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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第二章

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第四十六話「楽な村ではなかったけれど……」

<――鬱屈うっくつとした気分のまま

再びまねかれた藁葺わらぶき屋根の家。


村人達の暮らす母屋おもやに戻った俺達とは別に

一応の警戒として盗賊達はジンさん監視の元、別の建物へと連れて行かれた。


だが、正直――


“俺もそっちに押し込めてくれて構わない、俺だって大罪人だ”


――なんて事を考える位には鬱屈うっくつとしていた俺の精神。


そんな中……ついさっき俺達が渡したばかりの食料で

“村が平和に成った記念”の宴を開いてくれようとした村長さん。


だが、俺は――>


………


……



「いえ……俺達は、この村の芋で構いませんから

栄養価の高い食料は出来るだけこの村の皆さんで食べて下さい」


「ううむ……主人公様がそうおっしゃるのでしたら構いませんが……」


<――直後

俺達の前にかした芋が人数分運ばれて来た――>


「……大した持て成しでは有りませんが

これが我が村の芋と湧き水ですじゃ……どうぞお召し上がり下さい」


<――と村長の勧めで芋を口にした俺達。


だが――>


「では遠慮無く頂きます……うん、芋だ」


<――確かに、お世辞にも“美味しい”と言える芋では無かった。


とは言え、この村の人達に取ってはこれが唯一の生命線だ

そう思えばこそ、俺はこの芋を有り難く食べ続けていた。


……だが、そんな中

俺を含めた皆の微妙な反応を見たマリーンは

先に水を飲んであらかじめ口をうるおして居た。


だが、その直後――>


………


……



「……ねぇ、ちょっと嘘でしょ?! 」


「ど、どうしたマリーン!? 」


「“水の都”の水より美味しいなんてどう言う事なの……悔しいッ!! 」


「え? ……マリーンが其処まで言うって余程だよな?

取り敢えずは俺も飲んでみるけど……って、美味うまッ?!

何だこの水……す、すみません! お水のおかわりを! 」


<――鬱屈うっくつとしていた俺の心に

一筋の光をともしてくれるかの様な凄まじく美味しいこの水に驚き

思わずおかわりを頼んでしまった俺。


だが、そんな俺の心に対し

今度は“変な”光をともす出来事が起きた。


と言うのも、水を汲みに来た女性の服……の“胸元”に

経年劣化で破れたと見られる大層大きな“穴”が開いており……


……片方とは言え、ガッツリと“見えて”いたのだ。


それに気がついた瞬間……思わず目が点になり

俺は、女性の胸元から目が離せなくなってしまった――>


………


……



「あ、あのっ……お見苦しい物をお見せしてしまって……

服を新調するお金も無いので……ど、どうかお許しを……」


「……ハッ?!

いえそんな……むし眼福がんぷくと言いますか~何と言いますか~♪ 」


<――我ながら最低だとは思うが

たとえどれだけ落ち込んでいようとも、どれだけ鬱屈うっくつとしていようとも

”女性のおっぱいは正義だ”……とこの瞬間思った。


何故なら俺の心を、完全にさわややかな――>


………


……



「……ちょっと、主人公? 」


「主人公……さんっ? 」


「それは流石に本気で最低ですよ? 主人公さん」


「爽やかな心持ちに……って?!

そ、そのッ!! ……申し訳有りませんでしたァァァァッッ!! 」


<――マリーン、メル、マリアの三人に詰め寄られ

慌てて我に返り全力で土下座する羽目に成った俺。


……ともあれ、この“珍”騒動のしばらく後

この村の美味しい湧き水にハマった俺達は幾度いくどと無くおかわりを繰り返し

尋常ではない量をがぶ飲みしながらこの水を褒め称え続けた――>


………


……



「しかし……これ程喜んで頂けるとは嬉しい限りですじゃ。


水ならばいくらでもありますからどんどん飲んでくだされ!

