第四六話「楽な村ではなかったけれど」
鬱屈とした気分のまま
再び招かれた藁葺き屋根の家。
村人達の暮らすその母屋に戻った俺達とは別に
一応の警戒として、盗賊達はジンさん監視の元
別の建物へと連れて行かれた。
だが、正直――
“俺もそっちに押し込めてくれて構わない、俺だって大罪人だ”
――なんて事を考える位には鬱屈としていた俺の精神。
そんな中……ついさっき、俺達が渡したばかりの食料で
“村が平和に成った記念”の宴を開いてくれようとした村長さん。
だが、俺は
「いえ……俺達は、この村の芋で構いませんから
栄養価の高い食料は出来るだけこの村の皆さんで食べて下さい」
「ううむ、主人公様がそう仰るのでしたら構いませんが……」
直後
僅かに申し訳無さげな村長さんの指示に依って
俺達の前へと蒸かした芋が運ばれて来た
「大した持て成しでは有りませんが
これが我が村の芋と湧き水ですじゃ……どうぞお召し上がり下さい」
と村長の勧めで芋を口にした俺達
だが
「では遠慮無く頂きます……うん、芋だ」
確かに
お世辞にも“美味しい”と言える芋では無かった。
これは……水分量が少なく
“口の中の水分を殆ど持って行く”タイプの奴だ。
……とは言え、この村の人達に取っては
これが唯一の生命線だ、そう思えばこそ
俺はこの芋を有り難く食べ続けて居た。
だが、その一方で……俺を含めた皆の“微妙な反応”を見たマリーンは
先に水を飲み、予め口を潤した。
だが、その瞬間
「ねぇ、ちょっと……嘘でしょ?! 」
「どッ……どうしたマリーン!? 」
「この水……“水の都”の水より美味しい
どう言う事なの……悔しいッ!! 」
「え? ……マリーンが其処まで言うって余程だよな?
取り敢えずは俺も……って、美味ッ?!
な、何だこの水……す、すみませんッ! お水のおかわりを! 」
鬱屈として居た俺の心に
一筋の光を灯してくれるかの様な
凄まじく美味しいこの水に驚き
思わず“おかわり”を頼んでしまった俺。
……だが、そんな俺の心に対し
今度は“変な”光を灯す出来事が起きた。
と、言うのも……水を汲みに来た
女性の服の“胸元”に経年劣化で破れたと見られる
“大層大きな穴”が空いており……“片方”とは言え
ガッツリと“見えて”居たのだ。
それに気がついた瞬間、思わず目が点になった俺は
彼女の胸元から“目が離せなくなって”しまって
「あ、あの……お見苦しい物をお見せしてしまって……
服を新調するお金も無いので……ど、どうかお許しを……」
「……ハッ?! す、すみませんすみませんすみませんッ!!
見苦しいだなんてそんなッ!!!
寧ろ、眼福と言いますか~何と言いますか~♪
お陰様で……」
後から考えても我ながら“最低だ”とは思うが
例えどれだけ落ち込んで居ようとも
どれだけ鬱屈としていようとも
”女性のおっぱいは正義だ”……とこの瞬間思った。
……何故なら、俺の心を
完全に
「……とっても爽やかな心持ちに!
って?! ……そ、そのッ!!
も、申し訳有りませんでしたァァァァァッ!!! 」
天へと登り掛けて居た俺の精神
だが、三人娘からの
凍る様な視線と殺気に依って我に返り
直後全力で土下座する羽目に成って居た俺。
ともあれ……この“珍”騒動の暫く後
この村の美味しい湧き水にハマった俺達は
幾度と無くおかわりを繰り返し
尋常ではない量を“がぶ飲み”しながら
この水を褒め称え続けた。
だが
「確かに我が村の自慢ではありましたが
まさかこれ程までに喜んで頂けるとは……
……水ならば幾らでもありますからどんどん飲んでくだされ!
