第五十二話「楽には進めない道を進む為……」
《――誰一人として欠ける事無く
鬼人族との間に生まれた誤解も解消され、無事に困難な状況を脱した一行。
一方、鬼人族族長ヴォルテクスは――》
………
……
…
「所デ“主人公”……と呼んで良いカ? 」
「ええ……勿論構いませんが
それよりも先ず誤解が有った様で……申し訳有りませんでした」
「構わなイ……そんな事よりモ、お前達ハこの地の霧に不慣れな様子
上に戻りたいのならば我らが協力するガ、その前に確認があル。
先程から気には成っていたのだガ……其処の女から“魔族の匂い”がすル。
“最重要人物”であるお前に……
……是非とも納得の行く説明をして貰いたイ」
《――マリーンに目をやりそう言ったヴォルテクス。
だが――》
………
……
…
「……納得の行く説明って言われても
私が“半魔族”だと言う事しか説明できないわよ。
それに……わざわざ主人公に聞かなくても
言葉なら通じるんだから私に直接聞いたら良いでしょ? 」
「それハ失礼したナ……だガ、半魔族だト?
魔王に与しているのか居ないのカ……どちらダ? 」
《――マリーンを見据えながらそう問うたヴォルテクス
それと同時に鬼人族の戦士達は皆警戒を強めた……だが
マリーンの“堂々とした”態度に――》
………
……
…
「……魔族の血問題は私自身も辛いの、まして
“魔王に与してるか”なんて聞かれたら
悲しみを通り越して苛立ちすら感じるわよ!
もし与する相手が居るのなら……それは主人公だけ
あ、愛してるのも主人公だけだって……だ、断言出来るわよ! 」
「な゛っ?! ……マリーン?! いきなり何を?! 」
「うわ~……どさくさに紛れて告白までする辺り
流石はマリーンさんですね~抜け目無いですね~」
《――慌てる主人公
それを茶化すマリア……そんな光景の中
ヴォルテクスはマリーンを“敵では無い”と判断した様で――》
「信じよう……ガダンボルガンダダ」(お前達、警戒しなくて良い様だ)
「……その様子だと
鬼人族は魔族と敵対していると考えて良いのだな? 」
《――そうグランガルドが訊ねた
瞬間――》
「敵対だト? ……生ぬるイ!
奴らを滅ぼせるならば命失おうとモ構わぬのダッ! 」
「ふむ……であるならば、吾輩達とも利害は一致している様だ
それより、先程吾輩達の“脱出を手伝う”と言って居たが……」
「うム……協力しよウ、上へ戻ると言うのならバ……」
《――ヴォルテクスがそう言い掛けた瞬間
これに待ったを掛けたディーン。
彼は、オベリスクの残骸を回収を優先したいとヴォルテクスに告げた――》
「……成程、あの残骸を回収する必要があるのカ。
ならバ、それの回収に協力シ……改めて上へと戻る道を案内しよウ」
《――直後
協力を受け入れたヴォルテクスに対し
ギュンターは深々と頭を下げ、協力への謝意を伝えた。
だがそんな中、マリアは不思議そうに――》
「あれ? ……そう言えばオベリスクは故障してる訳ですよね?
あれだけの大きな戦艦の残骸をどうやって持ち運ぶんですか?
そもそも修理も必要では?
と言うかそもそも、あれを直せる技術って一体何処で……」
「……ご心配ありがとうございますマリア様、ですが
その点に関しては心配ご無用でございます。
……あれが回収時にこの小瓶へと収納される事は
もうご存知かと思いますが……故障時は残骸を直接回収後
この小瓶で暫く保存し、一日に一度振ってやれば
長くとも一週間程で完全に修理されるのでございます」
《――言うまでも無くこの説明に驚いた一行。
中でも主人公は――》
「……嘘ぉ?!
と言う事は、オベリスクを完全に破壊するのは不可能って事では?
オベリスクっていよいよ万能過ぎません!? 」
「いえいえ、万能などでは……ですがお褒めに預かり光栄でございます。
完全破壊の方法こそ詳しくお話は出来ませんが
意外な方法で容易く完全破壊が可能と言う説明で
どうかお許しを……」
《――ともあれ。
この後、鬼人族に依る道案内のお陰もあり
無事オベリスクの残骸を全て回収し終えた一行は
ヴォルテクスの案内で上道へ登る為の道へと向かって居た――》
………
……
…
「しかし……恐ろしい魔導を扱う物ダ
あの様に巨大な残骸を全て吸い込む瓶とハ……恐ろしイ」
「ヴォルテ様、お褒めに預かり光栄でございます」
「ふム……後は上道へ案内すれば良いのだナ? 主人公」
「ええ、お願いします!