ですが……水だけがどれ程良かろうとも

“この村がうるおう事は”無いのですよ……」


<――ため息をつきながらそう言った村長さん。


だが――>


「……いえ、これは売れる筈です」


「み、水が売れるですと? ……一体どう言う事ですじゃ? 」


「普通の水なら別ですが、この水はあまりにも美味過ぎる

もし他国に売るのなら、先程盗賊達から――


“この地域の森は竹と木ばかりで食べ物が無い場所だらけだ”


――と言う様な事を聞いた事も考え

木でたるを、竹で持ち運び出来る大きさの水筒すいとうを作り

その中にこの水を入れ、他国に販売すれば間違いなく売れます。


少なくとも……俺達は買うと思います! 」


<――そう熱心に説明していると

マリアは――>


「あっ、それってミネラルウォーターみたいな事ですよね? 」


「……そうそう! 売れそうだと思わないか? 」


「確かに売れると思います! この水だったら……」


<――そう二人で盛り上がって居ると

村長さんは不思議そうに――>


「ミネラル……うぉーたー? ……なんですかな? それは」


「えっ? あっ、えっとその……てっ、天然のおいしいお水を

そう呼ぶ“地域”が有りまして! ……」


「そうなのですか……しかし、その様な方法で

本当にこの村の水が売れるんですかのぉ? 」


「ええ、間違い無く売れる筈です!

一度飲んだら病みつきに成る事間違い無しの最高の水ですよ!


もし、俺達だけの意見で足りないのであれば

盗賊達にも感想を聞いてみるのは如何いかがですか? 」


「ふむ、そうですな……彼奴あやつらに水を持っていってやるのじゃ

ちゃんと感想を聞いてくるんじゃぞ? 」


<――村長の指示を受けた村の青年は

水を持ち盗賊の居る場所へと走っていった。


そして……暫くして帰って来た青年は

興奮気味に盗賊達の語った感想を伝え始めた――>


………


……



「村長様! ……あいつらべた褒めです!


“芋を流し込むためだけに飲んでいた時は気が付かなかったが

砂糖でも入っているのかと言う程甘く感じ美味い。


喉越のどごし軽やかで下手な酒を飲むよりも余程美味く感じる

この美味い水ならば金を出してでも飲みたい”


……と言ってました! 」


「おぉ! ……主人公さんのおっしゃられた通りですじゃ!

とは言え、わしらは他国との貿易ぼうえきなどした事が無く……」


「う~ん……なら俺達が一度、他国にこの水を販売してみますよ!


それで売れる様ならこの村を宣伝し

買いに来させると言うのはどうでしょう?


……ただ、商売にはある程度ハッタリも必要なのですが

大変失礼ながら……この村の景観けいかんだと足元を見られ

買い叩かれそうなのが気掛かりですね……」


「しかし、村の景観を美しくしようにも元手がございませんでのぉ……


……と、そうじゃ!


良い案を思いついたのですが、申し訳無い事に

少々、皆さんにお頼りする事に成りそうなのですじゃが……」


「……と、言うと? 」


「ご迷惑でなければ、暫くの間この村に居て頂き

主人公さんのおっしゃる方法で水を売り歩いて頂き……そして

その利益で荷馬車に使える布と馬を買って貰いたいのですじゃ。


……周囲の豊富な木々をもちいれば荷馬車程度なら作れるじゃろうし

そうなれば、後は我が村の民達で売り歩く事も充分可能じゃと思うのですじゃ。


勿論、タダで働いて貰うつもりは無いのじゃが

報酬と言える程の立派な物は持ち合わせて居りませんゆえ

芋や水程度しかお出し出来ないのが心苦しい限りなのですじゃが

その分、水で上げた利益を多めに取って頂ければと思っておりますじゃ! 」


「確かに報酬を頂けるのは助かりますけど、言う程長居は……って。


俺、また勝手に決め掛けてるけど皆……良いかな? 」


<――そうたずねた俺に対する

皆の反応は――


“友の希望だ……吾輩は協力する”


――と

全面的な協力を約束してくれたガルドに始まり――


“……私達は本の作者を探す旅の途中だ

あまりに長期ならば困るが、半月程度迄ならば協力するのも良いだろう”


――そう言って機嫌を区切りつつも協力を買って出てくれたディーン。


続くマリアは――


“何だか楽しそうですし構いませんよ?

