第五三話「新たな仲間が居たら楽勝?」
新たな仲間と共に“精霊の住処”を後にした一行は
当初の予定通り、次なる国を目指し着実に森を進んで居た。
だが――
「ふぅ~……けっこう大変だけど、意外と歩けなくも無いな
まぁ……キツイけど」
「本当に主人公さんって物理適正弱々ですよね~
私なんて歩くとか苦でも何でも無いですけど
オベリスクのお風呂に入れないのが一番辛いって位ですし? 」
マリアとそんな話をして居たその時
“お風呂? ……それは何をする物なの? ”
と、不思議そうに訊ねて来たリーア。
直後、そんな彼女に対し――
「えっと……お風呂っていうのは、疲れた身体を癒す為と
一日の汚れを落とす為に温かいお湯に浸かったり
体を洗ったりする行為の事……それがお風呂に入るって事だ! 」
と説明した所
“そう……それは裸で行うのネ? ”
と、少し笑みを浮かべながら訊ねられたせいで――
「い゛ぃッ?! ま、まぁ服が濡れたら気持ち悪いし?!
とッ……当然裸だけど!? 」
「フフッ♪ ワタシの身体……想像しちゃったのかしらネ♪ 」
「いッ?! いやそのッ! ……」
「主人公さんっ? 」
「ぬわぁッ!? お、怒らないでよメル……」
「いえ……別に怒ってませんっ! 」
「……絶対怒ってるじゃないか。
って言うかリーア、そういうノリを控えてくれないか?
さっきみたいな“袋叩き”はもう勘弁して欲しいし……頼むよ」
「そう? ……アナタがそう言うなら控えるわネ♪ 」
などと話しながら歩いて居た俺達
だがそんな中、タニアさんは思い出した様に――
「……そう言えばですが
主人公様、政令国家への連絡はどうされるのです? 」
「どうされるのですってラウドさんには……って、あッ!!
ミリアさんとエリシアさんに連絡入れるのをすっかり忘れてた!!!
一度休憩を兼ねて連絡を入れなきゃ!
魔導通信、ミリアさんへ! ――」
◆◆◆
「――ミリアさん! 連絡が遅れてすみませんでしたッ! 」
「なっ?! ……主人公ちゃんかい?!
無事だったんだね?! ……全く! 心配したじゃないかいっ!
ちゃんと連絡しなきゃだめだって言った筈だよっ! 」
「いッ、いえその……ご心配をお掛けしてしまい
本当に申し訳有りませんでしたッ!!!
その……紆余曲折あって
“通信が不可能な地域に”居たので……」
「ああ、ラウドさんから聞いたよ……
……谷底へ落ちたらしいじゃないかい!
危険な旅なら止めて帰ってくるんだよ?
それに、直るとは言えオベリスクが壊れたって話じゃないかい!
直す間だけでも……一旦帰って来る訳には行かないのかい? 」
「ええ、確かにそれも手だとは思うんですけど……」
と、話して居た俺を不思議そうな顔で見ていたリーア
直後、彼女は突如として――
「あら……魔導通信って顔が見えなくてまどろっこしいのネ?
ワタシが“変えて”あげるワ♪――
“鷹之目”
――どうかしら?
これで“お互いに”顔が見えている筈よ♪ 」
瞬間
リーアの唱えた謎の魔導に依って
俺は現在のヴェルツを……ミリアさんは現在の俺達を
明瞭に視認する事が出来る様に成り――
「リーア一体何を……って、ミリアさん!?
い、いや……ヴェルツごと鮮明に見えてる?! 」
「なっ!? 魔導通信は顔が見えなかったんじゃないのかい?!
って、主人公ちゃん達……なんだか仲間が増えてるじゃないかい!
……主人公ちゃんの横にいる女の子と
メルちゃんの肩に乗ってる子は誰さんだい? 」
「ワタシは精霊族の女王、マグノリアですワ♪ 」
「同じく精霊族……ベンって呼んでね! 」
「……せ、精霊族だって?!
主人公ちゃん達は本当に友達をつくるのが上手いねぇ~」
「え、ええ、本当にありがたい限りで……って、そう言えば
エリシアさんはどちらに? 」
「ああ……そろそろ帰ってくるんじゃなかったかねぇ?
って、噂をすれば……」
「ただいま~……って何それ?!
主人公っち達が居る……訳じゃないみたいだけど
って……うおぉぉぉッ!!?
