、少年! ……じゃおかしいか

えっと、君の名前は? ……」


「名前……僕の……名前は……」


《――この出会いの後


(きび)しくも優しいヴィンセントの教育方針に()って

弟弟子(かれ)”は破竹の勢いで成長を続け……


……姉弟子(エリシア)よりも一足早く魔導試験に合格した彼は

新人とは思えない程の実力を有する攻撃術師(マジシャン)へと成長して居た。


だが、その反面この頃から彼は

魔導師の修練を(おろそ)かにし始め

個人的な“趣味”を優先し始めて居た。


……姉弟子であるエリシアの再三(さいさん)の注意も意味を()さず

ある日の夜……これを見かねたエリシアは師匠へ相談をした。


だが、心優しい師匠ヴィンセントは――》


………


……



「……彼は多才で、その上多方面に興味がある。


私の弟子には……エリシア、勿論(もちろん)君も同じだが

“魔導師”と言う小さな(わく)(はま)って欲しいとは思わない。


魔導師と言う職業はあくまで手段の一つ……だけど

真面目なエリシアの事だ、納得出来て居ない事も理解して居る。


だから……不公平に成らない様、そして

君にも道を広げて欲しいから、君は嫌かも知れないが……


……僕は君にも、魔導師以外の道を経験して貰いたいと思っている」


「魔導師以外の道……ですか? 一体どんな……」


「……君の職業でもある攻撃術師(マジシャン)

その名の通り“攻撃特化”だ。


実際、世間一般的には“花形(はながた)職業”だし

最も重要な職業とされて居る……だけど

強さ(ゆえ)に弱くも有るんだ

言うまでも無く“回復”も“防御”も出来ないからね。


だから……エリシア、君には“薬草の知識”を持って貰いたい」


「薬草の……知識ですか?

そんなの学ばなくても薬師の所で買えば……」


「“無駄に感じて嫌”かい? ……残念だなぁ。


僕は君がもっと強さと優しさを()(そな)えた

素敵な淑女(レディ)に成長してくれる事を祈って

そう考えたんだけど……」


「素敵な淑女(レディ)……わっ、分かりましたっ!!

薬草の勉強……がんばりますっ! 」


「おぉ! ……本当かい?! 良かった~ッ!


ねぇエリシア……僕はね、せめて大切な弟子にだけは

トライスターの様に、高過ぎた能力の所為で特別扱いを受ける

“呪われた存在”であって欲しくないと思って居る。


だから僕は、君達二人が普通の職業と成った事を

誇りにすら思って居る……だから。


君には、様々な技術を努力で勝ち取り

行く行くは世界最高の攻撃術師(マジシャン)に育って欲しい。


だからこそ、色んな技を持って貰いたい

そう、思って居るんだ……なんたって君は

僕の何よりも大切な弟子だからね! 」


「は、はいっ! でも師匠は“呪われた存在”なんかじゃ……」


「有難うエリシア……君の優しさにはつい甘えたくなる

我ながら良い弟子をとった物だ! ……はっはっは!!! 」


「ちょ、ちょっと! ……茶化(ちゃか)さないで下さいっ!

師匠は本当に素晴らしい魔導師で! ……」


《――この日から後


大量の文献(ぶんけん)を読み(あさ)り、実際に薬草を探し

知識と経験を積んで行く事と成ったエリシア。


だが……そんな(きび)しくも楽しい修行旅の最中(さなか)

旅慣れている筈のヴィンセントにしては珍しく

森の中で方向感覚を失い、その所為で道に迷ってしまった一行は

帰り道すら分からぬ程の状況に立ち往生をして居た。


だが、そんな時――》


………


……



「あの、もしや……道に迷っていらっしゃるのですか? 」


《――彼らに声を掛けたのは

エリシアと同程度の年齢と(おぼ)しき一人の少女であった。


一方、ヴィンセントはこの少女に対し

まるで救いの神が現れたかの(ごと)く――》


「た……助かった~ッ!!


あ、いや失礼……その……貴女(あなた)の言う通り

僕達は道に迷って居るんだ……それで

いきなりこんなお願いをするのは本当に

本当の本当に申し訳が無いのだけれど……」


《――と、ヴィンセントが其処(そこ)まで言い掛けた所で

少女は微笑(ほほえ)み――》


「申し訳無く成られずともお助けするに決まってますっ!

