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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第二章

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第六十八話「楽であれ苦であれ、何れにせよ辿り着いた場所で……」

《――オルガの姉、ヘルガとの出会いに驚きつつも

何とかチナル共和国を通り抜けた一行は

日之本皇国行きの船が出ると言う港までの道のりを

危な無く、のんびりと進んでいた――》


………


……



「しかし、まさかオルガにお姉さんが居たなんてね……」


<――そう何気無なにげなく発した直後

ガルドは彼女の事を“相当な胆力たんりょくを有している”と表現したり

ディーンやギュンターさんはそれに同意したり

子供達は単純に“怖かった”と表現したり

リーア達女性陣は何故か彼女の“スタイルの良さ”を褒めていたりと

ヘルガさんに対する三者三様の反応を見せていたオベリスクの船内。


だが、その一方で俺はある恐怖を感じていた――>


「でも……本当に強そうだった。


もしあのまま戦ってたら

お互いに無事じゃ済まなかった気がする位……それに

まさか、政令国家からこんなにも離れた所で

大切な仲間の兄弟と出会うとは思ってもみなかったし

そう考えると色々と怖いよ……もしこれから先戦う事になる相手が

誰かの“知り合い”や“親兄弟”だったら……


……そんな事ばかり頭の中をめぐっててさ

もう出来る限り“誰とも戦いたく無い”って思いが……」


「主人公さ~ん? ……また暗くなってますよ~? 」


「あ、あぁごめんマリア……」


<――この後も港を目指しオベリスクに揺られていた俺達。


だが、そんな中……俺達の進む道の少し先に

道の端を歩く一人の女性が居た……彼女は

此方こちらの存在に気が付くと軽く振り向き此方を確認し……そして


ほんの一瞬だが“怪訝けげんな表情”を浮かべた。


……その後、早足で歩き出したかと思うと

突如として林道をれ、妙に慌てた様子で

生い茂る草木をき分けながら森へと消えて行き――>


………


……



「皆様……只今ただいまお話にがったヘルガ様同様

オベリスクの偽装ぎそうを見破った可能性の有る女性が

あちらの方角へと足早に立ち去りました。


その上、森へ消えていった際にほんの一瞬ではありますが

“人間離れした動き”をさった様に思います。


今ならまだ追いつく事も可能かと……ですが

このまま見逃す事も可能で御座います。


御判断は皆様にお任せ致しますが……」


<――俺と同じくその異常さに気付いて居たギュンターさんは

俺達に対し、そう判断をあおいだ――>


………


……



「う~ん……リーアはどう思う?

その女性が消えたって言う方角から何かを感じ取れるかい? 」


「少なくとも……“人間では無い”事だけは間違い無いワ

それに……今も遠くから此方の様子をうかがっているもの」


<――そう言ったリーアの指し示した方角へと目を向けた俺達


すると……数百メートル程離れた所にそびえ立つ木の影から

此方の様子をうかがっている姿がわずかだが確認出来た。


だが――>


「……けど、仮に魔族か何かだとしても

攻撃して来るでも無い、何処かや誰かに俺達の存在を伝えに行く訳でも無い。


ただ“様子だけうかがってる”って……一体何がしたいんだろう? 」


<――そう疑問をていした俺に対し

マリーンは


“確かめたいなら話し掛けてみたら良いじゃない”


と、思わずマリー“ン”アントワネットと呼びたい様なトーンで

とても単純な案を出して来た――>


「……けど、全員で出ていくと怖がって逃げられる可能性もあるし

一人か二人位で降りて、呼び掛けてみるか……」


<――直後

ほとんど強制的について来たリーアと共に、此方の様子をうかがっている

“人間では無い女性”に対し呼び掛ける事を選んだ俺達は――>


………


……



「……あのぉ~っ!!

俺達、旅の商人なんですけど~~っ!!


み、道に迷ってて~~!!!

出来れば道をおたずねしたいんですが~っ!! ……」

(自分で言ってて“古いナンパの常套句じょうとうく”みたいで嫌になる。


けど、警戒を解かなきゃ……)


「そうですワ~ 決して怪しい者ではありませんワ~! 」


「いや、リーアそれだと逆に怪しい……って言うか可怪おかしいぞ?

