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第五話「悲しい思い出は変わらずとも、楽しい未来は作れる」

<――ラウドさんの馴染みの店で

“トライスター専用装備”と呼ばれる装備を手に入れた俺。


なのだが――>


………


……



「……これどうやって仕舞しまうんですか?! 」


「慌てずとも“内蔵型”の様ですから“我の中へ”で、戻るでしょう」


「急いで戻したい……我の中へっ!!! 」


<――おかしい。


相変わらず、三色の粒子は俺の周りを輝きながら飛び続けている――>


………


……



「あの……戻らないんですけど? 」


「ん? おかしいですな……“常時開放型”な訳は無いですし……」


「あの……仮に“常時開放型”とか言うのだったら

もしかして……一生このままって事ですか? 」


「ええ、そうなりますな」


「嫌だ……絶対に嫌だ!! 取って! これ取ってぇぇぇっ!! 」


<――と、大慌てな俺に対し

この直後無責任極まりない発言をしたラウドさんとマリア――>


「主人公殿、綺麗じゃし……そのままでも良いのではないかのぉ? 」


「そうですよ~? ……綺麗ですよ本当に」


「二人共……他人事だからそんな事が言えるんだ!


飯食ってる時も、ギルドに依頼受けに行ってる時も

風呂入ってる時も……寝る時だって!!


ず~っとこれが有ったら目が回るし気が狂うわッ!!


くそ~ッ!! ……どうやったら収納出来るんだよ!!


我の中へっ!! ……我の中へっ!!


……だぁぁぁぁぁっもうッ!!! 」


「私も長くこの仕事をやって居りますが……こればかりは判りませんな」


<――子供の頃

“大人は無責任だ”とか思ってた時期があった。


そして今この瞬間……この店主に対してもそう思った。


だが、そんな災難の中

ラウドさんは俺の粒子をまじまじと見つめていて――>


「ん? その回り方もしや……主人公殿!


……魔導病院に行くぞぃ! 」


「へぇ~……もう既に病人扱いですかそうですか。


元を正せばラウドさんの所為せいで……」


「そうでは無い! ……良いから早く来るのじゃ!

店主よ、お代は後払いで頼むぞぃ!! ……」


<――直後、半ば強引にラウドさんに連れられ魔導病院に向かう事と成った俺。


だが、一体何をするつもりなのだろうか?

この状況が少しでも好転するなら何でも良いのだが――>


………


……



「……おぉ主人公さん!

お元気そうで何より……って恐ろしく派手な登場ですな」


「ですね、先生……最近の流行りなのかしら? 」


<――会って早々

魔導医さんと看護師さんにそう言ってからかわれた。


だが……“もうだこの装備”

なんて事を考えていた俺の直ぐ横で――>


「そんな話をしておる場合では無いんじゃよ!!

魔導医殿……重病患者が居った筈じゃろう?! 」


<――妙に必死な様子でそう言ったラウドさん。


一体どうしたと言うのだろうか? ――>


「あぁ~成程っ!! ……主人公さんの派手な“キラキラ”で

重病患者の目まで重病にしようと思ってるんですね? 」


「う゛っ……グサッと来る様な事言わないでくれよマリア……」


「……マリア殿も冗談を言っとる場合ではない!!

魔導医殿っ! 例の重病患者が居るのか居らんのか早く答えるのじゃよ!! 」


<――冗談には割りと寛容かんような筈のラウドさんが

今回に限っては妙に慌てて居た――>


「た、確かに一人“今夜が峠”と思われる方が居りますが……」


「まだ生きて居るんじゃな?! ……直ぐにその者の所へ連れて行くのじゃ! 」


<――直後

今にも息絶えそうな……“ダークエルフ”と思しき

痩せ細った女性の居る病室へと案内された俺達。


見るからに苦しそうだ……呼吸も弱い。


……ラウドさんは一体何をさせる気だろう?


少なくとも、この患者さんに迷惑を掛けなければ良いのだが――>


………


……



「苦しい……ハァハァ……未だ……死ねない

娘が……娘がッ……うぅっ!! ……ゲホッ! ゲホッ!! ……」


<――患者さんは酷く苦しそうだった。


だが、この患者さんに対し

ラウドさんは――


“助かるぞぃ!……お主は助かるんじゃ! ”


――と、声を掛け続けた

そして――


“嘘でも……嬉しい……”


――そう、弱々しい声で答えた

この女性に対し――


“嘘ではない! ”


――そう言い切ったラウドさんは

振り返るやいなや、俺に対し――>


「……主人公殿。


この者に“完全回復パーフェクトヒール”と手をかざしながら唱えるのじゃ! 」


<――そう言った。


そして――>


「え、えっと……こう……ですか?