それと……この森は夜遅くなると沢山の魔物が出て危険ですから

急いで此処(ここ)から一番近い村にご案内しますっ! 」


「ああ……気を使わせてしまってすまない

その村に到着したら何かお礼をさせて貰うよ! 」


「いえ、お気遣いなく! ……此方(こちら)ですっ!

あっ! ……お礼の代わりって言うと変なんですけど

道中、もし魔物が現れたら皆さんのお力でお願いしますね! 」


「ああ、それは任せて貰おう! ……えっへん! 」


「し、師匠……そんなに威張(いば)る所じゃないと思います」


「う゛ッ、そうだねエリシア……」


《――直後

少女に案内されひたすらに歩き続けた一行……昼頃に出発し

やっとの事で目的の村に辿(たど)り着いた時には日が落ち始めて居た。


だが……にも関わらず、到着早々

少女は“此処(ここ)で帰りたい”と言い始め……この直後

少女の曇った表情に強い違和感を感じたヴィンセントは

彼女にある質問をした――》


………


……



「……あの村からは特段、変な気を感じない。


少なくとも――


“迷った旅人を襲って金品を奪う(たぐ)いの盗賊が居る”


――様にはね、だけど

ならば何故(なぜ)、君だけがあの村を嫌がるのか。


答えたくなければ答えなくても良い

嫌な気分にさせる質問かもしれないけど一つ聞くよ?


君は……あれ程の時間歩いたにも関わらず息一つ上げず

休憩もせず……途中、魔物が現れたときも眉一つ動かさなかった。


それだけじゃ無い……今来た道を帰ると言う事は

君は先程の危険な魔物が現れる道を一人で……それも

暗闇の中帰る羽目になる……(ただ)の人間

それも、君の様に華奢(きゃしゃ)な少女に

そんな芸当が出来る訳が無い。


見て分かるとは思うが……僕の優秀な弟子二人が

あんなにも“バテている”と言うのに……君は一体、何者だい? 」


《――そう(たず)ねたヴィンセント。


少女はこの質問に(うつむ)き、少し考えた後

悲しげな“満面の笑み”を浮かべ――》


「その……怒らないで聞いてください

私“半魔族”なんです……だから

私一人なら魔物が現れても襲って来る事は無いんです。


でも……その所為で、あの村に近づくと

村の人達が嫌がるから……ごめんなさい。


皆さんは普通の“人間さん”だから……きっと

あの村の人達も優しくしてくれる筈です。


……(だま)したみたいでごめんなさい。


“半魔族に案内された”なんて……嫌……でしたよね……ッ……」


「そう言う事だったか……すまなかった。


……君に魔族の気が有る事は最初から感じて居た

だが、不思議な事に悪意も殺気も何一つ感じなかった。


(むし)ろ、此処(ここ)までの道のりで僕が君から感じて居たのは

優しさと誠実さだけだった……だから、君が悲しそうな声で


此処(ここ)で帰りたい”