そッ、その薬草はぁぁぁッ!! 」
現れるなり過度な興奮状態と成ったエリシアさん。
……まぁ、エリシアさんらしいと言えばらしいのだが
彼女はこの状況の不思議さよりも
俺達の背後に生えた“薬草”の方に興味を示して居て――
「主人公っち!! ……その薬草は取っておいた方が良いから!
絶対ッ! ぜぇぇぇぇぇぇぇぇったいに! 」
「ぬわぁッ!? エリシアさん近いッ!! ……っと、これですか? 」
「そうそれッ! ……煮出したエキスが超絶美味しい上に
体を癒やす効果まであるんだよ~っ?
凄い珍しい薬草なのに大量に有るじゃん!
あっ……けど、全部摘んじゃ駄目だからねぇ~?
自生しなく成ったら可哀想だし勿体無いから
どれだけ多くても三割迄ねぇ~っ! あと!
その横の雑草も抜いてあげて! ……そう、それ! 」
「は、はいッ! ……って言うか挨拶もまだなんですが
ともあれ……お久し振りです
ご心配をおかけしてしまって申し訳……」
「……って嘘ぉ?! 」
「ぬわぁッ?! ……ま、まだ何か薬草が?! 」
「違うよ! ……主人公っちの横に居るのって“精霊族”だよね?
しかもその姿は多分女王……何で一緒にいるのッ?! 」
「えっと……紆余曲折ありまして
何と言いますか……」
と、説明に苦慮して居た俺の横でリーアは――
「それは……このニンゲンに無理やり手篭めにされ
“ついて来なければ森を滅ぼすぞ”と脅されたのですワ……」
「……っておぉぃぃぃぃぃッ!!!
誤解しか招かない様な嘘を言うなぁぁぁッ! 」
リーアの大嘘を全力で否定して居た俺
だが、エリシアさんはそんな状況を笑うでも責めるでも無く
リーアに対し――
「冗談はさておいて……本当の事を説明してくれるかな? 」
そう静かに問い質した
すると――
「エリシアさん……ワタシ達に伝わる口伝はご存知? 」
「“特別にして特異な生まれの者
生死の境を彷徨いし時、精霊の加護が宿る”
……だっけ? 」
「ええ、その通りですワ」
「成程? ……主人公っちとメルちゃんね
契約も済ませてるんだ? ……って言うか
皆が危ない目に遭ったみたいだけど
一つ質問があるんだよね……精霊族の女王、マグノリアさん
何故、主人公っち達に
“樹木巨獣を嗾けた”のかな?
……あれは本来、凄く大人しい魔物の筈だよ? 」
この質問を受けた瞬間、僅かだがリーアの顔が強張った。
そして……暫くの沈黙の後、重い口を開いたリーアは――
「ええ……如何にもワタシが嗾けましたワ
でも、決して皆さんを殺めてしまわぬ様
ワタシの力で落下の衝撃から精一杯守り
鬼人族をも向かわせ、全力で守ったのです
全ては……ワタシ達の願いを聞き入れて頂きたかったから。
最低な行いとは分かって居ました……
……苦渋の決断でしたワ」
「成程……精霊族が清廉潔白な存在だと言うのは幻想だった訳だ?
中々に悪どいやり口だけど……何でそんな事したのかな? 」
この瞬間、リーアに対し
静かな怒りを感じさせる様子でそう問い質したエリシアさん。
直後――
「俺にも聞かせて欲しい……返答次第では許せないよリーア。
俺の事はまだ良い……だけど、俺の大切な味方に
生死に関わる怪我を負わせた責任が
まさか、君にあるとは思って居なかったから」
「……先程お話した通りの理由ですワ。
魔族達が全ての森を焼き払ってしまえば
ワタシ達だけでは無く、森に住む全ての生きとし生ける者達
延いては、癒やしの力の永久的な消失に繋がるのですワ?
だから……何としても魔族に対抗出来るだけの力が欲しかった。
……許されない罪だと理解していますワ
勿論、全てが終わったらワタシが全責任を負います
許してとも言わないワ、身勝手な言い分だと分かっています。
でも……」
「……分かった、だけど二度目は勘弁してくれ
今度はせめて……予告してくれ」
「主人公……ええ、約束するワ
“二度とこんな事はしない”と……本当にごめんなさい」
直後、リーアは深々と頭を下げ、自らの行為を詫びた――
「ん~……まぁ、薬草が取れなくなっちゃっても困るし~ぃ?