完全回復パーフェクトヒール――」


<――意味も分からず

言われるがままにそう唱えた瞬間――>


………


……



「……成功じゃ。


良くやった主人公殿っ!! ……」


<――俺の手を取りそう言ったラウドさん

直ぐ近くでは魔導医も看護師さんも驚きの表情を浮かべていた。


だが……この時、俺が受ける事と成ったどんな賛辞よりも

遥かに嬉しかった事がある。


それは……今にも息絶えそうだったダークエルフの女性が

ただ、朝目覚めたかの様に勢い良くベッドから起き上がり――


“嘘、体が動く……今なら走れそうよ! ”


――開口一番そう言ったかと思うと

病み上がりを一切感じさせない程、元気に立ち上がった事だ――>


「あ、あの……何処も苦しく無いですか? ……」


「ええ、先程までが嘘の様です……これで娘の元へと帰る事が出来ます。


この御恩、どうお返しすれば良いのでしょうか……」


「御恩だなんてそんな……


……むしろ、元気になって下さって有難うございます! 」


<――今日、俺は人を救った。


そして、心から感謝をされた。


俺に取ってはそれだけで何にもまさる御礼だったし

よく考えればキザなセリフだとも思ったが

俺がこの世界に転生して直ぐに受けたある言葉が

これ程似合う瞬間も無いと考えた俺は、この女性に対し――


“此処は魔導病院です、お礼なんていりません

感謝の気持ちだけで大丈夫ですから! ”


――と、言うつもりだった。


だが……この直後

完全に“邪魔”をされる事と成った――>


「此処は魔導病院です、お礼なんて……って。


ぬわぁっ? ……な、何だっ?! 」


<――突如として金色の粒子が集まり始め

指輪の形状に成ったかと思うと、俺の指へと収まったのだ。


“キザなセリフ”どころの騒ぎじゃ無い――>


「ふむ……やはりのぉ」


「ど、どう言う事ですかラウドさん?! 」


「簡単に言えば、主人公殿の力が余りにも強い為に

装備が使って欲しくてウズウズしておったんじゃよ。


生まれたての子供の様な物じゃよ……


……言葉は通じぬが意思はしっかりとある」


「と言う事は……この装備は“意識を持ってる”って事ですか? 」


「まぁ……ある意味ではそうとも言えるかのぉ?


主人公殿に合わせた専用の装備であるからこそ

主人公殿の“くせ”を読み取らんと完全な形にはならんのじゃろうて。


少なくとも回復術師ヒーラーの能力は理解出来た様じゃぞぃ?


なにせ御主は今、最強のヒーラー技の一つを使ったのじゃからのう? 」


「と、言う事は……あと二つも実践で使わないと“このまま”って事ですか? 」


「そう言う事になるのぉ? ……まぁ、地道にこなしていけば直ぐじゃよ! 」



「そっか、問題解決ぅ! ……って嫌だぁ~~ッ!!

今後も暫くは黒と紫の粒子が周りを飛んでるとか

余計に悪役にしか見えないじゃないかァァァァッ! 」


<――そう叫んだ俺に対し

マリアは――>


「主人公さん……はからずも私と同じ感覚を持ってますよ?

まぁ、私の場合は“高級品”だったから許せますけどね~」


<――と、励ましなのか何なのか

良く分からない返答を返してきたマリア。


俺は思わず――


“知るかぁぁぁぁっ!!! ”


――と返してしまった。


だが、良く考えたら病院で大声を出してしまった事を問題と感じた俺は

周囲に謝りつつ、深呼吸で落ち着きを取り戻そうとしていた。


そんな中――>


………


……



「あの……主人公様とお呼びしても? 」


「いえ、呼び捨てで……」


「……命の恩人を呼び捨てなど出来ません。


お救い頂き本当にありがとうございます……自己紹介が遅れました

ダークエルフ族……名を、メアリと申します。


主人公様……たとえ黒と紫の粒子が貴方の周りを飛び回り

その所為でどう見えたとしても……私には救いの神なのです。


ですから……どうかお気に為さらないでください。


本当に私を救って頂き、何とお礼を……」


<――やばい、騒ぎ過ぎて気を使わせてしまった。


取り敢えず、謝ろう――>


「……病み上がりなのに気を使わせてしまい申し訳有りませんでした。


此方こそ、元気になって下さってありがとうございます」


「いえ此方こそ……って、これでは堂々巡りに成ってしまいますね。


兎に角……主人公様のお陰で

私はようやく娘の元へと帰る事が出来る様になりました。


ですが、そう成ればこそ……主人公様のお力とお優しさに

少々図々しいお願いさせては頂けないでしょうか? ……」


「お願い……ですか?

俺で出来る範囲の事でしたら引き受けますけど……」


「本当ですか?! ……でしたら

もしもご迷惑でなければ――


“もう一度”


――助けて頂きたいのです」


「ん? ……“もう一度助ける”とはどう言う事です? 」


「私の大切な、一人娘の“メル”を……どうか。


どうか……お救いください」


「何らかのご病気なのですか? ……勿論俺は構いませんが

“救う”とは具体的に何をすれば? 」


「娘は至って健康なのですが……私の娘は……


その……オークの夫とのハーフなのです。


ご存知かもしれませんが、この国でオークとダークエルフの子と言えば

最も忌み嫌われる組み合わせですので……」


<――ん? 俺、そんな設定したか?


