第五四話「復活! オベリスク……幸運! 楽々紀行? 」
数日を掛け、森の中を進み続けて居た一行
だがそんな中、突如としてギュンターが声を上げた
「皆様……大変お待たせを致しました
漸くオベリスクの修復が完了致しまして御座います」
この発言に誰よりも喜びの声を上げたのは
主人公であった
「ほ……本当ですか? 」
「ええ、完全に修復が完了致しまして御座います」
「やっとだ……やっとッ!
やっと歩かなくて良くなったぁぁぁぁぁッ!!! 」
「良かったですね主人公さんっ! 」
「ああ! ……やっとだよメル!
昼寝してても、お風呂に入ってても目的地に辿り着ける!!
本当にありがたいよッ! 」
「うわ~……発言が怠け者過ぎてちょっと引きますね」
「う、煩いなぁマリアは!
兎に角……ギュンターさん!
早速オベリスクをお願いしますッ! 」
「かしこまりました……では。
甦れ、オベリスクよ! ――」
直後
修復を終えたオベリスクは約一週間振りに一行の眼前へと出現した。
……傷一つ残らず修復されて居たオベリスクは
宛ら“新造船”の様な出で立ちをして居た。
直後、僅かに感慨深い様子のギュンターに促され
一行はオベリスクへと乗り込み
「久し振りですねオベリスクよ……と、失礼を致しました
年を取るといけませんな……さて皆様
目的地へ向かいますのでご着席を。
オベリスク、微速前進! ――」
静かに進み始めたオベリスク
その相変わらずの乗り心地の良さに
皆が口々にオベリスクを褒め称えて居た中……オウルだけは
何故か俯き、居心地の悪い表情を浮かべて居た。
……その事に疑問を感じつつも
オベリスクの操縦を続けて居たギュンター……だが、暫くの後
オウルは意を決した様に
「ギュンター様……今後は命に変えても防御の失敗は致しません
必ず、間に合わせますので……」
そう言うと
ギュンターに対し深々と頭を下げた
「オウル様……あまり気負わないで下さいませ
私めの操舵技術が未熟だったが故の結果で御座います。
さて……目的地までは暫く掛かります
皆様お疲れでしょうから、ご自由にお寛ぎくださいませ」
と、ギュンターが言うや否や
真っ先に浴場へ向かおうとしたマリア。
だが
「……申し訳ございませんマリア様
浴場を稼働させる為には、先ず給水の必要が御座いますので……」
「ウゲッ!? じ、じゃあ……主人公さん“この間の奴”早よ! 」
「な゛ッ?! ……マリアお前、人使い荒過ぎだろ?!
あれ自体は其処まで手間じゃ無いけど
それにしても、もうちょっと頼む態度って物がだな! ……」
「アラ? この乗り物には“お風呂”が付いて居るの?
ならワタシも入ってみたいし……主人公
ワタシも手伝うから一緒に行きましョ♪ 」
「う~ん……リーアが手伝ってくれるならまぁ良いか
って事なので、ギュンターさん……例のやり方で給水しましょう! 」
「承知致しました、ではあちらに停船致します……」
◆◆◆
停船後
給水の為協力して作業を始めた二人
だが、その一方で……船内から二人を見つめるメルの表情は曇って居た。
……この時、彼女の脳裏を過って居たのは
以前マリアが口を滑らせた、転生時に主人公が“設定した”と言う
“添い遂げたい相手の条件”であった――
【美人】【巨乳】【褐色肌】
――聞かされた時には照れもあり
然程深くは考えていなかったメル
だが……主人公に対し、彼女では決して実行に移せない程
大胆且つ積極的なアプローチを繰り返すマグノリアの姿を見る度
彼女を如何ともし難い大きな不安が襲って居た。
この瞬間……彼女は、主人公から渡された
“お揃いの指輪”を強く握り締め、この後も密かに
唯必死に一人不安に耐えて居た。
……一方、そんな彼女の心情など知る由も無い主人公は
給水作業を終え、楽しそうに談笑しながら
船内へと戻って来て
◆◆◆
「主人公の魔導力……やっぱり凄いワ♪
あんなにおっきくて……初級の技には見えなかったものネ♪ 」
「……いやいや~!
リーアが補佐してくれたから前回より安全に作業が出来……」
「あ、あのっっ!! ……お疲れさまです主人公さんっ!