明らかに聞こえている筈なのに、あの場所から全く動く気配が無い。


隠れてたとしても居場所がバレてるのが分かったら

普通、何らかのアクションを起こしそうなモンだよな? 」


<――この後も木の陰に隠れたまま微動びどうだにしない

“人間では無い女性”に引き続き話し掛け続けていた俺達


だが、らちかない状況にごうやし

オベリスクを下りたマリーンの“気付きづき”から

状況は一変した――>


………


……



「ねぇ主人公、もう諦めてオベリスクに……って、何か聞こえない? 」


「ん? あぁ確かに、何か呪文みたいな……」


「って?! ……これは“魔族系の呪文”よッ! 」


<――そう言い放ったマリーンの一言に

思わず防衛魔導を展開してしまった俺。


だが――>


「あっ!!! って……に、逃げた? 」


<――直後


木の陰に隠れて居た“人間では無い女性”は

“魔族の物とおぼしき翼”を生やし、勢い良く木の陰から飛び出し

此方を確認すると俺達を攻撃……せず。


そのまま、森の奥深くへと逃げる様に飛び去って行ったのだった――>


………


……



「……間違い有りません。


あれは魔族ですワ……あの様な魔族が此処ここに居ると言う事は

この奥に魔族が大量に居る可能性が高いと言う事……


……森の平穏を乱す魔族を……何としても……主人公

お願い……魔族達を倒してッ! 」


<――血相けっそうを変えてそう言ったリーア

直後、慌ててオベリスクへと乗り込んだ俺達は

森の木々をぎ倒しながら、逃亡した“魔族”の追跡を開始した。


だが……まるで先程の魔族を“逃がす為”かの様に

俺達のはばむ大量の魔物が現れ――>


「皆様ッ! ……オベリスクの力だけでは対処出来ませんッ!

至急、甲板での掃討そうとう作戦をお願いしたくッ! 」


<――四方八方からむらがる様に沸いて出た大量の魔物を前に

慌てた様子でそう言ったギュンターさん。


直後……ディーンとタニアさんは甲板後方を

俺とマリーンは甲板前方を担当し

続々と現れる魔物達を決死の覚悟で討伐し続けた。


そして――>


………


……



「操縦室へお戻り下さいッ! このまま突破致しますッ! ……」


<――直後


一瞬のすきを見逃さずたくみな操舵そうだ技術で

魔物の群れを突破する事に成功したギュンターさんは

一気にオベリスクを加速させ“魔族”の逃亡した方角へと驀進ばくしんした。


だが、その直後――>


………


……



「私めとした事が……迂闊うかつでした。


敵は中々に手練てだれの様です……申し訳有りません」


<――静かにそう言うと

オベリスクのかじからゆっくりと手を下ろしたギュンターさん。


……この直後、オベリスクは


“完全に包囲された”――>


………


……



「お前タチ!! ……その“化け物”から降りロ!!!

私タチ……お前タチと戦う筋合い無イ!!!!!


お前タチこれ以上暴れるなラ……許せなイ!!

られる位なら……私タチ……お前達……殺ル!!!


……全員気を抜くナ!! 」


<――ざっと見ても二〇体程の魔族に取り囲まれ

絶体絶命の状況にる筈の俺達……だが、妙だ。


俺達を取り囲んだ魔族達は圧倒的有利な状況にも関わらず

此方こちらを攻撃する気配も、その意思いしも無い。


俺達の事……いや、オベリスクを警戒している様子だが

むしろ出来る限りの“平和的解決”を望んでいる様な口振りだ。


正直、俺達はこの要求を受け入れる気で居た……だが

リーアだけは尋常成らざる怒りをあらわにして居て――>


………


……



「……受け入れられないワ!!

貴方達魔族は精霊族ワタシタチ数多あまたの生物が生きる豊かな森をいくつも焼き払ったワ!