でも……会ってからずっとお世話になりっぱなしですし
このまま何もお礼をせず立ち去るのは
流石に申し訳無い気がするんですが……」
「……律儀な男だナ、主人公。
ならバ……お前達の故郷は何処ダ? 」
「……政令国家と言う国です。
元々は王国の有った場所ですが、地図では……この辺りです」
「ふム……万が一我らがこの森を追われる事あれバ
我らをその国で受け入れて貰える様、取り計らって貰いたイ」
「……勿論です!
っと言うか、思い立ったが吉日って事で直ぐに魔導通信で連絡を!
魔導通信、ラウドさんへ……ってあれ?
おかしいな、繋がらない……し、少々お待ちを!!
魔導通信、エリシアさんへ……変だ
やっぱり繋がらない……何でだろう?
ってまさか、何かあった訳じゃ?! ……」
《――慌てる主人公
だがヴォルテクスは――》
………
……
…
「此処は魔導を乱す地盤ダ……故に通じぬのだろウ」
「成程、なら急いで上に戻らないとですね……」
「ふム……上へと上がれる場所へ案内しよウ」
《――直後
ヴォルテクスの案内に依り崩落した橋の先
霧の晴れた森へとたどり着く事が出来た一行……だが。
ヴォルテクスは崩落した橋を見るなり
大層残念そうな表情を浮かべ――》
「……この有様では貴殿の国を目指すのも一苦労だナ」
「あ~……確かにそうですね。
って……そうだ!
少々お待ちを! ……石柱ッ! ……石柱ッ! ……石柱ッ! ……」
《――直後
橋の崩落現場に巨大な石柱を打ち込み続けた主人公は
少々歪では有るものの
渡るには充分な急拵えの橋を作り上げたのだった――》
………
……
…
「何と恐ろしい魔導力か……やはり貴殿、只者ではないナ」
「いえいえ……そもそも俺達の所為ですし!
たっ、たまたまこの状況に適切な技を知って居ただけですので! 」
「ふム……能ある鷹は爪を“隠したい”と言う訳カ。
安心するが良い……深くは追求しなイ。
ともあレ……貴殿らの旅が、無事に進む様祈って居ル」
「有難うございます……ですが
色々お世話になりっぱなしで何とお礼をすれば良いのか……
……再会出来た時、また改めて色々とお礼をさせて下さい。
政令国家にも後で連絡をしておきますから、緊急時と言わず
何時でも遊びに来て下さいね! 」
「うム……お言葉に甘えよウ。
では、よい旅をナ! ……」
《――この後
鬼人族達との別れを惜しみつつも再び旅路へと戻った一行。
……オベリスクの修理が完了するまで一行は歩きでの旅路と成った訳だが
問題は其処では無かった様で――》
「……とりあえず政令国家に連絡入れておこう
何日も連絡出来なかったし、心配掛けてるかも……兎に角!
魔導通信、ラウドさん! ――」
………
……
…
「ラウドさん……連絡が出来なくて申し訳有りませんでしたッ! 」
「な、何じゃ?! ……主人公殿かっ?!
無事じゃったか……皆で心配をしておったんじゃよ!?
ミリア殿もエリシア殿も魂が抜けた様な様子でのぉ……
……それにしても、一体何が遭ったんじゃね?
ただ忘れておっただけならば繋がらん訳もあるまいて」
「それが、その……オベリスクが谷底へと落ちまして……」
「何ぃ?! ……皆無事じゃろうな?! 」
「え、ええ……全員無事です!
そ、それでその……落ちた先で俺を救ってくれたのが
鬼人族と言う種族なのですが
救って頂いたお礼を満足に出来なかったので
その代わりと言っては何ですが、鬼人族に何か遭った際には
政令国家で受け入れて頂けたら……と言うか、もう約束してしまいまして。
事後報告で申し訳無いんですけど……良いですかね? 」
「散々な目にあったんじゃのぉ、しかし……鬼人族のぉ?