そのっ……マ、マグノリアさんもっ! 」
「お、おぉッ!? ……あ、ありがとメル。
……って言うか、メルには今回の一件で凄く苦労掛けちゃったし
折角給水も出来た事だからさ!
この所で溜まっちゃった疲れを確りと取る為にも
ゆっくりとお風呂を楽しんで欲しい! 」
「は……はいっ♪ 」
◆◆◆
と彼女を労う主人公の言葉に
この瞬間、僅かに落ち込んだ心を回復させたメル。
だが、その一方でマグノリアは
「メルちゃん……ワタシの名前って呼び辛いかしら?
もしそうなら、皆様もだけれど
今後ワタシの事はマギーって呼んで下さいネ♪
でも……主人公だけは引き続きリーアって呼んでネ♪ 」
そう言って気遣った
だが
「い゛ッ?! な、何で俺だけ引き続き“特別扱い”なのッ?! 」
「お、お気遣いどうもっ……マギーさん」
心做しかマグノリアに対し
事務的に返事を返したメル
「良いのですワ♪ ……さぁ~てと♪
……女同士でお風呂って所に入りまショ♪ 」
と女性陣に呼びかけたマグノリア、だが
皆が賛成する中、彼女だけは
「わ、私は後で良い……ですっ」
と、再び事務的に返事をした。
言うまでも無く、彼女なりに“思う所”があっての対応なのだろうが
マグノリアはこれを勘違いし
「アラ? ……もしかして体調が優れないのかしら?
いえ……こんな質問、ワタシがするのはお門違いネ。
そもそもワタシのせいで皆様……特に
メルちゃんには色々とご迷惑をお掛けしたのだから……
……あっ、そうですワ!
“これ”がお詫びに成るかは分かりませんけれど! ……」
そう言って大きく息を吸い込んだ直後
突如として“歌い始めた”マグノリア。
綺麗な歌声ではあるが、少なからず――
“歌のプレゼントとは安直な”
――とでも言わんばかりの空気に包まれてしまった船内
だが、これは“唯の歌”などでは無く
精霊族女王にのみ使用出来る特殊な固有魔導――
“精霊女王之歌声”
――と呼ばれる物であった。
直後、同じく精霊族である筈のベンさえも
この歌声に対し感嘆の声を上げた
「ひ、久し振りに聞いた……やっぱり凄いや、マグノリア様……」
暫くの後、彼女が歌い終わる頃には
皆憑き物が取れたかの様に安らいで居た。
◆◆◆
「何だろう、凄く癒やされたよ……ありがとうリーア」
「お役に立てた様ですわネ♪ ……それと
皆様には癒やし効果の他に“幸運”も付与された筈ですワ♪
ですから、今日から一ヶ月間の間に皆様に何か一つだけ
必ず、幸運が訪れる事を予告しておきますわネ♪ 」
「そ、そうなの? ……何か分からないけど、楽しみにしておくよ」
「ええ……主人公にも幸運が訪れますワ♪
さて……それではワタシ達はお風呂へ入りますワネ♪
メルちゃんも、もう調子は悪くない筈……だから、改めて誘うワネ♪
……お風呂、一緒に入りまショ? 」
「は、はいっ……分かりましたっ……」
やはり、少々乗り気では無い彼女も含め
浴場へと向かって行った女性陣……だが、その直後
主人公は、メルに感じた“違和感”を口にし始めた。
「それにしてもメルの様子が変だ……皆はそう思わないか? 」
「ふむ……この所メル殿は気苦労が絶えなかった
あの様な事の後だ、疲れて居たのだろう……だが
メル殿も浴場へと向かった、楽観的と思うかも知れんが
入浴で疲れが取れれば、御主の心配も
徒労に終わると吾輩は思うのだが」
ガルドはそう言ったが
メルの表情は疲れに依る物では無かった様に思う。
……もしかして、リーアから
“特異な生まれ”とかって言われた事を
実は気にして居るんじゃ無いだろうか?
それとも装備がボロボロに成った事だろうか?
それとも……いや。
……理由が何であれ
一度、メルとは話をしないと――
「何だかなぁ……って、ベンは何処行った? 」
とベンの不在に気付いた俺に対し
ディーンは――
「メル君の肩に乗って一緒について行った様だが? 」
そう言った
と言うか――
「はぁッ?! ……“名前”から察するに男だよな?
