第三十四話「楽勝装備で稼ごうか? それともフラグを立てようか? 」
《――大会開催まで後“四日”と成った政令国家
……ちょっとした“騒ぎ”の翌日
改めてギルドの依頼を探して居た一行は――》
………
……
…
「……昨日は本当にごめん、考えが至ってなかったよ」
「私が勧めた事だし、私の方こそごめんね……」
《――と、互いに謝り続けて居た主人公とマリーン
そんな二人に対しメルは――》
「誰が悪いとかはやめにして……今日こそは依頼を受けましょう! 」
《――そう言った。
そんな彼女に同意しつつ、マリアは更に――》
「あの~昨日受けられなかったんですし
今日はSS級以上の依頼を受けてみませんか? 」
「えっ?! SS級?! 流石に……危なく無いか?! 」
《――と慌てる主人公を横目に
更に難易度の高い依頼を指し示したディーン――》
「私達が居るんだ、安心してくれ……これなど良い依頼じゃないか」
《――そう言ってディーンの指し示した依頼は
あろう事か“L級”で……
依頼主:政令国家大統領府
依頼内容:東門より約一五キロ地点に出没した都市級魔物の討伐
魔物情報:全長約二〇〇メートル
蛇に似た形状の魔物、名称不明の魔物につき
討伐者が命名権を得る物とする。
成功条件:この魔物の討伐
材料の回収を行える場合別途報酬の上乗せあり。
失敗時ペナルティ:一〇〇万金貨
報酬金額:五〇〇万金貨
備考:材料の回収を行う場合、必要部位は目と牙
可能であれば頭部ごと。
と、言う規格外の依頼であった――》
………
……
…
「凄い依頼だな、こんなの倒せる人間が居る……のか? 」
「何? ……本気で言っているのか主人公?
第一に、此方には戦艦が有り
第二に、いざと成れば主人公の転移魔導が有る。
……何の心配も無いだろう? 」
「そうかも知れないけど……でも
失敗時の“ペナルティ”に嫌な予感がするんだが」
<――正直、流石に断ろうと思っていた俺。
だが、何故か皆尋常じゃなく乗り気で
気がつくと、俺だけが説得されている様な状況と成っていて――>
「わ、分かったよ……引き受けてみるか……」
<――結局、皆の熱意に負け
俺は勿論の事、全員が初となるL級依頼を受ける事と成った。
……正直、内心穏やかでは無かったが
ともあれ……依頼を受けた俺達はオベリスクへと乗船し
目的地到着までの間、ディーンから
隊員一人一人の能力についての説明を受けて居た――>
………
……
…
「……ギュンターはオベリスクの他には体術と剣術が
オウルは隊全体の防御を全て担当し
タニアは薬草や毒物に関する知識と才能に溢れている。
ライラは……皆知っての通り“ドラゴン”を使役している
残る私は、この銃が全て……と言った所か」
「いやいや……一番簡素に説明したその銃の能力が
俺には一番怖かったけどね……」
「ふっ……そう褒めてくれるな主人公、照れてしまう」
<――そう言って微笑んだディーンだったが
その直後、ギュンターさんの叫び声が船内に響き渡った。
“魔物を視認ッ!! ”
この瞬間、船内は慌ただしく成り――>
………
……
…
「……総員戦闘準備ッ!
遠距離攻撃、全体防御、全体回復の行える者は甲板へ!
オウルはオベリスク全体の防御を
ギュンターは操舵と砲門
ライラとタニアにはギュンターの助手を任せる……状況開始ッ! 」
<――ディーンのだしたこの指示に
迅速かつ的確に対応する隊員達……そしてそれにつられる様に
俺達も急ぎ甲板へと向かった――>
………
……
…
「皆様……防御致しますので暫くお待ちを。
固有魔導“一方通行ッ!! ”――」
<――オウルさんがそう唱えた瞬間
オベリスクを包み込む程の分厚い防護壁の様な物が展開され――>
………
……
…
「……此方からの攻撃は一切の減衰無く通ります。
その代わり、外からの攻撃は絶対に通りませんが時間制限はございます
それまでには討伐を……どれ程長くとも一時間が限界です」
「はいッ! ……出来るだけ早く倒しますから
それまでお願いしますッ! 」
「はい……お任せを」
<――と寡黙な態度で返したオウルさん
彼は、全神経を防護壁の展開に集中していた。
……その一方で、遠くに見えた魔物の姿は
成程……まさに“巨大な蛇”だ。
“出来る限り今の距離を保ったまま奴の体力を削りたい”
……そう考えて居た俺の横で、明らかに“近距離特化”な
“斧使い”が意識を集中して居て――>
………
……
…
「な、なぁマリア? ……残念だけどマリアは近接装備だから
今やれる事は無いし、一度下に戻って……」
<――そう言い掛けた矢先
マリアは目を見開き――>
「おりゃぁぁぁっ!!!! ……斧業奥義ッ!