竹とか木とか切るのに私の斧りんマークⅡが役立つでしょうし! ”


――と、相変わらずな様子でそう言ってくれた。


確かに実際“斧りん”が役に立ちそうな状況だし――


“困ってる人達を助ける主人公さんは素敵ですっ!

あっ! ……勿論協力しますっ! ”


――そんなマリアの横で妙に嬉しそうなメルがそう言うと

マリーンはマリーンで……


“勿論私も協力するわ! ……この水を他の地域でも飲める様に

この村の一大産業になる位に売り歩きましょうよ! ”


……と“若手女社長”みたいな雰囲気をかもし出しながらそう言ってくれた。


結果として全員が俺の願いを快諾してくれたこの瞬間

村長さんは――>


………


……



「おぉ……きっと皆様は、わが村に訪れた神の遣いですじゃ……」


<――そう言うと俺達に向かって手を合わせ、祈りを捧げ始めた。


そして、そんな村長に村人達もつられ同じ様に手を合わせてくれている

ただ感謝されるのは嬉しいが……まだ“結果”が出てないんだよな。


正直、少しだけプレッシャーに感じつつも

その分やる気もみなぎって居た俺は――>


「よし……そうと決まれば、早速水筒と樽を作りましょう。


出来れば村の中でこう言った作業が得意な方に

手伝いをお願いしたいのですが……」


<――と、村人達にも協力をあお

直後、村人達の中から続々と協力者が現れた事で

俺達は……急遽きゅうきょ、このバルン村で

数日間におよぶ“ミネラルウォーター”作りを始める事と成った――>


………


……



「……おりゃああああああああっ!!!


“双斧流”三之型……焔月連環撃エンゲツレンカンゲキッ!!! 」


「おぉ……き、鬼神のごとあねさんだ! ……」


<――横で聞いてて恥ずかしくなる様な

“中二病”全開な“自作の”技名を叫びながら

凄まじい勢いで大量の竹や木を収穫していたマリア。


この後も村人の声援に気を良くし続々と中二病な技名を連発して居た事は

後でたっぷりとイジるとして……ともあれ。


この後、数日間に渡る村人達の協力にって

水筒すいとうたるを大量生産し続けた甲斐あって

大量の水を他国へ輸出する為の準備は予定よりも遥かに早く整った。


そして……試験的な輸出を行う日

俺達は村人達に“ある”約束をさせる事と成った――>


………


……



<――バルン村の入口に運ばれた大量の竹水筒すいとうたる


……だが、村人達に見えているオベリスクの姿では

どう見ても積載不可能に見えるこの量に

村人達は首をかしげ、不安そうにして居て――>


「今日、皆さんには一つだけ俺達と約束をして頂きます」


<――村人全員に対し

そう念を押しつつ――>


「……この“荷馬車”は

皆さんに見えている姿よりも実はかなり大きいんです。


見た目を偽装する能力で皆さんには“荷馬車”に見えていますが

実際はこの数十倍程大きい……信じて貰えないかもしれませんが

小さな国なら滅ぼす事すら出来る程の威力が有る武器すら装備されています。


皆さんの恐怖心をあおる目的でお話した訳ではありませんので

お見せするのは控えますが、この事実を絶対に

何処にもにお話に成られません様……深くお願い致します」


<――村人達に頭を下げ、そう頼んだ俺。


すると――>


………


……



「ああ! ……あんた達は俺達の救世主だ!

あんた達が居なきゃこの村はこのままち果てて居たかもしれねぇ!

助けてくれたあんた達が嫌がる事をして俺達に何の得があるよ?