ですが……水がどれ程良かろうとも
“この村が潤う事は”無いのですがな……」
溜息をつきながらそう言った村長さん
だが
「いや……これは売れる筈です」
「み、水が売れるですと? ……一体どう言う事ですじゃ? 」
「普通の水なら別ですが、この水はあまりにも美味過ぎる
もし他国に売るのなら、先程盗賊達から
“この地域の森は竹と木ばかりで食べ物が無い場所だらけだ”
……と言う様な事を聞いた事も考え、木で樽を
竹で持ち運び出来る大きさの水筒を作り
その中にこの水を入れ、他国に販売するなどすれば
間違い無く売れると思います……少なくとも。
……俺達は買うと思いますッ! 」
そう熱心に説明していると
マリアは
「あ! それって“ミネラルウォーター”みたいな事ですよね? 」
「そうそう! 売れそうだと思わないか? 」
「確かに売れると思います! この水だったら……」
と、二人で盛り上がって居ると
村長さんは不思議そうに
「ミネラル……うぉーたー? ……なんですかな? それは」
「えッ? ……あ、えっとその……てッ、天然のおいしいお水を
そう呼ぶ“地域”が有りましてッ! 」
「そうなのですか……しかし、その様な方法で
本当にこの村の水が売れるんですかな? 」
「ええ、間違い無く売れる筈です!
一度飲んだら病みつきに成る事間違い無しの最高の水ですよ!
と言うか……もし、俺達だけの意見で足りないのであれば
盗賊達にも感想を聞いてみるのは如何ですか? 」
「ふむ、そうですな……彼奴らに水を持って行ってやるのじゃ
ちゃんと感想を聞いてくるんじゃぞ? 」
直後
村長の指示を受けた村の青年は
水を持ち盗賊の居る場所へと走って行った。
……その後、暫くして帰って来た青年は
興奮気味に盗賊達の語った“感想”を伝え始め
「村長様! ……あいつらべた褒めです!
“芋を流し込む為に飲んで居た時には気付かなかったが
砂糖でも入って居るのかと言う程甘く感じ美味い
喉越し軽やかで下手な酒を飲むよりも余程美味く感じる
この美味い水ならば金を出してでも飲みたい”
……そう、言ってました! 」
「おぉ! ……主人公さんの仰られた通りですじゃ!
しかし……わしらは他国との貿易などした事が無い
どうやって販売をすればよいのじゃろうか……」
「う~ん……でしたら
俺達が一度、他国にこの水を販売してみますよ!
それで、売れる様ならこの村を宣伝し
“買いに来させる”……と言うのはどうでしょう?
唯、商売にはある程度ハッタリも必要なのですが
大変失礼ながら……その、この村の“景観”だと
足元を見られ、買い叩かれそうなのが気掛かりで……」
「ううむ……しかし、村の景観を美しくしようにも
“元手”がございませんでな……と、そうじゃ!
良い案を思いついたのですが、申し訳無い事に
少々、皆さんにお頼りする事に成りそうなのですじゃが……」
「良い案? ……どんな案でしょうか? 」
「……ご迷惑でなければ、暫くの間この村に居て頂き
主人公さんの仰る方法で水を売り歩いて頂き
そして、その利益で荷馬車に使える布と
馬を買って貰いたいのですじゃ。
……周囲の豊富な木々を用いれば
荷馬車程度なら作れるじゃろうし、そうなれば
後は我が村の民達で売り歩く事も充分可能じゃと思うのですじゃ。
無論、タダで働いて貰うつもりは無いのじゃが
報酬と言える程の立派な物は持ち合わせて居りません故
芋や水程度しかお出し出来ないのが心苦しい限りなのですじゃが
その分、水で上げた利益を多めに取って頂ければ……
……そう思っておりますじゃ! 」
「確かに報酬を頂けるのは助かりますけど
言う程長居は……って、俺また勝手に決め掛けてるけど
皆、良い……かな? 」
そう訊ねた俺に対する
皆の反応は
「生涯の友の願い……吾輩は協力を惜しまぬ」
と、全面的な協力を約束してくれた
ガルドに始まり
「私達は作者を探す旅の途中だ、あまり長期は困るが
半月程度ならば協力するのも良いだろう」
そう言って期限を区切りつつも
協力を買って出てくれたディーン。
続くマリアは
「何だか楽しそうですし構いませんよ?
