第六話「力を持ちまくってたら楽勝?いいえ、適度に持つのが楽勝なんです」
<――メルちゃんを仲間に迎えてから数日程経った頃
何故かは知らないが、この国の中で俺の“悪い噂”が広まっていた。
何でも――
“暴君なトライスターが誕生した”
――と言う類いの噂なのだが
幸か不幸か……その噂のお陰もあり
メルちゃんやメアリさんに悪意を持って接する奴らは鳴りを潜めた。
まぁ、逆に俺の存在が迷惑に成って居る様な気がしないでもないのだが……
……兎に角、そんな俺達三人はヴェルツで朝食を取りながら
これからについての話し合いをしていた――>
………
……
…
「……それにしても、俺達ハンターに成ってから一度も依頼受けてないし
その所為で“黒い粒子”は今日も元気に俺の回りを回ってるしさ……
って事で、今日はそろそろ簡単な依頼でも受けてみようと思うんだ! 」
「そうですねぇ……私もこの装備手に入れてから
ミリアさんの薪割りのお手伝いに使っただけですからね~」
<――と斧を片手に語ったマリア。
凄く厳つい絵面だ――>
「……仮にも“伝説級”と謳われる武器が泣きそうな使い方だな」
「いやいや、それを言うなら主人公さんなんて――
“薪割り俺も手伝うよ! ……男だからなっ!”
――な~んて言いながら
あんな小さな手斧ですら全く持ち上げられなかったじゃないですか~!
物理適正が全く無くて大笑いですよ! ……アッハッハ! 」
「う゛っ……転生の時、何を考えてたんだ俺は?!
“物理は無しでも良い”とか言ってなければこんな事には……クソッ!
そもそもマリアが言葉通りに受け取らず、ある程度気を使ってだな! ……」
<――そう言い掛けた瞬間
メルちゃんは俺に対し――>
「てん……せい?
……何ですかそれ? 」
<――不味い、うっかり口が滑ってしまった。
これはどう言い訳するべきだろうか――>
………
……
…
「えっ?! ……あっいや……その……そう! “天才っ! ”
俺は魔導の天才だから物理は要らないって言っただけで!! ……」
「……そ、そうなんですね!
た、確かに主人公さんは凄い実力がありますし……」
「い、いや……メルちゃん。
其処は掘り下げないで欲しいと言うか何と言うか……何かごめん」
<――メルちゃんの純粋さに心が折れそうに成って居た一方で
マリアは何だか退屈そうで――>
「……って言うか、そろそろギルドで依頼受けましょうよ~
私もこの斧を有効利用したいですし! 」
「そ、そうだな!
……取り敢えずギルドに行って良さそうな依頼でも探そうか! 」
<――この後
三人でギルドへと向かい“営業スマイルな受付嬢さん”に
新人ハンター向けの依頼が無いかと訊ねた所
“スライム討伐が安全で良い”との事だったのでこれを受けた俺達。
……依頼内容は“スライムコア”を一人当たり十個集める事。
報酬は一人“銅貨百枚”で
多く手に入れればそれだけ報酬も増える歩合制らしい。
この後、俺達は“依頼場所を知っている”と言うメルちゃんに案内され
地図も持たず、メルちゃんを頼りに
“スライムの草原”と呼ばれる場所へと向かった。
到着後……眼下に広がる広大な草原には
大小様々なスライムが確認出来るだけでも約数百匹程生息していた。
転がる奴、跳ねてる奴、ひたすらに形状変化を繰り返す奴……可愛い。
と言うか、その所為で……ほんの少しだけ
倒すのに“罪悪感”を感じる位だ――>
………
……
…
「ほぇ~っ……初めて見ましたけどスライムって可愛いですね~」
「ああ、俺も同意見だマリア……けどその所為で若干の罪悪感を感じてる。
と言うか“スライムコア”ってどうやって取り出すんだ? 」
<――と、依頼書を片手に悩んでいた俺に対し
メルちゃんは――>
「え、えっと……まず、火系の魔導を使って
スライム表面の水分を飛ばしながら倒した後
刃物などを使って傷つけない様に取り出すのが定石ですね! 」
<――と、教えてくれた。
てか、博識だ……
“勉強出来る委員長さんタイプ”だ、この子! ――>
「成程……だとすれば、魔導書の……あった!