主人公っちが良いって言ってるんだから私は別に良いけどね~
……って言うか主人公っち、理由が理由みたいだし
納得出来ない部分もあるだろうけど
あまり責めてあげない方が良いかもね~っ? 」
「ええ……勿論理解してます
それに、俺だって人の事を言えない行いをしましたから。
……エリシアさん、彼らは
旧帝国城で無事に暮らしていますか? 」
「あ~……やっぱり“その一件”か~
少し気にし過ぎだよ主人公っち?
ま、元気にしてるっぽいけどね~?
少しずつ政令国家式の生活に慣れて来てるみたいだし~ぃ? 」
「良かった……帰国したら改めてちゃんと謝りに行きます。
リーア……君がやった事はこの際考えない事にしておく
俺達は一刻も早く旅の目的の達成と、森を守護する為に動く。
……これ以外の事は考えない
だけど、それらは全て仲間を一人も失わない事が前提だ。
リーアも、皆も……それで良いかい? 」
半ば強引とも言える幕引きをした俺
だが、仲間達は皆そんな俺に賛同してくれた。
そして、そんな様子を見て居たミリアさんは――
「良い仲間を持ったねぇ主人公ちゃん……
……さて、そろそろ店も忙しくなる頃だ
また明日辺り、必ず連絡しておくれよ? 」
「ちょっと待ったぁぁぁっ主人公っちぃぃぃっ!!!
その薬草……取り忘れちゃ駄目だからね!? 」
「ぬわぁッ?! ……え、ええ! 三割まででしたね!
ちゃんと採集しておきます!
今日からはまた毎日連絡出来ると思いますので……
……では、また明日! 」
◆◆◆
「――さてと、休憩って言いながら
久し振りに顔を見て話せたからか、ちょっと熱くなり過ぎたな」
通信終了後
何気無くそう言った俺に対し、タニアさんは――
「でしたら、エリシアさんの仰って居たこの薬草を
早速煎じて飲んでは?
“休憩”には飲み物が付き物ですわ? 」
「おぉ! それもそうですね!
じゃあちょっとお茶の代わりに……」
直後
エリシアさんから教わった薬草を煎じて飲む事にしたのだが
辺りには水源もなければ、故障中のオベリスクから
水を用意出来る筈も無い……少なくとも
次の目的地に辿り着くまでは不可能かと思われたその時
突如として呪文を唱え始め――
「……木々よ、森よ……生きる糧を
ワタシに分け与えて――」
直後
周囲の木々から少しずつ集まり始めた“水分”
かと思うと、空中で器用に薬草を煎じ始めた。
……感心しつつその様子を見て居ると
今度は大きな葉っぱでカップを作り
其処へ煎じた薬草の汁を注ぎ、皆の前に渡すと
如何にも“褒めて欲しそう”な表情を浮かべたまま
彼女は俺の方をじっと見つめ続けた――
「す、凄い技だ! ……流石は精霊族の女王だね! 」
と、明らかに棒読みな俺の“褒め言葉”に
リーアは大喜びし、またしても俺の頬へと口づけをした。
……例に依って女性陣の顔は引き攣って居たが
全力で気付かぬ振りをして事なきを得た……と、思う。
まぁ……ともあれ、暫くの後
エリシアさんから教わった“薬草茶”で
久し振りに安らぎの時間を得られた俺達は……休憩を終え
再び次の目的地を目指し歩き始めた――
◆◆◆
同時刻:政令国家東門前
門番に対し、少し緊張した面持ちで話し掛ける
“小太りの男性”の姿があった――
「あ、あの……門番さん、失礼なのですが
政令国家と言う国は此方で間違いありませんか? 」
「ん? 如何にも此処が“政令国家”だが……何用か」
「良かった! ……辿りり着いた!!
帰ったら爺やに褒めて貰おう! ……ゴホンッ!
……い、いえその実は“主人公様”の紹介で
ゲームの購入の為訪れた次第なのですが……」
「ん? ……ゲーム購入? 主人公様?
……たっ、大変失礼致しました!
し、少々お待ちを! ――」
言うや否や大層慌てた様子でラウド大統領宛の魔導通信を開いた門番……
……直後、通信を聞きつけ東門へと現れたラウド大統領は
現れるなり――
「ふむ……貴方が例のお客人じゃな?
遠い国から我が国のゲームを求め
お越しになったと聞いておりますぞぃ! 」
「あ……あの、貴方は? 」
「これは失礼した……わしはこの国の大統領
つまり“長”を務めておるラウドと言う者ですじゃ!