てか、種族違ってもその……大丈夫なの?!


と、そんな疑問を感じては居たが

そんな事よりも俺が気になったのは――>


「もしかして……その所為で何らかの被害を? 」


「……ええ。


あの子はとても可愛く、とても心の優しい良い子なのですが

根拠の無い噂の所為で何度も危ない目に遭っていて

もう、何年も家に閉じ籠もって居るんです……」


<――そう語るメアリさんの目には

悲しみと絶望を経験した者にしか出す事の出来ない独特の空気があった。


けど、元いじめられっ子の俺がそんな難しい事を解決出来るのだろうか?


元の世界で“自分すら”救う事が出来なかった俺が――>


………


……



「その……“助ける”と言っても

無理やり部屋から出した所で何の解決にもならない所か

迫害されている以上、何の手立ても無しに連れ出せば

かえって危険な目に遭う事に成るでしょうし

もしそうなれば、娘さんがより酷く傷つく事にも成りかねないですし……」


「そ、それは……」


「いえ……メアリさんを責めたい訳じゃないんです。


悪いのはどう考えても完全に根も葉もない噂が原因だと俺も理解してますし

実は……俺も引きこもりには詳しくて、状況は多少分かるんです。


その、苦しい立場なのに酷い事を言って申し訳ありません……」


「いえ、私がもっとあの子を守る事が出来ていたなら……」


「……それ以上自分を責めないで下さい。


その……俺、頑張りますから!

とは言え、救うとなると色々と大変ですけど

それでも……俺に全てを任せてくれますか? 」


「ええ、娘をどうかっ!! 」


「勿論です! ……では一度、ご自宅まで案内をして頂けますか? 」


「ええ! ……」


<――転生前の俺からすれば全くモッてらしくも無い事を言ったが

本当に俺で救えるのだろうか?


いや……救うべきだ。


俺はメアリさんの言う様な設定をした覚えは無い。


……だけど、つまらない理由で人を傷つけて良いなんて

そんな世の中をもし作ってしまったのが俺だったとしたなら

俺がそれを解決しなければ成らない。


仮にも俺はこの世界の“創造主”なのだから。


そんな事を考えつつメアリさんの自宅へと向かった俺だったのだが――>


………


……



「汚いですが……これが我が家です」


<――想像を絶する光景だった。


確かにある程度は予想していた、だけど……


……家の周りには腐った野菜やら卵の投げつけられた跡

更には酷い言葉の羅列された紙が山の様に貼られていた。


ふざけるな、現世での酷い記憶がよみがえる……


こんな惨状を引き起こした奴らを、俺は絶対に許さない――> 


………


……



「兎に角……マリアとラウドさんは家の外で待っててください。


大勢で押しかけるのは絶対に良くないので……


……では、メアリさん。


一度、娘さんに会わせて頂けますか? 」


「ええ……お願いします。


メル、私よ……」


………


……



「……お母さん?


元気になったの!? 嬉しい……って!?


だ、誰……ですかっ!? 」


<――鬱蒼とした部屋の奥から現れたその子には

まだ新しいと思われるアザが数箇所見えていた。


……俺を見るなり酷く怯えた少女。


絶対に救わなければ――>


「……メル、お母さんがこんなに元気な身体に成ったのは

此方の主人公様に助けて頂いたからなのよ?

この方はとても凄い魔導師様で、心優しいお方なの。


だから心配しないで、貴女を傷つける人なんかじゃないって

お母さんが保証するから……ね? 」


<――メアリさんの説得のお陰もあり

少しだけ警戒を解いてくれたメルちゃん。


直後、彼女は俺の方に向くと勇気を振り絞りながら――


“お母さんを助けて下さって……ありがとう……ございます”


と、言ってくれた――>


………


……



「……どういたしまして!

所で……その

今日俺がこのお家に来た理由……分かるかな? 」


「わ、分からない……です」


「えっとその……怖がらないで聞いて欲しいんだけど。


その……君の為なんだ」


「へっ? ……お母さん、どう言う事? 」


「大丈夫、怖がらないで。


……君が辛い立場だとお母さんから教えて貰ったんだ。


だから……俺の個人的な趣味と言うか完全にエゴだと思ってくれて良い

メルちゃんからすると迷惑かもしれないけど……でも助けたいんだ。


やっぱり……嫌かな? 」


「私を、助ける? ……で、でも私!

オークとダークエルフのハーフだから、その……臭いし

気持ち悪いから……近寄らない方が……

あ、あなたも酷い目に合わされちゃったり……」


<――余程酷い扱いを受けたのだろう。


俺の経験したいじめなんてカスみたいだと思えた。


直後……俺は、彼女を助けたい一心で

後から考えると“とんでもない行動を”してしまった――>


………


……



「……そっか、メルちゃんは臭いのか。


じゃあ、一度匂いを嗅いで確認してみよっか! 」


「いやっ! ……だめっ!! 」


<――隠れようとするメルちゃんに近づき

匂いを嗅ぐ“フリ”をした俺。


そして――>


「えっと……嫌な事をして本当にごめん

完全にセクハラだし、モラルもデリカシーも無いし……本当にごめん。


でも聞いて欲しい……君は臭くない

それに、断じて気持ち悪くなんて無い。


むしろ、か……可愛いとさえ思う」


「か……可愛くなんてないですっ! 」


「そっか……じゃあ俺がもし君に

“友達になって欲しい”って言ったら……ど、どうかな? 」


「とっ……友達?!