投擲斧ッ!!! ――」
<――瞬間
魔物目掛け斧を投げつけた。
……遥か遠くの魔物に向かい
人間業とは思えない程の勢いで飛んだ彼女の斧は
魔物に重い一撃を与えた後、そのままの回転を維持し
マリアの手元へ戻らんとして居た――>
………
……
…
「ど、どう言う腕力っ?! ……流石マリアーバリアンだな」
「だから語呂が悪いっ! ……って
斧りんが帰ってきましたよ~っ! 」
「いや、ネーミングセンスよ! ……って言うかちょっと待った
よく考えたら“外からの攻撃を通さない”って事は……」
<――俺の“予想通り”
マリアの斧は防護壁に跳ね返された挙げ句
あろう事かオベリスクの進行方向へ落下し――>
………
……
…
「えっ? はっ? ……ちょ?!
う……うわぁぁぁぁっ!! ……斧りんがぁぁぁぁっ!
どうしよう……どうしようっ?! 」
「おまっ?! マジかっ?! ……後で拾うから!
取り敢えず危ないから操縦室に居るんだ!! 」
「うぅっ……後はよろしくお願いします……」
<――直後
肩を落とし操縦室へと消えていったマリア。
その一方で――>
………
……
…
「あれで無事な敵か……恐ろしいな。
いや、寧ろ今の攻撃でこっちに気がついたみたいだ……不味いッ!
皆、急いで攻撃だ! ……雷の魔導、過剰電圧ッ! 」
<――と、慌てて放った俺の攻撃は魔物の脳天へと直撃した
が、異様な程に効果が薄く――>
………
……
…
「あっ……減衰装備ッ!!
クソッ! 我ながら初歩的なミスを!! ……すまん、急いで外す!
マリーン、その間の援護を頼むッ! 」
「任せて!! ……悪魔之槍ッッ!! 」
<――直後
マリーンの放った攻撃は魔物の胴体に直撃し魔物の動きを鈍化させた。
……だが、この攻撃に興奮した魔物は
マリーンを狙う為、オベリスク諸共に破壊せんと
突進を繰り出した――
“どう見ても直撃は免れない”
――そう判断し、直ぐに対ショック姿勢を取った俺達。
だが――>
………
……
…
「……全砲門、一斉発射ッッ!!! 」
………
……
…
<――瞬間
轟音響かせ大量の砲弾を放ったオベリスク。
放たれた砲弾は魔物の横腹付近に集中して着弾し
その凄まじい破壊力に、魔物はほんの一瞬怯んだ……そして
その僅かな隙を狙い巧みな操舵技術を見せると
正面衝突の危機から俺達全員を救ったギュンターさん。
彼は、ホッとした様に――>
「いやはや……間一髪でしたな」
<――と余裕を見せた。
そして――>
「……流石だギュンター
では、私も行くぞッ――“魔弾弐型”」
<――瞬間
彼の銃から放たれた無数の弾丸は
砲撃を受けた魔物の横腹付近に大量に着弾した。
……この連携の取れた攻撃に依り
魔物の動きは大幅に鈍り――>
………
……
…
「……やっと外れたッ!!
やっぱり慣れてない技だと使いづらいし
氷刃系の上位技を試す! 皆少し離れてくれッ!
……行くぞッ!