以後、お見知り置きを頼みますぞぃ! 」
「おぉ! ……国の長自ら出迎えて下さるとは!
主人公様と同じく素晴らしい人達で溢れた国と言う事を理解しました!
あっ……申し遅れました!
私は、アラブリア王国第一王子で“ムスタファ”と申します。
……我が国の民の為
この国で生まれた娯楽“ゲーム”を必ずや手に入れ
我が国の民達にこの喜びを届けたいと思って居る次第です!
突然の訪問でご迷惑をお掛けせぬ様
立場を隠しての訪問となってしまった事
深くお詫び致します……ですが、どうかこれに気を悪くせず
我が国へゲームをお売り頂けないでしょうか? 」
小太りの男、もとい“ムスタファ”が唯の庶民では無い事を知った瞬間
ラウド大統領と門番は“硬直”して居た。
だが、暫くの後……我に返ったラウド大統領は
彼を快く受け入れ、大統領執務室へと招いた。
一方……執務室へと招かれたムスタファは
着席するや否や……“主人公との出会い”に始まり
主人公の“人柄への賛辞”や彼の“魔導適正の高さへの賛辞”
更には“政令国家への賛辞”や“ゲームへの賛辞”など……
……ありとあらゆる“賛辞”を並べ立て、讃え続けた。
そうして一頻り話し続けた後、漸く
肝心の“ゲーム購入個数”を伝えられたラウド大統領は
再び“硬直”する事と成った――
◆◆◆
「し、しかし……その個数を一気にと成ると
流石に時間が必要ですじゃ……」
「ええ……その件に関しても主人公様からお話がありましたので
私は……そうですね、何処かに宿を取り
暫くこの国でご厄介に成ろうかと思って居るのですが……
……何処かに安宿がありましたら其処で構いません
民達の為、少しでも良い土産を沢山買って帰りたいので! 」
「ふむ……しかし安宿と言われましてものぅ
他国からのお客人をぞんざいに扱う訳にも参りません故……
……そうじゃ!幸いこの城には客間が沢山ありましてな!
もしお嫌で無いならば、この国に居る間はこの城を
“宿”としてお使いに成られてはどうじゃろう? 」
「何と?! ……喜んで!
これでもっと民達にこの国の娯楽を買い与える事が出来ます!
……でしたら、先程お願いしたオセロの個数を
更に千個程追加しても構いませんか? 」
「な゛っ……か、構いませんが……しかし
“安宿”の定義がいまいち我が国とは違う様ですのぅ……」
「いえ、第一便としての購入ですからこれでも……」
「ん? ……今何と? 」
「ですから、第一便としての購入で……ってラウド様? 」
「か……か……」
「か? ……何です? 」
「……金持ち過ぎじゃろぉぉぉぉぉっ?!
ハッ?! ……失礼した、思わず取り乱してしまい
お恥ずかしい限りですじゃ……」
「い、いえいえ! ……財力をお褒めに預かり光栄の至りです。
……ですが、幾ら財を成して居たとしても
政令国家の様に精神的な豊かさを育めぬ様では
何処までもつまらぬ国で終わる事と成るでしょう。
……その為にも先ずは“ゲーム”を足掛かりとして
この素晴らしき国の形を……恐れながら
模倣させて頂きたいと思って居る次第です」
「ふむ……我が国を褒めて頂いて有り難く思いますぞぃ
ですが同時に、国を統治する者として
気苦労が絶えない事もお察しします……しかし
我が国も主人公殿が居なければ
今の様な姿には成り得なかったと言う事だけはご理解を。
……何れにせよ、良い方向へと向かうには
相応の苦労も苦悩も有ると言う物
褒めて頂いた礼と言っては無礼かもしれませんが
今後ムスタファ殿の国家と友好的な関係と成れる様
まずはその橋渡しの意味も込め、大統領の権限により
貿易の税は免除として
その分、少しでもそちらの国の民達に
ゲームが行き渡る様にさせて頂こうと思っておりますじゃ! 」
「な、何と?! ……ラウド様、感謝致します!
此方こそ喜んで……我が国と末永い国交をお願い致します! 」
「うむ! ……此方も宜しくお願いしますぞい!
……所でムスタファ殿“やんごとなきお立場”にも関わらず
護衛らしき者が見られぬ様じゃが……
……ここまでの道のり、よくぞご無事でしたな?
護衛も無しで此処まで無事に辿り着くとは
さぞや腕に覚えがあるとお見受けしますぞぃ? 」
「ええ! ……爺や直伝のこの構えがありますから!