そっか……か、からかってるんですね?

そ、外の人達みたいに……」


<――最悪だ。


メルちゃんは何かを思い出した様な悲しい表情をして下を向いてしまった。


でも……その気持ちが俺には痛い程分かる。


許せない……こんなに優しい子を

こんなにも苦しめる奴が居る事が――>


………


……



「えっとね……そう考えちゃう気持ちは俺にも分かるんだ。


ずっと苦しかったよね……信じて貰えないかもしれないけど

俺も……メルちゃん程じゃないかも知れないけど

似た様な経験をさせられた事があるんだ。


だから……少し待ってて。


メアリさん、この“包丁”……お借りします」


「構いませんが……って一体何をっ?! 」


「メアリさん……俺に任せるって言いましたね?

大丈夫です、必ずメルちゃんの事を助けますから……」


<――唐突に包丁を手にした俺に対し

メルちゃんもメアリさんも相当不安そうな眼差しを向けていた。


当たり前だよな……後から考えても俺自身

何故こんな行動に出たのか判らない位だし――>


………


……



「……メルちゃん、これ持ってくれるかい? 」


「ほ、包丁?! ……な、何をするつもりですかっ?! 」


「……怖がらせるばかりで本当にごめんね

けど、どんな方法でもいいから俺は君を助けたいんだ。


だから……俺が嘘を言ってると思うなら

刺しても良いって意味でその包丁を渡したんだ。


ここを刺せば俺は間違いなく死ぬ……間違いなくね。


……俺が外の“酷い奴ら”と同じだと思うなら

メルちゃんの前からその悪が一人消える事になる。


勿論……俺も君を恨まないし、反撃なんて絶対にしない。


それを分かって貰った上でもう一回言うよ?


君は臭くないし、気持ち悪くなんて無いし、とっても可愛い。


それと……俺で良かったら。


もしも嫌じゃなかったらで良い。


だから……僕の友達に成って欲しい」


<――正直な事を言えば命掛けが過ぎるし

もしも今メルちゃんから“嘘つき扱い”されたら俺は死ぬ。


……永遠とも思える程の長い沈黙

その間も包丁の不味い方は俺の方に向いていた。


だが――>


………


……



「……何でっ……何でっ!

この人だけは信じても大丈夫だって……


心が……


お母さん……私……


……私、どうしたらいいの? 」


「あなたが思う様にしてみなさい。


私は貴女の選択を信じるわ……」


<――部屋の中に無言の時間が暫く続いた。


その間もずっと、メルちゃんは俯いて涙を流し続けていた。


……そして暫くの後、顔を上げると

真っ赤に泣き腫らした目で俺の目を真っ直ぐと見つめ

手に持った包丁を強く握り締めた。


直後――>


………


……



「私……私っ!!


主人公さんのお友達になりたい……ですっ! 」


<――メルちゃんはそう言うと包丁を床に落とし

メアリさんいわく……もう何年も見せる事の無かったと言う

満面の笑みを浮かべてくれたのだった――>


………


……




「良かった……笑顔になってくれて。


実は俺、異性の友達……メルちゃんが初めてなんだよ? 」


「へっ? ……そ……そう、なんですかっ?

とっても優しくて……とっても素敵な人なのに……」


<――と、会話をしていたその時

勢い良く開かれた玄関ドア――>


………


……



「私……感動しましたあぁぁっ!!! 」


<――瞬間

号泣しながらマリアが突撃して来たのだが……正直

俺ですらビビったし――>


「わぁぁぁっ?! ……だれぇぇ?! 」


<――言うまでも無く

メルちゃんは更にびっくりしていた――>


「こらマリアッ!

あぁ、その……メルちゃん!


と、取り敢えず……二人共落ち着いて! 」


「無理ですよ主人公さ~んっ! 落ち着いて居られませ~んっ!!

私だってメルさんのお友達になりたいですよぉぉぉ! 」


<――と、号泣しながらそう言ったマリアを警戒し

物陰に隠れたメルちゃんは“驚く程冷静に”――>


「主人公さん! ……この人怖いです!

号泣しながら甲冑姿で斧持って入って来ましたっ!


見るからに危ない人ですっ! 」


「あ~……確かに、鼻息荒く斧持って現れるのは感心出来ないよね」


<――と、冷静に言うと

マリアは――>


「……あ、忘れてました」


<――と

相当重そうな斧を軽々と床に置いたのだった――>


「なぁマリア……俺は思うんだわ。


……その重そうなのを忘れられる神経が怖いって」


「バ、バーバリアン様みたいだねお母さん……」


「ほらほら、メルちゃんに言われてるぞ~?