今此処で魔族アナタタチの要求を飲む位ならッ!!! ――」


<――言うや否や、謎の呪文を唱え始めたリーア

まるで“特攻”でもするかの様な気迫を発しながら……だが、この瞬間

突如として俺の懐(ふところから“何か”が飛び出した事で


状況は再び一変いっぺんした――>


………


……



「……それハ何ダッ?!! 」


<――この瞬間

ふところから飛び出し、俺の周りをただよ

魔族達の神経を逆撫さかなでしたのは――


――出発前、エリシアさんから預かった“謎の木の欠片”だった。


飛び出した木の欠片は俺の周りをただよった後

周囲を取り囲む魔族達の間をすり抜け、何処かへと飛んでいった。


そして――>


「ま、待ってくれ! ……俺にも判らないんだ!


……故郷の仲間から預かった物の一つで

友達と師匠さんのお墓にそなえて欲しいって言われて

預かっていた物の一つって事しか知らないんだ! 信じてくれ!!


友達の名前がヴィオレッタで、師匠の……」


「何だト?! ……今何と言っタッ?!


……ヴィオレッタだト?!

何故……何故貴様があの子の名前を呼んダ?!! 」


<――直後

何故か“ヴィオレッタ”と言う名前に過剰反応した一人の魔族は

興奮気味に俺を問い詰めた。


だが、そんな時――>


………


……



「大変ダ! あの“板”ガ……復活しタ!! 」


<――何処からとも無く現れた魔族は、大声でそう言った。


その直後、俺を問い詰めて居た魔族は

わずかに表情をやわらげ――>



「……何だト?! まさか今の欠片ハ……


お前タチ……戦う気が無いなラその“化け物”から降りロ

そしテ……大人しく我々について来イッ!!

“化け物”の中に居ル“ゴブリン達も”ダ!!!


……匂いで分かル!! 」


「なっ?! ……わ、分かったッ!


……けど!! ゴブリンだけど仲間なんだ!!

抵抗しないと誓うから、そちらも手荒な事をしないと約束してくれ。


約束して貰えるなら素直に従う!

“俺達全員を無事に帰す”と約束してくれるなら! 」


「……不思議な事を言う人間ダナ。


わかっタ……そちらがおかしナ行動をしない限リ

此方も危害を加えないと約束しよウ! ……付いてこイ! 」


<――直後、急激に収まり掛けた状況


だが、リーアだけはなおも受け入れがたい様子で――>


「主人公……いくらアナタのお願いでも、それだけは嫌ですワ……」


「リーア頼む……もしこの選択が間違って居たなら

俺はリーアの望む事を望むタイミングで望む様にすると誓う。


だからお願いだ……今だけで良い。


俺の為とは言わない……皆の為でもあるんだ

頼む……」


<――リーアに対し必死に頭を下げた俺。


しばしの静寂の後――>


………


……



「……分かりましたワ。


その代わり……もしもこの選択が“失策”なら

アナタがどれだけ嫌悪感けんおかん罪悪感ざいあくかんを感じようとも


必ず……ワタシの“望む事”を実行して頂きますワ……」


<――そう言って

俺の要求を飲んでくれたリーア。


この後……俺達は魔族達に連れられ

彼らの“本拠地ほんきょち”らしき所へと向かう事と成った。


だが――>


………


……



<――暫くの後、本拠地らしき場所に到着した俺達は

当然の様に警戒されていて――>


「全員集まって座レ! ……怪しい動きをすれバ全員死ヌ! 」


<――そう指示された俺達が

皆、言われた通りにしたがって居たその時

俺達の元へ“ヒビの入った謎の板”を持ち現れた一人の魔族。


この板を見るなり驚いたのは他でも無い……俺だ。


ついさっきふところから飛び出た木の欠片が

物の見事にはまって居る。


言うまでも無く、この理解不能な状況に頭を悩ませていた俺。


だがその一方で……魔族達に取っては

この状況は決して喜ばしい物では無かった様で――>


………


……



「其処のお前ッ! ……何故この板ノ欠片を持っていタ!?