この技でいいかな? ……
“火環”
火系魔導の中でも比較的初歩の技らしいんだけど……どうかな? 」
「……良いと思いますっ! 」
「よし! メルちゃんのお墨付きも貰った事だし
あの辺に集まってるスライム達を狙ってみるか。
正直ちょっと可哀想だけど……ごめんっ!
火環ッ!!! ――」
<――と、勢い良く技名を唱えた俺。
だが……あまりにも
上手く“行き過ぎ”て――>
………
……
…
「主人公さん? ……」
「……な、何だいマリア? 」
「何なんですか? この威力……」
「ち、地形が変わってますっ……」
「い、いやぁ~……た、多分気の所為じゃないかな~? メルちゃん」
<――やってしまった。
何て事だ……草原が“抉れた”――>
………
……
…
「うん……よし、逃げようっ! 」
「えっ? 」
「ふぇっ?! 」
「早く、街の人達に見られたら絶対にヤバいから! ……二人共、急いでッ!! 」
「あわわわわわわっ! ……」
「もぉぉっ!! 主人公さんの馬鹿ぁぁっ!! ……」
<――直後、俺達は急いでスライムの草原を離れた。
こんな状況で依頼の失敗とか成功とか
そんな事を考える余裕なんか、無い――>
………
……
…
《――急いでその場を離れた三人で有ったが
そんな一行を遥か遠方から監視していた謎の男……彼は
頭巾の奥でニヤリと笑うと――
“ほう……これは報告の必要が有る様だ”
――そう言い残した直後
煙の様に何処かへと消えたのだった……そして。
一方、近くの森へと逃げ込んで居た一行は――》
………
……
…
「はぁ……はぁっ……何なんだあの技は……ッ! ……」
「本当ですよ……主人公さん、何か間違えたんじゃ無いですか? 」
<――と
マリアに言われた直後――>
「でも……間違い無く、初級の技だった筈ですっ……」
<――と、肩で息をしながらもメルちゃんが必死にフォローをしてくれた。
にも、関わらず――>
「そうですか……でも、だとしたら……
……主人公さんが技名を馬鹿みたいに叫んだから
威力が狂ったんじゃ無いですかねっ?! 」
「う゛っ……言い返す言葉もございません」
「まぁまぁ! ……皆無事ですし、誰にでも失敗はありますからっ
それよりも、もっと安全そうな技を探してみませんか? ……ねっ? 」
「メルちゃん……確かに此処で落ち込んでても仕方無いし
俺、他に良さそうな技でも試して見……」
「ちょっとぉ!? ……止めて下さいよこんな森の中で!
さっきみたいな“爆撃”レベルの技出されたら私達“丸焼き”ですよ?! 」
「う゛っ……それは確かに……」
<――などと話していた俺達。
だが、そんな中――>
………
……
…
「……お前達、其処で何をしているっ?! 」
<――話し込む俺達の前に
何処からともなく現れたエルフ族らしき男……彼は弓を構え
俺達に対する警戒を強めながらそう言った――>
「ま、待ってくれッ!! ……俺達は怪しい者じゃない! 」
「あの~……その言い方が一番怪しいと思いますよ? 主人公さん」
<――何故こう言う時に“冗談”が言える余裕がマリアには有るのだろう?
ある意味羨ましいが、ちょっとイラッとする節もある。
ともあれ――>
「……黙れッ!
先程の“地鳴り”について聞く、知っている事があれば話して貰おう……」
「さ、さぁ……何の事だか……」
(知っているも何も“俺の所為です”とは、口が裂けても言えないよな……)
「怪しいな……しかし、そんな事よりも
貴様の周りを回っている“黒い粒子”は一体何だ? 」
「これは、俺の“魔導の杖”みたいな物で……」
「成程……だが、何れにしろ
貴様らを一度調べる必要がある……ついて来い」
「主人公さん、怖いですっ……」
「大丈夫だメルちゃん……頼む、二人は見逃してくれないか?
怪しいのが俺だけなら、好きなだけ協力するから……」
「成らん、全員だ……抵抗するつもりか? 」
<――不味い、相当に警戒されている。
此処は素直に従った方が……
などと考えていたら――>
「し、しつこい男は嫌われるんですよ!? ……それに
私達を調べるとか言いながら
どうせ“イヤラシイ事”をするつもりなんでしょ!