俺たちゃあ絶対にあんた達を裏切らねぇぜっ! 」


<――この村人の発言に同意する様に

他の村人達も声を揃え、俺の願いを聞き入れてくれたのだった――>


「有難うございます……出来るだけ早く大きな利益を生み

出来るだけ早くこの村に戻ってきます。


それまで待って居て下さい……では行ってきますッ! 」


<――この後

村人達の声援を背中に受けオベリスクに乗り込んだ俺達は

地図を確認し、最も近い国を目指し出発した。


……見渡す限りの深い森を少しれながら暫く進むと

木々に隠れ、塀に囲まれた小国が見えて来て……


……暫くの後、たどり着いたこの国には頑丈そうな門があり

門の上には“商人の国ナンダーラ・ダイ”と刻まれているのが確認出来た。


……門番はいさましい見た目をしていたが

意外にも警戒される事は無く“商人だ”……と自己紹介しただけで

すんなりと入国も許可された。


ともあれ……門を抜けると活気に溢れた商人街が見えて来た。


……成程、門番に“商人だ”と伝えた瞬間

すんなりと入国出来たのは、恐らくこの所為だろう――>


………


……



「はぇ~……凄い品揃えだ、流石は“商人の国”ってだけはあるね! 」


<――などと話していると

露天商の一人が俺達に対し客引きを始めた――>


「おっ! ……其処の男前のお兄さん達と美人のお姉さん達!

ウチの商品を見ていっておくれよ! ……安くしとくよ! 」


「……あっ、すみません。


一応、俺達も商人なんで……また後で来ますね! 」


<――と、伝えるや否や

露天商の態度はガラッと代わり――>


「けっ! ……シケたツラしやがって!

商売敵ならお断りだ! あっち行ってくれ! ……シッシッ! 」


「なっ?! ……恐ろしい変わり身の速さだ。


い……行こうか皆……」


<――直後、足早に商人街を通り過ぎた俺達。


……この後もしばらく歩き続けたが

歩けど歩けど店を開ける様な空き場所の確保が難しく

俺達は一度“中央広場”で休憩を取る事にした――>


………


……



「それにしても恐ろしく広い国ね……それに、商人が沢山

だけど……周りに沢山国がある様にも見えないのに不思議じゃない? 」


<――そう言ったマリーンに対し

ディーンは――>


「……恐らくは“貿易拠点”か何かだろう。


差し詰め、物資の運搬道に商人が集まり

それが一つの国に成ったのでは無いかと推測するが……」


「成程ね……でも、石を投げれば商人に当たりそうなこの国で

私達、ちゃんと水を売れるのかしら? 」


「……頑張るしか無いですよマリーンさんっ!

私もがんばりますから! 皆さんも頑張ってくださいねっ! 」


<――と、不安がるマリーンに対し気合を入れてくれたメル。


俺も気を引き締めなければ……などと考えて居たその時

マリアは――>


「……んじゃ~その前に!

お水運び疲れたので一本頂きま~す! 」


「ちょ!? ……おいマリア! それは売り物……とは言ったけど

確かに俺も喉乾いたし……じゃあ一人一本までって事でッ!


ゴクッ……ゴクッ……ぷはぁ~~~っ!


うおぉおぉぉぉっ! ……やっぱり美味うまいッ! 」


<――若干だが

“ミイラ取りがミイラになった感”こそ有ったが……ともあれ。


休憩がてら村の水を楽しんでいた俺達……すると、遠くの方から

“明らかに”飲み物をほっした様子の

“小太りな男性”が此方こちらに近付いて来て――>


………


……



「あ、あの……その飲み物を……私にも下さい……」


「あ、そのえっと……これは一応“売り物”なんですけど……」

(ん? ……何だか慌ててるな)


「……も、勿論お金なら払いますッ!!

だ、だから早くッ! ……」


「え、ええ……それなら良いですけど……」


<――とは言った物の、いくらが妥当なんだろうか?

あまり高くても感じ悪いし、共通銅貨一〇枚位にしておこうかな?