よっ! マリアーバリアン! 」


「……ちょぉっ?!

誰がマリアーバリアンですか! ……語呂の悪い! 」


「いや……突っ込む所間違えてる気がするけどまぁ良いや。


所で……メルちゃん

マリアも友達に成りたいらしいんだけど……良いかな? 」


「わ、私なんかで良かったら……お願いしますっ! 」


<――そう言って頭を下げながら

握手の為、手を差し出したメルちゃんに対し――>


「嫌だなぁ~……メルさん“だから”良いんですよ!

……こちらこそよろしくおねがいしますっ! 」


<――そう言ってその手を優しく握ったマリア。


と言うか……マリアにこう言う所があるから

多少の毒舌とトラブルメーカーっぷりにも目を瞑って居る側面もある。


まぁ、何はともあれ……再びメルちゃんの可愛い笑顔と

マリアの屈託無い笑顔を見る事が出来たこの日の俺は

正直、とんでも無く幸せ者だと思う。


だが、誰か重要な人を忘れている様な――>


………


……



「あっそうだ!! ……ラウドさんもそろそろどうぞ! 」


「ううむ……やっとお呼びが掛かったわい。


ん? ……主人公殿、何か思いついた様な顔をしておるな? 」


「……ええ。


魔導技でメルちゃんを護れる様な何か強力な技って無いのかなと……」


「ふむ……その結論に行き着くとは。


勿論あるぞぃ? 防衛術師ガーディアンの技の中でも特に質の高い物がのぉ。


……じゃが、少し広い場所で行う必要が有るからして

一度、全員わしの杖に掴まるのじゃよ」


「つ、杖に? 良いですけど……」


「うむ……皆、準備は良いな?


行くぞぃ? 転移魔導……グリーンウォールの森へ! 」


<――ラウドさんがそう唱えた瞬間

俺達は全員、グリーンウォールの森と呼ばれる場所へと“転移”した――>


………


……



「び、びっくりしたぁ……って言うか

転移出来る魔導とかあるんですね……」


<――思わず腰を抜かしそうになりつつそう言った俺に対し

ラウドさんは、ハッとした様な表情を浮かべつつ――>


「いかんいかん……魔導書を渡しておかねばならんのを

すっかりと忘れておったぞぃ。


主人公殿……これを読んで覚えるのじゃよ? 」


「ありがとうございますって……重っ?! 」


<――片手では保持不可能な程分厚い魔導書を手渡して来たラウドさん。


手渡されたのは良いのだが

“引く程”重い――>


「……さて、主人公殿が希望する魔導技はこれじゃ!


その名も“永久防護エターナルプロテクト

発動方法は……対象の胸に手を当て

永久防護エターナルプロテクト”……と、唱えれば完成じゃ! 」


「む、胸に手を当てるっ?! ……ほ、他の場所では駄目なんですか? 」


「ん? ……心臓の有る場所が魔導の中心じゃし

他の部位では無理じゃよ? 」


<――猥談わいだんが好きな筈のラウドさんが真剣な表情でそう言った位だ。


これは……やるしか無いのか?!


けど、そもそもメルちゃんは嫌じゃないんだろうか?


と……そんな事を考えていた俺に対し

マリアは――>


「……大胆な技ですねぇ~?

主人公さん、実は“役得”って思ってませ~ん? 」


「そ、そんな訳無いだろっ!!

……本当にごめん、メルちゃん。


俺そんな技だって知らなくて……けど

もし今後メルちゃんが危険な目に遭ったとしても

痛い思いをしなくて済むならって思って……


嫌なら無理にとは言わないし……その……」


<――何だか、言えば言う程に

下心が有る様に思われている様な気がしてくる。


はい、こんな時に陰キャは辛いんです。


などと考えていたら、メルちゃんは俺に対し――>


「そ、その……主人公さんの手ですから!

か、覚悟は出来て……ますからっ! ……」


<――そう言ってくれた。


けど、同時にメルちゃんの顔は見る見る内に真っ赤に成った――>


「……ごめん、出来るだけ早く済ませるからッ! 」


<――彼女の決意を無駄にしない為

決意を込めたてのひらをメルちゃんの胸元へ持っていった俺。


けど、思いが強過ぎたのか――


“ぽよんっ♪ ”


――と、勢い良く跳ね返されてしまった。


や、柔らかかったなぁ――>


………


……



「ひゃんっっ!? ……」


「ご、ごめんっ! ……痛かった?! 」


「い、いえ……ちょっとびっくりしただけですっ!

そ、その……続けてくださいっ! 」


「ああ、分かった! ……じゃあ行くよッ!


永久防護エターナルプロテクトッ!! ――」


<――今度こそは真面目に。


そう考えつつ唱えた瞬間、メルちゃんは光の膜に包まれ――>


………


……



「胸が……熱い……です……」


「うむ、もう少しじゃ……あと少し……良し! 」


<――ラウドさんがそう言うと、メルちゃんを包む光の膜が

メルちゃんの体に吸い込まれる様に入り込んだ。


それは、とても神々しく綺麗な光景だった――>


………


……



「な、何だか毛布に包まれた様な感覚です……」


「……そ、そうなの?