……エッチな本の“そう言うシーン”みたいにっ!! 」
<――この上無い程に話をややこしくしてくれたマリア。
嗚呼、ついさっき僅かでも
“羨ましい”と思った俺は間違っていた――>
「……うん。
分かったから、マリアはちょっと黙っておこうか? ……マジで」
「貴様ら……これ以上抵抗するなら此方にも考えがある! 」
「ま、待ってくれ!! ……くそっ! 」
<――俺達はエルフ族の男に連行されそうになっていた。
だがそんな時、この騒ぎを聞きつけこの場に駆けつけた
綺麗な金色の髪をなびかせた美しいエルフの女性は――>
………
……
…
「……何事です? アルフレッド」
「ガーベラ様!
……怪しい者達を発見致しましたのでこれから連行を! 」
「そうですか……あら?
……アルフレッド?
全員“ハンターバッジ”を付けているでは有りませんか!! 」
「ええ、ですが……こやつらの言動が怪し過ぎるのです!
人間など、皆野蛮な者だらけです……此処は一度、調べるべきかと」
「お止めなさいっ!!
ハンターギルドのラウドさんとは懇意にして頂いているのですよ?
要らぬ波風を立てる事を……私は望みません」
「し、しかし!! ……」
<――と、言い争う二人を見ていたら
ラウドさんの名前が飛び出したので――>
「あ、あの! ……今、ラウドさんって仰られました? 」
「……あら、お知り合い? 」
「知り合いも何も……俺の恩人ですよ。
“自由なトライスター”として過ごす事を許して頂いた恩があります」
「あら……では貴方が“噂の”トライスターなのですね? 」
「どんな“噂”なのかが怖いですが……」
「いえ、別に普通ですよ?
可愛い女性ばかりを無理やりパーティに加入させ
ハーレムを築き上げようとしている……そんなトライスターとして有名です」
「さ、最悪な噂だったぁぁぁぁぁぁっ!!! 」
「ふふっ♪ 冗談ですよ? ……エルフジョークです」
「……TPOの欠如ッ!!! 」
「ふふっ……愉快な御方ですわね。
……貴方がラウドさんからお聞きしたトライスターであるならば
何も問題は無いでしょう。
お顔を拝見するのは初めてですが、ラウドさんの仰る通り
良いお顔立ちをしていますね。
……アルフレッド、この方達は危険ではありません
ご迷惑をお掛けしたお詫びに宴の準備をする様、皆に伝えなさい」
「あ、あの……お待ちを!
……お気持ちはとても有難いのですが、討伐依頼の最中でして
今日中に“スライムコア”を最低でも三〇個程集めないといけなくて……」
「そうだったのですね……しかし
現在、スライムの草原は壊滅的な被害を受けていると聞きました。
なんでも“魔王軍の幹部級が現れた可能性すら有る”とか……
……その依頼は敢えて失敗としておいた方が安全かと思いますわ? 」
<――ま、魔王軍の幹部?!
いや、そう思うのも無理ないですよね……ええ、大失敗でしたよ!!
と、内心不貞腐れていた俺の気持ちを知ってか知らずか――>
「魔王軍の幹部級ですか~……さぞ恐ろしい風体をしてそうですね~?
ね、主人公さん? 」
「ぐっ……そ、そうだな~マリア!
……仕方有りません、依頼は諦める事にしておきます」
(嗚呼……マリアに時々殺意が湧く件について、小一時間語りたい気分だ)
「それが良いでしょう……ですが、スライムコアならば少し蓄えてあります。
いらぬ疑いをお掛けしたお詫びとして
幾つかお譲り致しましょうか? 」
「えっ!? それは有り難……いや。
それもお気持ちだけで! ……その
俺達……今回が初依頼なので、出来れば自分達の力で達成したいんです。
……せっかくお気遣い頂いたのに、我儘を言ってすみません」
「いえ、素敵な考え方だと思いますよ?
ならば……どうでしょう?