な、なら……女湯に一緒に入るのは無しだろッ?!
俺なんてこの間“先に入ってた”にも関わらず
後から入って来た女性陣から“変態扱い”された挙げ句
有無を言わさず理不尽にもボッコボコにされた位なのに!
もしもベンだけ例外だって言うなら……ず、ずるいぞッ?!!! 」
「主人公よ……ベン殿への心配は皆無
且つ“個人的恨み”だけの様に吾輩は受け取ったのだが」
そう、冷静に分析したガルドに始まり
ディーンに至っては――
「確かにそう聞こえた……だが
どの道、女性陣が快く思わないのであれば
遅かれ早かれ追い出され帰って来る事だろう。
……要らぬ心配と言う物だ」
と、そもそも
余り興味を持っていない様子だったので――
「え~……でも何かヤダ!
あの見た目で子供扱いされて受け入れられる感じが何かヤダ!
う~ん……ギュンターさんならどうします? 」
「そ、そうですな……私めでしたら
魔導通信等で、何方かにお呼び掛けし……」
「そうだ! その手があったッ!
ありがとうございます! 魔導通信、メルへ! ――」
◆◆◆
「――ねぇメル
ベンが風呂に一緒についていかなかった? 」
「へっ?! ……主人公さんっ!?
そ、そのっ……お風呂に入ってる時に魔導通信は
音とか……そ、そのっ……マナー違反ですっ!!
姿が見えないからまだ良いですけど……って。
み……みっ……見えてるっ?! 」
主人公は知らなかった。
マグノリアの使用した“鷹之目”は
永続的に効力を発揮する代物だったのだ。
「アラ? ……積極的なのネ♪ 」
「うわぁぁッ??! ……す、すまないッ!!!
つッ、通信終了ぉッッ! ――」
◆◆◆
「――不味った。
これは完全に死亡フラグだ……って言うかリーアめ
何が“幸運を授けた”だよ!明らかに後で
酷い目に遭うフラグが立ったじゃないか! 」
この予想通り
暫くの後、風呂から上がった女性陣に取り囲まれ
“酷い目”に遭わされる事と成った主人公。
……主人公へと授けられた“幸運”は
“不運”にも“ラッキースケベ”であった様だ
「うぅッ……ごめんなさいッ……ぐはッ……」
◆◆◆
何はともあれ。
この出来事より暫くの後……
……一行はオベリスクの進む道が
“舗装路”となり始めて居る事に気が付き
「あっ! ……あれっ!! 」
暫くの後
驚きと共にメルの指し示した先には“大国”の姿があった。
……窓から見えるその国には
国土全てを強固に防衛する為の立派な城壁
その上に立つ兵の装備も質が高く
皆、練度の高さを感じられる立ち居振る舞いをして居た。
その証拠とばかりに、大国の兵側からみれば
唯の“荷馬車”にしか見えない筈のオベリスクにすら
一分の油断もせず、念の為
迎撃体制を整え始めて居た程であった。
暫くの後、この国の兵達の
“迎撃体制が完全に整った頃”
正門へと到着する事と成ったオベリスク……正門の上には
“メリカーノア大公国”と刻まれて居た
「では先ず全員、荷馬車から降りて下さい」
そう指示された一行は、下船後
厳しい表情の門番から入国理由を訊ねられた。
直ぐに包み隠さず入国理由を答えた一行に対し
門番の表情は少し柔らかくなった
だが、門番からの質問は更に続いた……
続いた質問は――
“各自の職業と武器の確認”
“一定額以上の所持金が有るかどうかの確認”
“犯罪歴やそれに依る指名手配の有無”
――それら全ての確認作業を終えた後
全員分の僅かな入国税を支払う事で
入国手続きは完了……入国許可が降り
ゆっくりと開き始めた正門……だが、この直後
扉の先に広がったメリカーノアの町並みに
一行は驚愕する事と成った
◆◆◆
「……らっしゃいらっしゃい!