竹とか木とか切るのに私の“斧りんマークⅡ”が役立つでしょうし? 」
と、相変わらずな様子でそう言ってくれた
確かに実際“斧りん”が役に立ちそうな状況だし
「困ってる人達を助ける主人公さんは素敵ですっ!
あっ! ……勿論協力しますっ! 」
妙に嬉しそうなメルのそんな言葉と共に
マリーンも
「勿論私も協力するわ!
この水を他の地域でも飲める様に
この村の一大産業になる位に売り歩きましょうよ! 」
と“若手女社長”みたいな雰囲気を醸し出しながら
そう言ってくれたのだった。
ともあれ……結果として
全員が俺の願いを快諾してくれたこの瞬間
村長さんは
「おぉ! ……きっと皆様はわが村に訪れた神の遣いですじゃ……」
そう言うと
俺達に向かって手を合わせ、祈りを捧げ始めた。
……そして、そんな村長につられる様に
村人達も同じ様に手を合わせてくれた。
無論、感謝されるのは嬉しいが
現状、まだ“水筒”すら作って居ない状況だ。
……正直、少しだけプレッシャーに感じつつも
村人達の為、やる気を漲らせて居た俺は
「よし……そうと決まれば!
早速水筒と樽を作りましょう。
……出来れば、村の中でこう言った作業が得意な方に
手伝いをお願いしたいのですが……」
と、村人達にも協力を仰ぎ
直後、村人達の中から続々と協力者が現れた事で
俺達は……急遽、バルン村で
数日間に及ぶ“ミネラルウォーター作り”を始める事と成った
◆◆◆
「……おりゃあぁぁぁぁぁっ!!!
“双斧流”三之型:焔月連環撃ッ!!! 」
「おぉ……き、鬼神の如き姉さんだ! 」
横で聞いて居ても恥ずかしくなる様な
“中二病”全開な……“自作の”技名を叫びながら
凄まじい勢いで大量の竹や木を収穫していたマリア。
と言うか、動きは確かに荒々しいが
“火属性”な感じは全然しない。
ともあれ……この後も村人の声援に気を良くし
続々と中二病な技名を連発して居た事は
後でたっぷり“イジる”事として。
……この後、数日間に渡る村人達の協力に依り
竹水筒や樽を大量生産し続けた甲斐あって
大量の水を他国へ輸出する為の準備は予定よりも遥かに早く整った。
そして……試験的な輸出を行う日
俺達は村人達に“ある”約束をさせる事と成った。
◆◆◆
「っと……これで全部ですかね? 」
バルン村の入口に運ばれた大量の水筒と樽。
だが、村人達に見えて居るオベリスクの姿では
どう見ても積載不可能に見えるこの量に
村人達は首を傾げ、不安そうにして居て
「其奴は無理だ! 全部は乗らねえよ主人公さん! 」
と、載せる事さえ難しくなる程に騒ぎ始めて居た事もあり
少し考えた後、ギュンターさんに許可を取った俺は
「えっと……今日は皆さんに
一つだけ、俺達と約束をして頂きます」
村人全員に対し、そう念を押しつつ
「その……この“荷馬車”は、皆さんに見えて居る姿より
実は“かなり大きい”んです。
……見た目を偽装する能力に依り
皆さんには“荷馬車”に見えていますが
実際はこの数十倍の大きさです。
信じて貰えないかもしれませんが
小さな国なら簡単に攻め落とせる武器すら搭載されています。
無論、皆さんの恐怖心を煽る為
お話した訳ではありませんのでお見せする事は控えますが
この事実を絶対に誰にもお話に成られません様
深くお願い致します……」
村人達に頭を下げ、そう頼んだ俺
すると
「ああ! ……あんた達はおら達の救世主だ!
あんた達が居なきゃこの村は
このまま朽ち果てて居たかもしれねぇ!
助けてくれたあんた達が嫌がる事をしておら達に何の得があるよ?