依頼はどの道達成不可能ですし……やはり、宴にお越しに成られませんか? 」
「ご迷惑に成らならければ……是非っ! 」
「ええ、では早速エルフの村へご案内致しましょう……此方です」
<――直後、ガーベラさんに案内されエルフの村へと招待された俺達。
凄い……皆、背が高いし耳が長い。
想像通りのエルフ達だ! ……と、感動している俺達を余所に
ガーベラさんが宴の準備をする様命じると
この村のエルフ達は慌ただしく宴の準備を始めてくれた。
……そして、準備が終わるまでの間ガーベラさんと話していたその時
村で一番高い所に有る建物から異常な程に“ガタイの良い”
エルフの男が現れた――>
………
……
…
「……何の騒ぎだ? 」
「あら貴方……今日は此方のハンターさん達の為に
宴の準備をしていますのよ? 」
「ほう、来客とは珍しい……私はオルガ、エルフ族の族長をしている」
「お、お招きに預かり光栄です! ……俺の名前は主人公です! 」
(エルフらしからぬ筋肉質だ、握手が痛い……)
「私はマリアです~よろしくお願いします! 」
「メ、メルですっ! ……よ、宜しくお願いしますっ!! 」
「堅苦しい挨拶は苦手でな……あまり緊張しなくても良いぞ?
ん? ……其処の小娘、メルと言ったか?
どうだ? ……母は元気か? 」
「はいっ! 主人公さんのお陰で……って、お母さんをご存知なのですか? 」
「ああ、良くも悪くも多種族の中では“有名”だ……私は気にしないがな」
「そんな……わ、私……ご迷惑でしょうか? 」
「アナタっ!!! ……メルちゃんごめんなさいね~
メルちゃんを悲しませるなんて……本当にデリカシー無いわねっ!!! 」
「い……いや、待ってくれガーベラ!
族長の私が“気にしない”と言えば
少しは気が楽に成るかと思ってだな! ……」
「……知りませんっ!
メルちゃん、私の魔導具コレクションを見せてあげるから一緒に行きましょ? 」
「は、はいっ!! ……」
<――言うや否や、ガーベラさんは自室へとメルちゃんを連れて行った。
ただ、それよりも驚いたのは
去り行くガーベラさんの背中に向かい、オルガ族長が――>
「お、おいっ! ガーベラ!! ……愛しの妻よ!!
なんて事だ……怒らせてしまった」
<――って言った事だ。
目の前でエルフ族の族長が
奥さんの尻に敷かれてる所を目撃してしまった。
……あの筋肉でも、と言うか
エルフ族でも奥さんには勝てないのか。
結婚って大変なんだな。
そう、思った――>
………
……
…
「さ、さて! ……そ、それでだが!
……饗すと言ってもお前達の好みを知らん。
何をやりたい、何を食べたいなど……希望があるならば申しておけ」
<――と、完全に
“無かった事”にしたオルガさんに対し――>
「私は兎に角、美味しい物が食べたいです! 」
「マリア……少しは気を使おうよ」
「いや、素直で良い。
主人公とやら……斯く言うお前は何が望みか」
「……へっ!?
い、いやその俺は……まだ見習い魔導師なので
魔導の特訓が出来る場所が有ったら良いなと思ってるんですけど
力の制御方法がまだ解らなくて……
……正直、ご迷惑をお掛けしてしまうかもしれませんから
歓迎して頂いているだけで光栄です! 」
<――と
精一杯に気を使ったつもりだったのだが――>
「ほう……マリアの言う願いは容易な物だが
お前の言う願いはまた手間の掛かる事だな……」
<――逆効果だった。
嗚呼、人付き合いが分からない――>
「やーぃやーぃ……主人公さんの方が迷惑かけてる~っ! 」
「ぐっ……マリアお前ッ!
そ、その……オルガ族長様
別に特訓場所を用意して頂きたいと言う意味では……」
「いや、構わんぞ? ……見た所魔導師か。
私は防衛術師でな……御主の職は? 」
「そ、その……トライスターです」
「成程……ラウド殿が自慢していた小僧は御主の事か! 」
「えっ? ……ラウドさん俺の事“自慢”してたんですか? 」
「ああ、自らの孫の様に語っていた。
……良かろう、御主の特訓を請け負ったと成れば
ラウド殿に自慢し返してやれると言う物よ! 」
「そ、そうなんですか……」
(……見た目のゴツさと裏腹に可愛い性格してるなこの人)
「よし……そうと決まれば、早速私の訓練場所へと同行するが良いッ!
マリア殿は村を自由に見て回ると良い……では行こうか! 」
「は、はいっ! ……」
「行ってらっしゃい主人公さ~ん! 」
………
……
…
<――“族長直々に”と言えば有り難いのだが
半ば強制的に訓練場所へと連れてこられた俺は
只々戸惑っていた、一方でそんな俺に対しオルガ族長は――>
「……それで、何を特訓したい? 」
「その……出来れば
各属性の“初級技”を使いこなせたら……とは思って居るんですが
失敗がその……“酷”くて」
(失敗すると“抉れます”とは言えないよな……)
「……その口振りならば
攻撃術師の技を使いこなせる様に成りたいのだな?