そもそモ……何故ヴィオレッタを知っていル!? 」


<――直後

先程の過剰反応を見せた魔族が

俺の胸ぐらをつかみながらそう言った――>


「だから……それは故郷の仲間“エリシアさん”から預かった物で

さっきも言ったけど……“ヴィオレッタ”って人は

エリシアさんの友達の名前で……」


<――出来る限り冷静に大人しく

事実だけを伝える為エリシアさんの名を出した瞬間

何故かこの場にいる魔族達は一斉に騒がしくなり始めた。


だが……唯一ゆいいつ

俺の胸ぐらを掴んで居た魔族だけは大人しくなり――>


………


……



「成程……ニンゲン、エリシア嬢ちゃんハ……元気カ? 」


「じ、嬢ちゃん? ……って事は

エリシアさんを知って居るんですか?! 」


「“知っていル”も何モ……私の娘の親友であリ

そう言う意味では特異な人間であリ

エリシア嬢ちゃんよりも更に特異な人間……


……あのヴィンセントの弟子デ

我らの為に必死に成ってくれたあの娘ハ……


……今もこの集落では宝の様な嬢ちゃんダ」


「い、今ヴィンセントって……


……エリシアさんの師匠の事までご存知なのですね。


正直、聞きたい事が山の様にありますが……取り敢えず

俺達に貴方達を攻撃する意思など一切無い事をご理解下さい。


その上で……此処までの状況の整理と、いくつかの質問をさせてください。


……俺達はてっきり貴方達が“森を破壊した”と言う魔族達かと思い

念の為追い掛けたのですが……そもそも、先程俺達を取り囲んだ際

貴方達は武力では無く、話し合いで解決しようとさっていました。


それでその……正直、凄く失礼なのですが

そんな平和的な魔族が居るなんて未だに信じられないんです。


……何故、俺達の事を攻撃せず“追い払おう”としたのですか? 」


<――頭に浮かんでいた疑問の全てを口に出した俺。


すると――>


「……やはりそう考えていたカ。


我らへの誤解を解く為……ずハ

お前タチにある“事実”を伝えよウ」


「事実? ……どう言う事です? 」


「……我らハ、人間や魔導力の高い者達を襲わず暮らす方法を知っていル。


お前タチの言葉で言ウ“共存共栄きょうぞんきょうえい”が出来るすべをナ」


「人間や何かを襲わず生きる魔族? ……あっ!! 」


<――この瞬間思い出した。


政令国家を旅立った日

政令国家をまもりたい一心で使用した固有魔導の最中さなか

魔族に対し“認識阻害にんしきそがい”を掛けた際

“敵意の無い魔族”と言う存在が居た事を。


そして……恐らくは目の前にいる彼らが

“その者達”だと言う事を――>


………


……



「成程……それで“敵意の無い魔族”か。


……そうとは知らず

大変ご迷惑をお掛けしてしまって……」


「ン? ……お前の言っている意味が解らないガ。


兎に角……我らハ人間を襲う事など無イ。


先程の様に襲われル位ならば戦うガ……ただの誤解なのだナ?


しかし、お前タチが乗っていたあの“化け物”も気になるガ

一体何処に行くつもりであんな化け物に乗って旅をしていタ?


魔王軍の捜索隊が現れたと思イ……肝が冷えタ」


「あっ、それは本当に申し訳の無い事を……って。


……魔王軍に追われているんですか? 」


「曲がりなりにモ、私達ハ魔族ダ……魔王に忠誠を誓わない魔族ハ

うとまれるのダ……」


「成程……他にもまだ質問したい事が沢山有るんですが……」


「……此方もダ、情報交換をしよウ

まずはお前タチからで構わなイ……」


「ありがとうございます! ……ではまず一つ目の質問を。


……魔族である貴方達が何故

魔導力や生命力を維持する為の食事方法として

人間や異種族を襲わずとも生き続けられるんです?