氷刃――
――終之陣太刀ッ! 」
………
……
…
《――瞬間
彼から放たれた巨大な斬撃は凄まじい勢いと共に轟音を響かせ
地を切り裂きながら一直線に進むと……魔物を一刀両断し爆散した。
そして……“終之陣太刀”が切り進んだ道には
細雪が降り始め――》
………
……
…
「は~っ……毎回毎回、本当に“規格外”ね」
《――呆れた様子でそう言ったマリーンに皆同意し
これに反省したのか、主人公は――》
「ご、ごめん……あんな大きさだと思わなくてさ
減衰装備を二個位付けたまま撃てば丁度良かったのかな……」
《――と言った。
だが、ディーンは思わず――》
「L級の魔物相手に恐ろしい事を言うものだ……さて、素材の回収か」
「だ、だね……マリアの斧も回収しないといけないし」
《――ともあれ。
オベリスク下船後、先ずは斧の回収を優先した一行は――》
………
……
…
「う~ん……此処ら辺りに落ちた気がするんだけどなぁ。
お~い! ……マリアも良く探せよ~っ! 」
《――周囲の捜索を続けつつ、マリアに対しそう呼びかけた主人公。
その直後、砂に埋まった斧の“柄”を見つけたマリアは
これを勢い良く引き抜いた。
だが――》
………
……
…
「……あれ?
あの~……先が“無い”んですけど? 」
「えっ、お前……それ、まさか……」
「うわぁぁぁぁぁぁんっ!!! ……壊しちゃったぁぁぁぁっ!! 」
《――慌てふためくマリアの直ぐ近くには
“斧”部分を見つけたメルの姿があった。
だが――》
「斧の部分ありましたっ! ……って!?
ばっ……バラバラに成ってますよ?! 」
「……うそぉっ?!
それ、バーバーリアン用の凄いレアな装備だったよな!?
これは絶対に不味いぞ……
一度ガンダルフに聞いてみないと……」
「主人公さん! 直りますよね?! ……ねぇ!
斧りん……直りますよねっ?! 」
「……取り敢えずちょっと落ち着けマリア!
魔導通信……ガンダルフへ。
マリアが斧を壊した。
完全に“粉々”なんだが……これって治せる物なのか? ――」
………
……
…
「――な、なんじゃと?! まさか“あの”斧か?! 」
「ああ……それで、どうだ? 」
「何たる事じゃ……いや、治せる。
治せはするが……取り敢えず
出来る限り全ての残骸を持って帰ってくれ。
わしの工房に材料はある……
……どうにか形にしてやるから出来る限りを持ち帰るんじゃ! 」
「助かるよ、迷惑ばかり掛けて済まないがよろしく頼む――」
………
……
…
「――と言う事らしい、直るらしいから安心しろマリア」
「良かった~っ! ……でも、ごめんね斧りん……グスンっ」
「と、取り敢えず……ディーン達を手伝おうか」
《――斧の“残骸”を回収後
素材回収の手伝いに向かった一行……だが
マリアの異変に気づいたディーンは、ギュンターに対し――》
………
……
…
「ギュンター……マリアさんを何処か休める所へ」
「はい……では此方へ“残骸”はお持ちしますので」
「いえ、自分で持ちますから……グスンっ」
《――その一方
状況をイマイチ理解していなかったタニアは、主人公に対し――》
「あれってマリアさんの斧ですわよね? ……大丈夫ですの? 」
「ええ……直せるらしいんですけど
張り切り過ぎた分ショックだったみたいで……」
「確かに武器が壊れたらショックよね……でも
それなら今回の報酬で余裕で直せる筈ですわ♪ 」
「……いや、タニアさん。
そう言うセリフって“死亡フラグ”って言うんですよ……」
「そうなの? ……兎に角早く素材回収を終わらせて
なるべく早く修理に出してあげましょ! 」
「ええ、そうですね……」
《――と話していた主人公に対し
ディーンは――》
「急ぐのなら甲板に頭部ごと載せてしまえば良い気がするのだが
……主人公、浮遊魔導を使えるか? 」
「ああ使えるよ、あの上だな?
浮遊の魔導!! ……っと、どうにか載せたけどすっげぇグロいな。
あの汚れは落とすのが大変そうだけど……本当に構わないのか? 」
「なに、小瓶に入った時に洗えばすぐに綺麗になるらしい」
「なっ?! ……意外な洗浄方法だ」
「私も始めて見た時は驚いたよ……さてそろそろ帰るとしようか」
《――帰路に就いたオベリスクの船内では
斧の“残骸”を抱えたまま、涙ながらに
“斧に対し”謝り続けるマリアの姿が有った――》
………
……
…
「グスンッ……ごめんね斧りん……」
「……愛着湧いてたんだったら辛いよな
けど、ちゃんと直して貰えるからさ……もう泣くなって」
「はい……でも可哀想な事をしてしまったなぁって……」
《――と、落ち込んだマリアを励ます為か
メルは――》
「でっ、でも……マリアさん凄い技覚えましたね!