……そう考え

俺が金額を口にしようとした瞬間――>


「……共通銀貨一〇〇枚になりますっ! 」


「えっ、ちょっ……マリア?! それは流石に……」


<――完全に“ボッタクった”マリア。


慌てて訂正しようとした俺だったのだが――>


「か、買いますから五本程下さい! い、急いでッ! ……」


「え゛っ?! あ、いやその……ど、どうぞ……」


<――戸惑いつつも差し出した俺。


一方、男性は受け取るや否や

あっと言う間に竹水筒すいとうの水を五本一気に飲み干した。


そして――>


………


……



「……ぷはぁぁぁぁっ!!!


いっ……いっ……生き返ったぁぁぁぁぁっ!!!


本当にありがとうございます……


……私の足元を見なかった商人は貴方達が初めてです。


さっきの店など、これ一本より遥かに少ない水を

金貨五枚なんて法外な値段を吹っ掛けて来たんですよ?! 」


「そ……そうなんですか……」

(いや、正直マリアがかなり“吹っ掛けた”気がするが……)


「そうなんですよ! ……全く、貴方達の様な商売を

他の商人にも見習って貰いたい物です! 」


「いっ?! ……いえいえ!

俺達は清廉潔白せいれんけっぱくな商売が売りですから! 」

(嗚呼、言ってて凄く罪悪感を感じる……)


「本当ですね! ……しかし、それにしてもこの水は美味うまい!

まだ追加で購入しても構いませんか? 」


「ええ、勿論です! 」(うん、流石に値引きしてあげ……)


「なら樽にしては? ……金貨一枚でこんなに大きいですよ? 」


「え゛っ?! ……マリア、それは流石にボッ……」


「……安いっ! それください! ……二樽! 」


「え゛っ?! ……ど、どうぞ」

(いやいやいや?! ……この人どんだけ金持ちなんだ?!

てか凄いな……樽二つを持ち上げながら飲んでるし)


<――小太りの男性は竹水筒すいとう換算かんさんして約二〇本分

およそ一〇リットルはあろうかと言う樽を

二樽分、あっという間に飲み干した。


一体、何処に入って行くのだろうか? ……と言う疑問を

この場にいる全員が感じる程の速度で――>


………


……



「さ、流石に……げぷっ……水腹になりますね。


だけど……この水はとても美味うまい! 」


<――流石に少々苦しそうな様子ではあったが

それでもこの男性はとても満足げで――>


「え、ええ……それは良かったです!

っと……所で、お客さんはこの国の方ですか? 」


「いえいえ! ……ある国への旅の途中に立ち寄ったただの旅人です。


ですが、隙あらばボッタクろうとする商人ばかりで

本当に困っていたんですよ……」


「そ、それは災難さいなんですね……」

(本気で申し訳無く成って来た……くっ……マリアめ……)


「……と言うのも“小麦を焼いた甘塩っぱい菓子”を

安く大量に売っている店がありましてね。


……丁度お腹もいていたし

適正価格だったので大量に購入したんです。


それで……最初は良かったんですが

食べ続けて居る内にどんどんと喉が乾き始めまして

“水”と書いていたので店主に水を売ってくれと言うと

小さなコップに半分ほどの水が一〇金貨だと言われ――


“他所で買うからいらない! ”


――と、怒って店を後にしたまでは良かったのですが

探せど探せど足元を見る様な店ばかりで……


……そろそろ限界だと思っていた矢先

美味しそうにこの水を飲む貴方達をお見かけしたと言う訳です」


「それは……恐ろしい程ボッタクリの店ばかりだったんですね。


お助け出来て良かったです……所で“ある国”っておっしゃいましたけど

何処を目指されているのですか? 」


「えっと、この製品を作っている国を目指してまして……」


<――そう言って小太りの男性がかばんから取り出したのは、何と


“オセロ”であった――>


「そ、それは……オセロじゃ無いですか!! 」

(しかも特級の奴だ……)


「……し、知って居るのですか?! 」


「いや、知っているも何も主人公さんが発案者ですよ? 」


<――と言うマリアの発言を聞いた瞬間

小太りの男性は飛び上がって驚き、俺の手を握り締めながら――>


「た、確かに箱には“主人公発案”と……


……ほっ、本当にこれを発案された方が……あ……貴方様で? 」


「ええ、そうですけど……あっ、でも!