まぁ、嫌な感じが無ければそれで……ってうわっ?! 」


<――直後、俺の周りを飛んでいた紫の粒子は

収束し、今度は腕輪に変形し俺の腕に装着された――>


「おぉ?! ……腕輪になりましたよ?! 」


「良かったのぉ~主人公殿! 」


「ええ! ……でもラウドさんに一つ質問が。


メルちゃんに掛けた魔導技の効果っていつまで続くんです? 」


永久防護エターナルプロテクト……永久と言う位じゃ。


掛けた本人が解くか、死なぬ限りは永遠の筈じゃよ? 」


「魔導力の消費はどの程度です?

……離れていても効果はあるんですか? 」


「……攻撃を受けた時のみ消費し

受けたダメージに応じて減る魔導量も増えるんじゃよ。


距離は関係なく守れた様に思うが

離れれば離れるほど魔導消費も増えた筈じゃよ? 」


「……成程、側に居てくれると守りやすいって事ですね」


「うむ……そう言う事になるのぉ! 」


<――と、話していると

メルちゃんは急激に表情を曇らせ――>


「でも、私が一緒に歩いたら主人公さん達に迷惑を……」


<――そう言った。


だが、この瞬間……何故かは分からないが

この子の為ならどんな酷い目に有っても良いやと思えた。


直後……そんな決意を胸に、俺は

メルちゃんに対し、ある質問をした――>


………


……



「メルちゃん……質問が一つあるんだ」


「なん……ですか? 」


「魔導か物理、どちらかを使えるかい? 」


「えっと……治癒魔導をほんの少しだけ。


ヒールとか、スリープとかのほんの初歩ですけど……でも

装備が無いので、虫さんとかにしか効果が無くて……」


「ふむふむ……それは良かった!


そ、その……さ。


ち、丁度回復術師ヒーラーが仲間に欲しいと思ってたんだ!

だからその……うちのパーティーに入ってくれるかい? 」


「へっ?! そんな私なんて……そ、それに

主人公さんはお母さんの事を完全に治癒出来る程の

立派な回復術師ヒーラーさんですよね?


って……あれ?

でも今使った技は防衛術師ガーディアンさんの物だって……」


「……ねぇメルちゃん、俺やマリアと友達で居てくれるんだよね? 」


「え、ええ……それは勿論ですけど……」


「……一応俺はトライスターだから

回復術師ヒーラーの技術がある事も否定しない。


けど、そんな事関係無く

俺は“メルちゃん”と言う回復術師ヒーラーが欲しいんだ。


流石に嫌……かな? 」


「主人公さんはトライスターなんですか?!

す、凄い……でもそれなら、私なんてお荷物じゃ……」


「……う~ん。


メルちゃん……一つお約束して欲しいんだ。


金輪際“私なんて”とか“私なんか”って言うのを止めて欲しい。


そ、その……守らないと……友達辞めちゃうぞ~?


……ってまぁ、そうは言っても

俺は絶対にメルちゃんの友達を辞めたくはないんだけど……」


「い、嫌っ! 頑張ります……から……」


「……ちょっと主人公さんっ?!

言い方が酷過ぎです! 本当にデリカシーないんだから!


……でも。


メルちゃんが悲しそうに

そうやって自分を卑下する姿を見るのは私も友達として嫌です。


そう言う意味では、私も主人公さんと同意見なんですよ? 」


<――そう言って微笑んだマリア。


彼女の優しい言葉に安心したのか、メルちゃんは表情を少し緩ませた。


その一方で――>


「主人公様、本当に何から何までありがとうございます……」


<――そう言ってメアリさんは俺に対し

深々と頭を下げて居て――>


「……助けると言った以上中途半端な事はしません。


それに、メルちゃんは助けるに値する

とっても素敵な女の子ですから! 」


「す、素敵だなんてっ……はわわわわっ……」


<――メルちゃんは顔だけで無く耳まで真っ赤になってしまった。


しかし……照れてる姿も可愛いな。


などと思っていると――>


「……さて、わしもただ見ているだけでは

副ギルド長としての名がすたると言う物じゃな。


其処でじゃが……メル殿。


お主には……わしから、魔導具一式をプレゼントしようかと思っておる」


「へっ!? ……そ、そんな……本当に宜しいのですか? 」


「何……年寄りの気紛れじゃよ! 」


<――そう言って微笑んだラウドさん。


そして、喜ぶメルちゃんを見ていてある点に気がついた俺は――>


「……っとメルちゃん。


怪我、治しておくね……完全回復パーフェクトヒール


よし……これで治ったかな? 」


「凄い、全部治ってる……痛くないですっ!

……有難うございますっ! 」


「どういたしまして! ……ってか怪我も治って

更に可愛い顔に成っちゃったね! 」


「ふぇっ!? はわわわわっっ……」


<――とても大切な事なので二度言うが。


やっぱりメルちゃんの照れた表情は可愛い!