聞いた事の無い種族じゃが……見た目の特徴は? 」
「えっと……赤い皮膚で、額からは角が生えていて
族長以外は我々の言葉を話せない様ですので……
……会話が少し難しいかなとは思いますけど
族長が居れば意思の疎通は出来ると思います。
因みに、族長の名前はヴォルテクスさんで
俺達には“ヴォルテで良い”と……」
「ふむ……まぁその方々が我が国に訪れた際には
主人公殿への恩に報いる様な盛大な歓迎をせねばならんのぉ。
……っと、報告はその位かの? 」
「ええ、大体は……ですが
俺達が通った森には樹木巨獣と言う
巨大な木の魔物が生息している様ですので
もしもこの道を通る事がある場合は充分に注意した方が良いかと。
オベリスクすら簡単に粉砕する程ですので」
「……言い伝えでは聞いた事が有るが
まさか実在するとは……って何じゃと?!
オベリスクが“粉砕”じゃと?!
ど……どうやって旅を続けるつもりなんじゃ?! 」
「それも安心して下さい……暫くすれば完全修復が可能なそうなので!
ただ、完全に修復されるまでは歩きですが……」
「何と……しかし、オベリスクは恐ろしい固有魔導じゃのぉ。
……っと、いかんいかん!
長話をしておる場合ではないわい!
わしよりもミリア殿やエリシア殿に連絡してやるのじゃよ! 」
「ええ、了解です! ……ではまた! 」
………
……
…
「――久しぶりだとつい長話になっちゃったな
さてと、引き続きミリアさんとエリシアさんにも連絡を……」
《――そう言いつつ
続いてミリア達に連絡を入れ掛けた主人公……だがこの瞬間
“謎の声”は再びメルへと話し掛けた――》
………
……
…
“……皆無事で良かった! ……僕も嬉しいよ! ”
………
……
…
「えっ?! ……またさっきの声が……あなたは誰?
私の声は届いてるの? 届いてるなら……」
「……えっ? また何か聞こえたんですか?
と言うかもしかして……昼なのに“おばけ”とかじゃないですよね?! 」
「いや、マリア……微かだが今のは俺にも聞こえたぞ?
てか、今の声は何だ? 」
《――と周囲を見回しつつ話していた一行
だが、今度は主人公にのみ囁いた別の声――》
………
……
…
“ねぇ、アナタが主人公サン? ……お話出来るなんて嬉しいワ♪ ”
………
……
…
《――艶っぽい声色で主人公に囁いた謎の女性
すかさず主人公は返事を返し――》
「……あなたは誰です?
俺達の無事を祝ってくれた所を見ると敵とは思えないけど
この状況です、完全には信頼出来ません……
……近くにいるのなら姿を現して下さい」
“会いたいのは山々だけド
それなら一度、ワタシ達のいる場所まで来てくれないと無理ネ?
……勿論、私達は敵なんかじゃないワ?
それよりも……あなたの逞しい魔導力をぜひ間近で感じたいワ♪ ”
「い゛っ!? ……」
(な、何かエロい喋り方する人だな……なんかセクシー過ぎて
変にムラムラと……って、いかんいかんっ!
罠かもしれない、ここは慎重に……)
………
……
…
「あ……会いに来いと言われてもあなた達が何処に居るのかを知らないですし
第一あまり遠い場所だと困るんです、俺達は……」
<――と、言い掛けた俺を遮る様に
謎の声の女性は――>
“……旅の途中ですものネ♪
確かにアナタ達が目指す次の国にたどり着くまでの日程が
数日ズレるかもしれないけド……でも、会いに来て欲しいワ? ”
<――と言った。
この余りにも怪しい囁きに、当然――>
「待った……何故俺達が旅の途中である事や
次の目的地の場所まで知っているんだ?
……姿を表さないのは百歩譲って良しとする
だけど、この状況はとてもじゃないが信用に足りない。
せめて君が何者なのか、それを教えてくれ」
<――そう問い掛けた俺。
この直後、謎の女性は――>
………
……
…
“そんなに警戒しないで? ……私達は森の精霊よ?
……とっても逞しいアナタと
皆さんに折り入って真剣に相談したい事が有るの。
ワタシ達精霊族の命に関わる事……勿論タダでとは言わないワ?
オネガイ聞いてくれるならワタシの事……好きにして良いワ♪ ”
「命に関わる……って、な゛っ?!
そ、そんな“エロエロ攻撃”で俺が動くと……お、思って居るのかッ?!
……けしからんっ!!
俺をそんなに安く見て貰っちゃ困るなぁ全くッ! 」
《――と、見るからに動揺していた主人公に対し
マリアは――》
「あの~主人公さん? ……何を一人で悶々としてるんです?