それであれば私は“吸収魔導”を使おう……心配せず
私に向けて技を放つと良い」
「そんな技があるんですね……
……後で防衛術師の項目を見てみよう」
「ん? ……トライスターの魔導書は恐ろしく分厚いな?
……よし、まずは水属性の技で来い! 」
「は、はい! ……では一番初級の技で行きますッ!
水の魔導……水珠ッ!! 」
<――直後
俺の右手から放たれた“水珠”は
球体状の大きな水と成り、オルガさん目掛けて飛来した。
だが……その“規格外の大きさ”に少し慌てた様子のオルガさんは
これを何とか吸収し終え――>
「ぬぉっ?!……何と恐ろしい。
水珠とは思えぬな……吸収に失敗していれば
村が“壊滅”していたやも知れん……」
「そ、その……本当にすみません。
大きさの調節方法が全く判らなくて……」
「成程……“イメージの問題”だな」
「イメージ……ですか? 」
「……ああ、例えには成るが
防衛術師の技には
物理攻撃を防ぐ為の強力な盾を出現させる物が有るのだが
これを展開する時、重要なのが“イメージの力”だ。
自分の体を隠す程度の物……二人分……村全て……大国を包み込む程。
……無論、本人の魔導力も関係してくるが
具体的な大きさをイメージする事が何よりも重要なのは変わらない。
魔導書にはまるで、一部の技しか
そう出来ない様に記されているが……それは無視しろ」
「そうなんですか……では、威力の調節はどうすれば? 」
「威力か……初級の技だからな
適切な大きさをイメージすれば極端な威力の物に成る事は無いだろう。
良し、それを踏まえてもう一度……
……水珠を放って来いっ! 」
<――この時、何かしらの盛大な“フラグ”が立った気がしたが
ピンポン玉位の大きさならば問題に成らないだろうと判断し
オルガさんにむけて水珠を放った俺。
だが――>
「……これまたえらく遅い速度で飛ぶ物だな。
吸収魔導の必要も無さそうに思うのだが……」
<――と、吸収魔導を解除したオルガさん。
しかしその直後、オルガさんの顔にあたった水珠は
オルガさんを“溺れさせた”――>
………
……
…
「なっ!? そんなバカな威力が……ゲホッゴボッ!!
……うっ。 」
「オ……オルガさぁぁぁぁぁんっ!
……やばい。
これがバレたら絶対エルフ族に殺される!!
治す方法……治す方法……そうだっ!!
パッ……完全回復ッ!!! ――」
………
……
…
「?! ……曽祖父様っ?!
わ……私は此処で何を……」
「すみませんすみません命だけは命だけは……」
「いや、私の油断が原因だ……回復魔導は御主が? 」
「は、はい……本当にすみませんでしたっっ!!! 」
「気にするな……さて、威力は殆ど落ちず姿だけが小さかった。
流石にあれでは危ないが……トライスターと言うのはもしかすると
基礎魔導力が高過ぎるのかもしれんな。
そうなると“減衰装備”をつけるべきかもしれんが……」
「えっと……減衰装備ってなんですか? 」
「……本来は魔導師同士の練習試合や決闘に使われる道具だ。
誤って相手を殺めてしまわぬ様、技の威力を減衰させる装備でな
本来ならば魔導具屋で自分の魔導量に合わせて作る物だが
今は私の物を貸してやろう。
とは言え、私の物程度では
御主の魔導力を抑えるには足りんかもしれんがな! 」
「そんなご謙遜を~! ……有り難くお借りします! 」
<――と、オルガさんに手渡されたのは重そうな腕輪だった。
だが、装備しても変化らしい変化を感じられず
首を傾げていた俺に対し――>
「安心しろ……動きの阻害はされぬ筈だ、魔導の威力だけが落ちる。
試しに一度放って見ると良い……さぁ来いッ! 」
「は、はいっ!! ……水珠ッ! 」
(念の為、ビー玉位の大きさで……)
「これはなんとも……死に掛けの虫の様に飛んでいるな」
<――そうは言いつつも
念の為か、ガチガチに吸収魔導を展開していたオルガさん。
けど、俺が放った水珠はオルガさんの遥か手前で
力尽きた様に地面に落ち消滅してしまった。
まさに“死に掛けの虫”状態で――>
「落差が激しいな……だが、これで威力の問題も解決しただろう。
良い機会だ、他の属性も試すとしよう……次は火属性だ! 」
「ひ、火属性ッ!?