そう言った……言わなきゃ成らなかった原因を

僕は知りたかっただけなんだ……ごめん。


意地悪な聞き方をしなければ話して貰えないと思ってね

お詫びと言っては変かもしれない……だけど

()えて言わせて欲しい。


……君が悲しむ原因である、君の出自(しゅつじ)について

僕や弟子達が直ぐにどうこう出来るとは思えないし

扱いを変化させて行くのは簡単じゃ無いとも分かって居る。


だけど、僕は必ず君の様な素敵な存在が

全員笑顔で生きられる世界に変えて行く。


無論(むろん)、僕の弟子達にもそう動いて貰いたいと思って居る。


二人共……良いね? 」


「はいっ! ……」


「……ええ、努力します」


《――直後

(せき)を切った様に泣き崩れた半魔族の少女。


そんな彼女を優しく抱きしめたエリシア……


……だが、この騒ぎを聞きつけた村の者達は

一行に対し“彼女と親しくした”と言う理由だけで

村へ入る事を拒絶(きょぜつ)した。


一方のヴィンセントはこの対応に文句の一つすら言わなかったが

村に背を向け、弟子二人と半魔族の少女を(しっか)りと掴むと

無言のまま今来た森へと転移したのだった。


……一方、そんなヴィンセントに対し

“自分の所為だ”……と謝り続けて居た半魔族の少女

だが、ヴィンセントはそんな彼女の謝罪を受け入れようとはせず


(むし)ろ――》


………


……



「……謝るべきは僕の方だ。


何を言えば君が救われるのか……本当にすまない事をした。


すまない……この通りだ」


《――ヴィンセントは深く頭を下げた

直後、少女はそんなヴィンセントを(ただ)静かに見つめ

そして、(しばら)くの後……少女は思い切った様子で

一行を“ある場所へ案内する”と言って

ヴィンセントの手を引き(はし)った――》


………


……



《――(しばら)くの後


“魔族の集落”へと一行を案内した少女……だが

集落に現れた初めての人間に対し

魔族達は皆、警戒心を剥き出しにして居て――》


「……何故(なぜ)ニンゲンを連れ帰っタ!!

直ぐに追い返せ! ヴィオレッタ!! 」


「待って下さいお父さんッ!! ……あの村の人間さん達は

私の所為でこの人達を拒絶したんです……


それでも……この人達は私の事を(かば)ってくれました

だから……せめてお礼をしたいのです。


せめて今日だけでも構いません、この人達を

集落で休ませてあげて下さいっ!! ……」


《――(しば)しの静寂(せいじゃく)の後

少女の願いを聞き入れた魔族達は、警戒を解き

一行を集落の奥へと案内した……だが。


……ヴィンセントの人柄が(ゆえ)

意外にもあっと言う間に間に打ち解けた一行と魔族達は

豪勢(ごうせい)な食事と歓迎の(うたげ)の中、直ぐに意気投合し

互いの身の上話などで大いに盛り上がりを見せる事と成った。


やがて……“一日だけ”と言う約束もいつの間にか消え去り

一行と魔族達は数週間に渡り友好的な関係を築き

エリシアと半魔族の少女は、何時(いつ)しか

“親友”と呼べる程の友情を築いて居た。


だが……ある日の事


それを“原因”とした“事件”が起きてしまう事と成る――》


………


……



《――ある日の事


ヴィンセントから“数日後に旅に戻る”と聞かされたエリシアは

親友と成った半魔族の少女“ヴィオレッタ”と離れる前に

せめて、彼女を不当に扱い続けているあの村の住人達と

彼女との関係性を良好な物へと変化させたいと考え

単身、村へと出向き……村人達に直談判して居た。


だが――》


「黙れ!! ……分別のつかないガキが! 」

「半魔族など……魔族と人間のハーフだぞ?

(けが)らわしい……その様な者を(かば)うなど! 」

「……まだ立ち去らないつもりか!?

(いく)ら子供とは言え、我が村に厄災(やくさい)(もたら)す存在ならば

それ相応(そうおう)の対応をする事になるが……それでも良いのかッ?! 」


《――考えられた結果ではあったが

この村には、誰一人として

彼女(エリシア)の願いを聞き入れる者など居なかった。


そして、状況はさらに悪化した――》


「ふざけるなッ!!! ……


……お前達は揃いも揃って人間のクズばかりだ!!

ヴィオレッタの何が悪いッ?!

お前達みたいな奴らの方が余程(けが)らわしいよ!!!!

いいよ? ……勝てると思うなら掛かってこいっ!! 」


《――他に方法はあったのかも知れない

理解させるのに時間が掛かるだけだったのかも知れない。


この状況に()いて、唯一(ゆいいつ)確かだった事

それは……若きエリシアの行動は、(あら)ゆる面で

時期尚早(じきしょうそう)”と言うべきだった事だ。


……彼女(エリシア)一人に対し

相手方の用意した魔導師は一五名

それでもエリシアは必死に戦った……だが

駆け出しの魔導師であるエリシアには

多対一の戦闘は余りに荷が重く――》


………


……



《――時を同じくして

魔族の一人がこの状況をヴィンセント達に伝えた事で

事態は急展開を迎えた。


……直後、慌てた様子で転移魔導を(もち)

弟弟子の他、同行を懇願(こんがん)