ひ、日頃から鍛錬してる証拠ですねっ! 」
「うん、薪割りして色々試してたのが効いたのかもね……」
「いや、幾ら試し割りとは言え
薪割りで斧を投げられる瞬間ってなんだよ……」
「それは……“空中に投げた丸太を割る時”とかです。
……グスンっ」
「うん……すげぇ割り方」
<――ともあれ。
暫くの後……東門前へと到着した俺達は
魔物の頭部を載せたオベリスクが
東門を“通れない”事に苦慮して居た――>
………
……
…
「ううむ……やはりこれでは入れない。
主人公、ギルドの人間にはどう報告をする? 」
「……なら俺が行ってくるよ、ディーン達は此処で待っててくれ。
転移の魔導、ギルドへ! ――」
………
……
…
「――あの、討伐依頼完了したんですけど
素材が“門を通らない”大きさでして……どうしたら良いですかね? 」
「へっ?! ……L級の討伐依頼をこんなに早くですか?!
流石は主人公様のパーティですね!
それにしても、門を通らない大きさですか……であれば
素材は憲兵の方々にお願いして処理して頂きますので
部位の報告をお願いします」
「えっと……頭部丸ごとです」
「……そ、そうですか。
では報酬は材料分を合わせて七〇〇万金貨になりますっ!
……小切手で宜しいですか? 」
「あっ……少しお待ちを!
魔導通信……ディーン
報酬は七〇〇万金貨なんだが、半分に分ける感じで良いかい? ――」
………
……
…
「勿論だが……そちらが多く取っても構わんぞ? 」
「嬉しいけど……今後の信頼関係もあるし、やっぱり此処は半分ずつで! 」
「ああ、承知した」
………
……
…
「――と言う事なので、小切手二枚にして頂いても宜しいですか? 」
「承りました……此方が報酬です。
早速憲兵さんに回収依頼を出しておきますので
材料は東門の外で受け渡しと言う形でお願い致します。
さて、以上で依頼は完了です……ご苦労様でしたっ! 」
「ええ、では……転移の魔導、東門前へ! ――」
………
……
…
「――おまたせ!
これが報酬、小切手だから銀行に受け取りに行く感じだね」
「成程、便利だな……さて、この“頭”は憲兵に渡せば良いんだな? 」
「……ああ、頼めるかい? 」
「任せてくれ……それよりも主人公
マリアさんの斧を早く修理に持って行ってやれ」
「ああそうだな……今日は助かったよ、また頼む」
「此方こそ……またな」
<――直後、ディーン達と別れ
ガンダルフの工房へ直行した俺達――>
………
……
…
「……来たか!
早う見せるのじゃ! ……こ、これは!? 何と言う壊れ方じゃ……
……まるで“巨大な何か”に踏み潰されたかの様じゃぞ?! 」
「ああ、恐らくオベリスクの下敷きに……」
「成程……じゃが、わしの職人人生の全てを懸け
元よりも綺麗に直す事を約束しよう! ……じゃが主人公。
費用は相当に掛かるぞ? ……大丈夫か? 」
「う゛っ……出来れば
お手柔らかな金額でお願いしたいんだけど……」
「分かっておる……じゃが、それでも五〇〇万金貨程は掛かる
わしの儲けは一切無しでもじゃ」
「いっ?! ……い、いや分かった払うよ
前金でこの小切手と、一〇〇万金貨を渡しておくよ。
残りの五〇万金貨は後で必ず払う……けど
今は持ち合わせが無いからちょっとだけ待ってて欲しい」
「うむ……これでこの斧専用の炉が作れる
製作期間は少々掛かるが……我慢してくれるか? 」
「……どの位掛かるんだい? 」
「本来ならば二週間は掛かるじゃろう……じゃが
出来るだけ急ぐ事を約束しよう」
「マリア……我慢出来るか? 」
「はい、主人公さんに借金をさせてしまいましたし……
本当にゴメンなさい……グスンっ」
「……何とかするから気にするな。
っと……そう言う事で頼んだよガンダルフ!