その……“代替手段”と成る様な方法があるのですか? 」


<――俺の質問にほんの一瞬表情を曇らせた魔族かれ


しばしの沈黙の後、重い口を開いた――》


………


……



「血を……混ぜるのダ」


「血を混ぜるって……どう言う事です? 」


「……簡単に言えバ、私達の体に流れル血液を抜き取リ

魔導適性の高い人間の血液を混ぜル……そしてそれを飲むのダ。


……一度その方法を取れバ

ほとんどの場合人間達と同じ様な食事で魔導力の回復が可能となル」


「そ、そんな嘘みたいに簡単な方法が……でも今

ほとんど”とおっしゃいましたけど……


……“例外”があるのですか? 」


「ああ、定期的に行わなけれバ元の体質に戻る者モ少なからず……イル」


<――この説明を聞いた瞬間

マリーンは――>


「ねぇ……もしかして

お母さんが言ってた“美しく無い方法”って……」


<――そう言い掛け口籠くちごもった。


そして、そんなマリーンに対し――>


「お嬢さん……貴方からは半魔族の匂いがすル

嫌で無いならバ、お母様のお名前を教えて欲しイのだガ」


「そ、その……お母さんの名前はマリーナよ。


少し前まで水の都の女王をしていたわ……ちなみに純粋な魔族よ」


「何ッ?! ……するとアナタはマリーナ様のお嬢様デ?! 」


「そ、そうだけど……って、マリーナ“様”ってどう言う事よ?

お母さんって魔族達の中ではそんなに偉い身分だったの? 」


「偉いも何モッ! ……私達ガ魔王から逃レ

この場所で平和に暮らし続けていられル……


……その一端いったんになったと言ってモ過言かごんではなイ

血液混成法けつえきこんせいほう”はマリーナ様から教わったのダ! 」


「で、でも……お母さんは私達に対して

“決して美しくは無い方法”って……」


「それハ……先程説明した“一部の例外”が問題なのダ。


マリーナ様は残念ながラ、その“例外側”だっタ……


……人間から見れバ、定期的に血液を分け与えてもらウ不気味サ

事情を知らない者から見れバ

“大層気味の悪い方法”と見られても仕方の無い事

ましてマリーナ様は大変ニお優しい方だっタ

その生き方にほこりをお持ちでは無かったのだろウ……」


「お母さん……苦労してたんだ

私にはそんな素振り全く見せなかったのに……」


「……“母は強し”だよマリーン。


一つ確かな事は……マリーンのお母さんは

本当に本当に素敵なお母さんだって事だ……マリーンに出来る事は

この事実を知らなかった事を悲しむんじゃなくて

これだけ沢山の――


“平和的に暮らす事をとうとぶ魔族達を助けた”


――その事実とそのおこないをほこりに思う事だと思う。


少なくとも……俺は今マリーナさんの事をより一層尊敬してる」


「有難う主人公……私、ちょっと風に当たって来るわね」


<――直後

そう言い残すと、涙をぬぐい立ち上がったマリーン。


この瞬間――


“一箇所に纏まって座れ”


――と、警戒心から強く俺達の行動を縛り付けて居た魔族達は

彼女の行く道を一切邪魔しなかった――>


………


……




「……マリーナさんがその方法を見つける事が出来た理由はさておき

他にも質問があります……大切な事なので真剣な返事をお願い致します。


この集落に“定期的に血液を必要とする方は”何名いらっしゃいますか? 」


「……成程、私達ガ平和な暮らしをする為

犠牲と成ル――


“血液供給用の人間を飼っていル”