おらたちゃあ絶対にあんた達を裏切らねぇぜっ! 」
この村人の発言に同意する様に
他の村人達も声を揃え、俺の願いを
聞き入れてくれたのだった
「有難うございます……出来るだけ早く大きな利益を生み
出来るだけ早くこの村に戻ってきます。
それまで待って居て下さい……では行ってきますッ! 」
この後
村人達の声援を背中に受けオベリスクに乗り込んだ俺達は
地図を確認し、最も近い国を目指し出発した。
……見渡す限りの深い森を少し逸れながら暫く進むと
木々に隠れ、塀に囲まれた小国が見えて来て
◆◆◆
「おぉ……小さいけど確りとした門構えだな
何々? 商人の国……」
暫くの後、辿り着いたその国には
頑丈そうな門があり……門の上には
“商人の国ナンダーラ・ダイ”
……と刻まれているのが確認出来た。
門番は勇ましい見た目こそして居たが
意外にも警戒される事は無く
“商人だ”……と言っただけですんなりと入国も許可された。
と言うか、入国税さえ掛からないのは驚きだったが
本来はそれが普通のだろうか? ……ともあれ
門を抜けると活気に溢れた商人街が見えて来た。
……成程、門番に“商人だ”と伝えた瞬間
すんなりと入国出来たのは、恐らくこのせいだろう
「はぇ~……凄い品揃えだ
流石は“商人の国”ってだけはあるね! 」
などと話していると
露天商の一人が俺達に対し“客引き”を始めた
「おっ! ……其処の男前のお兄さん達と美人のお姉さん達!
ウチの商品を見ていっておくれよ! ……安くしとくよ! 」
「あッ、すみません……一応、俺達も商人なんで!
ま、また後で来ますねッ! 」
と、伝えるや否や
露天商の態度はガラッと代わり
「けっ! ……シケたツラしやがって!
商売敵ならお断りだ! あっち行ってくれ! ……シッシッ! 」
「なッ?! ……恐ろしい変わり身の速さだ
い、行こうか皆……」
直後、足早に商人街を通り過ぎた俺達
この後も暫く歩き続けたが
歩けど歩けど店を開ける様な空き場所の確保は難しく
俺達は一度“中央広場”で休憩を取る事にした
「それにしても、外から見るよりかなり広いわね……
……それに、商人が沢山
だけど、周りに沢山国がある様にも見えないのに
結構不思議じゃない? 」
そう言ったマリーンに対し、ディーンは
「ふむ……恐らくは“貿易拠点”か何かだろう。
差し詰め、物資の運搬道に商人が集まり
休憩所として用いて居た所
それが一つの国に成ったのでは無いか……と推測するが」
「成程ね……でも“石を投げれば商人に当たりそう”なこの国で
私達、ちゃんと水を売れるのかしら? 」
「……頑張るしか無いですよマリーンさんっ!
私もがんばりますから! 皆さんも頑張ってくださいねっ! 」
不安がるマリーンに対し
そう言って気合を入れてくれたメル。
“俺も気を引き締めなければ”
……などと考えて居たその時
マリアは
「んじゃ~その前に! 運び疲れたので一本頂きまぁ~す! 」
「ちょッ!? マリアッ! それは売り物……とは言ったけど
確かに俺も喉乾いたし……じゃあ“一人一本まで”って事でッ!
ゴクッ……ゴクッ……ぷはぁ~~~ッ!
うおぉぉぉぉぉッ! ……やっぱり美味いッ! 」
若干
“ミイラ取りがミイラになった”感こそ有ったが
ともあれ……休憩がてら、村の水を楽しんで居た俺達
すると、遠くの方から明らかに飲み物を欲した様子の
“小太りな男性”が一直線に俺達の方へと近付いて来て居て
「あ、あの……その飲み物を……私にも下さい……」
「あ、そのえっと……これは一応“売り物”なんですけど……」
(あれ? ……何だかこの人、慌ててるな)
「……も、勿論お金なら払いますッ!!
だ、だから早くッ! ……」
「え、ええ! それなら勿論……」
とは言った物の、一体幾らが妥当なんだろうか?