……ふんッ! 」
過去、主人公に披露した物と変わらず
この瞬間“大してキマっていない構え”を披露したムスタファ――
「そ、そうでしたか……流石は一国一城の主ですな!
(ううむ、悪い御仁ではなさそうなんじゃがのぅ……)
……と、兎に角!
各種ゲームの発注はわしの方からガンダルフ殿に伝えます故
ムスタファ殿は我が国の観光でも為さってくだされ。
それと……連絡と護衛を兼ね、優秀な魔導兵を一人つけますから
何か要する物があれば魔導兵に伝えて貰えれば幸いですじゃ」
「……いえ、護衛など必要ありません。
この国の民を信じておりますから……それに
仮に悪漢に襲われ、万が一私が倒れる事に成ったとしても
それは我が国の恥であり、政令国家に対し
迷惑を掛ける事など決してございません。
そもそも、爺や直伝の構えもありますから! ……ふんッ! 」
この瞬間
再び披露した構えは、やはり
全くと言って良い程“キマって”いなかった――
「し、しかし、せめて魔導通信の手段は……」
「ご安心を! ……魔導通信位ならば私にも使えますから!
そんな事よりも……私は一刻も早く
この国の民が食べて居る食事を食べてみたいのです!
……と言うのも、旅の途中に得た食事は
どれも味気無く少量で、とてもではありませんが
生きた心地がしなかったのです……お陰でとても空腹で……」
「ふむ……それならばヴェルツがこの国一番の名店ですぞぃ!
主人公殿も行きつけの店ですし、お代もわしらが持ちます故
存分に食事を楽しんでくだされ! 」
「おぉ! ……主人公様が行きつけだと言うのならば
先ず間違い有りませんね! ……では早速行って参ります!
……また後ほど! 」
言うや否や体型からは想像のつかない速度で走り去り
大統領執務室を後にしたムスタファ……一方
……ムスタファが走り去ったのを確認した後
ラウド大統領はヴェルツに居るエリシアに急ぎ連絡を入れ
ムスタファにバレぬ様、陰ながら
“護衛をする様”頼んだのだった――
◆◆◆
暫くの後
昼食時のヴェルツ……マナーの悪い客など
誰一人として居らず活気に溢れた店内……だが
そんな平和な店内に突如として現れた
小太りの男……もとい“ムスタファ”
……彼は、勢い良く入り口の扉を開けるや否や
女将のミリアに対し――
「主人公様が食べて居たメニューと同じ物を特盛で!
最低でも六つはお願いしますっ!!! 」
と、言い放った。
突如として響き渡った“異様な注文”に
店内に居る者達は静まり返ったが……暫しの沈黙の後
この注文を受け付けたミリア……そして
ムスタファを大きな丸い机の席へ案内すると
腕捲くりで気合を入れたミリアは
厨房へと早歩きで消えて行ったのだった。
そして、数分後――
「はいお持ちっ! ……って。
……それにしてもアンタ、こんなに沢山食べられるのかい?
うちは安くて多くて美味いのが売りの店だよ? 」
「ええ……此処の所まともな食事が出来ていませんでしたから。
それにしても美味しそうだ
こんなにも美味しそうな物を主人公様は食べて居たのですね……
……爺やが見たらまた太るって怒られるかな?
いや、長旅で沢山脂肪を消費した筈……では、頂きますっ! 」
言うや否や勢い良く一皿目に手を付けたムスタファ
一方……彼の一口の大きさに驚きつつも
それを微笑ましく見つめて居たミリアだったが
突如としてムスタファの手は止まり……直後
喉を詰めたのかと心配するミリアに対し
大きく首を横に振ったかと思うと
彼は、大きく息を吸い――
「う……美味すぎるっっっ!!!!!
こんなに美味しい食べ物がこの世界にあったとは!
シェフ! ……アナタは天才ですっ!!! 」
と、興奮気味にミリアを褒め称えたムスタファ
突然の事に驚いたミリアであったが
ほっと胸を撫で下ろした後
褒め言葉に気を良くしたのか
食後のデザートをサービスする事にしたのであった。
……ともあれ。
暫くの後、満足げな表情を浮かべ
“完食”してしまったムスタファは――
◆◆◆
「いやぁ~食べた食べたっ!! ……全てが最高に美味しかった!