俺も頑張って働くから! 」
「……すまんのぉ。
これでも“専用炉”の建造費とコークス代位にしかならんのじゃよ。
随分と特殊な素材でのぉ……ともあれマリア殿
今度こそ、何が踏んでも壊れぬ様な堅牢さと
靭やかさを兼ね備えた斧として
より完全な形で復活させる故楽しみに待って居るのじゃぞ! 」
「は……はいっ! 」
<――暫くの後
ガンダルフに斧を託し、ヴェルツへと戻った俺達。
そして“L級魔物討伐”の噂を聞きつけたミリアさんは――>
………
……
…
「……皆おかえり! 聞いたよ?
凄い速さでL級の依頼を達成して、東門には
“魔物の頭”があるそうじゃないかい! 」
「ええ、ディーン隊の協力が大きいですけど……何とか成りました! 」
「そうかい! ……って、そう言えば受付嬢ちゃんから伝言だよ?
“あの魔物の名前をお決め下さい” ……だそうだ。
って……どうしたんだい?
何か浮かない顔してるじゃないか……疲れてるのかい? 」
「い、いえその……五〇万金貨の借金が出来まして」
「……何でだい!? 成功報酬貰ったんじゃないのかい? 」
<――と、慌てるミリアさんに対し
“斧の件”を説明し――>
「……そう言う事だったのかい。
でも、主人公ちゃん達なら絶対にこの苦境から抜け出せるさ。
……あたしは前にした約束通り
主人公ちゃん達の食事と住居を提供する
だからもう落ち込まなくて良いさ! ……今日は疲れただろう?
た~んと食べてしっかり休みな!
……今、料理を持って来るからね! 」
<――そう言うと
厨房へと戻って行ったミリアさん――>
………
……
…
「ミリアさん……本当に有難うございます。
っと、マリア……もう落ち込まなくていいからな?
マリアが負う可能性のあった大怪我を
斧が“身代わりに成ってくれた”って思えば良いんだよ」
「で、でも……」
「主人公の言う通りよ? ……落ち込むのやめて、ねっ?
あ、そうそう……魔物の名前考えましょうよ! 」
<――と、落ち込んでいるマリアを励ましてくれたマリーン。
ともあれ、この直後
彼女の発案で魔物の名前を考える事に成ったのだが――>
………
……
…
「そうですね……巨大蛇とかどうですかね! 」
「メルちゃん安直ですよ~……“重蛇”とかどうですかね!! 」
「マリアさんだって安直だし、そもそも只のダジャレじゃない!
でも、私も思いつかないし……」
「う~ん……“大蛇”とかでいいんじゃない? 」
<――この後
俺発案の“大蛇”が正式名称として
政令国家の魔物図鑑へと記載された……が。
本当にこんな安直に決めて良かったのだろうか? ――>
………
……
…
《――ミリアの優しさに依り
今まで通りの生活を続けられる事と成った主人公一行。
一方……この日の夜の事
政令国家東門付近には……白衣姿の男と
それに連れ立って現れた妙な雰囲気の男達が居た――》
………
……
…
「……ふむ。
オベリスクの“移動痕”はこの国に到着している様だが……ん?!
あれは……都市級魔物の頭か?! ……恐ろしい
この国には中々の化け物が居る様だ……お前達、目立たぬ様に潜入するぞ」
「承知……」
………
……
…
《――翌朝
大会開催まで後三日と成った政令国家では
ゲーム大会に関する話題が其処彼処で交わされ
街は賑やかな雰囲気に包まれて居た。
だが、その一方……ヴェルツ一階では
主人公が大量の書類と共に頭を悩ませて居た――》
………
……
…
「……武器完成まで二週間と仮定して
ゲームの利益はあまり期待出来ないし……
……和装の利益が一ヶ月平均なら一万金貨で
俺とメル、マリアの給料が合わせて約二〇万金貨
マリーンはハンターとしてだから歩合で……」
《――五〇万金貨の返済方法に苦慮しつつ
必死に遣り繰りを考えていた主人公――》
「それからS級のクエストの平均報酬が確か……」
《――更に返済計画を練り続けて居た主人公。
そんな彼の元にミリアが現れ――》
「何だいこんなに散らかして! ……って、返済計画かい? 」
「ええ、そうなんです……ガンダルフ曰く
遅くても二週間位で完成するらしいので
五〇万金貨の捻出方法を考えないとで……」
「……今幾ら足りないんだい? 」
「それが……俺達の給料が二〇万金貨で
前借りするとしてもあと三〇万金貨程足りなくて
討伐依頼か何かで稼ぎたいんですが
此処の所国政が忙しくて殆ど出られそうに無いんです。
……なので、ある程度難易度が高い物を選ぶしか無いんですけど
マリアは武器が無いので、俺達でどうにかするとしたら……」
《――と苦悩する主人公に対し
ミリアは――》
「大変だねぇ……あたしが貸してあげようか? 」
「えっ? いやいやッ! ……唯でさえ
無料で食事も住居も提供して頂いて
その上お金までお借りするなんて……申し訳無さすぎて駄目ですよ! 」
「……何言ってるんだい!