その製品を製造して売ってるのは“政令国家”に有る

“ドワーフの工房”ですから……」


「ええ……これを購入出来る国が政令国家と呼ばれる国である事は

元の所有者から聞きましたのでぞんじておりますが……まさか

こんな所で発案者様に出会えるとは……何たる奇跡! 」


「いえいえ……でもお客さんが持ってる位なので一応製作者の権利とか考えると

他国で“模造品もぞうひん”とか出回ってたら嫌だな……


……って思ったりしますけどね」


(……と言うか俺自身も

元の世界の製作者からパクった様なものなのかな……)


「いえいえ……この様に精巧せいこうつく

我々の国の職人はおろか、何処の職人でも

一日一丁いちじついっちょうで真似出来る代物ではありません!

だからこそ……この商品を大量に仕入れに行くのです!

長らく楽しみの無かった我が国の民達に

数少ない娯楽の一つとして浸透させる為に! 」


「そ、そうなんですか……ならもしかしたらご存知かもしれませんけど

それの他にバックギャモンと、ジェンガってゲームがありますよ!

あっ! ……あと服なんですけど!

和装って言う全く“新しい”服があったりとか!

ちなみに……今俺が着ている服がその“和装”です! 」

(……って説明しながら思った。


和装って“古い”物だよな? ……と)


「……何と?! この手の娯楽がまだ有ると!?

これは急がないと!! ……所で

政令国家までの道のりはこの国からどの位でしょうか? 」


「えっと……馬車なら長くても二週間位すればたどり着くかと思います」


「おぉ! もう近いのですね! ……やっとたどり着ける!


では……もう一つ質問が!

オセロもですが、その他の製品の価格は如何程いかほどでしょうか? 」


「ん~……等級分けがありまして

お客さんがお持ちの特級ならそれなりに高かった筈ですけど

普及価格帯の物であれば然程さほどは……でも

政令国家のお金と共通通貨の外為がいためが分からなくて。


なので……ちょっとだけ待って頂いても? 」


「ええ! ……情報は多い程助かりますので! 」


「……では失礼して。


魔導通信……ガンダルフへ

主人公だけど、今話せるかい? ――」


………


……



「おぉ主人公!! ……久しぶりじゃな、元気か? 」


「ああ、お陰様で元気だよ!

……ガンダルフも元気そうな声で安心したよ。


それはそうと……ガンダルフの工房で売ってる

オセロとバックギャモンとジェンガの共通通貨での価格って分かるかな? 」


「ん? 計算した事は無かったが……オセロが下から

銀貨一〇枚、銀貨一〇〇枚、金貨一〇枚

バックギャモンが下から銀貨三〇枚、銀貨三〇〇枚、金貨三〇枚

ジェンガは主人公達が旅に出てから種類が増えてのぉ。


下から銅貨四五〇枚、銀貨四〇〇枚、金貨二〇枚と言った所かの?


……しかし何故いきなりそんな質問をしたのじゃ? 」


「いや……それが喜ばしい事に

他国でもオセロが楽しまれてるみたいでね。


……で、旅の途中に出会った男性が

そっちにオセロを買いに行くつもりらしくて

“価格が知りたい”って事だったから聞いたって訳なんだよ」


「おぉそれは嬉しいのぉ! ……しかし、他国にまでこの玩具がのぉ。


……流石主人公の発案した製品じゃ!

気分が良いからそのお客人が店に来たら、価格はサービスしよう!


……伝えておいてくれ! 」


「ああ、分かった! ……久しぶりに話せて嬉しかったよ!

じゃあまた! 」


………


……



「――と、言う事らしいのですが……って、お客さん?