あまり高くしても売れなきゃ意味が無い。
“共通銅貨一〇枚位にしておこうかな? ”
そう考え、金額を口にしようとした
瞬間――
「共通銀貨一〇〇枚になりますっ! 」
「え、ちょッ……マ、マリア?! それは流石にぼッ……」
――と、完全に“ボッタクった”マリア
慌てて訂正しようとした俺だったのだが。
「かッ、買いますから五本程下さい! ……い、急いでッ! 」
「え゛ッ?! ……あ、いやその……ど、どうぞ……」
戸惑いつつも水を差し出した俺
一方……受け取るや否や
男性はあっと言う間に水筒の水を五本一気に飲み干した。
そして
「……ぷはぁぁぁぁっ!!!
いっ……いっ……生き返ったぁぁぁぁぁっ!!!
本当にありがとうございます……いや~
私の足元を見なかった商人は貴方達が初めてです。
さっきの店など、これ一本より遥かに少ない水を
金貨五枚なんて法外な値段を吹っ掛けて来たんですよ?! 」
「そ……そうなんですか……」
(いや、正直マリアがかなり“吹っ掛けてた”気がするが……)
「そうなんですよ! ……全く、貴方達の様な商売を
他の商人にも見習って貰いたい物です! 」
「いッ?! ……いえいえ!
俺達は清廉潔白な商売が売りですから! 」
(嗚呼、言ってて凄く罪悪感を感じる……)
「それは素晴らしい! ……しかし
それにしてもこの水は美味い!
まだ追加で購入しても構いませんか? 」
「ええ、勿論です! 」
(なら流石に値引きしてあげよ……)
「では樽にしては? ……金貨一枚でこんなに大きいですよ? 」
「え゛ッ?! マリア、それは流石にボッ……」
「安いっ! それください! ……二樽! 」
「え゛ッ?! ……ど、どうぞ」
(いやいやいや?! ……この人どんだけ金持ちなんだ?!
てか凄いな、樽二つを持ち上げながら飲んでるし)
“小太りの男性”は
水筒に換算して約二〇本分
凡そ一〇リットルはあろうかと言う樽を
二樽分、あっと言う間に飲み干してしまった。
……“一体、何処に入って行くのだろうか? ”
と言う疑問を、この場に居る全員が感じる程の速度で
「さ、流石に……げぷっ……水腹になりますね……だけど
この水はとても美味い! 」
流石に少々苦しそうな様子ではあったが
それでも、この男性はとても満足げで
「え、ええ……それは良かったです!
っと……所で、お客さんはこの国の方ですか? 」
「いえいえ! ……私はある国への旅の途中に立ち寄った
唯の旅人です……ですが、隙あらば
“ボッタクろう”とする商人ばかりで
本当に困って居たんですよ……」
「そ、それは災難ですね……」
(何だか本気で申し訳無く成って来た……くッ……マリアめ……)
「……と言うのも“小麦で出来た甘塩っぱい焼き菓子”を
安く大量に売っている店がありましてね。
……丁度お腹も空いていたし
適正価格だったので大量に購入したんです。
それで……最初は良かったんですが
食べ続けて居る内にどんどんと喉が乾き始めまして
“水”と書いて居たので店主に水を売ってくれと言うと
小さなコップに半分ほどの水が一〇金貨だと言われ――
“他所で買うからいらない! ”
――と、怒って店を後にしたまでは良かったのですが
探せど探せど足元を見る様な店ばかりで……
……そろそろ限界だ、と思っていた矢先
美味しそうにこの水を飲む貴方達をお見かけしたと言う訳です」
「それは……恐ろしい程ボッタクリの店ばかりだったんですね。
お助け出来て良かったです……所で
“ある国”って仰いましたけど
一体何処を目指されているのですか? 」
「えっと、この製品を作っている国を目指してまして……」
そう言って小太りの男性が鞄から取り出したのは
何と“オセロ”であった
「そ、それは……オセロじゃ無いですか!! 」
(しかも特級の奴だ……)
「し……知って居るのですか?! 」
「いや、知っているも何も主人公さんが発案者ですよ? 」
と言うマリアの発言を聞いた瞬間
小太りの男性は飛び上がって驚き、俺の手を握り締めながら
「た、確かに箱には“主人公発案”と……ほっ、本当に
これを発案された方が……あ……貴方様で? 」
「ええ、そうですけど……あッ、でも!