彼の服の(すそ)を決して離そうとはしなかった

“ヴィオレッタ”をも引き連れ現場へと急行したヴィンセント。


だが……其処(そこ)で一行が目にしたのは

(ひど)く負傷し捕縛されて居たエリシアの姿であった。


……状況を(さっ)したヴィンセントは頭を抱えて居た

そして直後、彼の存在に気付いた村人達は

ヴィンセントに対し――


“何のつもりだ”

“このガキは村に危害を加えようとした”

“どう責任を取るつもりだ?! ”


――と、(なお)も怒り心頭な様子で

エリシアの首に魔導の杖を押し当てて居た。


どう贔屓目(ひいきめ)に見た所で

“弟子が(まね)いた事態”である事に変わりは無く

その、圧倒的に不利な状況からも“弟子を返せ”と(すご)む訳にも行かず

凶行(きょうこう)に及ぶ事を望まない”と伝え

村人達の怒りを(しず)める事を優先し続けて居たヴィンセント。


だが、その一方で……“弟弟子”は

慌てふためくヴィオレッタの耳元で、こう(ささや)いた――》


「僕の作ったこの薬を飲めば、理論上……“超速移動”が可能になる

彼奴(アイツ)らから姉弟子(エリシア)様を救えるかも知れない。


でも、人間には強過ぎる薬だから僕には使用不可能でね

だが……魔族の血が流れてる君なら、もしかしたら……」


《――ヴィオレッタは全てを聞き終える前に

弟弟子の差し出したこの薬を飲み干した。


……そして、弟弟子の説明通り

“超速移動”を発現(はつげん)させたヴィオレッタは

その能力を駆使(くし)し、あっと言う間に

村人達の手からエリシアを救い出した。


直後……この、あまりの出来事に腰を抜かした村人

だがその一方で……エリシアを救出し終わった後

ヴィオレッタは村人達に対し――


(がい)を与えるつもりなど毛頭無(もうとうな)い事

だからと言って“魔族を警戒するな”と言う訳では無い事

とは言え、彼女の家族であり森に暮らす魔族達だけは

村人達に危害を加える事は絶対に無いと言う事を

知って居て欲しいと言う事……そして

出来れば村人達と仲良く出来ていたら嬉しかったと言う事”


――そんな、ありったけの想いの全てを伝えると

ボロボロのエリシアに肩を貸し

ヴィンセントらと共に集落へと帰還したのだった――》


………


……



《――その日の夜の事


集落では……号泣し、皆に謝り続けて居たエリシアと

少々の事ならば笑って許す心優しいヴィンセントが

今回の一件で珍しく見せた怒り顔に

集落の魔族達までもが恐れ(おのの)いて居た――》


「……待って下さいヴィンセントさん!

元はと言えば私の所為で

心優しいエリシアがあんな行動をする羽目に成ったんです!


私がもっと早くあの村に行って

もっと早く今日みたいに想いを伝える事が出来てたら……


……(しか)られるべきは私です!


だから、ヴィンセントさん

もうエリシアを(しか)らないでくださいっ!

お、お願いしますっ!! ……」


《――この瞬間

そう言って彼女(エリシア)(かば)ったヴィオレッタの優しさに

更に号泣したエリシア……直後、ヴィンセントは

彼女(エリシア)(しか)る事を止めたのだった――》


………


……



《――更に数時間後の事


泣き()らした目を(こす)りつつ

エリシアは一人、集落の中に自生(じせい)している

“特殊な薬草”をメモに取って居た。


それは、(みずか)らの失態を忘れたかったからか

それとも――


“あれだけ必死に訴え掛けたヴィオレッタの言葉を聞き

(なお)明確(めいかく)な拒絶をしてみせた

村人達に対する怒りを抑える(ため)


――であったのか。


(いず)れにせよ……一心不乱(いっしんふらん)

()過剰(かじょう)な程に(しっか)りと

特殊な薬草の形状を(えが)き続けて居たエリシア。


だが、そんなエリシアの背後に忍び寄った“影”は――》


「あ~っ! ……その葉っぱ~っ!

本物はそんなに色~濃くないよ~ぉ? 」


《――直後、エリシアに対しそう声を掛けたのは

ヴィオレッタであった――》


「なっ?!! ……びっくりしたぁもうっ!!!

って……ヴィオレッタ、さっきはありがとう。


でもごめんね、私が弱かった所為で……


……師匠が言ってた事

まだまだ実現出来る程の実力は無いみたい。


本当に……ごめん……」


「……んもぉ~っ!