急に固まってどうしたんです? ……」


「し、主人公様……貴方は……もしかして……」


「な……何ですか!? 」

(やべっ?! 今、俺杖を振らずに魔導通信を……気づかれたか?! )


「商人であり、オセロの発案者であり……おまけに魔導師なんですか?! 」


「え、ええ……まぁ、一応しがない“攻撃術師マジシャン”ではありますが……」

(ビックリしたぁぁぁっ!!! トライスターがバレたのかと思った……)


「凄い人も居たもんだ……と言うか

主人公様のお陰で価格を多少サービスして頂けるのですね?


助かります! ……大量に購入する予定なので

少しでも安いと非常に助かります! 」


「お役に立てて良かったです……所で、ご迷惑でなければ

如何いかほどご購入予定なのかを教えて頂けたらな~と! 」


「ええ、オセロを……」


「……オセロを? 」


「オセロを六千個程……それと

その他の娯楽を試しに各種3千個程購入出来ればと!

先程聞いた価格ならば持ち合わせでどうにかなりそうですので!

って……主人公様? 」


《――この、尋常では無い発注個数に

今度は主人公が口を開け固まってしまった――》


………


……



「主人公様?! ……主人公様! 」


「……へっ?!


あ、いやその……きっとガンダルフも国の皆も喜んでくれます!

と言うか、お客さん凄いお金持ちだったんですね……


……見た所護衛も付いてませんけど

此処までの道のりで良く平気でしたね? 」


「ええ!……これでも多少は腕に覚えがあるのですよ?!


……ふんっ! 」


<――瞬間

小太りの男性は拳を構えてみせた。


が、大してキマっている訳でも無く――>


「そ、そうですか……って! 恐らくその個数だと

荷馬車一台では持ち帰りが困難なレベルだと思うんですが……」


「ええ、なので現地で荷馬車を雇う予定ではあります! 」


「だと思いました! ……後で連絡しておきますから

荷馬車の価格も出来るだけサービスする様俺の方から頼んでおきます! 」


《――この時、主人公かれ

この男性の如何いかにも騙されやすそうな危うさに少々不安を覚えつつ

せめて自分が関わる時だけでも損をさせぬ様取り計らおうと

強く心に決めたのであった――》


………


……



「あっ……そうだ!

……お客さんに質問を一つだけ!


この絵本に載ってる物、しくは似通った物や実物

それか……“作者本人”を知って居るって事はありますかね? 」


「う~ん、見た事が有りませんね……サーブロウ伯爵?

知らないなぁ……“爺や”なら知ってるのかな?


……っと、なんでも無い! なんでも無い!

残念ですけど私は存じ上げていないですね……申し訳ありません」


「ん? ……い、いえそんなお気に為さらず。


と、ともあれ……政令国家にはしっかりとした護衛と

しっかりとした荷馬車を用意させる様連絡しておきますのでご安心下さい! 」

(何か今、明らかに“只者じゃない”感じのする発言があった様な……)


「ええ……感謝致します!

しかし、我が国にもこんな人が沢山居たらなぁ……っと。


ではそろそろ失礼を! ……あっ、その前に後四樽ほど水を下さい! 」


「はい! 政令国家へのお客様ですからサービスでッ! 」

(……よし! マリアに競り勝ったッ! )


「ぐぬぬ……」


「おいマリア、今お前“ぐぬぬ”って……」


………


……



「……どうも有難うございます!


しかし、こんなにもサービスして貰えるとは!

帰ったら爺やに自慢するぞ~っ! ……ではまたっ! 」


「え、ええ! ……お気をつけて! 」

(……うわ、この人また“爺や”って言った。


やっぱりこの人絶対何かしらの立場が有る人だ……)


《――この後、主人公はとても心配そうに

男性の後ろ姿を、見えなくなるまで見つめて居たのだった――》


………


……



「……もう! 主人公さんのバカッ!