その製品を製造して売ってるのは
“政令国家”にある“ドワーフの工房”ですから……」
「ええ、これを購入出来る国が政令国家と呼ばれる国である事は
元の所有者から聞きましたので存じておりますが
まさかこんな所で発案者様に出会えるとは……何たる奇跡! 」
「いえいえ……でもお客さんが持ってる位なので
一応製作者の権利とか考えると、他国で
“模造品”とか出回ってたら嫌だなとか思ったりはしますが」
(と言うか俺自身、元の世界の製作者からパクった様なものか……)
「いえいえ……この様に精巧な造り
我々の国の職人は疎か、何処の職人でも
一朝一夕で真似出来る代物ではありません!
だからこそ……この商品を大量に仕入れに行くのです!
長らく楽しみの無かった我が国の民達に
数少ない娯楽の一つとして浸透させる為に! 」
「そ、そうなんですか……なら
もしかしたら既にご存知かもしれませんけど
それの他にバックギャモンと
“ジェンガ”ってゲームがありますよ! ……あッ!
あと服なんですけど“和装”って素敵な服があったりとか!
因みに今、俺が着ている服がその“和装”です! 」
「何と?! ……この手の娯楽がまだあるのですか!?
こ、これは急がないと!! ……所で
政令国家までの道のりはこの国からどの位でしょうか? 」
「えっと……馬車でしたら長くても
二週間位すれば辿り着くかと思います……あ、いや
もうちょっと掛かるかな? ……」
「何れにせよもう近いのですね! ……やっと辿り着ける!
ではもう一つ質問が! ……オセロもですが
その他の製品の価格は如何程でしょうか? 」
「えっと……“等級分け”がありまして
お客さんがお持ちの“特級”ならそれなりに高かった筈ですけど
普及価格帯の物であれば然程は……でも
政令国家のお金と共通通貨の“外為”が分からなくて。
なので……ちょっとだけ待って頂いても? 」
「ええ! ……情報は多い程助かりますので! 」
「……では失礼して。
魔導通信――
――ガンダルフへ、主人公だけど今話せるかい? 」
◆◆◆
「おぉ主人公!! ……久しぶりじゃな、元気か? 」
「……ああ! お陰様で元気だよ!
と言うかガンダルフも元気そうな声で安心したよ。
それはそうと、ガンダルフの工房で売ってるそれぞれのゲームの
“共通通貨”での価格を教えて貰っても良いかな? 」
「ん? 計算した事は無かったが……オセロが下から
銀貨一〇枚、銀貨一〇〇枚、金貨一〇枚
バックギャモンが下から銀貨三〇枚、銀貨三〇〇枚、金貨三〇枚
ジェンガは主人公達が旅に出てから種類が増え
下から銅貨四五〇枚、銀貨四〇〇枚、金貨二〇枚と言った所じゃ。
しかし……何故いきなりそんな質問をしたのじゃ? 」
「喜ばしい事に他国でもオセロが楽しまれてるみたいでさ
旅の途中に出会った男性が政令国家に
オセロを買いに行くつもりらしくて
“価格が知りたい”って事だったから聞いたって訳なんだよ」
「おぉそれは嬉しいのぉ! ……しかし、他国にまでこの玩具がのぉ?
流石は主人公の発案した製品じゃ!
気分が良いから、そのお客人が店に来たら価格はサービスしよう!
そう伝えておいてくれ! 」
「ああ、分かった! ……久し振りに話せて嬉しかったよ!
じゃあまた! 」
◆◆◆
「――と、言う事らしいのですが!
って……お客さん? 急に固まってどうしたんですか? 」
「し、主人公様……貴方は……もしかして……」
「なッ……何でしょうかッ!? 」
(って……やばッ?! 今、俺“杖を振らず”に魔導通信を!?