馬鹿だなぁ~エリシアったらぁ~!

私エリシアみたいな友達……違う! “親友”っ!


……初めて出来たんだよ~っ?

エリシアみたいな、優しくてぇ~可愛くてぇ~

すっごい素敵な親友が出来ただけでも

私はとっても幸せなんだよ~? ……だ・か・ら!

もう、さっきの事は気にしないで~っ! ……ねっ? 」


《――彼女(ヴィオレッタ)に取っては

大多数の気心知れぬ者達からの責め苦よりも

“真の自分”を認め、親友と成ったエリシアの悲しむ姿を見る事の方が

何倍も苦しかったのだろう……何時(いつ)も多方面に気を配り

自分と言う存在を抑える事が日常と成っていた彼女(ヴィオレッタ)

エリシアと過ごす平和な(とき)だけが、彼女本来の

優しくおっとりとした人柄で居られる

唯一(ゆいいつ)の時間であったのだ。


だが……そんな彼女(ヴィオレッタ)の優しい人柄を

“知って居るからこそ”(なお)も自分を責めたエリシア――》


「で……でもっ!

私の所為でヴィオレッタは……」


「もぉ~っ……私は、エリシアさえ親友で居続けてくれるなら

何も悲しくないし~苦しくないっ! ……分かった?

……エリシアが悲しそうにしてると私まで悲しく成っちゃうから

お願いっ! ……嫌な事はもう考えないで?


それよりも、私との時間を楽しく過ごして欲しいなっ! ……」


「うん……分かった。


……私、一生ヴィオレッタの親友で居る!

って……な、何だか恥ずかしい宣言しちゃったけど!

ぜ、絶対だからッ! ……とっ、所で!

この薬草って何する物で、どんな効果があるのか

ヴィオレッタは知ってる? 」


《――この瞬間

(ただ)の照れ隠しのつもりでそう(たず)ねたエリシア。


だが、この薬草には――》


「ん~? ……えっと、これの能力はねぇ~!

“永久の繋がり”って花言葉の~……


……確か回復薬の材料だったと思うよっ♪


花の部分が材料で~茎から枝の部分は

すっごく丈夫な“アクセサリ”に出来るんだよ~? 」


「そ、そうなんだ……じゃあ私

ヴィオレッタとの“親友の証”として

これでお揃いのアクセサリ作るよ!


後少ししたら私達は旅に戻るけど……離れてても親友だから!

また……必ず会いに来るから! 」


「寂しくなるね……でも、そんな風に思ってくれて私も嬉しいっ♪

じゃあ、私はエリシアのアクセサリ作るぅ~♪

エリシアは私に作ってねぇ~! 」


「おぉ、良いね! ……よーしっ! 」


《――こうして。


旅立ち前夜……二人は心から笑い

二人仲良く“お揃いのアクセサリ”を作ると

それを交換し、永久(とわ)の友情を確かめたのだった。


……そして


翌日、別れの時――》


………


……



「……エリシア、もう泣かないで? 」


「だって……だってっ!

私……私ッ! ヴィオレッタと離れたく……ない……よッ!! ……」


《――嗚咽(おえつ)()らしながらそう言ったエリシア。


一方……そんな彼女に対し

ヴィンセントは――》


「……エリシア。


修行が終わり一人前に成ったなら

君は自由に何処(どこ)へでも行って構わないし

その時、君がヴィオレッタさんと共に過ごす事を選択するのも

それも全て君の自由だ……だからこそ

今は早く旅立ち、ヴィオレッタさんの(ため)にも

一刻も早く最高の魔導師に成る努力をするんだ。


それは、君が願った彼女の“幸せ”の(ため)でもある……良いね? 」


《――そう優しく()げた

直後、エリシアは静かに涙を拭うと――》


「……分かりました師匠。


じ、じゃあねヴィオレッタ……一生親友だから!

また、必ず此処(ここ)に戻ってくるから……出来るだけ早く

急いで戻ってくるからッ!! ……またねっ! 」


「うんっ! ……私も、もっともっと色んな事を学んで

エリシアと一緒に過ごせる様になるから!