流石にちょっと怖いですけど……やってみます! 」
「……何故怖がる?
まぁ良い……吸収魔導は展開済みだ、何時でも来いッ! 」
「では……火環ッ! 」
(五〇センチ……いや、三〇センチ位で! )
<――と、恐る恐る放った火環は
ほんの一瞬地面を焦がした程度で収まり
オルガさんの展開した吸収魔導に吸い取られた――>
「うむ……威力、大きさ共に安全圏まで抑えられている様だな。
だが、言葉にすると不思議な気分になる……」
「そうですね……っと、この調子で全ての属性を試しても良いですか? 」
「ああ……この際だ、纏めて撃つが良い!
さぁ……来いッ!!! 」
「はいッ!!! ――」
<――直後、オルガさんに向け
残る雷・土・風・闇・光の初級魔導を連続で放った。
だが……最後に放った“光の魔導”だけ
何故か威力の減衰効果がみられず……
……オルガさんの目に凄まじいダメージを負わせてしまい
俺は、再び慌てて完全回復を使用する羽目に成ったのであった――>
………
……
…
「……兎に角、威力の調節は出来る様に成ったと思って良い。
所で……“まさか”とは思うが
スライムの草原を焦土にした犯人は……御主では無かろうな? 」
「そ、そんな馬鹿な~!
……そんな事ある訳無いじゃないですか~!! 」
<――と、否定しつつも
俺の身体は滝の様な汗をかいて居たし
明らかにオルガさんが疑いの眼差しを強めたのにも気付いて居た。
だが、この直後――>
………
……
…
「……仮にそうだとしても隠し通すのだ。
要らぬ詮索を受け、仲間を傷つける事に成るのは避けるべきだからな……」
<――族長と言う役目を負う人だからだろうか
オルガさんは静かにそう言うと、これ以上の詮索を止めた――>
「は、はい……肝に銘じておきます」
<――ともあれ。
オルガさんとの特訓は無事終了……しなかった。
事もあろうに、オルガさんから借りて居た減衰装備から
“嫌な音”がしたかと思うと、減衰装備が粉々になってしまったのだ――>
………
……
…
「あ゛っ?! ……私の減衰装備が!! 」
「い゛ぃっ?! べ、弁償しますから命だけは命だけは……」
「高かったと言うのに……いや、まぁ良い。
それにしても……私はそんなに御主の命を狙っている様に見えるのか?
顔が怖いのだろうか? ……何れにせよ少々悲しいぞ主人公よ。
……まぁ、それは良いとして
装着せぬ状態で先程の連撃を受け続ければ無事では済まなかった筈だ。
光魔導に減衰効果が見られなかったのもその所為だろう。
弁償も必要ない……気にするな」
「本当に色々とご迷惑を……」
「構わん構わん! ……良い自慢話が出来た。
ラウド殿が悔しがる顔を今から想像して楽しめると言う物だ!
此方こそ長く付き合わせて済まなかったな……
……そろそろ宴の準備もできている頃だろう、皆の元へ戻るぞ! 」
「は、はいっ! ……」
<――この後、オルガさんに連れられ村に戻ると
豪勢な食事とエルフの楽団が用意されており
一足先にマリアもメルちゃんも宴の席に付いていた。
そして、オルガさんに依る“乾杯の音頭”の後――>
………
……
…
「では……主人公、マリア、メル。
三名の優秀なハンターとエルフ族の良い交流の宴となる様
此処に乾杯の音頭とする……乾杯っ! 」
<――宴は開かれ
俺達は美味しい料理とエルフ楽団の素敵な演奏に酔いしれて居た。
そんな中……メルちゃんが俺にあるネックレスを見せてくれた。
聞けば“ガーベラさん”から頂いた物らしく――>
………
……
…
「似合ってるよメルちゃん!
……ガーベラさん、本当にありがとうございます! 」
「いえいえ……お下がりだし、私があげたくなっただけだから気にしないで。
それに、メルちゃんは私と同じで回復術師だって言うじゃない?