私達には聞こえない声を相手に――
“何らかの交渉をしてるんだろうな~”
――って事だけは理解出来てますけど
それにしても明らかに“不健全な話を”してませんか? 」
「い゛っ?! ……いや、そのッ!!
……って、マリア達には聞こえて無いの? 」
「ええ……聞こえる人は挙手を」
<――直後
誰も……メルですらも手を挙げず――>
「……と、言う事です」
「そうなのか……いや、その
俺とメルに話しかけてる人達は、実は人間じゃ無いみたいでさ……」
「へっ!? やっぱり“おばけ”……」
「……違うってば!
その、精霊族らしい……詳しくは知らないけど
精霊族達の命に関わる事件が起きているらしい。
俺も良く分からないけど……助けに行きたいんだ」
《――決意を胸にそう告げた主人公。
だが、マリーンは――》
「……騙されてる可能性は無いの?
この一帯はあんな“樹木巨獣”が出る森よ?
主人公の規格外な魔導力を目当てにして
罠に誘い込もうとしてる変な魔物って可能性もあるんじゃないの? 」
「ああ……正直そうかも知れないし全くの嘘って可能性もある。
だけど、俺の力を信じて頼って来た人達を
無下にしたくない気持ちがあってさ……けど
無理にとは言わないし、最悪無視すれば良いとは思う。
けど、その……」
《――と、少々優柔不断な様子の主人公を
見かねたマリーンは――》
「そんな奥歯に物の挟まった様な言い方しないで良いから!
それで? ……何処に行けば良いの? 」
「えっ? それは……えっと、何処へ行けば……」
“嬉しいッ♪ ……道案内はワタシがするワ♪
ワタシの声を頼りにワタシ達の元へ来てネ♪ ”
「それは……精霊が案内してくれるらしい」
<――そう答えた瞬間
“しかし主人公は巻き込まれ体質だな”
と、グランガルドに言われ――
“寧ろ自分から進んで巻き込まれている様に思えるが”
――と、ディーンに言われてしまったのだった。
ともあれ……この後“精霊族の女性”の発言を信用し
“精霊達の住処”と呼ばれる場所へ向かう事となった俺達は……
……半日と少し歩き、道中で遭遇した魔物などを狩りつつ
やっとの思いで指定の場所へとたどり着いた。
だが……到着した俺達の目の前には
巨大な樹木だけが立っていて――>
………
……
…
「……何だ? 木しか無いぞ?
くそっ! ……騙されたッ! ……皆、周囲の警戒を怠らず
この場所から……」
<――そう言い掛けた俺を遮った“声”
彼女は――
“騙して無いワ? でも嬉しいっ♪ ……たどり着いたのネ♪
今、アナタ達が入れる様にするから待ってネ♪ ”
――そう言って俺達の眼前に立っている木を
“変化”させた――>
「……入れる様にって
何処からどう見ても木にしか見え……って、ぬわぁっ!? 」
………
……
…
<――瞬間
俺達の眼前に立つ大木には突如として大きな“門”が現れた。
門の先には“手招きをする女性”の姿が見えて――>
「えっと……流石にこれは、皆に見えている……よね? 」
「ええ、ちゃんとは見えませんけど女性が居るのだけは分かります。
ですけど……何か妙に“ボン・キュッ・ボン”ですね?
やっぱり“変な約束”……したんですか? 」
<――そう言いながら拳を固めていたマリア。
“いっ?! ……いや、そんな事は無いっ!!
と、取り敢えず……いっ、行くぞっ!! ……えいっ! ”
――と、誤魔化すかの様に勢い良く門をくぐり抜けた俺
直後、全員がこの門を通り抜けた瞬間――>
………
……
…
「アナタが主人公さんネ♪ ……会いたかったワ♪ 」
<――言うや否や、勢い良く俺に抱きついた女性。
彼女は……俺と同程度の背丈を持ち
褐色の肌、背中には精霊族特有と思われるオーラを纏い
白銀の髪に王冠を載せた……見るからに精霊族の女王な女性だった。
だが、俺に取って不味い事に
抱きついたまま、興奮気味に俺の頬へと口づけをした“女王”
当然、この行動の所為で――
“へぇ~っ? ……やっぱりそう言う事だったんですね? ”
と、マリア
“主人公……最低ね”
と、マリーン
“……酷いですっ! ”
――と、メルにまで軽蔑された俺は
何時も大抵ならば俺の味方をしてくれる筈のガルドにすら
見放されてしまったのだった――>
………
……
…
「い、いやちょっと皆待ってくれって!!