もっと出して貰えそうだったのに~! 」


「……いやいや。


“損して得とれ”って言葉もちゃんと覚えるべきだぞ? マリア。


清廉潔白せいれんけっぱくな商売でも稼げるから

そんな悪どい商売は止めような? 」

(……と言うかさっきので既にボロ儲けだけどね)


「でも、今のお客さんだけでも相当稼げましたし

しかも政令国家を目指してるお客さんだったなんて……


……凄い偶然ですっ! 」


「ああ、俺もびっくりしたよメル……」(本当に色んな意味で……)


<――などと話していると

ガルドは――>


「……しかし主人公

この国では“暴利をむさぼる”のが常となっている様だ。


ゆえに……それを“逆手に取る”事が出来れば

またたく間に水は売れると吾輩は思うのだが……」


「確かに……全く、さっきの男性のお陰かな?

分かりやすく商機が見えたッ!


皆……今から水を


“投げ売り”だッ! ――」


《――直後


一行は“この国にいては”破格の値段で高品質な水を売りさばいた。


無論、他の商人達も負けじと

“苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべつつ”価格を下げたが……


……商品の質で圧倒的に上回った一行の水以外を買う者など

この国には一人として存在しなかった。


本来、商売敵である筈の商人ですらこの水に惚れ込み

こっそりと買う程であったのだから――》


………


……



「……大変申し訳有りません! 準備数、全て売り切れです!

また次回の販売をお待ち頂けると幸いです!

本日は……ありがとうございましたっ! 」


《――主人公のこの宣言に肩を落とし

この場から去って行った数多くの客……と同時に

水の価格を元よりも高く釣り上げた他の商人達。


ともあれ……主人公達の手元に集まった金額は

質の良い馬と“帆”を山程買える金額で――》


………


……



「……よし! この金額なら山程買える!

さてと! 何処かに売ってる店は……」


「……お待ち下さい主人公様、この国で買うの“だけ”は

お止めに成るのが懸命けんめいかとぞんじます……」


「へっ? ……何でですか? ギュンターさん」


「……成程、元を取るつもりの者ばかりだろうな」


「左様でございますグランガルド様」


「ん? ……どう言う事だ? ガルド」


「……主人公様。


私共はたった今、他の商人達の客を根こそぎ“横取り”したのです。


相応に恨まれている事はご理解して頂けるかと思いますが……


……では次に、その商人達から“馬”や“帆”を買うと致しましょう。


果たして我々に“適正価格”で売って下さる商人が居ると思いますかな? 」


「あっ、確かに!! ……危ない所だった。


なら、他所よそで買いましょうか! 」


《――と言う会話に聞き耳を立てて居た数名の商人達は

舌打ちをしながらそっぽを向いた――》


………


……



「では……取り敢えずお金を持って村に帰るか

適正価格で購入出来る所まで遠出して買ってから帰るか……


……どうした方が良いですかね? ギュンターさん」


「私めの考えを申し上げますと……一度村に帰り

木製もしくは竹製の手押し車を村人に作らせ、馬などを使わない方法で

一時的に手売りさせるのが一番の近道かと思います。


そもそも……ここまでの道のりは然程遠く有りませんでしたし

恐らくあの村にも此処に国がある事を知っている物も居る事でしょう。


……その上、村は政令国家にも旧帝国城にも近いのですから

政令国家で融通して頂いた方が適正価格で高品質な物が用意されるかと」


「流石ギュンターさん! ……いいアイデアです!


……後々あの村が自活出来るだけの農業や畜産をするに当たり

政令国家から穀物等を譲って貰うって事も出来そうですし! 」


「ええ……そうなれば

行く行くは政令国家へと編入されるやも知れませんね」


「ですね! ……そうなったら平和な国がまた一つ増えるのか!

楽しみだ……って!

そうと決まれば日も暮れ始めたし早く村に帰ろう! ……皆掴まって!


転移の魔導、バルン村へ! ――」


………


……



「皆さん! ……全部売ってきましたッ! 」


《――主人公がそう呼び掛けた瞬間

続々と集まった村人達……そんな彼らに対し

自慢げに金貨の入った袋を掲げて見せた主人公。


村人達はそんな主人公らに対し再び祈りを捧げ始めたのだった――》


===第四十六話・終===

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