何だか親近感湧いちゃったのよ」
「でも、メルちゃんが喜んでる顔見れて俺も嬉しいです」
「そうね……メルちゃんはずっと辛い思いばかりだった筈。
だから、せめて貴方は……楽しめる事を沢山教えてあげなさいね? 」
「はい、そのつもりです」
<――と、真面目な話をしていたガーベラさんと俺。
そんな中……マリアが
何だか“妙な”テンションで俺に絡んで来て――>
………
……
…
「主人公さぁ~ん♪ ……このジュースおぃひぃれすよぉ~♪ 」
「さ、酒臭ッ!? ……お前それ酒だぞ多分?! 」
「お酒ぇ? れも……おぃひぃからぁ~別にぃぃ……ZZZ」
「酒弱ッ!? ……ってまぁ、今日位良いか」
「ふふっ♪ ……楽しそうなパーティね」
<――ガーベラさんは微笑みながらそう言うと
遠くを見つめながら葡萄酒を一口飲んだ――>
「はい……俺には勿体無い程に」
<――この後も続いた宴。
そんな中……“ガハハ笑い”を響かせながら
俺の肩をビシビシと叩く上機嫌なオルガさんが現れ――>
「……飲んでるか? 主人公!
族長権限だ! ……構わんから今日は泊まって行け!
じゃんじゃん飲んで楽しく酔っ払うが良い! 」
「は、はい頂いてますッ!
……ただ、流石にお酒は二十歳を超えていないので飲めませんけど……」
(中身は三〇超えてるけど、流石に不味いだろうし
そもそも俺は下戸だし……)
「ん? ……酒は別に幾つでも飲めるなら飲めばいいと思うが
人間族はそうなのか? ……」
「た……多分そうだった筈です! 」
(この世界ではどうだったっけ?
てか設定項目多過ぎて全部は覚えてないんだよなぁ……)
「そうかそうか……ガッハッハ! ……今日は楽しいな! 」
「貴方がそんなに楽しそうだと私も嬉しいわ? 」
「ああ、族長という職務はつまらんからな。
ガーベラ……お前が側に居てくれるから何とか保っている様な物だ。
いつも苦労をかけてすまんな……」
「貴方……」
<――うん。
珍しく俺が“リア充爆発しろ”と思わないカップルだ。
寧ろ微笑ましいし、理想的過ぎて神々しさすら感じるレベルだ――>
………
……
…
「わ、私も主人公さんと……あんな風に……」
「ん? ……メルちゃん何か言った? 」
「な、なんでもないですっ! ……」
<――ともあれ。
こうして楽しい時間を過ごした俺達はエルフ族の村に泊まる事と成った。
嘘みたいな熟睡の後、あっと言う間に翌朝を迎えた俺達は――>
………
……
…
「オルガ族長、ガーベラさん……エルフ村の皆様も
楽しい宴と素敵な宿を有難う御座いました。
お陰様で体の疲れも取れて……」
<――別れの朝、お世話になった御礼を伝えて居た俺だったのだが
此処でもオルガさんに“堅苦しい挨拶はいらん! ”
と、途中でぶった切られると言う気遣いを受けた俺。
ともあれ……その後
メルちゃんも村の皆さんに挨拶を済ませ――>
「そ、そのっ……ガーベラさん……あっ、ありがとうございましたっ!
私もガーベラさんみたいに
素敵なお嫁さん……じゃなくてっ!!
そ、そのっ……立派なヒーラーになりますっ!! 」
「あら……主人公さんが“旦那様”かしら?
まぁ、両方とも確り頑張りなさいね♪ 」
「そっ……それはあのっ……はぅぅぅ……」
<――と、ガーベラさんにからかわれ
顔を真赤にして照れたメルちゃんの横では
明らかな“二日酔い”らしきマリアが――>
「頭痛い~……ガンガンする~……気持ち悪いよぉ~っ……」
「お、お前なぁ……とっ、兎に角!
本当にお世話になりましたッ! 」
「ええ、また何時でも来てくださいね? 」
「是非! ではまた! ……」
<――こうして俺達はエルフの村を後にした……のだが。
帰宅途中、気持ち悪さの“臨界点”を迎えていたマリアに対し
慌てて完全回復を使用した俺……だが。
“間に合わず”――>
………
……
…
「うわぁ?!……服に掛かったぁぁぁぁぁっ?!! 」
===第六話・終===