マリアちゃんも、メルちゃんもマリーンちゃんだって
何時も薪割り手伝ってくれたり皿洗い手伝ってくれたり
主人公ちゃんだって掃除を手伝ってくれてるじゃないかい!
……それに、あたしが今こうして稼げているのは
間違い無く主人公ちゃん達のお陰さね
あたしは主人公ちゃん達に恩を売ってるつもりなんて無いし
寧ろ、少しでも恩返しが出来るならって思ってるんだが……
……それでも受け取って貰えないかい? 」
「で、でも……」
「……ガンダルフさんの所は長くても二週間が期限なんだろう?
あたしはそれよりも長く待てるって言ってるのさ。
……出世払いで構わないし、主人公ちゃん達は約束を破らない
もし仮に破ることがあってもあたしに損は無いさね。
たかが五〇万金貨程度……主人公ちゃん達のお陰で
どれだけこの店が大きくなったと思ってるんだい?
あたしに取っちゃ、返しても返しきれない恩さね……」
「ミリアさん……本当に甘えても良いんでしょうか? 」
「あたしがそうしたいって言ってるんだ……受け取ってくれるかい? 」
「……はいッ!
ミリアさん、何から何まで……ありがとうございますッ!! 」
「よし! そうと決まればあたしが代わりに届けてくるよ! 」
「そっ、それは流石に自分で行きますから! 」
「良いから……そんな事よりも
その計算止めて、早く朝ごはん食べちまいな?
せっかくのご飯が冷めて美味しく無く成っちゃうじゃないか!
そっちの方があたしは嫌なんだよ? 」
「ご、ごめんなさいッ! ……頂きますッ! 」
「分かったらそれでいいさ……けど、慌てずに良く噛んで食べるんだよ?
さてと……渡してくる間、店番任せても良いかい? メルちゃん」
「はいっ! 任せてくださいっ! ……」
《――元気良くそう応えた直後
自分専用の“割烹着”をバッグから取り出し
慣れた手付きで着替え始めたメル。
一方……ミリアの立ち去った後
マリアはしみじみと――》
「……本当にミリアさんって素敵な人ですよね。
私もああ言う風に成らなきゃって思いますよ……」
「ああ、いつもツッコミ必須のセリフを吐くマリアが
マトモな発言してると凄く違和感だけど……その通りだな」
「返事の九割が大悪口ってどう言う事ですか?! 主人公さん! 」
《――談笑する一行
そんな中、ヴェルツに入店して来たのは“白衣姿の男”
彼は、作り笑いをしながら主人公に近寄ると――》
………
……
…
「あの、すみません……其処のお方」
「……はい、何でしょう? 」
「この者達を見ませんでしたかな? 」
《――ディーン隊の似顔絵が描かれた紙を主人公に見せながら
そう訊ねた白衣姿の男――》
「いいえ? ……所で貴方は? 」
「いえ、見かけていらっしゃらないならそれで……では失礼」
《――そう言い残すと
男は足早にヴェルツから立ち去り――》
………
……
…
「……見るからに今の奴らは怪しいな。
魔導通信……ディーン、今何処にいる? ――」
………
……
…
「ん? ……宿に居るが、どうした主人公? 」
「……東門宿の宿の主人は口が堅いか? 」
「恐らく口は堅いだろうが……何があった? 」
「……今、白衣姿の奴がヴェルツに現れて
ディーン達を探してたんだが
表には妙な雰囲気の“お付き”も数人居てさ……」
「そうだったか……ん?
下が騒がしく成った、どうやら此方にも来た様だ。
通信を終了する――」
………
……
…
「――なっ?!
ちょっ! おい、ディーンッ! ……切れた。
……クソッ!
ごめん! メルとマリアは此処で店番しててくれ!
マリーン……援護頼めるか? 」
「……ええ! 任せなさい! 」
「有難う……ディーン達を助けに行くぞッ! 」
===第三十四話・終===