肉の事ならウチにお任せ! 新鮮な肉が揃ってるよーッ! 」
にぎやかな露店街
活気に溢れた飲み屋、清潔な宿屋
食欲をそそる香りが漂う食事処
歴史を感じさせる立派な佇まいのハンターギルド……
……魔導職、物理職の垣根無く
古今東西の様々な武具防具を取り揃えた装備屋……驚いた事に
賭博場まで存在しており……あまりの光景に、一行は
宛ら桃源郷へでも訪れたかの様な感覚に陥っていた
「こ、この国凄いな……町並みは綺麗だし
建物なんて素人の俺が見ても
凄い技術で建てられてるのが分かる位だし……物価も適正だ。
……寧ろ食材の値段なら政令国家より安くないか? 」
そう感心する俺の横で
マリーンは入国税の安さに驚き
ガルドは食料の安さを見て嬉しそうにして居た――
と、漸く辿り着いた
余りにも巨大な国でどう動くべきかを悩んで居た俺に対し
皆は様々な意見を出してくれた。
先ずディーンの出した案は
“四方向に分かれてこの国を探索する”と言う物だった、だが
“迷いの森”での事を考えれば
皆とバラバラに動く事が得策とは思えなかった。
まぁ、正直に言えば……“俺が不安を感じて居た”だけなのだが
ともあれ、この直後ギュンターさんは
ディーンの案を支持するかの様に
ある“問題”を口にした――
「……オベリスク大破の際、物資は全て失われてしまいました。
ですので、この国から出国するまでの間に
食料を始めとするその他|諸諸の物資を
ある程度|備蓄しておきたいのですが
そうなりますとそれなりの金銭が必要に成って参ります……ですが
現状、金銭の“備蓄”も心許無い状況に御座います。
……この様な状況を鑑みれば、旅の日程を少し遅らせてでも
暫くこの国で過ごすと言うのは如何かと思いまして
ご提案をさせて頂いた次第です……」
確かに、何れにしても“先立つ物”が欲しい。
直後、ギュンターさんの提案を受け入れた俺達は
先ずハンターギルドを訪れる為、正門前の道を進んだ。
……そうして暫く歩いた道の先
到着したハンターギルドの看板を見上げると
大きな字で“正門前支部”と書かれて居た。
国の大きさを考えれば普通なのだろうが……どうやら
この国には他にもハンターギルドが有る様だ。
◆◆◆
ともあれ……この直後
政令国家の物よりも遥かに大きなこの“支部”で
依頼掲示板を確認して居た俺達。
すると――
「失礼致します……皆様、当ギルドのご利用は初めてですか? 」
清潔感の有る髪型に、整った制服姿のギルド職員らしき男
彼は俺達に対し、そう訊ねて来た――
「ええ、初めてです……ついさっき入国してきたんですけど
どんな依頼がどの程度の報酬であるのか確認したくて……」
「……そうでしたか、他国からのハンター様ですね。
でしたらまず、ハンター登録を済ませて頂き
完了次第、依頼のご紹介となります。
……尚、ご依頼をお引き受けに成られる際は
お手数をお掛け致しますが、毎回必ず
此方の誓約書に同意頂き
サインを頂ける場合のみの依頼提供となっておりますので
予めご了承下さいませ……」
そう説明しつつギルド職員が差し出した“誓約書”には
“依頼を引き受けた事に依る如何なる損害
または死亡事故等が生じた場合でも
ハンターギルド、並びにメリカーノア大公国への法的責任が無い事を認め
その権利を放棄する事を下記のサインで証明します”
……と、書かれており、下にサインの欄が書いてあった。
直後、仲間達は皆“何を当たり前の事を!”と笑い飛ばしていたが
俺だけは元の世界を思い出し悩んで居た。
分かり易く言えば、海外の絶叫アトラクション等で見かける
“誓約書”に酷似している事に
若干だが“うッ”となって居たのだ。
……とは言え、受け入れない訳にも行かず
この後、一応ハンター登録を済ませ
誓約書にもサインをした俺達。
直後、ギルド職員からハンターバッジが手渡され
瞬時に嫌な記憶が蘇った……だが
“それらしい加工”は感じられない。
至って普通の金属で出来たバッジの様に見えるが
それでも恐る恐る装着してしまう俺達の挙動に
ギルド職員は少し首を傾げた。
ともあれ……全員がバッジを装着したのを確認すると
丁寧かつ事務的に説明をし始めたギルド職員。
……依頼の受け方、依頼完了時の報酬について
依頼書に記載されて居る完了報酬は
予め税を引いた金額である事の説明
……討伐失敗時には金銭的ペナルティでは無く
ハンターランクの減少が有る事
一定数以上ハンターランクが減少してしまった場合は
メリカーノア内でのハンター資格の取り消し
そして、成功時には難易度に応じたハンターランクの上昇もあり
ランクに応じた難易度の依頼を受ける事が出来る様になるらしい。
ともあれ……俺達の最初のランクを決める為
ギルド職員の男性は俺達の“装備を目安に”判断した。
……結果、最高でも“Aランクまで”と成った事を説明された。
尚、俺とマリーンのトライスター装備については
魔導力を強化する類いの物として申請し
武器は以前、ギュンターさんから受け取った
“魔導の杖”と言う事で申請を通した。
この件に関しギルド職員は特段疑う事無く
魔導の杖の質を見てマリーンはギリギリAランク
……だが、面倒な事に
俺だけが“Bランク”と言う評定を受けてしまって――
「……説明も分かりやすいですし
報酬も明瞭会計っぽくて安心しました!