さ、流石に気付かれたか?! )
「商人であり、オセロの発案者であり
おまけに……魔導師様なんですか?! 」
「え、ええッ! ……まぁ、一応
しがない“攻撃術師”ではありますが……」
(ビックリしたぁぁぁッ!!! トライスターがバレたのかと思った……)
「凄い人も居たもんだ……と言うか
価格までサービスして頂けるとは……助かります!
大量に購入する予定なので
少しでも安いと非常に助かるのです! 」
「お役に立てて良かったです……所で、ご迷惑でなければ
如何ほどご購入予定なのかを教えて頂けたらな~と! 」
「ええ、オセロを……」
「……オセロを? 」
「オセロを六〇〇〇個程……それと
その他の娯楽を試しに各種三〇〇〇個程購入出来ればと!
先程聞いた価格ならば、現状の持ち合わせで
どうにかなりそうですので! ……って、主人公様? 」
◆◆◆
この、尋常では無い発注個数に
今度は主人公が口を開け固まってしまった。
「主人公様?! ……主人公様! 」
「……へッ?!
あ、いやその……きっとガンダルフも国の皆も喜んでくれます!
と言うか、お客さん凄い“お金持ち”だったんですね……
……見た所護衛も付いてませんが
此処までの道のり、良く平気でしたね? 」
「ええ!……これでも多少は腕に覚えがあるのですよ?!
……ふんッ! 」
瞬間
小太りの男性は拳を構えてみせた。
が、大してキマって居る訳でも無く
「そ、そうですか……って! 恐らくその個数だと
荷馬車一台では持ち帰りが困難なレベルだと思うんですが……」
「ええ、なので現地で荷馬車を雇う予定ではあります! 」
「う゛ッ……だ、だと思いました!
後で連絡しておきますから、荷馬車の価格も
出来るだけサービスして貰える様、俺の方から頼んでおきます! 」
◆◆◆
この時、主人公は
この男性の如何にも騙されやすそうな危うさに
少々不安を覚えつつ、せめて自分が関わる時だけでも
損をさせぬ様取り計らおうと、強く心に決めて居たと言う。
「あッ! ……お客さんに質問を一つだけ!
……この絵本に載ってる物、若しくは似通った物や実物
それか“作者本人”を知って居るって事はありますかね? 」
「う~ん、見た事が有りませんね……サーブロウ伯爵?
知らないなぁ……“爺や”なら知ってるのかな?
……っと、なんでも無い! なんでも無い!
残念ですが私は存じ上げません……申し訳ありません」
「ん? ……い、いえそんなお気に為さらず
と、ともあれ……政令国家には確りとした護衛と
確りとした荷馬車を用意させる様
後でちゃんと連絡しておきますのでご安心下さい! 」
(何か今、明らかに“ただ者じゃない感”満載の発言があった様な……)
「ええ……感謝致します!
しかし、我が国にもこんな人が沢山居たらなぁ……っと
ではそろそろ失礼を! ……あっ、その前に後四樽ほど水を下さい! 」
「はい! 政令国家へのお客様ですからサービスでッ! 」
(……よし! マリアに競り勝ったッ! )
「ぐぬぬ……」
「おいマリア、今お前“ぐぬぬ”って……」
「……どうも有難うございます!
しかし、こんなにもサービスして貰えるとは!
帰ったら爺やに自慢するぞ~っ! ……ではまたっ! 」
「え、ええ! ……お気をつけて! 」
(……うわ、この人また“爺や”って言った
この人、絶対何かしらの“地位”がある人だ……)
◆◆◆
この後、主人公は
とても心配そうに、男性の後ろ姿が見えなくなるまで
見つめ続けて居たのだった。
「……もう! 主人公さんのバカッ!