――とでも思ってイルのだナ。


無論、そう疑ウのも理解出来ル……だガ、私達には協力者が居ル。


その様な野蛮な行為をすル必要は無イ」


「そ、そう言う意味で聞いた訳では無いのですが……兎も角

誤解を与える様な質問にまで答えて頂き有難うございます。


気を取り直し、引き続き質問を……そちらの方がお持ちの

その“板”は……一体、何をする道具なのですか? 」


「それハ……“無作為之板ランダムテーブル”と呼ばれル

私達魔族に伝わる特殊な“魔呪具”の一種ダ」


「……どんな能力があるんですか? 」


「能力ハ……何故その様ナ事が可能なのカは私タチにモ分からないガ

たとえ死亡状態であってモ

使用者の望ム相手を復活させる事の出来ル力の発動……またハ

使用者自身を途轍とてつも無く強化すル永続的な力の付与。


いずれが発動するにせよ

失敗し、何も手に入れられないせよ……本人に選べはしないガ

成功した場合はどちらか一方を実現可能と言ウ……


……とても強力でとても不思議な力を持つ、そんな板ダ。


だガ……」


「……良い事ばかりでは無いと? 」


「その通りダ……この道具には恐ろしい欠点デメリットガあるのダ。


一定の確率で、追加効果として“完全忘却”を付与される上

使用者に取って――


“善し悪しに関わらず、その時最も重要な記憶を奪い去る”


――と言ウ残酷ざんこくな欠点ガあるのダ。


一説にハ“悪魔”と呼ばれる存在が作り上げた道具とも言われていル」


「成程……でも、そんな道具の欠片を

一体何故エリシアさんが持ってたんだろう……」


「それは……彼女エリシアがこの板を使用シ

そしてその“欠点デメリット”を付与されてしまったからダ」


「えっ!? ……く、詳しく聞かせて頂いても?! 」


「彼女は……ヴィンセントを生き返らせよウとこころみたのダ。


そして、それは失敗してしまっタ……だガ。


皮肉にもその行いに依って……彼女エリシア

師匠ヴィンセントに勝るとも劣らない魔導適性を得る事に成っタ。


そして……この道具がまた完全体と成った今

彼女には“完全忘却”にって失われていた記憶が、全て戻った筈ダ」


「……エリシアさんが忘れていた記憶。


意図的では無いにせよ……俺がその欠片を持って来てしまった事は

本当に正しかったんでしょうか?


もしかしたら凄く嫌な記憶って可能性もあるんですよね? ……」


あんずるナ……正しさとは絶対でハ無イ。


お前ノ優しい心を信ジたからこそ、彼女は託したのダ。


お前タチの先程までの行動を見れば

エリシア嬢ちゃんは恐らクこの場所を忘れていタのだろうニ……


……ヴィオレッタが辿たどり着かせたのかも知れないナ。


お前……供える物があルと言っていたナ?

ヴィンセントとヴィオレッタの墓は近くにあル……案内しよウ」


「ほ、本当ですか?! ……ぜ、是非ッ! 」


《――こうして

はからずもエリシアにたくされた

“約束”を果たす為の場所へと辿たどり着く事が出来た一行。


だが――》


………


……



《――同時刻


ある小国の裏路地にて――》


「姉御ぉ~っ……腹減ったぜ~ぇ?

そろそろ食おうぜ~…なぁ~姉御よぉ? 」


「ええ……ですが“補給”が済んだら追跡を続行しますわよ?

……宜しいですわね? グリフ」


「分かってるよ姉御ぉ~っ……だから早く食おうぜぇ~!


って……それにしても大した魔導力にもならん人間ばかりだぜ姉御?

所長の野郎には“八十四名分”……とかって言ってたが


……こんなのばかりじゃ後“十倍”は必要になるんじゃねえのか?

姉御よぉ~っ? 」


「……仕方無いでしょう?


“行方知れず”と成っても目立たぬ様な者だけを選べば

おのずとこの程度に成るのですわ?


……文句を言わずに急ぎ補給を済ませなさいグリフ。


所で……“オベリスク”の追跡は順調かしら? ダン」


「はい、エデン様……バジリスクの追跡機能でとどこおり無く」


「それは良い報告ですわね……であれば早急に回収し

D.E.E.Nシリーズの様な“失敗作”が“不必要な存在”だと分からせた上

私達こそが“最高傑作”であると所長様に認めさせますわよ! 」


「ああ……姉御の決定に異論はねぇぜ。


……所で。


こいつら全員……いい加減さっさと食おうぜ? 姉御」


「そうですわね……」


《――E.D.E.Nシリーズの視線の先には

身動き一つ出来ぬ程に拘束されたボロ着姿の者達が二〇と数名……


……いずれも悲鳴すら上げる事叶わず


ただE.D.E.Nシリーズのかてと成るその時を待っていた――》


===第六十八話・終===

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