あまりにも可愛いので、今後は出来る限り

メルちゃんを照れさせる事を目指そう。


と、そんな事を考えつつ――>


「さてと……取り敢えず一度メルちゃんの家に帰らないと。


って事なんですが……ラウドさん、さっきの転移技って俺も使えます? 」


「勿論じゃよ! ……早速使ってみるのじゃな?


では……“転移の魔導”と唱えた後に

転移先をイメージしつつその場所の名を唱えるのじゃ。


一度行った事のある場所、あるいは

目視した場所以外へは飛べぬから気をつける様にの? 」


「分かりました! ……では皆さん掴まって頂いて。


転移の魔導……メルちゃんの家へ! 」


<――直後、意外な程にあっさりと転移を成功させてしまった俺。


俺って才能あるかも?!


……なんて浮かれていたのだが


そんな和やかなムードをぶち壊す存在が現れてしまった――>


………


……



「……開けろてめぇ!

汚ねぇオークとダークエルフのクソハーフのガキが!

隠れてねぇで出てこいや!!!


……今日こそ追い出してやるからな?! 」


「っ!! ……」


<――この声が聞こえた瞬間

怯えた表情を浮かべ逃げる様に机の下に隠れたメルちゃん。


……間違い無い

メルちゃんの顔にあったアザは此奴コイツの所為だろう。


許さない


絶対に……


許さないッッ!! ――>


………


……



「はぁーい、ただいまぁ~っ! 」


<――直後

裏声で応対し玄関の扉をゆっくりと開けた俺。


無論、其処に立っていたクズは俺を見るなり――>


「テメェバカにしてんのか?! ……男じゃねえか! 」


<――そう言って此方を威嚇して来た。


ああ、現世でも“この手のタイプ”は山程居た。


群れなければ何も出来ない……仲良くする事を覚えようともしない

自らの快楽にのみ忠実なタイプのクズだ――>


「なぁ……質問していいか? 」


「あぁん!? んだこら!! 」


「あの子が……メルちゃんがお前に何かしたのか? 」


「てめえには関係ねぇだろ? ……舐めてっとてめぇも殴り倒すぞ! 」


「てめぇ“も”?

やっぱりメルちゃんの顔に有ったアザはお前の所為か」


「グダグダ言ってんじゃねえぞ? ……おるぁぁぁぁっっ!! 」


《――瞬間


激昂したチンピラの放った拳は主人公の顔面に直撃した。


“かに見えた”


が――》


………


……



「ケッ、雑魚がっ!! ……って。


あるぇ? ……手が……手がぁぁぁぁぁ!!


……うぎゃあああっ!!! 」


《――苦痛に顔を歪めていたのは

主人公……では無く、彼を殴った“筈の”チンピラであった。


……骨折したと思しき拳を抱え

苦痛に顔を歪めそう叫んだチンピラとは対照的に

かすり傷一つ負わずその場に有り続けた主人公。


無論、このあまりにも不可思議な状況の説明など

この場に居る殆どの者には出来る訳も無かった――》


「ほっほっほ……やはり主人公殿は底の知れん力を持っておるのぉ? 」


《――ただ一人

そう言いつつ楽観視して居たラウドを除いては――》


「ラウドさん、何か知ってるんですか?

今のは一体……何が起きたんです? 」


《――ラウドに対しそうたずねたマリア。


すると、ラウドは――》


「……単純な事じゃよ、主人公殿の体の周りにある

攻撃術師マジシャンの黒い粒子を良く見てみるのじゃよ」


《――そう指摘した。


直後、再び主人公に対し攻撃を繰り出したチンピラ。


だが、その瞬間――》


………


……



「あっ! ……黒い粒子が攻撃された場所に! 」


「……その通りじゃよマリア殿。


どうやらあれは主人公殿が操っておる様じゃよ? 」


「そんな高度な技を……いつの間に? 」


「マリア殿……あれは技と言うよりも“魔導の流れ”なんじゃ。


攻撃術師マジシャンはその名の通り“攻撃型”で有るが故に

詠唱が短い物……念じるだけで発動出来る物

準備に莫大な時間が掛かる物と……


……無論、それぞれに例外もあるにはあるが

大きく分ければ三つの形態があるんじゃよ」


「と言う事は……主人公さんは

“あれ”を念じて動かしているって事ですか? 」


「うむ、それも自然にじゃ……あれも才能じゃろうて」


………


……



<――断じて“才能”なんかじゃ無い。


二人の会話はずっと聞こえて居た……勿論

殴られそうに成った俺の事を心配するメルちゃんの声も。


だが、断じて今発動している“これ”は俺が動かしている訳では無い。


まぁ、ある意味ではそうなのだろうが

正直な所、俺の苛立ちや怒りに対し

恐ろしい程にこの粒子が――


“合わせてくれて居る”


――だけに過ぎない。


この、卑怯者チンピラに対する溢れ出る俺の怒りに――>


………


……



「……さてと。


今度はこっちがお前をアザだらけにする番で良いか?

別に良いよな? お前はそうやってメルちゃんを傷つけたんだもんな? 」


「も……もう勘弁してくれぇっ!