まぁ、俺だけBランクの依頼からって言うのが少々残念ですが
所で……Aランクの依頼って報酬はどの程度なんですか? 」
「概ねご満足頂けました様で此方としても嬉しく思います。
……さて、Aランクの平均的な報酬ですが
共通通貨換算でしたら、平均的には
金貨三〇〇〇枚程になるかと思われます」
「えッ……マジですか? 」
「ええ、他国からのハンター様には
少々大きな税が掛かっておりますから
報酬の少なさはご了承下さいませ」
「えッ? ……い、いえ充分です」
(す、少ない? ……多いの間違いじゃ……)
そう返事をした後
考えを巡らせて居た俺は
直後、ギルドの職員に対し仮定の質問を投げ掛けた――
「その……仮に、ですけど
このギルドの最高難易度依頼を俺達がもし受けられるとして
それが如何程の報酬に成るかをお聞きしても? 」
「はぁ……最難関となりますと、共通金貨換算で約一億金貨と
メリカーノアでの永住権、並びに専用の邸宅が提供されますが……」
「……えッ? 」
「ですから、一億金貨と……」
「いや、聞き取れなかった訳では無く……金額狂ってません?
しかも邸宅って、どの程度の? ……」
「邸宅は平均的に当ハンターギルドの
約四分の一程度の敷地面積だったかと……」
明らかな豪邸だ。
俺達は驚きの余りに声を失って居た……だが
それなら尚更訊ねなければ成らない事がある――
「成程、かなり優遇されるんですね……でもそれって
依頼達成したら“この国から出さないぜ”って意味を
多少は含んでたりするのでは? 」
「何と恐ろしい! ……その様な事などありえません!!
万が一その様な事をしてしまっては
我がハンターギルドが訴えられてしまいます!
……もし裁判にでもなれば
必ず此方が敗訴してしまうではありませんか! 」
「と言う事は……出国も自由と? 」
「はい……但し、出国される場合は
邸宅と永住権はご返却頂く事になるかと思いますが……」
「ペナルティは其処だけですか? 」
「ええ、それだけですが……っと、大変申し訳ございません
他にご質問がなければそろそろ……」
「あッ……長々引き止めてしまって申し訳ありません! 」
「いえ、それでは失礼致します……」
ギルド職員の立ち去った後
俺達は呆気に取られて居た……当然だ。
政令国家ですら実現出来ていない完璧な仕組みが
この国では全て実現出来ているのだから。
一体|何故この様な大国の情報が
政令国家に一切伝わっていなかったのか。
……地図が古かっただけかもしれないが
地図上の“メリカーノア”と実際の“メリカーノア”が
まるで違って居る事も関係して居るのだろうか? ――
「と……兎に角、食事に行こうか」
◆◆◆
暫くの後
長旅で空腹だった俺達はギルドでの依頼を受ける前に
ハンターギルドの直ぐ横に建てられて居た食事処へと向かった。
食事処の看板には大きく――
“メリカルド・正門前店”
――と書かれており、入店早々
店員達のハキハキとした挨拶が聞こえた。
直後……何だか謎の“既視感”を覚えつつ席へと着いた俺達
しかし、待てど暮らせど注文を聞きに来ない……ああ、成程。
どうやらカウンターで注文を済ませ
先払いしなければいけない様だ。
……この瞬間、再び謎の“既視感”を覚えた。
ともあれ……メニューに記載されている
“ハンター専用モリモリセット! ”
なる物を人数分注文した俺達……金額も比較的安価だ。
その後、持ち帰りか店内で食べるかを質問され
“店内で”……と答えると番号札を渡された。
三度“既視感”を覚えた俺は流石に気付いた。
嗚呼、これ完全に“ファストフード店”だ。
ともあれ……席へと戻り
暫く待って居ると番号札で呼び出された