てか……頼むから離れてくれッ!!! 」
「アラ酷い……やっと会えたのに冷たいわネ?
アナタ……ワタシの“飛ぶ音”を忘れたノ? 」
「えっ? 君の飛ぶ音? ……分かる様に説明してくれ」
「……イイワ♪
ちょっとだけ飛ぶから良く聞いていて頂戴ネ♪ 」
<――そう言った次の瞬間
“女王”は勢い良く飛び上がり、俺達の目の前を横切った。
……大きな風切り音、一聞するとただの風切り音だったが
この音を聞いた瞬間……俺とマリアだけが
ある“瞬間”を思い出した――>
………
……
…
「ねぇ主人公さん……この音! 」
「……あっ!!!
魔導適正を測っていた時“癒やし”で出たあの音って……まさか?! 」
「そうよ♪ ……思い出して貰えてワタシ、嬉しいワ♪
……主人公の逞し過ぎる力を感じた
ワタシが興奮しちゃった時の音よ♪
……でも、近くで感じると予想以上ネ♪
アナタ……とっても素敵よ♪ 」
《――そう言いつつ主人公の正面に舞い降りると
再び彼の頬に口づけをした精霊族の女王――》
………
……
…
「ぬわぁっ!? ……不意撃ち止めて下さいよ?! 」
「アラ? ……“不意”じゃ無かったら良いのネ? 」
「そ、そう言う事じゃなくて!! ……ああもうッ!
そもそもは俺達を呼んだ理由ですよ!
俺に“こんな事”をする為じゃないのでは!? 」
「ごめんなさいネ……つい興奮しちゃったワ♪
確かにアナタ達を呼んだのは別の理由……本来の理由は……」
<――この瞬間
今の今まで明るく振る舞って居た“女王”はとても真剣な表情に変わった。
そして――>
………
……
…
「魔族達を止めて……もしも無理なら、全て倒して」
「い……いきなり穏やかじゃない相談ですね。
何れにしても順番が色々とめちゃくちゃです。
……まずは自己紹介から始めませんか?
それから改めて聞きますから……」
「そうね……ワタシの名前はマグノリア
でも、アナタだけはリーアって呼んでも良いワ♪ ……特別ヨ♪ 」
「ええ……ではリーアさん。
“魔族達を止める”って話について詳しく話して頂いても? 」
「嫌だワ? ……寂しくなるから“敬語”と“さん付け”はやめてネ?
それで……魔族の話に戻るけれど
奴らは何故か森を手当り次第に焼き払ってるの……
……ワタシ達精霊族は森が住処であり、森がワタシ達の身体
此処はまだ無事だけど、恐らく時間の問題だと思うワ……だからお願い。
私達を……いいえ、森を助けて欲しいの。
勿論タダでとは言わないワ? ……さっきも言ったけど
ワタシの全てをアナタにアゲルから……」
「い゛っ?!! ……い、いやそのっ!!
そんなあのほら、その……ねっ?! ……そうだ!
……第一種族が違い過ぎるから!
そっ、それに……そんな事を期待して来た訳じゃないしッ! 」
《――と“超絶挙動不審”な主人公だったが
直ぐに息を整え――》
………
……
…
「……兎に角、俺に其処まで言ってくれるのは光栄だけど
そんな事を目当てに来た訳じゃ無い。
君達精霊族全体の為、精一杯協力はする……だが
俺に“身体をどうたら”って言うのは聞かなかった事にさせてくれ。
そもそも、リーア達はメルを遠くから助けてくれたんだろ?