悪かった! ……全部俺が悪かったっ!

それもこれも全部“金の為に”やってるだけなんだよ! 」


「何? ……誰に頼まれた?

言わなければ生きて返さない、言えば……それよりはマシだ」


「言う! ……言うから待ってくれ!!


……市場周辺の土地を持ってる大金持ちのおっさんだ!


“この家が有ったらが土地の価値が下がるから、何としても追い出せ! ”って。


……そう、頼まれただけなんだよ! 」


<――成程、最低な答えが帰って来た。


つまりはこの国に“地上げ屋”みたいな奴が居る所為で

メルちゃんが傷ついたって事だ――>


「成程、此処らの差別意識は半端ないんだな?


……笑えるよ。


分かった、じゃあお前を無事で返してやる代わりに

お前には二つ程頼みを聞いて貰うとするか……どうだ? 」


「何でもやる! ……何をすればいい?! 」


「……まず一つ目は、その“おっさん”とやらに伝言だ。


いいか? 一言一句間違えずに伝えろよ?


“トライスターの仲間を可愛がってくれた礼は

百倍……いや、一万倍にでもにして返してやる”


そう、伝えろ……」


「ト、トライスター?! そんな、まさかアンタ……」


「ああ、そうだが? 」


「ひっ?! ……わ、分かった!

必ず伝えるから許してくれっ! 」


「待て、もう一つある……メルちゃんとメアリさんに謝れ。


許しが貰えなかったら……やはり生かしてはおけない」


「わ、分かった! 待っててくれ!!


……も、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁっ!!!

どうか許してくださいお願いしますこの通りですぅぅ!!! ……」


<――気分が悪い。


メルちゃんを傷つけていたのがこんな雑魚だったとは……


……直後、チンピラは恥も外聞も無く

メルちゃんとメアリさんに対して半泣きで土下座をしていた。


余りのクズさ加減に目が腐りそうだ。


ともあれ……この、恥も外聞も無いチンピラの行動に対し

許すとも許さないとも言わない二人の姿に慌てたチンピラは

更に無様な姿で、縋る様にしてメルちゃんの足元で土下座をした。


だが、正直そろそろ俺の方がいらつき始めていたその時――>


………


……



「その……あの……もし私みたいに、迫害されてる子がいたら……お願いです。


今度は……優しくしてあげてください。


それを約束して頂けるなら、今までの事……許します……から……」


「メルちゃん……本当にそれで良いんだね? 」


「はい! 」


「そっか、メルちゃんは優しいな。


……だ、そうだがお前はどうするつもりだ? 」


「お、お嬢ちゃん……済まなかった。


本当に、済まなかった……」


<――終わってみれば結局の所

メルちゃんの純粋さだけが一番最強の武器だった。


俺はコイツを“恐怖で押さえつけた”だけだったが

メルちゃんは優しさだけでコイツのクズな部分を消し飛ばした。


……メルちゃんはやっぱり、俺などよりも余程出来た子だ。


この時の俺はそんな事を考えていた――>


………


……



「……許して貰えて良かったな?

後は俺の伝言だけだ……さっさとクソ地主に伝えて来い」


「へ……へいっ! 」


<――そう返事をすると、腕をかばい足を引きずりながら

地主の家がある方角と思しき方へと向かって行ったチンピラ。


一方、去り行くチンピラの背中を眺めつつ――>


「あんなクズ! ……私の斧でバッラバラにしてやりたかったですよ! 」


<――そう怒りをあらわにしたマリア。


だが――>


「いや、マリアが言うと

本気マジでグロい絵面になってそうで怖いんだが……」


「……うむ、主人公殿の攻撃が可愛く見える程じゃろうのう? 」


「マリアさん怖い……ですっ」


<――俺を含めた皆の総意。


所謂いわゆる“総スカン”とはこの事だろうか?


マリアは決して間違った事を言った訳ではないのだが

多分“妙にリアルに聞こえるのが”悪いのだろう――>


「いや……なんで私だけこんな扱いぃ?! 」


「多分いじられキャラだな! よ……良かったじゃないかマリア! 」


<――今までの意地悪な俺への態度を

ちょっとだけ反省して貰いたくて、そうからかった俺――>


「よ……良く無ぁぁぁぁぁいっ! 」


<――ともあれ。


こうして、メルちゃんが俺達の仲間になった事……そしてその後程なくして

俺からの報復を恐れたのか、正式な謝罪と共に

多額の迷惑料に家の修繕費用その他諸々をメアリさんとメルちゃんに支払い

金輪際この様な行為を行わないと正式に誓った“クソ地主”


……だが、本当の意味で

この国からメルちゃんの受けた様な迫害を完全に無くして行く事は

言葉で言うよりも遥かに難しい道のりで――>


===第五話・終===

一話前が少々短か過ぎた様に感じたので


「もっと頑張ろう! 」


……と必死に成った結果、三倍近い文字数に成ってしまいました。


本当に申し訳ありません。


どうかこれに懲りずお付き合い頂けると幸いです。

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