やはりと言うべきか、自分で席へと運ばなければならない様だが
どう見ても一人で席へ運ぶには不可能な程の量だった。
……払った金額を考えると
意味不明な程に爆盛過ぎる――
「……この国は良い、吾輩の食欲を完全に満たす程の量を
此程安価で提供する店があるとは。
何とも恐ろしい国がある事を学んだ……素晴らしい」
ガルドは大満足の様だったが
俺を含め、皆は半分以上を残し苦しそうにして居た。
……それ程に信じられない量なのだ。
だが、周りを見回すと俺達の注文した物と同じ量
若しくはそれ以上を平然と平らげる
メリカーノア国民と思われるハンター達で埋め尽くされて居た
成程、この国の民達は平均的に大食の様だ。
何せ皆“オーク並の食欲を”して居るのだから――
「い、色々と……規模がデカい国だね」
◆◆◆
暫くの後
この店を後にした俺達は
再びハンターギルドへと向かおうとして居た。
だが、この瞬間
直ぐ近くの大通りで馬車用の馬が暴れ始めた。
……突然の事に阿鼻叫喚の騒ぎと成った大通り
だが、騒ぎに気付いて居ない様子の女性が一人
俯き、本か何かを見ながらのんびりと歩いて居た。
女性の背後に迫る暴れ馬――
“危ないッ!!! ”
――直後、誰よりも早く動いたのは
オウルさんだった――
「多重防護ッ!!! ……」
瞬間
オウルさんの展開した防衛魔導は
間一髪、女性の身を護った……だが、当の女性は
突如として自らを包んだ防衛魔導に驚き
その中で尻餅を付き……その少し後
おっとりとした様子で周囲を確認し……
……漸く状況を理解出来たのか
オウルさんに対し――
「……あら?
……あらあら?
……あらあらあら?!
あなたが私を……助けてくれたのですか? 」
「ええ……ですが、気をつけなければいけない
危機はいつ襲って来るか分からない……
……もっと注意をした方が良い。
それは私もですが……いや、余計な事だった
兎に角、怪我が無さそうで良かった……では……」
そう伝え
女性の元から立ち去ろうとしたオウルさんだったが
そんなオウルさんの手を握ったまま離さなく成ってしまった女性。
彼女は……怖い程真っ直ぐにオウルさんを見つめて居た。
一方のオウルさんは……当然だが
とんでも無く居心地が悪そうで、且つ
超絶挙動不審に成って居た。
……この後、俺達には勿論の事
二人の間に暫くの時間が流れ――
「私の命の恩人! ……私の英雄っ!!
是非とも、何かお礼をさせて下さいっ! 」
「なっ?! ……べ、別に礼など要りません。
これ以上、皆様を待たせてしまう訳にも行きませんし
あまりお気に為さらず……後、手を離して下さい」
「駄目です! 英雄に救われ何もお礼をしないなんて
私、末代まで笑われてしまいます!
でしたら、せめて……」
言うや否や
彼女はオウルさんの頬へと口づけをした。
……直後、オウルさんの顔は見る見る内に真っ赤になり
唯でさえ口下手で、女性への免疫も無さそうな上
更にどう見ても人見知りの激しいオウルさんは――
「なっ?! ……なっ!? ……なっ?!
……ななな何をぉぉぉしますですかぁぁぁっ?!! 」
と、完全な“キャラ崩壊”を起こしたのだった。
……その様子を遠巻きから見て居た俺達は
口元を抑え、顔を真っ赤にしながら
笑うのを必死に堪えて居たが……流石に
“堪えきれなかった”事は言うまでも無いだろう。
ともあれ……過呼吸に成りそうな程爆笑した後
俺達はオウルさんの元へと近づき
彼の咄嗟の判断を褒め称えた。
の、だが――
「み、皆様……お、お褒めに預かり光栄です」
更に照れて顔を赤くしてしまったオウルさん
そんな彼に対し、マリアは――
「……あれですかね~?