……と言う事は、回り回って俺達全員を助けてくれた恩があるって事だ。
恩返しはするべきだし、出来る限りの事はするよ
だから安心してくれたら……ってリーア? 」
《――瞬間
主人公の無欲な申し出に対し涙を流し始めたマグノリア。
直後、彼女は――》
「……アナタはとても純粋ネ
なのにワタシは酷い事を……ごめんなさいネ」
「い、いや……何だか良く分からないけどもう泣かなくて良いからさ
兎に角……何をしたら助けられるのかを教えてくれないか? 」
「ええ……ワタシ達は本来、魔導師達が回復術師の技を使う時
森の持つ癒やしの力を分け与えるのが仕事なの。
……だけれど、魔族達が森を手当り次第に焼き払ってるこの状況は
魔導の均衡を著しく破壊しているワ。
それと――
“特別にして特異な生まれの者
生死の境を彷徨いし時、精霊の加護が宿る”
――って話、聞いた事無いかしラ? 」
「全く知らないが……当て嵌まる存在がいるのか? 」
「アナタと……其処にいるメルちゃんもそうヨ? 」
「へっ?! 私が特異な生まれ? ……ハーフ族だからとかですか? 」
「いいえ、メルちゃん……アナタには特別な
アナタもまだ知らない“例外的な力”が有るみたいなの♪
だからあの子が、本当はちょっと“ルール違反”だけど……
……アナタを守ったのよ♪ 」
「あ、あの子とは? ……」
《――メルの質問に対しマグノリアが指し示した場所には
メルの手のひら程の小さな精霊が居た。
……その精霊はメルの元へとゆっくりと近づき
彼女の周りをくるくると回りながら――
“……やっと会えたね! 僕はベン!
まだまだ見習いの精霊さ! ……けど、皆無事で良かった!
でも何より……メルちゃんに会えたのが一番嬉しいよ! ”
――と言った。
一方、この声に“聞き覚え”を感じたメルは、自らを助けた事への感謝と
結果として彼のお陰で皆を助けられた事に対する御礼を伝えた。
だが、そんな彼に対し
“……俺からもお礼を言うよ、ありがとうベン”
と、メルに続けて感謝を伝えた主人公に対し
彼は
“これからもよろしくね”
と言った――》
………
……
…
「ああ……って、これからも?
それは頻繁に会いに来ても良いって事かい? 」
「違うよ~! ……僕はこれからず~っとメルちゃんと一緒にいるの!
そう言う事だから……メルちゃん、よろしくね! 」
「へっ?! それは嬉しいですけど……その……
……森に居なくても平気なんですか?
精霊は森に居ないと、その……生命力が……」
《――メルがそう訊ねた瞬間
マグノリアは――》
「ええ、その通り……でも“特異な生まれを持つ者”の元に居るのなら
森にいるよりも元気で居られるのですワ?
兎に角……そう言う事だから、主人公にもお願いするワ?
……ワタシの事も宜しくネ♪ 」
「へっ?! ……き、君もついてくるって事か?!
って言うかリーアは女王じゃないのか?!
女王が森を離れるのは流石に不味いんじゃ……」
「確かに……ここから離れるのはちょっとだけ寂しいワ?
でも、女王の仕事は離れていても出来るワ?
分かったら早く契約の儀式をシて? ……
……女を待たせるなんて罪な男ネ♪ 」
「……契約って何をすれば良いの? 」
「そうね……まずは目を瞑って頂戴♪ 」
「……これで良いかい? 」
「ええ、じっとしていてネ♪
……チュッ♪
ふふっ♪ ……これで契約は完了よ♪ 」
《――瞬間
マグノリアは主人公の唇に口づけをした。
……そして、それを確認すると
ベンはメルの額に手を当てて何かを唱えた。
どうやら何れの“方法”でも契約は完了する様なのだが
マグノリアの突然の暴挙に女性陣は暫くの間固まった。
そして――
“……もう許せませんね”
と、マリア
“やっぱりそういう事の為に……”
と、マリーン
“……此処まで私達を連れて来た訳ですわね? ”
と、タニア……
“額に手を当てるだけで契約出来るみたいですけど……主人公さん? ”
と、メル……そして、ライラは
“この流れ……当然だけど……主人公さん……ご愁傷様……”
と言った――》
「……なっ?! 皆、何を……お、俺は悪くないだろ?!
そ、それに……俺の初キスを勝手に奪ったのはリーアだし!!
……ってか俺の初キスがぁぁぁっ!!
いや……待てよ?
よく考えたら、昔メルが俺の事を助ける為に……」
《――と、何かを思い出そうとして居た主人公のすぐ近くで
顔を真赤にして“ワーッ!! ”と叫んだメル。
何れにせよ阿鼻叫喚な状況の中
マグノリアは――
“主人公ったら……女たらしな唇をしてるのネ♪
ワタシ……癖になっちゃいそうヨ♪ ”
と、彼を褒めた。
だが――》
「……まぁ褒められると悪い気はしないけど……って。
皆して何で拳を固めてるんだ?!
や、やめっ! ……」
………
……
…
「……ぎゃあああああっっ!!! 」
===第五十二話・終===