怪我しないでね~! ……

悲しい事や辛い事が有っても負けないでね~! ……」


《――こうして

魔族達の住む集落を後にした一行は

再び長い旅路を征く事と成った――》


………


……



(寂しいけど……我慢だ私ッ! ……必ず最高の魔導師になるんだ! )


《――想いを胸に旅を続ける決意をしたエリシア

一方……(しばら)く進んだ道の先

日も落ち始め、野営の準備をして居た一行。


だがそんな中……何やら慌ただしい様子で

一行の横を通り過ぎた魔導師達……


……その、(ただ)(ごと)では無い様子に

一人の魔導師を呼び止め、ヴィンセントは(たず)ねた――》


「ちょっと君! ……血相(けっそう)変えて何が有ったんだい? 」


「な、何って……“バケモン”が現れたんですよ!

何でもその“バケモン”に村が襲われてるって話で!

村から魔導通信で救援要請が有って……って。


……急いでいるのでこれで失礼します! 」


《――そう言い残し

再び慌てた様子で走り去った魔導師……だが

彼らの向かった方角はヴィンセント達がたった今来たばかりの道

村と呼べる物は一箇所……ヴィオレッタを迫害(はくがい)した

あの“村”である――》


「……まだ距離は近い

幸い我々全員の魔導力には相当な余裕がある。


二人共……救援に行くよ」


《――直後

あの村の救援に行く事を二人に対して提案したヴィンセント。


だが、当然の様にこれに反対したエリシアを

ヴィンセントは強く(しか)った――》


「エリシア……魔導と言う絶大な力を

(みずか)らの損得(そんとく)だけに使用する”事は

世界の破滅を……何よりも

(みずか)らの力と人生を(けが)す事になる。


……“世界最高の魔導師を目指す”と約束したのなら

嫌な事さえ自分の(かて)とするんだ……良いね? 」


《――直後


静かに(うなず)きヴィンセントの服を掴んだエリシアは

彼の転移魔導に()って先程の村に到着した。


だが――》


………


……



《――ヴィンセントの予想通り

襲われていたのは先程の村であった。


増援として送られた魔導師達は強大な化け物の存在に打つ手無く

一人、また一人と打ち倒され

背後に見える村は、激しい炎に包まれて居た――》


「……くっ、遅かったか!!

二人共、僕の後ろで武器だけ構えておきなさい!

それにしても初めて見る魔物だが……あれは一体……」


《――“化け物”は、(すで)に崩壊した村を

何故(なぜ)執拗(しつよう)に攻撃し続け……そして、時折(ときおり)

転移と見紛(みまが)う程の速度で“超速移動”を繰り返して居た。


そんな中――》


「恐ろしい……って、何ですかね? あれ」


《――弟弟子の指し示した化け物の腕。


其処(そこ)に目をやった瞬間……エリシアは絶望した。


化け物の腕に巻かれた、今にも千切れそうな

“手作りの腕輪(アクセサリ)”を目撃した事に()って――》


「あ……あれは……私がヴィオレッタにあげたアクセサリ……

嘘、嘘よ! ……そんな訳無いッ!! 」


「何っ!? ……一体どう言う事だエリシア!

くっ! 不味(マズ)い……此方(こちら)に気がついた様だ!


二人共! 避けろッ!!! ……」


《――瞬間


一行目掛け攻撃を繰り出した“化け物”……だが

(いま)だ修行中の身である弟子二人には

到底(とうてい)回避出来る筈も無い程の攻撃で……


……直後、咄嗟(とっさ)に二人を(かか)