もっと出して貰えそうだったのに~! 」
「“損して得とれ”って言葉も覚えるべきだぞ? マリア。
……清廉潔白な商売でも稼げるから
そんな悪どい商売は今後、止めような? 」
(と言うかさっきの一連の流れで既にボロ儲けなのだが)
「でも、今の人が政令国家を目指してるお客さんだったなんて
す、凄い偶然ですっ! 」
「ああ、俺もびっくりしたよメル……」(“色んな意味”で)
などと話していると
ガルドは
「しかし主人公よ……どうやらこの国では
“暴利を貪る”のが常となって居る様だ。
故に……それを“逆手に取る”事が出来れば
瞬く間に水は売れる……と、吾輩は思うのだが」
「確かに……全く、さっきの男性のお陰かな?
分かりやすく商機が見えたッ!
皆、今から水を“投げ売り”だッ! ――」
◆◆◆
直後、一行はこの国に於ける破格の値段で
高品質な水を売り捌いた。
無論、他の商人達も負けじと
“苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべつつ”価格を下げたが……
……商品の質で圧倒的に上回った一行の水以外を買う者など
この国には一人として存在しなかった。
本来、商売敵である筈の商人ですらこの水に惚れ込み
密かに買う程であったのだから。
◆◆◆
「……大変申し訳有りません! 準備数、全て売り切れです!
また次回の販売をお待ち頂けると幸いです!
本日は……ありがとうございましたっ! 」
主人公のこの宣言に肩を落とし
この場から去って行った数多くの客……と同時に
水の価格を元よりも高く釣り上げた他の商人達の
“商魂逞しさ”はともあれ……
……主人公達の手元に集まった金額は
質の良い馬と“帆”を山程買える金額であった。
「……よし! この金額なら買える!
さてと! 何処かに売ってる店は……」
「……お待ち下さい主人公様、この国で買うの“だけ”は
お止めに成るのが賢明かと存じます……」
「へッ? ……な、何でですか? ギュンターさん」
「成程……“元を取る”つもりの者ばかりと言う事か」
「左様でございますガルド様」
「ん? ……どう言う事? 」
「主人公様……私共はたった今
他の商人達の客を根こそぎ“横取り”したのです。
相応に恨まれて居る事は
ご理解して頂けるかと思いますが……では次に
その商人達から“馬”や“帆”を買うと致しましょう。
果たして我々に“適正価格”で売って下さる商人が
この場に居ると思いますかな? 」
「あッ、確かに!! ……危ない所だった
なら、他所で買いましょうか! 」
と言う会話に聞き耳を立てて居た数名の商人達は
舌打ちをしながらそっぽを向いた。
「では……取り敢えずお金を持って村に帰るか
適正価格で購入出来る所まで遠出して買ってから帰るか……
……どうした方が良いですかね? ギュンターさん」
「それについてですが……私めの考えを申し上げますと
一度村に帰り、木製……若しくは竹製の手押し車を村人に作らせ
馬などを使わない方法で、一時的にでも手売りさせるのが
一番の近道かと思います……村人達に全てをお与えになっては
彼らは“自活”の道を覚えられませんので……そもそも
此処までの道のりは然程遠くはありませんでしたし
恐らくあの村にも此処に国がある事を
知って居る物も居る事でしょう。
……その上、村は旧帝国城にも近いのですから
最終的には政令国家で融通して頂いた方が
適正価格で高品質な物が用意されるかと……」
「流石ギュンターさん! ……いいアイデアです!
……後々あの村が“自活”出来るだけの農業や畜産をするに当たり
政令国家から穀物等を譲って貰うって事も出来そうですし! 」
「ええ……そうなれば
行く行くは政令国家へと編入されるやも知れませんね」
「ですね! ……そうなったら
平和な場所がまた一つ増えるのか! ……楽しみだ!
って、そうと決まれば日も暮れ始めたし
早く村に帰ろう! 皆掴まって!
転移の魔導、バルン村へ! ――」
◆◆◆
「――皆さんッ!
水、全部売ってきましたぁぁぁッ! 」
主人公がそう呼び掛けた瞬間
続々と集まった村人達……そんな彼らに対し
自慢げに金貨の入った袋を掲げて見せた主人公。
村人達はそんな主人公らに対し
再び祈りを捧げ始めたのだった。
===第四六話・終===