さっきマギーさんが言ってた“幸運”についてなんですけど
オウルさんに付与された幸運って――
“美女から頬にキスされる”
――みたいな感じだったりするんですかね? 」
「さぁどうでしょう? ……幸運の程度はその人によりますワ?
でも、間違い無く幸運ですわネッ♪ 」
そう言ってリーアと共に“キャッキャ”して居たマリア。
一方、こんな調子で皆に茶化され続けたオウルさんは
依り一層照れて真っ赤になって居た……だが、そんな中
おっとりとしたこの女性は、まだまだ
御礼し足りなかったのか――
「あのっ……私の英雄様っ! 」
「オ、オウルとお呼びください……何と言うかその……むず痒い」
「で……ではその……オウル様っ! 」
「な、何でしょうか? 」
「お見かけした所、オウル様は旅のお方です……よね? 」
「ええ……早ければ数日、遅くとも数週間中には旅立つ予定ですが」
「でしたら、私がお役に立てるかも知れません! 」
「ど……どう言う事です? 」
「私、こう見えても……この国の事には詳しいんですっ! 」
と、自信満々に言い切ったこの女性。
だが、恐らくは俺を含め
この場に居るオウルさん以外の全員が――
“貴女はこの国の民なのだから当たり前だろう”
――と、思って居た事だろう。
ともあれ――
「わ……我々の滞在中
この国の事を教えて下さる……と言う事ですか? 」
「はい! ……隅から隅までメリカーノアを案内致します! 」
そう笑顔で答えた女性
これに対し、ディーンは――
「それは助かる……オウルよ
この女性のご厚意に甘えてみるのも良いかも知れんぞ? 」
「ディーン様がそう仰るのでしたら……とっ、所で
貴女の事は……何とお呼びすれば良いのですか? 」
「あっ、申し遅れました! ……私、サラと言います!
末永く……ち、違ッ!
よッ……宜しくおねがいしますッ!! 」
「そ、そうですか、ではサラさん……」
「“さん”だなんてそんな……サラとお呼び捨て下さいッ!! 」
言うや否や
オウルさんに急接近したサラさん――
「ぬをわぁっ?! ……でっ、では!
そっ、その……サ、サラッ!
こっ……これから案内を……お願いしても
よよよ……宜しいだろうか!? 」
この後、事ある毎に“あたふた”とする姿を見せ
俺達を爆笑の渦に包んだオウルさん。
……彼の幸運は、先ず間違い無く
“美女との出会い”だ――
◆◆◆
「……も、もう分かりましたから!
皆様もどうか私を“イジる”のはおやめ下さい。
サラさんも何か! ……」
「サラとお呼び捨て下さいと言いましたのにッ!! 」
「なぁっ!? し、失礼を!! ……」
“これは暫く楽しそうだ”
そんな感覚を覚えた一日目だった――
◆◆◆
同時刻
某国、研究所内に響いた不満げな声――
「遅い」
――この瞬間、そう発した“所長”の視線の先には
調整中と思しき“実験体達”が
ガラスタンクの中で急激に“成長”して居た
「……そうは仰られますが
これでも全力で稼働して居るのです!
“E.D.E.N.シリーズ”完成までは
早くとも三ヶ月は掛かると何度も説明させて頂いた筈。
もし、何か問題が発生すれば更に半年
いえ……一年は掛かる可能性も……」
「……完成度が下がる結果だけは避けたいが
あまり長期に“教皇”を待たせてしまえば私の首が飛ぶのだぞ?
全く……どうにかならんのか?!
……教皇に“調整だけ”と言った手前
今更“まだ未完成です”とは口が裂けても言えんのだぞ!?
分かっているのかッ?!! 」
「そ……そう仰られましても!
現在の完成度は多めに見積もって“七割”です。
……最終調整もまだ先ですから
このまま順調に進んだとしても
完成までに三ヶ月はどうしても必要です。
更に、正常に稼働可能か確認する為
追加で一ヶ月の検証期間も必要と思われ……」
「……そんな事は言われなくても分かっているッ!!
一日でも早く完成させなければ
貴様を“餌”にしても構わんのだぞッ?!
分かったかッ?! ……良いなッ?!! 」
「ひぃっ?! し、承知致しましたっ!! ……」
===第五四話・終===