ギリギリの所で二人を退避(たいひ)させようと動いたヴィンセント

だが……そんな彼に向け、再び“超速移動”を発動させた“化け物”は

弟子二人を(かか)えたヴィンセントに対し

体当たりを繰り出し――》


「ぐわッ!! ……」


《――直後


弟子二人を護る(ため)、二人を魔導で弾き飛ばしたヴィンセントは

(すんで)の所で展開した防衛魔導越しに

化け物の体当たりを受けた……だが、その衝撃は凄まじく

彼は瓦礫(がれき)の中へと弾き飛ばされてしまった。


……一方、(ヴィンセント)咄嗟(とっさ)の判断に()って

九死に一生を得た弟弟子は、周囲の瓦礫(がれき)衝突(しょうとつ)し骨折

その痛みと衝撃に()って気絶し……エリシアは

運良く(しげ)みに投げ飛ばされた事で

軽い()り傷を()うに(とど)まって居た。


一方……一頻(ひとしき)り周囲を見回した後

再び、崩壊した村を攻撃し始めた“化け物”……だが、そんな中

“化け物”を攻撃するでも無く、逃げるでも無く

(ただ)呆然(ぼうぜん)と立ち尽くして居たエリシア。


……(しばら)くの後

彼女(エリシア)は“化け物”の元へと静かに歩み寄り――》


………


……



「ねえ、ヴィオレッタ……何が()ったの?

この(さい)……“村の事”なんてどうでも良いよ。


……これは師匠に怒られそうな駄目な考えかも知れないけど

それでも……(ここ)はやっぱり

私の大切な親友のヴィオレッタを苦しめた“(ばしょ)”だから

正直“良い気味だ”とさえ思えてる……けどッ!!

何で、心優しいヴィオレッタが……何でッ?!!

何でいきなり……こんな……ッ!!


……一生親友だって約束したじゃん!!


何でそんな“姿”に成ってまで……


……何でそんな取り返しのつかない事しちゃったんだよッ!! 」


《――そう叫んだエリシア


直後……彼女の声に気づいた化け物は

“超速移動”を発動しエリシアを捕えると……そのまま

彼女の体を強く握り締め持ち上げた……だが、この瞬間


エリシアの腕に巻かれた

“手作りの腕輪(アクセサリ)”は(かす)かに光り――》


………


……



「……ア゛ァ゛アァァァッ!!!

エ゛リ゛……シア゛ァァァァァ!!! ……」


「そう……だよヴィオレッタ……貴女の親友のエリシアだよ。


ずっと……ずっと親友だって約束したでしょ?

お願いだ……から……嫌な気持ちが発散(はっさん)出来たなら元に戻って。


また一緒に……さ、楽しい話とか……遊んだりとか……しよう? 」


「親……友……ッ! ……アガアァァァァァァァァッッッ!!! 」


「……へっ?

ヴィオレッ……タ? ……」


《――刹那の一瞬


冷静さを取り戻したかに見えた次の瞬間

エリシアを(するど)(にら)みつけ

そのまま彼女の体を握り潰さんとした“化け物”


だが――》


「爆雷の魔導ッ! :武御雷(タケミカズチ)ッッ!! ――」


《――直後


(すんで)の所でエリシアを救ったヴィンセントは

“化け物”を打ち倒す(ため)、即座に最上級魔導の詠唱(えいしょう)を始めた。


だが、エリシアはそんな彼の前に立ちふさがり――》


「師匠駄目ッ! ……ヴィオレッタは今

不安定なだけなんですッ!! ……お願い止めてッ!!! 」


《――そう必死に制止した、だが。


そんな彼女を振り解き、捕縛魔導で封じた(ヴィンセント)は――》


「エリシア……全ての罪は僕が背負う

本当に、済まない――」


《――直後

必死に泣き叫ぶエリシアを背に

(ヴィンセント)は最上級魔導を発動した――》


………


……



「エリ……ア……あ……っ……エ……リシア……」


「……ヴィオレッタっ!!!

そんな……師匠ッ……何でッ!! 何でッ!! ……」


「……エ……リシ……ア……

師匠さんを……責めちゃ……駄目……だよ……

もう……なか……ないで……わら……って……


エリシ……ア……私達……永遠……に……

友ダ……じゃ……無……て……シン……ユ……」


《――直後

眠る様に息を引き取ったヴィオレッタ


……燃え盛る瓦礫(がれき)の中

声を枯らし泣き叫ぶエリシアの声だけが悲しく響いた――》



――


―――


《――どれ程の時間が()ったのか


グラスに残った最後の酒を飲み干し

朦朧(もうろう)とする意識の中で……エリシアは


ある重要な事実を思い出して居た――》


「あの後……アイツは確かに

“失敗か”って言いながら馬車の外に薬瓶を投げ捨てた。


アイツが……アイツの所為だ……


全て思い出した……全部……っ……全部ッ!!


アイツが壊したんだッ!! ――」


………


……



「――ライドウッ!!! 」


===第六九話・終===

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