こんなにも贅沢な食事ですが……お幾らなんです? 」
「ん? ……ついさっきアンタは他国からの大事なお客さんだって
ラウドさんから連絡を貰ったからねぇ……お代は要らないよ? 」
「ええ、それは助かるのですが……個人的にまた訪れた時
この様に豪華で最高な食事を食べる為に
一体|幾ら用意すれば足りるのかを知りたくて……」
「何だって? ……嬉しい事を言ってくれるじゃないかい!
そうさねぇ、それだけの量だと……
……ざっと銅貨八〇〇枚って所かねぇ?
うちの店でも高い方に入るメニューを全て特盛だからねぇ……」
「それは……共通通貨だとどの位です? 」
「同じ位さね……共通銅貨八〇〇枚だよ」
「う、嘘だ……」
「嘘じゃないよ? ……高いかい? 」
「そんな訳ありません! ……安過ぎるって言いたいんです!
一体|何故これだけの食事でこの価格に?
まさか、主人公様の様な慈善事業を……」
「違うよ! ……これでも儲けは出てるつもりさね。
大量に材料を仕入れる事で安くして
大勢のお客に提供するから安く出来るだけさね」
「何と……素晴らしい考え方です!
改めてこの国の全てを模倣すべきと感じました!
そうすれば我が国の……い、いえ!
私が仕える国の人々がもっと豊かな暮らしに成れるでしょう! 」
「……嬉しい事を言うじゃないかい。
とは言え、そもそもこの国の現在の形を作ったのは
あんたが“様付け”で呼んでる主人公ちゃんのお陰さね。
って……そう言えば聞きそびれてたけど
主人公ちゃんとはどう言う関係だい? 」
「主人公様は……命の恩人、とでも言うのが妥当でしょうか」
「何だって?! ……詳しく教えておくれ! 」
「ええ! ……あれは私が飲み水に困って居た時でした。
……彼は僅かな共通銀貨で水を売ってくださり
私が“もっと欲しい”と求めると、最後には一樽一金貨する樽を
四つも無料でプレゼントして下さったのです! 」
目を輝かせ自慢気に語ったムスタファ
しかし、この場に居る者の殆どが
共通“銀貨”の価値を知っていた為
それがたとえ一枚だとしても、たかが水で
足元を見る価格をつけ、尋常ならざる暴利を貪ったのだと
大きな勘違いをする者が相当数存在した。
そう、ミリアでさえも――
「そ、そうかい! ……それは良かったねぇ! 」
(……水に銀貨だって?!
明日、連絡の時にこっぴどく叱っておかなきゃ駄目だねっ!! )
「ええ! ……主人公様はとても素晴らしい良い御仁です
それに……トライスターとは恐れ入りました。
……私の住む国では僅か数十名しか居ないのです。
その様に貴重な存在であるトライスターが自由に旅をするなど
私の住む国はそこまでの潤沢な軍事力を持ち合わせておりませんし
その様に寛大な考えを持つこの国はやはり流石としか言えません!
っと……そう言えば主人公様の旅の目的は
“絵本の情報”だと言って居られましたが
それは……余程に重要な情報なのですか? 」
この衝撃的な発言にヴェルツに居る者達は固まった。
トライスターが数十名“も”居ると言うのだから
そして、それを“少ない”かの様に語ったのだから――
「そ……そう言えばそんな事を言って居たねぇ?
確か、主人公ちゃん自身にとって重要な事だって言ってたよ? 」
「そうでしたか……っと、食事が終わったと言うのに
長く居座ってはご迷惑になりますね!
ではまた……夕食時にお世話になりますっ! 」
ムスタファはそう言い残し嵐の様にヴェルツを去った。
だが……彼が去った後
店内が客達の噂話で騒がしく成った事は言うまでも無いだろう。
……ともあれ、この後
彼の発注したゲーム制作に
てんてこ舞いのドワーフ族達と
素材集めに奔走するオーク族達で
政令国家は宛ら“ゲームバブル”とでも言わんばかりに
この後、約一年以上に渡り活気付いたのはまた別のお話である。
さて、話は少し進み……
……ムスタファが政令国家を訪れてから約一週間後
第一便ゲーム輸送の為
政令国家から大量の荷馬車が出発したのと同時に
オセロの権利を譲渡されて居たミリアの手元には
驚く程の金貨が舞い込んだ。
このあまりにも尋常ならざる金額が
数週間毎にミリアの元へと振り込まれ続け
その都度、興奮気味のミリアが主人公に対し――
“主人公ちゃんも半分位受け取りな!”
――と、魔導通信越しに“恒例行事”の如く口にし続けたのも
また、別のお話である――
===第五三話・終===




